CIRCULATION CLUB

環境/ファッション/政治が交差する、サステナブルなアクション。「DEPT」オーナー・eriインタビュー【前編】

0

株式会社まちづクリエイティブが新たに立ち上げたプロジェクト「CIRCULATION CLUB」。

誰かの「いらなくなったモノ」を回収しリユースして「いらない世界を変える」──そんな「循環型物流」の道を切り開いてきた株式会社エコランドのエコランドファンドからの寄付を受け始まったこのプロジェクトでは、SDGsのうち11番目「住み続けられるまちづくりを」と12番目「つくる責任つかう責任」にフォーカス。それぞれの視点から意欲的な試みを行っているプレイヤーの方たちへ、リサーチ型のインタビュー連載を実施する。

今回は、ビンテージショップ「DEPT」のオーナーであり、環境問題や政治課題にも積極的に取り組んでいるアクティビスト・eriさんが登場。マイクロアクションからマクロアクションまで様々な実践を通じて、きわめて意識的に環境負荷の削減と向き合う彼女に話を聞いた。

Interview & Text: Haruya Nakajima
Photo: Yutaro Yamaguchi
Edit: Chika Goto

大量廃棄された衣服の山を目の当たりにして

──eriさんのSNSを拝見していると、本当に多面的に活躍されていますよね。古着屋さんの「DEPT」を経営しながら、エシカルな環境アクティビストであり、政治に対しても具体的なアクションを実践しています。そのなかでも、特に環境問題に取り組むようになったきっかけは何だったのでしょう?

私自身が最初に環境について意識したのは、ノーベル平和賞を受賞したアル・ゴアの『不都合な真実』(2007)を20代前半で読んだことでした。それ以来、一般的に言われるようなエコロジーを意識したライフスタイルを心がけていましたが、2019年に「IPCC1.5℃特別報告」を読んだことで「環境問題って思っていたよりもひどく進んでいて、もう後がない状態なんだ」ということを知ったんです。

そこから、自身のライフスタイルの発信やDEPTの企業理念を、「どれだけ環境に負荷がかからないようにできるか?」という方向にすべて転換しようと考え、できることをすぐにやり始めました。また、「いま地球環境に何が起こっているのか」について勉強していくなかで、様々な運動に参加している人たちとのつながりができたことで私のいまの活動全体につながっていると思います。

──2019年にエコロジーの方向へ大きく舵を切ったんですね。ちなみに、古着を扱うお仕事をしていることは、そうした活動に影響を与えていると感じますか?

強く関わっていると思います。私がもともと持っていたお店「mother」でも古着は扱っていましたが、2015年に父のDEPTという屋号を引き継いだことでより古着の買い付けの頻度や関わる業者さんなどに変化がありました。そのときアメリカやヨーロッパにある巨大な集積所で、回収されたばかりの山積みの古着を見上げて改めてファッションのいまの現状が恐ろしいと感じたという経験が私を変えました。

私は古着屋の娘なので、何十年も前の服を着ることが当たり前の生活を送ってきました。それだけに、集積所で真新しい服がゴミのように積み上がっているのを見て衝撃を受けたんです。しかも、その大半をファストファッションと呼ばれる大量生産・大量消費型の洋服が占めていました。それで「ああ、これは何かが狂ってるな」と感じました。

──廃棄された大量の衣服を目の当たりにするという体験はすごくリアルですね。

やっぱりいま大量生産・大量消費・大量廃棄を前提にしたものづくりが行われているなかで安く大量に手に入ってすぐ捨てられるような製品を、つくる方も買う方もコンビニエントに求めてしまっているということを再実感しました。その矢先にIPCCのレポートを読んだので、「これはこのままじゃマズいよね」と。

そもそもアパレル業界は、環境汚染産業として重工業に次ぐ第2位なんです。でも、だからこそ古着にできることがあるんじゃないかと考えてきました。そうやって自分自身が環境負荷と向き合っていくなかで、もちろんファッションを取り巻く状況は問題意識の中心にあります。気候危機は世界のあらゆる社会問題と結びついています。人種差別、ジェンダー、貧困、医療、政治、金融、雇用……だから気候危機を回避するなかでいろんな社会問題にも同時に知り、向き合うことが必要不可欠だなと思っています。

勉強を通して見えてきた「エシカル消費」の欺瞞

──環境問題を意識してから、まず最初に取り組んだことは何でしたか?

勉強です! とにかく、まずは知ることから始めました。自身のライフスタイルであれ会社の仕組みであれ、大きく変えていくには何かしらの根拠に基づく必要があります。気候変動自体が科学的な議論でもあるので、数字や背景をきちんと押さえないと方向性の軸がブレてしまうので。

──重要な指摘です。SDGsやサステナビリティが話題になっているなか、「勉強」するというよりは、「レジ袋が有料になったしエコバッグを持とう」など、なんとなくのイメージで動いている人も多いと思います。

私はそれも全体の流れをつくるという意味では必要な社会の“雰囲気づくり”だと思います。ただ、「グリーンウォッシュ」が環境の改善をむしろ遅らせるという研究もあるので、それこそ科学的な根拠や明確な目標値の定められていないSDGsやエコプロダクトが免罪符的に使われてしまうことや、手にする人たちのリテラシーを下げてしまうんじゃないかという懸念を持っています……。特に「エシカル消費」という言葉には違和感があって、消費そのものが環境負荷を生むわけで、本来「エシカル」と「消費」は並べられないはずじゃないか……なんて。

いまは人々の意識や社会システム自体をドラスティックに変えていかないと、地球の平均気温上昇を1.5度までに抑えましょうというパリ協定の目標も手の届かないものになってしまいます。1.5度以下に抑えるためには、全世界で排出することが許されているCO2の量が決められています。それがClimate Clockという世界に設置された時計で表されているのですが、その残り時間はあと約7年半しかありません(2020年時点)。

──「ポイント・オブ・ノーリターン」(後戻りできない地点)に陥ってしまうわけですね。

ティッピングポイントと呼ばれていますが、ある臨界点を超えると不可逆的に気候変動が加速的に進んでしまうと言われていて、世界の様々な場所でもうその臨界点を超えている場所が出始めたという研究結果があります。残念ながら、エコバッグやタンブラーを持つことだけでは回避できない危機的状況に私たちはいます。

最近知って興味深かった研究結果があるのですが、オーガニックコットンのエコバッグ一つが製造される際、その背景にある環境負荷を±0にするためには、そのバッグを2万回は使わなければならないと。毎日持ち続けても50年ほどかかる計算。しかも、オーガニックではない普通のバージンコットンであれば、もっと環境負荷をかけることになります。“エコバッグ=環境に優しい”だけが先行してエコバッグが大量に生産されていることに大きな矛盾を感じてしまいます……。気候危機解決へ必要なスピード感との乖離に悲しい気持ちになってしまう。

幅広い具体的な実践──マイクロアクションからマクロアクションまで

──「勉強」の必要性がよく分かります。そこから具体的にはどのような実践をしていったのでしょうか?

まず、自宅や職場の電力を再生エネルギーに替えました。私は「パワーシフト・アンバサダー」として、電力の自然エネルギーへの転換を促す啓蒙アクションもしているんですが、家庭用電気の再エネへのシフトはすぐできるので、皆さんにもお勧めです。ネットで数分で完了して工事も不要です!

例えば小さなことでは、オフィスに置いてある自家製の「キエーロ」というコンポストがあります。これは自宅にも置いてあるのですが生ゴミはすべてこれで処理しています。DEPTのオリジナルキエーロも受注販売しています。

会社から出るゴミをなるべく減らす工夫はしていて、普段手をふいたり掃除をしたりするときも、ペーパーは使用せずに、古着をリメイクするときに出る布の切れ端をハンドタオルとして使っています。タオルは洗えば使い続けられますしね。

いま取り組んでいるのがカーボン・オフセットです。DEPTはコロナで店舗を閉めているので、オンライン販売がメインになります。そうすると基本的に商品を配送することになるわけですが、そのときに出るCO2の総量を算出して可視化すると、かなりのボリュームになることが分かりました。それぐらいカーボン・プライスって大きいんですね。

とはいえ、それをすべて自分たちで賄おうとすると会社が潰れてしまう。そこで、そのうちの一部を私たちの会社で負担し、残りをお客様が買い物する際に、任意で負担していただけるようにしたいなと思っています。買い物をするときにオプションとして「500円・1000円・2000円」と、カーボン削減のドネーションをチョイスできます。そうやって配送にかかるCO2の排出を、売る側と買う側の双方で協力して削減していく。仮にお客様がオプションを選ばなくても、自分の買い物でCO2が出ていることを認識することができたらいいなと考えています。

──消費者側も自分たちがCO2を排出していることを実感できるし、その削減に協力できる入口も提示しているんですね。

また、うちは古着屋なので洋服を洗います。そのときに気をつけているのが、使用する洗剤や排水が地球に負担をかけていないかどうか。包装にもどのような素材を使えばいいのか工夫しています。よくプラスチックの代用品は紙だと思われがちですが、紙も環境負荷が高い。そこで、紙を使うにしても竹やバガスなどより環境負荷の低い素材を選んだり、再生紙を選ぶなど試行錯誤していますね。

最近では、天然素材からつくられた緩衝材も出てきています。一般的に使われているビニールの緩衝材は、石油由来の樹脂を発泡させたものです。でも、天然の緩衝材には水に溶けるタイプもあり、トイレや排水溝に流せば溶かして捨てることができます。そうやって、常に新しい素材を血眼になって探しています(笑)。

「罪悪感を誇ること」が意識を改革する大きな一歩

──すごい徹底ぶりですね。ただ、都市生活を送るなかで、環境に悪いと知りながらどうしてもプラ製品なんかを買ってしまうことがありますよね。そういうとき、自分のなかの矛盾や葛藤とどう向き合えばいいと思いますか?

もちろん私にもそういう瞬間はたくさんあります。ただ、私がいつも言ってるのは、その「ギルティ(罪悪感)」を「プラウド(誇りに思う)」した方がいい、ということです。いま世の中は罪悪感すら感じない社会になってしまっています。でも、そんななか気づきを得て罪悪感を覚えるってすごいことじゃないですか。知識があって、その行為が環境に負荷をかけているという意識を持っているわけですから。それは小さな一歩かもしれませんが、私からするとすごく大きな一歩に見えます。意識が変化した前と後では、まったく状況が違うはずです。

いまの社会で、完璧で完全な環境配慮なんて絶対にできません。私も全然できていない。それを実現するためには、やはり社会システム全体が変わらなければいけません。その社会システムを変えるのは私たち一人ひとりの市民です。だからこそ意識を変えなければならない。その一歩をすでに踏み出しているというのは、素晴らしいことだと思うんですよ。

──何より意識改革それ自体がとても大切である、と。

はい。例えば私は動物性を避けるプラントベースドの食生活を心がけていますが、レストランに行ったとき「お魚やお肉、牛乳、卵を使っていない料理はありますか?」と聞きますし、スーパーでも「ヴィーガン向けの商品を置いてほしい」「個別の包装を少なくしてほしい」と投書箱に書きます。それらの要望がその場で叶わなかったとしても、わざわざ言うようにしています。そうすると、言われた方は「ヴィーガンって何?」「なんでそんなにビニールのことを気にするんだろう?」と疑問を持ちますよね。それが違う考えを知る機会になる。たしかに面倒かもしれませんが、そういった地道なコミュニケーションから社会は変わっていくと私は信じています。

インタビューの後編を読む

PROFILE

eri(えり)
1983年ニューヨーク生まれ、東京育ち。DEPT Company代表/デザイナー/アクティビスト。
1997年立花ハジメとLowPowersでデビュー。2004年自身のブランド「mother」をスタートし、2015年、父親が創業した日本のヴィンテージショップの先駆けであった「DEPT」を再スタート。その後、テーブルウェアブランド「TOWA CERAMICS」をローンチ。またPLANT BASEDカフェ「明天好好」のプロデュース、気候危機を基礎から学べるコンテンツ「Peaceful climate strike」や環境とファッションの問題に焦点を当てた「Honest closet」の立ち上げなど、ファッションの枠を超え活動している。
またメディアやSNSを通し可能な限り環境負荷のかからない自身のライフスタイルや企業としてのあり方を発信し、気候変動・繊維産業の問題を主軸にアクティビストとして様々なアクションを行なっている。
Instagram: @e_r_i_e_r_i

0
この記事が気に入ったら
いいね!しよう