Belong to ME #08|陶芸家・宇城飛翔

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益子を拠点とした作家活動とコミュニティ運営

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Q7. 拠点を益子にしたのはいつ頃から?

宇城 はじめは千葉の陶芸教室で働きながら、益子の窯に通うという形でしたが、1年くらい前から拠点をこっちに移しました。やっぱり自分の拠点がないと、制作を続けるには手狭だし、難しいんです。というのも陶芸って、器とか立体造形を作るにも質量があるので、空間的な余裕がないとできないし、薪の窯を焚くには火が自由に焚ける空間がどうしても必要になってきます。

そうした理由で益子に来たのが大きいですね。あとは、益子には海外の人が多く来るんですよ。ここでアメリカ人の陶芸家の友達ができて、彼と仲良くなって通うようになったという理由もあります。

Q8. 現在の益子での暮らしぶりは?

宇城 スペースの運営を手伝いつつ、自身の作家活動をしています。おもしろいのは、歳をとった陶芸家は自分一人で全部の作業をできなかったり、大きなものを作ったらうごかせなかったりするので、そうした方のお手伝いに呼ばれて行って、その代わりに技術を教えていただいたり相談に乗っていただいたりといった「交換」があることですね。

Photo|Kenta Umeda
Photo|Kenta Umeda

体力を提供して技術を教えてもらったり、海外の人と言語を教え合ったり、そういう「交換」が日々行われています。

Q9. 「益子陶芸倶楽部」はどういう仕組みで成り立っている?

宇城 現代表の一つ前の世代が陶芸教室を始めたので、40年くらい前に始まりました。もともと民宿はあったんですが、陶芸教室を開いたのは益子では一番最初だったと聞いています。

Photo|Kenta Umeda
Photo|Kenta Umeda

来るのは、窯をレンタルしたいという方や、海外から長期滞在して陶芸を教えて欲しいという方、あとはレジャー感覚で陶芸体験をしに来る方、それなりにスキルがあってより深めたい方など、陶芸にまつわるいろんなニーズを持った人がいらっしゃいますね。最近は特に海外の方が増えている印象です。

滞在可能な「益子陶芸倶楽部」の民宿
滞在可能な「益子陶芸倶楽部」の民宿

宇城 もともと益子は陶芸家の濱田庄司や、日本にゆかりのあるイギリス出身の陶芸家であるバーナード・リーチが民藝運動を始めた街でもあるので、海外に紹介されやすいのかもしれません。イギリスにリーチの工房があって、その工房の人たちが益子に勉強しに来るという交換留学プログラムもあり、民藝の文脈で海外に紹介されている印象があります。

あと、東京から来やすいというのはあると思います。ただ、まだインフラが不十分だとは感じますね。バスの本数や宿泊所が少ないですし、外国語対応という言語の部分でも、まだまだこれからなんだろうなと思います。

「物理・自然現象のお手伝い」としての陶芸

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Q10. 陶芸作家である宇城さんの作品のテーマは?

宇城 いわゆる四大元素と言われるものの中で「土」と「火」がテーマになっているので、それらについてはよく考えます。まず消防士の時の体験から「死体が持っている存在感にはどんなアート作品も勝てない」と思っていて。

例えば電車の中に人がいっぱいいても、あまりお互いの存在を感じずに、なんとなく乗っていますよね。でも、その内の一人がバタッと倒れて死んでいるとなると、ものすごい存在感だと思うんですよ。その死体は何で構成されているかというと、魂を失った「物質」でできている。「物質」の持つ存在感がそもそも強烈にあるんです。

同じように、粘土そのものが持つ存在感というのがおそらくあって、それを引き出すような形で制作できたらな、と。だから自分が完全に造形をコントロールして、思い描いた通りに形を作るというよりは、「素材が外側に噴出しようとしている何か」を引っ張り出すお手伝いがしたい、という感覚です。

当日は数日間焚いた窯を開ける「窯出し」の日。「ぼくもどう仕上がっているか未知数で。わくわくしますね」と語る宇城さん。
当日は数日間焚いた窯を開ける「窯出し」の日。「ぼくもどう仕上がっているか未知数で。わくわくしますね」と語る宇城さん。

ろくろで粘土をひいていてもそうです。今、僕は蹴って回すタイプのろくろを使ってるんですが、回転するので、触っていれば勝手に粘土の形は変わっていきます。きっかけだけ与えれば、あとは粘土がどっちに行くかというのは決まってくるんですよ。

もちろんそこには物理的な限界があって、あまり広げすぎるとベロっとへたっちゃうので、へたらないギリギリのところで、なおかつ粘土がのびやかに伸びていくところを狙っていく。これは自分の踊りとの向き合い方にもつながるのですが。器作りに関しては、それを意識してやっていますね。その意味で作品の制作では、形のぴったり揃ったものを作るということをあまりやっていません。

レンガで密閉していた入口部分を引き剥がすようにして窯を開ける。
レンガで密閉していた入口部分を引き剥がすようにして窯を開ける。

Q11. 自然現象をコントロールするのではなく、アンコントロールの状況下でそこに介入する?

宇城 はい。窯で火を焚くのも、一回始まった現象をお手伝いしている感じです。電気の窯であれば、スイッチを押せば完全に温度をコントロールできるんですが、薪窯だとガーッと暴れているのを、事故らない程度になんとかその現場に携わっているくらいの感覚になる。

介入できるのは、例えば薪をくべる量で温度を調整したり、酸素を入れる量を変えたりといった部分ですね。粘土の中にはいろんな元素が含まれているので、そういったもののトータルで、作品の色や質感、造形まで変わってきます。ある程度、完成のイメージを持ってコントロールしようとするんですが、その時の気象に左右されたり、窯への詰め方に左右されたりして、窯は思った通りにならないので、なんとかお手伝いしてご機嫌を取ってるような感じですね。

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今回窯に入れていた作品も、焚きに関しては本当に思い通りになりませんでした。ただ、引っ張り出したらものすごくよく焼けていて。それこそアンコントローラブルな状態で作品が良いということもあり得るんだと思いました。薪窯には開けてみないとわからないブラックボックス的な感覚があって、そこがおもしろいところですね。

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Q12. 出来上がった作品をどのように展開・流通させている?

宇城 ギャラリーで取り扱っていただいたり、益子で開催されている陶器市に出したりすることが多いです。最近はSNSやHPを通して「この作品が欲しい」と直接連絡をくださった方にお売りしたり、「こんなものを作ってほしい」というオーダーが入って作ったりすることもありますね。

ローカルなコミュニティとグローバルなネットワーク

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Q13. コミュニティの運営者として人との交わりの中にいて、その上でクリエイティブと向き合う環境は、作家性に影響を与えている?

宇城 明らかにあります。例えば陶芸を人に教える時に、初心者の人の粘土の触り方が、僕からすると驚くような触り方だったりするんです。そういうのを見ると、「そうやってもいいな」と思ってマネすることもあります。粘土に対してフィーリングがフレッシュな人と常に関わるというのは、確実に影響していますね。子どもの画材の使い方に影響を受けるような。

あと、ローカルなものはとても大切だと思っています。そもそも目の前にある粘土は産出地の土壌成分に由来するわけだからすごくローカルだし、自分の身体も言ってしまえばローカルなもの。今、自分がここにいるんだったら、その周りの外的な環境もひっくるめて制作したいんです。閉じるのではなく、内側と外側の境界をあいまいにして、その両方を行き来する状態で作品を作るという方が、自分にとっては社会性があって大事だと思っています。

Q14. 陶芸にはどんな歓びがある?

宇城 想定の範囲を超えた驚きを得られるんです。小さい出来事かもしれませんが、はじめに作品が燃えてなくなったのも予期せぬ出来事でしたし、窯を焚くのもそう。自分というものの外側の世界や絶対的な他者を意識することが常に必要だと思っていて、外との関わりの中で、自分の考えが固まる時もあれば破壊される時もある。その中で制作しながら生きていくのが今の自分にとって自然かな、と。

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Q15. 今後トライしてみたいことは?

宇城 今もここでコミュニティを運営していますが、自分の中で「こうやったらいいんじゃないか」という理想的なコミュニティの形はイメージしています。それをやるためには、もしかするとここではないどこか別の拠点が必要なのかもしれないです。それを探している部分はあります。

あと、「惑星詩人協会」という国際ネットワークを友人と共同で運営していて、ベルリンとかロンドンといった海外にも拠点があります。益子は完全にローカルなコミュニティですが、もうちょっと広い範囲で人が行き来してコミュニケーションが広まるようなネットワークを考えていて。ローカルなネットワークとグローバルなネットワークの2つを展開して、それがうまく交わっていくことで、よりよい出会いを生み出せればいいと考えてますね。

Q16. 益子での人との交わりで印象深いのは?

宇城 おもしろいのが、窯焚きをしていると窯の周りに人が自然と集まってきて、その場が宴会みたいになってくるんですよ。一般的なたき火だと焚いて消して寝ましょうということになるんですが、窯焚きだと3日間くらい火を絶やさないから、寝て起きてもまだ火がついてるんです。

取材当日は窯出しのあと、焚き火を囲んで飲みながら語らった。
取材当日は窯出しのあと、焚き火を囲んで飲みながら語らった。

昨夜終わったはずの宴会がまだ今日も続いてるようなお祭り性があるんです。それが続くと、窯の周りに一時的に自律したゾーンのようなものが出来上がる。3日間の祝祭空間ですね。それを、「焚き火講」という名前をつけて企画してもいます。人が火に集まる時、集まる中心である火は抽象的なものなんですよね。人やコンテンツに集まるのではない。そういう集まり方っていうのは、ある種健全だと思うんです。

Photo|Kenta Umeda
Photo|Kenta Umeda
Photo|Kenta Umeda
Photo|Kenta Umeda

Q17. 他の土地と比べた際の益子の魅力は?

宇城 よそ者慣れしているところですかね。おそらく濱田庄司以来続いていると言ってもいいかもしれません。やはりオープンですよね。なおかつそれが今も続いていて、海外の人も多く来るし、短期でも長期でも住みやすい。それはお互いによそ者に慣れているからというのがあると思います。資材屋さんに全くの素人が行っても普通に買い物ができるとか、組合費を払わなくても粘土が買えるとか、リベラルな空間だと思います、益子という町は。

火も焚けるし、基本的に寛容ですよね。東京の町中でいきなりたき火を始めたら、絶対怒られるじゃないですか。でも、ここでは怒られない。やっちゃいけないことが一つやっていいというだけで、心の深い部分でマインドセットに影響しているんじゃないかと思います。

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PROFILE
宇城飛翔 / Asuka Ushiro
陶芸家 / 1990 年生 / Ceramist
レスキュー隊員として消防署に勤務する中、陶芸に出会い作陶を始める。
舞踊、ストリートダンス、現代魔術、タロットリーディング、ヨガをライフワークとし「おどり」と「ものづくり」の交点から、現代におけるシャーマニズムの実践・研究に取り組む。

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