あの映画にもうひとり #02|パターソン

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いつだって映画には、こぼれ落ちる“誰か”が存在する。そんな作中には登場しなかった“もうひとり”を想像し、描き出すことで、映画の舞台である「町」の風景が、さらなる広がりを見せるのではないか。本連載では、毎回異なる映画作品をモチーフに、新たな人物を創造していく。制作は、デザイナー・イラストレーターのeryと、ライター・エディターの伊藤紺によるユニットNEW DUGONG。

第二回で取り上げるのは、2017年公開の映画『パターソン』。バス運転手である主人公の名前でもあり、町の名前でもあるパターソンという場所は、ニューヨーク州のお隣・ニュージャージー州に位置する比較的大きな都市。かつては作中にも登場するグレートフォールズという滝をエネルギーにした製糸工場が立ち並び、“絹の市”として産業革命期のアメリカを支えたことで知られる。今回は、そんな歴史ある町を舞台に、“もうひとり”ならぬ、“もうふたり”を描き出す。

Text / Illustration:NEW DUGONG
Edit:Yosuke Noji

エマ&エラ(10)|小学生

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ふたりはパターソンで暮らす双子、エマとエラ。10歳。主人公のパターソンが運転するバスに乗って毎日通学する。共通の趣味は大人観察。一番最初に観察を始めたのは自分たちの両親だった。

ふたりの両親は、今や役目を終えつつある町の小さな絹織物の工場で働いている。毎朝せわしなく準備を終え仕事場に向かい、帰宅するのは夜遅く。ふたりは両親と一緒にいられない時間を埋めるように、7歳の頃から観察記録をつけ始めた。朝、ママが残していくメモの内容、クセのあるハートマークの形、使うペンの種類、パパのネクタイの柄のローテーション、寝る前の声がけのバリエーション。覚えていることを全て書き止める。記録がたまればたまるほど、ノートはどっしりと重くなり、寂しさは安らぐ。

10歳になり、両親の観察だけでは飽き足らなくなったふたりは、町の大人も観察するように。近所のおばさん、学校の先生、小児科のお医者さんときて、今のターゲットはバス運転手のパターソン。パターソンはいつも同じ腕時計をつけていて、服に動物の毛がついている。そして、ごくたまにバッグからノートを取り出して、何かを書き留める。

「あのノートなんだと思う?」
「ロックバンドのボーカルで歌詞を書いているとか」
「おもしろくない」
「じゃあ、うちらと同じ観察ノート。いつも記録してるの」
「バスを? 乗客を?」
「町を」
「そんなに、このなんもない町が好きなのかな」
「好き、というか、記しておきたいとか」
「なんで?」
「いつも絶対そこにある、とかはないから」

バスを降りるとき2人はちらっと運転席に目をやる。バックミラーを眺めるパターソンと、最近目が合う。

■NEW DUGONG
「NEW DUGON(ニュージュゴン)」はデザイナー・イラストレーターのeryと、ライター・エディターの伊藤紺による制作ユニット。企業の広告記事や、ファッションメディアでの連載など、ウェブコンテンツの制作を中心に、リトルプレスの発刊、自主制作ラジオの配信、トークイベントの開催など、幅広く活動する。

HP:http://newdugong.com/

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