From YOUth #02|fuzkue 阿久津隆

1

あらゆる「商品」が合理的につくられ、対価さえ支払うことができれば、ほぼなんでも手に入れることのできる現代。選択の自由がこれほどまで高まっている時代だからこそなのか、その自由を逆手にとり、これまでにない売り方や作り方を目指す異端者たちがいる。

連載シリーズ・FROM YOUthでは、そんな新たな売り方・作り方を志向する20代〜30代の「店主」たちの試みをエッジなユースカルチャーと位置づけ、インタビューを通じ、時代を生き抜くヒントを探す。

Vol.2に登場するのは、2014年10月に東京都渋谷区初台に“一人の時間をゆっくり過ごしていただくための静かな店”として「fuzkue」をオープンさせた阿久津隆さん。最高の読書環境を目指し、お客さん同士の会話を禁止している同店では、なんと85%もの人が1時間半以上を過ごす。そんなある種独特の空間は、どのようにして生まれたのか? 話を聞いた。

Text:Yosuke NOJI
Photo:Natsuki KURODA
Edit:Shun TAKEDA

きっかけは、読書している人の姿が祈りを捧げているように見えたこと

Q1.お店を始めようと思ったきっかけは?

もともと2011年から岡山で彼女と一緒にカフェを立ち上げて働いていたんですが、3年前に店を離れることにして。東京に戻ることを決めて、今まで温めていた「読書をするための場所を作りたい」という想いを具現化したのが「fuzkue」です。

Q2.大学卒業後、すぐにカフェを立ち上げた?

大学を卒業してからは新卒で金融機関に入社して、赴任地の岡山で営業職として3年間働いていました。でも、だんだん「なにひとつ面白くない」と思い始めて、2011年の3月12日に異動のための人事面談を組んでもらっていたんです。

それが東日本大震災の影響で延期になり、次の面談の機会を待っているときに、彼女にカフェの立ち上げを誘われました。なんの前触れもなく(笑)。それで、「それもいいな」と思って会社を辞め、お店を始めることにしました。

_N0A5316-1

Q3.東京に戻るときに、再度就職するという選択肢はなかった?

その時点で「ゆっくり読書できる場所を作りたい」という想いがあったので、別の場所に就職するという選択肢は全くなかったです。やりたいことがあるなら、それをやるのが自然な選択だろうなと思っていたので。

Q4.「読書できる場所を作りたい」という気持ちが芽生えたきっかけは?

岡山のカフェには、ワイワイお話をする人たちもたくさんいらっしゃって、それはそれで楽しい光景だったんですけど、1人で読書しているお客さんを見たときに、彼らがすごく美しいな、と。本と向き合っている姿ってどこか「祈り」の姿勢にも近いぞ、みたいな。

次やるなら、自分が好きだと思える人たちのために仕事をしたい。そう思ったのが「fuzkue」をオープンした大きな理由の1つです。

_N0A5303-1

_N0A5288-1

Q5.場所を初台に決めた理由は?

この物件が気に入ったこと。もともと2階以上・壁全面が窓・横に長いカウンターを設置できるという条件で物件を探していたので、この場所を見たときに「ここならできるな」と思ったんです。最初に内見した物件だったので、「まあ他にもあるだろう」と思っていくつか見たんですけど、「やっぱりあれだ!」ってなって(笑)。

だから、初台という町に対する思い入れは何もありませんでした。そもそも育ちも埼玉で、大学も神奈川だったので東京の町に詳しくないんです。初台に対する最初の印象は、夜中に気軽にバルト9に映画を観に行ける町ってことぐらいですね(笑)。

Q6.ほかに候補地はあった?

閉店後にバルト9に行けそうなエリアでいくつか探しましたが、そもそも10席しかないお店を作るのに、「この町だからできませんでした」って言い訳は通用しないと思うんです。だから、町はわりとどこでもよくて、それよりどこにあっても成立するお店を作ることを意識していました。

「会話禁止」から生まれる“読者“との信頼関係

Q7.お店のコンセプトは、どのように決めた?

「ゆっくり本を読める場所ってどんなところだろう?」っていう問いから落とし込んで全て決めました。普通のカフェで本を読もうと思っても、他のお客さんの話し声が気になったり、あんまり長居していると「もう1品注文した方がいいのかな?」とか余計に気をつかったりしちゃうじゃないですか。別に飲み食いしたくないのに無理に追加注文しても、誰も気持ちよくないと思うんですよ。

「fuzkue」では、気持ちのいい読書時間を妨げる状況・余計なコストを全てなくそうとしています。だから、お客さん同士の会話も当然ご遠慮いただいていますし、たとえコーヒー一杯でも気兼ねせずに何時間でも過ごせる仕組みにしたり。それらあれこれの意図を出来るかぎり言葉を費やして説明することで、理解と納得と、できたら共感が生まれたらいいなと思っています。

「fuzkue」メニュー表
「fuzkue」メニュー表

Q8.そういったルールを作るにあたり、参考にしたお店は?

高円寺の「アール座読書館」。まだ「fuzkue」を立ち上げようと思う前に行ったんですが、読書に集中するために会話を禁止するっていうシステムにひどく感動しました。「あ、喋れなければいいのか!」って(笑)。だから、「fuzkue」は「アール座読書館」のフォロワーだぞ、っていう気持ちでいますね。

Q9.どのようなお客さんが来る?

近所の人もいらっしゃいますけど、どこかからわざわざ「fuzkue」を目指して来てくださる人たちの方がずっと多い印象。やっぱり、ゆっくりお酒を飲んだり食事をしながら本を読める場所って意外とないんですよね。

だからこそ、「前に来たときは静かだったのに、今回はうるさくて集中できなかった」みたいな当たり外れのリスクは作っちゃいけないなと思っていて。入り口に「おしゃべりできませんよ」「ゆっくり過ごすための場所ですよ」「web見てから入って来てね」と注意書きをしているのも、この環境を守るためには来てくれる人を適切なふるいにかけないといけないという意識からなんです。

_N0A5272-1

_N0A5311-1

1
この記事が気に入ったら
いいね!しよう