Belong to ME #02|株式会社ツドイ代表取締役社長・今井雄紀

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企業や組織に所属せず、活動する人の数が増えている。テクノロジーの発展や価値観の多様化など、様々な理由が可能にしたこの「可能性」はしかし、「自由に稼げる」点ばかりが強調されていないか。現代における個人の持つ“強さ”とは、果たしてその1点で語れるようなものなのか?

本連載では、組織に所属せず、軽やかに領域を横断して活動する個人をマージナルな存在として位置づけ、今の働き方に至った経緯と現在の活動を伺っていく。インタビューは、その人が日頃活動の拠点としている場所で行う。

Vol.2に登場するのは、2017年6月に自身の会社である株式会社ツドイを立ち上げた編集者の今井雄紀さん。ツドイでは、「編集とイベントのかけ算をしたい」と語る。学生時代のイベント運営から星海社での編集者経験、そして自身の会社の起業まで……。会社を「組織」というよりも「場」として作ろうと奮闘する彼に話を聞いた。

Text:Michi Sugawara
Photo:Misaki Ichimura
Edit:Shun TAKEDA

「イベント」は「編集」でもっと機能する

Q1.あなたの肩書は?

編集者でありイベンターでもあり、という感じです。2017年6月に株式会社ツドイを作りました。今は代表である僕と、優秀なバイトの大学生が一人いるだけの会社です。「編集とイベントを一緒にやる」と標榜しているツドイでは、イベントと編集のかけ算みたいなことをやりたいと思っています。

というのも、現在は特に東京では毎日そこらじゅうでイベントが開催されています。でも、そこにはいくつかの課題があると思っています。ひとつには、あるイベントで面白いことが起こってもそれをレポート記事として公開するといったアーカイブ機能がなくて、参加者だけが楽しんで終わってしまう。もちろんそれがイベントの良さでもあるんですけど、アーカイブをしたほうが良いイベントもたくさんありますよね。これが「編集」が役立ちそうなところ。

あと、僕はイベント、特にトークイベントで、お客さんがなめられている部分があるのかな、と思っているんです。イベントというのは登壇者と開催場所といった座組さえ決まって、チケットが売れれば基本的に勝ちの商売なんです。でも、実際に足を運んでみると、良い登壇者ばかりなのに盛り上がりがいまいちなイベントもあります。ブッキング力だけでなく、司会の腕とか開演前のBGMとかタイムテーブルとか、細かいディレクションが必要になってくるんです。こっちが「イベント」です。

今、そういった部分がないがしろにされていると思ったので、イベントのディレクションもしながら、終了後にはアーカイブとしてレポートを出す。その両方が同時に、高次元でできる会社があれば需要があるんじゃないかな、と。

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Q2.今の肩書を使う前の経歴は?

2017年5月いっぱいまでは出版社の星海社に務めていて、ウェブメディア「ジセダイ」の編集長をやったり、編集者・中川淳一郎さんの『夢、死ね!』や声優・大塚明夫さんの『声優魂』といった新書の編集を担当しました。

講談社の100%子会社である星海社では、在職中から個人の名前を出して仕事をさせてもらえました。大手出版社ではクレーム対策も含めて、基本的には編集者の個人名を出さない方針があります。

ただ、星海社では従業員にとって正社員契約よりも保証の少ない業務委託契約を取っていることもあって「実績と名前が紐づくように」と、ちょっとでも関わった本があったら自分の名前を載せてくれていました。

その前を遡っていくと、新卒ではリクルートメディアコミュニケーションズに入社して、ウェブディレクターをしていました。自分の中で大きかったのは、当時リクルートが主催していたネットの広告賞「1-click Award」の事務局をやらせてもらったこと。一番下っぱで、迷惑しかかけてなかったんですけど、のちに大活躍する広告業界の若手や、クリエイティブディレクターの嶋浩一郎さんといった有名な方とも知り合えて、すごく楽しかったですね。

ほかにも、大学生の頃はロックバンド・くるりの大ファンだったこともあって、フェス・イベント「みやこ音楽祭」の運営をやっていました。関わっていたのは大学2〜4年生の時だったんですけど、4年の時には代表だったんですよ。同じ頃には京都の音楽フェス「ボロフェスタ」にも関わっていました。

Q3.編集者の道に進んだきっかけは?

ボロフェスタをやっている時に、後に「リアル脱出ゲーム」を手がける株式会社SCRAPの加藤隆生さんと知り合って、仲良くさせていただくようになりました。それで僕がリクルートにいた頃に、加藤さんが後に星海社で僕の上司となる編集者の柿内芳文さんと知り合う機会があったんですね。

僕はもともと柿内さんが手がけた本を読んでいてファンだったので、加藤さんから「柿内さんがちょうどお前みたいな人間を欲しがっていた」という話があって、3人でご飯を食べる席を設けてもらったんです。そこで柿内さんからお話を聞いて、星海社の採用試験を受けることにしました。
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Q4.編集者としての初めての仕事は?

星海社の新書企画で新人賞を受賞した『百合のリアル』です。これはタレントで文筆家の牧村朝子さんとライター・小池みきさんが持ち込んでくれた企画でした。

後付なんですけど、僕が編集をした『百合のリアル』や『夢、死ね!』、『声優魂』にアニメ会社TRIGGERの代表取締役・舛本和也さんの『アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本』といった本のテーマを一言で言うと、「騙されるな」ということだと思うんです。

いずれの本も、間違った認識・常識が流布している業界や概念に対して、当事者が異論を唱える内容になっています。

『百合のリアル』も僕は当時LGBTについては無知だったけど、新書を作る過程で知らなかったことを知ったし、無意識的にでも自分が差別していたことも自覚しました。その中には、それまで自分の中で科学的事実だと思っていたことを覆されたりもしました。

今後は『百合のリアル』で書かれた事実が否定されることもありうるとは思います。それでも、あの時点での牧村さん、小池さん、ぼくの正解を世に出すことで、世の中にあるLGBTに対する差別感情を是正できたとしたら、すごくやりがいのある仕事だと思いました。

僕にとって最初に編集したこの本はありがたいことに反響も大きくて、自分の編集人生にひとつの方向付けをしてくれたタイトルでもありますね。

Q5.編集だけでなくイベントも手がける会社を作った理由は?

さっき言った学生時代からのイベント運営もそうですし、星海社でも新書の刊行ごとにイベントを実施していました。僕の前職を考えた時、普通「会社を作る」となったら編集の会社になると思うんですけど、ツドイが「イベントと編集」を標榜しているのはそういった経験があるからですね。

これまで色々なイベントを開催してきて、すごく楽しいって思いました。例えば、ライブではわざとインターバルの休憩時間を長くすることで飢餓感を煽って、一部からは不満の声も上がったりしながら、実際にバンドが出てきた瞬間の歓声や盛り上がりを見せるとか。そんな風に、お客さんの感情が自分の意図した通りに動くのが楽しかったんですよね。

あと、僕は何かトラブルが起きて、それをリアルタイムになんとかして解決しなきゃいけないっていうのが好きなんです。本当は段取りがすべて上手くいって運営責任者が当日何もすることがないというのが、ひとつの理想的なイベントなんですけど、予期せぬトラブルが起きた場合はトラブル解決がちょっとしたゲームみたいで、その瞬間が一番アドレナリンが出ます。

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