Belong to ME #07|編集者 ミネシンゴ

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地域にコミットするために

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──移住した先で、いきなりいろんな展開をすることのリスクはなんでしょう?

初めて会った人に「僕はこれからこんな仕事したいんですよ!」といきなりガツガツ来られると、引いちゃったりしますよね? 僕自身もそういうのが苦手で……。それは地域の人もそうだろうなと思っていて、あんまりデキますやります感は出さないほうがいいと思っています。

「町にコミットします!」と大げさに言ったところで、信用されない。逆に、変に信用されすぎて内部の人に一気になっていくのもどうなんだろう。僕は元々美容師だったのもあって、その塩梅をうかがっていました。気軽にどっちかに寄る「解」を出すことで彼らのユートピアを壊しちゃいけないと思っていましたから。

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──外から来た存在であることによって出来たことはありますか?

その土地のカルチャーを知らないからこそ出来たこともかなりあると思いますね。キーマンもしきたりも知らない。それを無視してとんでもないことをすると大変だけど、そればっかり気にしてたら何も動けない。

三浦に来てすぐのとき、行政に呼ばれて「最近移住してきたミネさんがゲストで、移住の話をしてほしい」と言われて。ぼくがちょっと企画に入って、地元の方をゲストに何人か呼んだんです。そうしたら、地元の人たちからは「よくあそことあそこくっつけたね」と言われて(笑)。でもそれがあって対話がうまれるきっかけになったと思います。ある意味、しがらみのない自分だから突破できたわけで、そういうケースもあると思う。

三崎ならではの文化をアーカイヴ

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──移住して2年。地元の人と関係が深まったことでやりたいことはありますか?

商店街の会合に毎月出ていますが、僕は相当若手の方です。本と屯とは別に住居を借りているんですけど、最近僕が住んでる地域の組長になって、回覧板を回すようになったり。毎月一回会合があって、会館に行くと僕が圧倒的に若い。もうみなさんの孫みたいな感じなんです(笑)。

会合に来ているおじいちゃんおばあちゃんたちの情報をアーカイブしていきたい気持ちは持っています。それは決してビジネスになるような情報じゃないかもしれないけど、でも調べるといろいろ面白いことをやっていて。僕が住んでいる地域は250世帯ほどあって、ほとんどはおじいちゃんおばあちゃんたちなんですね。夏にお祭りをやるかカラオケ大会をやるかで、この前は大騒ぎしてました。

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昨年はカラオケ大会に決定。てっきりいつもの会館でやるのかと思ったら、バカでかいトレーラーを借りてきてステージを作って、荷台がガルウィングみたいに開いて、そこにカラオケセットを組んで、おじいちゃんおばあちゃんたちが港に向かって歌うんですよ(笑)。意外とハード面のスペックが高くて発想がデカい。はたから見たら、港の端っこでトラックの中でステージ作ってカラオケやっているのは面白いと思っちゃうんですよね。

そういう昔からの交流や知見、楽しみ方を持ってる人たちをアーカイブする。昔のマグロバブルの恩恵を得ていた人たちはもう高齢者になってきているので、当時のカルチャーは誰かが残さないといけないと思っています。

今後はリトルプレスが置かれる美容室も

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──アーカイブというのは出版にとっての命題でもありますよね。

2020年の2月には「本と屯」の2階を美容室として運営しはじめました。その名も「花暮美容室」。本と屯がある地域のことを地元では花暮、と呼んでいて。その昔、この地域から城ヶ島に向かって桜の木があって、「日が暮れるまで花見ができる」と言われこの地名が付いたそうです。

花暮って、なんて素敵な言葉なんだろう。字面もとてもいい。こういう地元の人しか知らない言葉もアーカイブしていきたい。子供たちの遊び場所がひとつ減るけれど、また別な場所を作ろうと思っているんです。出版社がやってる美容室は、たぶん世の中にないんじゃないかな。小上がりを通って階段を上がっていったら美容室空間になっている。15年間美容の世界にいて、これがひとつの答えになる気がしています。

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一緒に働く美容師が毎日来ることで、「本と屯」も毎日開くことになる。結果的に土日以外でも世の中に開かれていくようになります。2階は本と屯と違っていい感じにリノベーションしました。東京の人も地方にいる人も、観光のついでに髪を切りに来てほしいです。髪切ってお酒飲んで、夕暮れになったら散歩して。髪を切るときは、いつでも思い立ったときですから。

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出版社がやっている美容室なので、特色を持った場所にしたいですね。本棚はもちろんありますが、インディペンデントな出版社たちの本だけを仕入れて、2階でそういう本だけを販売するのもおもしろそう。ちょっとしたギャラリースペースも作っているので、作家さんの展示や、イベントなどもできたら楽しそうですね。

美容室の空間は、ただ髪を切るだけの場所ではないんです。不特定多数の人が集って、コミュニケーションも表現も小売もできる、不思議な空間。これからは町に「開かれた」美容室を作っていくのが、これからの目標です。

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PROFILE
ミネシンゴ / Mine Shingo
夫婦出版社 アタシ社代表。美容師 編集者
美容文藝誌 髪とアタシ発行人/編集長。
美容メーカーMILBONオウンドメディア編集長。
移住雑誌TURNS編集ディレクター。クリープハイプ「もうすぐ着くから待っててね」「イト」の写真担当。渋谷のラジオにて「渋谷の美容師」MC。2017年、神奈川県三浦市三崎に拠点を移し、築90年の古民家を借りて港の蔵書室「本と屯」をオープン。約5000冊の蔵書と土日のみオープンするカフェスペースを運営。2020年2月に本と屯2階にて「花暮美容室」をオープンさせた。

アタシ社:http://www.atashisya.com/
本と屯:https://www.facebook.com/hon.to.tamuro/
ミネシンゴ:https://twitter.com/mineshingo

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