Belong to ME #06|アーティスト・DIEGO

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企業や組織に所属せず、活動する人の数が増えている。テクノロジーの発展や価値観の多様化など、様々な理由が可能にしたこの「可能性」はしかし、「自由に稼げる」点ばかりが強調されていないか。現代における個人の持つ“強さ”とは、果たしてその1点で語れるようなものなのか?

本連載では、組織に所属せず、軽やかに領域を横断して活動する個人をマージナルな存在として位置づけ、今の働き方に至った経緯と現在の活動を伺っていく。インタビューは、その人が日頃活動の拠点としている場所で行う。

Vol.6に登場するのは、東京を拠点に活動するアーティスト、DIEGO(ディエゴ)。10代の頃よりグラフィティを始め、世界各地のストリートを渡り歩き作品を制作。独自のネットワークを活かし、都内各地のシャッターに合法のグラフィティを描くプロジェクト『LEGAL SHUTTER TOKYO』を運営し、近年は、アーティストコレクティブの『SIDE CORE』への参加、カイカイキキがプロデュースするギャラリー「Hidari Zingaro」での初個展開催など、アートシーンでも注目を集めている。

独自のスタイルで活動の幅を広げる彼が、どのように町を見つめ、アーティストたちとの交流を深めてきたのか。拠点の1つである、大田区・京浜島の工業地帯にあるスタジオで話を聞いた。

Text:Akira Kuroki
Photo:Shin Hamada
Edit:Shun Takeda

アーティストたちは描ける場所を探している

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Q1. あなたの肩書きは?
アーティストです。あとアーティストコレクティブの『SIDE CORE』のメンバーの1人で、『LEGAL SHUTTER TOKYO』というプロジェクトを運営しているメンバーの1人でもあります。

Q2. ここはどういう場所?
寺田倉庫が運営するアーティストスタジオです。主にSIDE COREのメンバーや、関係するひとたちを中心にいろんなアーティストが使っています。レジデンスとまではいかないけど、自分たちが関わっている展示で来た外国人が制作したりする時もあります。羽田も近いので、国際的なアートの拠点になるようにとはじまったプロジェクトです。

Q3. いつごろからこの場所を使っている?
2016年からですね。この辺は新幹線の頭とか、スペースシャトルの部品など、特殊技術を持った町工場の集まる工業地帯です。年配の方が工場経営してることが多いので、階段で資材をあげるのとか大変だから、二階のスペースって結構空いてるんです。ここは1階の半分を旋盤加工のおじさんたちが使ってて、残りの空いているスペースを貸してもらって使わせてもらっています。

Q4. 『LEGAL SHUTTER TOKYO』はどのようにして始まった?
もともとは自分が自由に描けるシャッターとか、壁を探していたときに、たまたま友達の店のシャッターに描いてもいいよって言われて、描かせてもらったりしていて。

その頃に結構、海外にいる知り合いの作家とかが日本に来まくっていて、彼らをよく案内していました。グラフィティとかストリートアート関係の彼らはみんな描ける場所を探しているから、これをプロジェクトにしたらいいんじゃないかと思い、『LEGAL SHUTTER TOKYO』っていうInstagramのアカウントをとりあえず作って、彼らの作品をアップし始めました。

意外と需要がすごくあったみたいで、それが海外の作家たちの間で話題になって、彼らは別に展示とかで来てるわけじゃないんだけど、日本へ旅行に行くついでに日本の風景の中に絵を描きたい、写真撮って自分の作品のファイルにしたいっていう考えがあって。

でもみんな日本のことを知らないから、「来てみたら全然、描けなかった。こんなに描くところないのか」って。それで描いて捕まったり。海外とかだと捕まってもすぐ帰れたりするけど、日本だと結構大変なことやってしまったみたいにもなるし。

そういった状況もあったので、プロジェクトとしてはすごくうまくいっていると思います。
自分でも想像してなかった流れができて、Instagramでずっと誰かしらから連絡が来ていますね。

Q5. いまは何枚くらい描けるシャッターがある?

今は都内に20枚ぐらい自由に描けるシャッターがあって、そこを作家に紹介して描いてもらってます。普通はオーダーしてお金払うような、海外でも有名な作家からも連絡もきます。「お金出せないんだよ」って話すけど、彼らはお金なんていらないよって感じで。みんな日本で描く場所がないから描きたいんですよね。

町中のひとつの絵から、その周辺へ広がっていく

Q6. “描ける”シャッターはどうやって見つける?

よく聞かれるんですが、直接聞きに行っても駄目で。僕みたいな者がふらっと現れて「すいません、私、こういうのやってるんですけど、シャッターに絵、描かしてもらえませんか?」って言われてもなんかちょっとキモいですよね(笑)。いきなりの突撃を嫌う。日本ってそういうところがありますよね。何回かそういった声かけをしてやったけど、これは全然駄目だなと思って。

で、どうやって見つけるかというと、それは描いているときに見つかるんです。みんな、描いてるのが珍しいから。町で絵を描いてる風景って、日本ってなかなか見れないから、立ち止まる人がいるんですよね。もしその人たちがお店やってたら、「うちもやってほしい」、「これ幾らかかるの?」みたいな話になって、「お金取ってないから無料で出来るんですよ」って話して、それで新しいシャッターが増えてく。

当初の考えは23区に23枚のシャッターをまず塗って、そこから派生して増えていくと思ってたんですけど、それは違いました。実際は、例えば千代田区のどっかの駅に描いたらその周辺が広がっていく。一つ描けば、そこからその町は広がっていくんです。

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江戸川区の平井駅には、描かせてもらっているシャッターがたくさんあります。描いたシャッターが多いからっていうのと、何度も描き変えているので、街の方々はなんとなく認知してくれていて、そこで描いてると、誰かがコーヒー持ってきてくれたりとか、飯食わしてくれたりとか、たまにお金くれたりとか、とにかく自由を感じる瞬間がすごいある。もしひとつの町に100枚くらい描けるシャッター持ってたら、すごい事になるんじゃないかな(笑)。

Q7. プロジェクトの収益化は考えていない?

このプロジェクト自体ははお金になるのかなとは思ってます。でもお金にするのは良くないかなと思ってて。というのも、シャッターのプロジェクトってあまりグッとこないのが多くて、子どもに描かせましたみたいなのとか、店舗の文字を書かないといけないとか。それっておもしろくない。でも、お金が発生していくと、それこそコミッションワークみたいに、好きな絵は描いていいけどここに電話番号書いてくださいみたいになる。

そういうことをなくして、作家の好きにさせてもらうことが重要だと思っています。「うちも描いてほしい」ってすごい軽く言われるけど、無料でいいですよっていう代わりに伝えるのは、お店の名前は描けないし、自分が選んだ作家に100パーセント好きに描かしてほしいということ。その代わり、絶対汚いものとかお店の営業に問題の出るようなことはしない。どの作家がどのシャッターに描くかは自分が選びます。

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Q8. シャッターに描かせてもらう際の条件は?

条件として伝えるのは、さっきも言ったように作家の好きに描かせて欲しい事と、描き換えさせてほしいということ。要はいっぱいシャッターがあるわけじゃないから、この絵が気に入ったからずっとこのままにしてほしいというのは基本的には無しで、上描きさせてほしいんです。あと、既存のグラフィティの上には描かない。

Q9. グラフィティの上に描かない理由は?

例えば、「グラフィティがひどいから描いてほしい」とかっていうのはやらないようにしてます。グラフィティの上に描くのは誰にとっても良くないんですよね。

そもそも、自分やアーティストがグラフィティの上に描きたくないっていうのもあるし、それを描いてたグラフィティライターたちがまた上から描きに来たら、ただ店の前がうるさくなってお店の人も迷惑するし。そういうのも全部話して納得してもらう。一応グラフィティライターの気持ちにもなってあげないと。それはすごい重要だと思う。

お金のことだけを考えていくと絶対破滅してく。プロジェクトはうまくいってる風だけど、そういう一つ一つをミスっていくと破滅していく道に進んでしまうと自分は思ってて。そういうのはすごく考えてやってます。

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