ストリートアーティストたちの「町を見る力」
Q10. DIEGOさん自身は、グラフィティをいつ頃から描き始めた?
地元は山口県の田舎なんですけど、高校の友達にK君っていうおしゃれな先輩がいて、彼とグラフィティをいっしょにやりだしたのが最初です。彼は一人っ子で自由だから、スプレーをホームセンターに買いに行って、自分の部屋の壁にグラフィティをでっかく描くっていう(笑)。彼は「NOW」っていう名前でやってて、「”ナウ”って、”今”だから、俺のタグネームは””NOWだ」って言って、部屋にでっかく「NOW」って描いてました。
それから今度は地下道にいっしょに描きに行って、2人ともすごいちっちゃく描いて(笑)。そしたら数日して、K君からいきなり電話かかってきて、「おい、いますぐ地下道に来てくれ!俺たち狙われてる!とにかく来てくれ!」って。それで急いで行ったら、彼が「自分で描いたグラフィティの上から『◯◯(K君の名前)殺す!』って描かれてる!」って言いだして。
でも実際みたら全然そんなこと描いてない。昔描かれたグラフィティの跡とか、コンクリートのクラック(亀裂やひび割れ)が、『◯◯殺す!』に見えただけ。勘繰りがすごい入っちゃってて(笑)。でもそれでK君はグラフィティやめて。そこからはひとりでグラフィティをはじめて、福岡に行ったり、東京にお兄ちゃんがいたから、遊びに行ったりしてました。
当時タワーレコードの7階か8階にあったタワーブックスにグラフィティとかストリートアートの本とかがすごい売ってたから、そこに行っては本とか買って、知識を蓄えていって。超ナードだったと思う。今もそうだけど。
Q11. 影響を受けたアーティストは?
もともと海外のグラフィティとかストリートアートがすごい好きだったから、マドリードにいた海外の友達のところに3ヶ月くらい行ってたときがありました。当時出会った海外のストリートアーティストがおもしろかったのは、彼らは町を見る力がすごいあって、どう自分が町で生きていくかみたいなのをすごい考えていた。
E1000ってアーティストがいて、彼はマドリードの町が自分の家みたいな感覚になってて。スプレー缶を町中のいろんなところに隠してたり、友達のとこに置いてたりとか、いつ何時どんなことが起こっても自分はそこからスプレーをピックアップしてすぐ描きに行けるみたいなことを言ってて。町中にあるものを使って作品にしていたりとか。それにはすごい影響を受けました。
Q12. どうやって海外のアーティストと知り合っていった?
自分が外国に行った時、ひとり仲良くなるひとがいると、次の日に誰か紹介してもらってとか、どんどん世界中に友達ができるようになりました。その友達とかが日本に来るってなると、彼らは自分が向こうでやったことをこっちでしたい。描く場所探してるとか、展示するところない?とか。そういう友達にどんどん紹介することで広がっていきました。意図してというよりは、たまたまそうなっていって。
自由な場所を町に持つことがおもしろい
Q13. 『LEGAL SHUTTER TOKYO』を続けるモチベーションは?
シャッターのプロジェクト自体は、アーティストを助けようというよりは、どちらかというと割と自分のためにやってるみたいなところが強いです。自由な場所を町にいっぱい持つことが必要なのは、簡単にいうと生きづらいから。いまは何しようにしても簡単にはできない。
例えば町に絵を描くにしてもすぐできない。みんなそれを不自由に感じて文句ばっかり言ってるけど、自由な場所をいっぱいもつことがおもしろいんじゃないかなと思っています。そういう意味ではシャッターのプロジェクトは作品に近いものなのかなと思います。
自分だけ自由な空間をいっぱい持ってて、どこでも絵を描けるし、展示しようと思えばできたりというのは恵まれているというか。そのためにとにかく動きまくる。いままで結構無駄なこともいっぱいやってたなと思うけど、最近になってようやくなんか無駄じゃなかったなというのはあります。
Q14. いまはクライアントワークなどはしていない?
自分がやるのはクライアントワークとか、イラストの仕事とかっていうんじゃないっていうのは思っています。昔はそうやって食っていくのかなと思ってたけど、海外に行って帰ってきて、自分で独力でアートをやるようになって、また違う意味でもがいて。
自分のやりたいことは、まずお金のことを考えてどうこうなる話ではないかなって。普通は生活を考えたりとかあるけど、生活は置いといてみたいなところじゃないかなと思います。ある瞬間にお金のことはもうすっ飛ばして、完璧にやりたいことをやる瞬間みたいなのがないとただの仕事になっちゃうから。
でも自分はこういう話ってあんまりしたくなくて。「でもお金は必要でしょ?」みたいな話になったときに、言い訳と理屈にしか聞こえないというか。自分は自分が正しいと思ってるけど、相手が言っていることのほうが絶対に世間的というか、全社会では絶対正しいと思う。そこは否定はしないけど、自分がやるべきこと、できることはそっちじゃないかなって思います。
Q15. 今後の目標は?
目標という感じでもないですが、今年か来年とかにまた個展ができたらなーと思いますね。でもまあ絵を描いて、グラフィティとかストリートアートをやり続けていくのが重要かな。それで十分かなと思います。
ディエゴ / DIEGO
街に落ちていたペットボトルや紙くず、路上で見かけたねずみや、道を走る車など、街で普段何 気なく目にするモノをユーモラスに擬人化したキャラクターを抽象絵画として描く。
Instagram:@diego7a14