From YOUth #10|コレノナ 島本有里

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売ってさみしいものをちゃんと売ろう

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ーすごくラッキーというか、不思議なスタートだったんですね。
そうなんです。思い返すと、いいタイミングで助言してくださったり、背中を押してくださる方に押されるがままというか(笑)。自分は「やります!」と返事しただけで、計画性とかはなく。美大に行くって言った時も、お店借りるってなったときも、そのときのとっさの判断というか。

ー古道具屋から、古い絵を専門に売るいまの形態に変えたきっかけは?
去年の9月あたりに、ちょっと自分の中で気持ちが落ち込んだ時期があって。ずーっと今までノンストップでやってきたので、急に糸が切れるというか。それで一回休んだほうがいいな、一度止まるべきだなと考えて、11月末にお店を一旦お休みしたんです。

店を改装したいという気持ちもあったので、以前から仲良くしてもらっている高円寺にある古道具屋「背骨」の店主さんに改装工事をお願いして、改めてスタートしようと決めて。

それで11月末にお店を閉めるまでの間に、改装してからどうしようか、まぁ古道具屋でよかったんですけど、なにかに絞りたいっていう気持ちがずっとあって、それがある時に、絵なんじゃないかってポンと浮かんで。

古道具屋時代も絵はちょこちょこ仕入れてたんですけど、お店に置いてると「買ってくる絵いいね」と褒めてくださる方がいて、自分が選ぶ絵に自信が持てていたというか。ものを売る時よりも、絵を売る時のほうがなんか悲しくて。悲しいっていうとあれですけど、もちろん売れるのは嬉しいんですけど、手放す寂しさが絵だけにはあったんです。それで、売ってさみしいものをちゃんと売ろうって思ったというか。ちょっと変ですかね?

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それで絵のお店にしようかという考えを仲の良い友達に話したら「いいじゃん!やりなよ!」って言ってくれて。あと、あるときスナックのママに手相を見てもらったら、「絵のお店とかいいんじゃない?」って突然言われて、「ええ!まさにそう考えていたんです!」みたいなこともあったり(笑)。

あとは、近藤晃美さんという油絵を描いている友人の展示を私の店で去年の6月~7月にちょうどやっていたりとか。うまく説明できないんですけど、そういう小さい事の積み重ねが落ち込んでた時期にポンポンとつながって。もうやるしかないと。

すごい思い切ったねと周りには言われるんですけど、全然そんなつもりはなく、あまりにも自分ではしっくりときていました。

自分が本当に良いと思った絵だけを

_Q8C9167 ー絵はどのような仕入れ方をしているんですか?
仕入れ方はいろいろあるんですが、古物商の免許があって入れるような業者の競りの市場と、露店を回って紙ものや油絵とかを扱う業者さんにお話しして、交渉して買わせていただいたりしています。いまは市場より露店のほうが主です。

ー選定の基準はあるんですか?
内容の基準はないですが、年代は一番新しくても昭和中頃くらいまでに絞っています。だいたいは明治から昭和初期くらいまでで揃えています。前提とするのは日本の人が描いた古い絵ということだけで、あとは何を描いていても良いんだけど、基準と言われると、難しいですね。わたしが本当に良いと思ったものだけです。

ただ選ぶ時に悩むことはあんまりなくて、「おお、これはいい。これは全然違う、好きじゃない」っていうのは見たらわかるというか(笑)。だから買いやすいといえば買いやすいですね。値段があえば、頑張って買うという感じです。

古道具屋をやっていたときはすごく悩みました。「これを店に置いて大丈夫なのか?」って、悩んで悩んで買ってきてたような気がします。いまはそんなことはないんです。絵を買うようになってからは。

ー無名の作家の絵という基準も?
そうですね。作者不明というか。サインがあっても、調べてもでないような人。サインがなくて、有名な人の絵も紛れてるかもしれないですけどね。あとは子供が描いた絵や、学生が描いた絵なんかも、好きなのでよく仕入れて来ます。

ただ、無名にすごくこだわっているかというとそんなことはなくて。作家としてやられていたような方の絵でも、いいなと思えば買ってきます。今の仕入れの仕方、資金の中で動いて、買えるものを買ってきている感じです。作者不明の魅力は感じていますが、選ぶ基準としての順番は後ろの方かも。

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ー古い絵は、どういう経緯で市場に流れるものが多いんでしょう?
ね、どういう経緯で流れてくるんでしょう(笑)。いろいろあると思います。解体業者さんが家を潰して出てきたってものもあるでしょうし、遺族のかたが買取を頼んで出てくることもあるでしょうし。これがどこで眠っていて、どうしてここにちゃんと残っているのかというのは、実際わからないですね。

ー古い絵のどういうところに一番魅力を感じますか?
絵の中に、慰められる、励まされるというか。そこに入れる時間、瞬間、そういう余地があるのが魅力だなと思ってます。

あとは自分のルーツじゃないけど、故郷に似ている風景をよく好きで買ってしまいます。海とか、船とか、自分の生まれた場所とかをふと思い出せるような風景だったり、ものだったり。

東京に出て来て11年とかで、なかなか実家にも帰れていないんですけど、そういう場所で生まれたな、そういうものを見てきたなっていうのをなんかふと思い出したり、浸っちゃう瞬間ですかね(笑)。でもまだ全然わかってないかも。いまはそういうところが好きです。

理想は普通の町にある、普通のお店

_Q8C9151 ーコレノナでは絵の展覧会と違い、作者の意図などの情報もなく、単純に絵そのものを見れるのもおもしろいなと思います。
そうですよね、すごく純粋に入っていけるというか、いやらしさがないから、共感しやすいのかな。絵と自分との関係だけで買うことを決めれるというのも良いのかなと思います。だから、私がどこまでその絵を分析して説明すべきか、悩んではいます。ただあんまり親切でないのもよくないから、いまはわかる情報だけは書くようにしています。

ーこの6年で国立の町に変化はありましたか?
変わりましたね。昔は北口南口の行き来がすごく面倒で、ぐるっとまわらなきゃいけなかったんですけど、いまは駅も綺麗になって、行き来しやすくなったので、(コレノナのある)北口にもどんどんお店ができたし。

こっち側は昔はぜんぜんお店なかったですけど、ぽんぽんお店が増えると、いろいろ回ろうっていう人が来てくれるので、ちょっと駅から離れた場所でもお店を始める人が増えました。駅前にレンタサイクルとかも出来て、みんなすごい利用していますね。

国立駅南口の大学通り
国立駅南口の大学通り

最初は急に人の流れが増え過ぎたらどうしようって戸惑っていましたが、いまは慣れもあって、ふらっと入って来てくださる方が増えるのは良い変化だとは思います。良い駅になったかは別ですけど。なんだかどの駅も綺麗になって、似てきちゃってる印象です。

ー今後の展望、目標はありますか?
たんたんと普通にお店をやるだけですかね。自分が良いなって思うお店は、決まった時間に開いて、決まった時間に閉まって、その場所に営業中のあかりが付いていて、消えるみたいな。普通の町にある普通の店、だったらいいな。

いまはまだバタバタして、そういう風にはできていないなって思うので。たんたんと真面目に絵を売る店になれたらいいな。ということですかね。

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島本有里 / Ari Shimamoto
1989年、香川県小豆島生まれ。2013年11月、東京・国立に「古道具コレノナ
」をオープン。2018年7月、店舗の改装と合わせ、明治から昭和初期頃の古い絵を中心に扱う店「コレノナ」にリニューアルオープンした。
http://corenona0.ocnk.net
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