From YOUth #11|FL田SH 高田光 吉田尚弘

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「どんぶらこ」を楽しむ運営方針

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Q6.二人はもともとどういう活動をしていた?

吉田 ぼくは2010年代は、現代美術の制作、アシスタントとか、美術の裏方の仕事をメインでやっていました。高田くんとはそこで知り合ったんです。

自分の作品も作っていましたし、今でも作りたい欲はありますけど、タイミングですね。一番近い磁石にくっつくというタイプです。あるイメージを作品として実現したいというタイプじゃない。もうちょっとプロジェクト的に、全体とどうしていくか。どんぶらこ系ですね。どんぶらこを楽しみたいんです。

ぼくがアシスタントでついていたアーティストは川俣正っていう人です。そのひとは自身のプロジェクトを「ワークインプログレス」と呼んで、実際にやっているのは「どんぶらこ」なんですよ。

市民やプロジェクトメンバーとかと話し合って、なんだったら考えてもらったり。アイデアを任せたり。自分のやりたいことを実現しようというタイプじゃないんです。それだからめちゃめちゃ現場がおもしろくて。適当な好きなことも言えるし、それも「ああ、なるほど」って聞いてもらえる。全員でどんどん舵をとっていくという感覚があって、そういうのをぼくもやりたいなと思っていて。

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横浜のBANK ARTも、川俣の思想が流れてるんですけど、ああいう開かれた場所っていうのは、現在ではどんぶらこスタイルの良い表現方法のひとつなんじゃないか。いろんなひとがきて、ハイタッチをして帰っていく。飲みに来る、本を買いに来る、展示見に来るとか、いろんな目的のひとが混在している。そういうのがすごいおもしろい。その影響もぼくはすごく受けて、こういう路地裏みたいな場所にいる。それを自分でやってみたいという感じですね。僕としては。

高田 そうっすね。僕もそう思います。

吉田 高田くんも、パフォーマンス集団、contact Gonzo の手伝いとか入ってて、あの人たちもいろんな人と関わって、どんぶらこするかって感じですよね。どんな川に乗るかっていうのも含めて。

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高田 ぼくももともとは吉田くんと同じような仕事をしてたんですけど、いまはどちらかというと内装とか、什器を作る仕事をしています。大工というとおこがましいですけど。

まぁぼくも、「おれはこういうので生きていく」みたいなテンションではなくて、基本的にはずっとなにかを制作しているんだけど、そこに寄っかからないようにしたほうがいいなって思ってます。ここで展示企画したり、喋ったり、生業の部分で大工仕事とかやりつつ、自分の表現もやって。複合的なレイヤーが重なってなんとか生きているという感じです。

Q7.リソグラフのスタジオを始めたきっかけは?

高田 リソグラフは外国人の友達がリソグラフのZINEをつくってて、それがすごく良くて。5~6年以上前かな? それで4年くらい前に、ヨーロッパに行った時にリソグラフのスタジオに行って自分も作品を作ったんです。

いまはもう作品を作る選択肢の中に入るくらい広まっていますが、そのときはまだヨーロッパで流行りだしたくらいのタイミングで、衝撃を受けました。超簡単に作れるし、フォーマットとしておもしろい。日本では印刷屋としてはあったんですけど、アーティストが使うっていうメディウムのひとつになってなかったし、アーティスト向けのスタジオというのはなかった。

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高田 それで帰国後に中古のリソグラフのプリンターを買ってやりはじめて。知り合いの作家に声をかけて、ポスター展を企画したのが最初です。

吉田 当時高田くんが住んでた8畳くらいの畳の部屋に、200キロくらいあるプリンターをベニヤを引いて置いてて、見に行った時には衝撃でしたね(笑)。しかも2台ですよ。

高田 かたまり。石ですね(笑)。

Q8.FL田SHの活動としては順調にきている?

高田 FL田SHがいいのかはわからないですけど、ぼくらは良いですよね(笑)。個人的には日々勉強させてもらってありがとうございます。という状態。

吉田 良いとは思いますね、FL田SH自体がちょっとずつ盛り上がって来てるなというのは。もちろんちっちゃい問題はいっぱい起こるんで、それは出来る範囲で修正していくというのはやるんですけど。

ただ手放しだとFL田SHは動かないんで、どんどん育てるみたいなことはやってて、徐々に育って来てるなっていう感じはします。ひとが単純にくるとか、知らない人としゃべったら、ここの存在を知っててくれたりとか。

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Q9.FL田SHという名前はどうやって決めた?

高田 オープン予定の1ヶ月前くらいに、7月頃にメッセンジャー上で夜やりとりして決めましたね。その頃ふたりともそれぞれの仕事が忙しくて、オープンの準備に全然集中出来てなかったんですよ。集中力が一切なくて、名前なんでもいいよみたいな。

吉田 それでやりとりの中で、新鮮さって大事ですよねってなり、「フレッシュ」という響きと、スーパーとかに行ったらフレッシュって書いてあったり、新しくも古くもない普遍的な言葉じゃないですか。そんくらいのテンションで。

でも当て字にしようというのは思って、真ん中に「田んぼの”田”」が入ってるんです。結構、英語とかを見ていても、田んぼの田みたいな字が、書きなぐった時に表れたりすることがあるんですよ。町を歩いててもグラフィティーとかで絶対全部英語なのに「田」みたいな字が混じってたりとか、スケボー系の英語表記に明らかに「田」みたいなかたちが混じってるんですよ。

高田 その話はじめて聞いたな(笑)。

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吉田 しかも2人とも苗字に「田んぼの”田”」がつくんで、この場所にも付けることで、二人の最低限の共通項を表してるかなと。まぁキラキラネームみたいな感じなんですけど(笑)。

表立って見えてくる字からまったくその読み方が想像できないのって、日本の新しいカルチャーだと思うんです。しかもそれを国が認めてるじゃないですか。でもお店にそういう命名してる場所って案外ないなあって思って。まぁそれには利便性とか、理由がめっちゃあると思いますけど(笑)。まぁインディペンデントな場所なんでそれくらいやっちゃおうみたいな。

高田 読み方も別に正解があるわけじゃないんで。

吉田 「フラッシュ」って読む人もいるし、「フルタッシュ」って読む人もいるし。全部ありだなって。毎回、この人はどうやって読むだろうみたいな、楽しさで。

高田 「これは、なんて読むんですか?」って、初めて来た人には100%言われるのもおもしろいというか。

吉田 しかも「FRESH(=新鮮さ)」じゃなくて、「FLESH(=生きた状態の肉)」の”L”なんで、いろいろ深読みができるという点でも気に入っているんです。結局僕らしかいないんで、自由自在さの意思表示でもあるというか。

複製可能だから、ショップはおもしろい

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Q10.他のお店やスペースで影響を受けた場所はありますか?

吉田 上野にある美術館とかで、NHKが企画したような大規模な展覧会だと、最後のショップがすごいんですよ。深海魚展とか、ラスコー展とか、物販の潔さ、舵きりはすごいなと思っていて。もはや絶対売れなさそうな2万円とかする、めちゃデカいダイオウイカのぬいぐるみがどーんと置いてあるとか(笑)。採算取るために物販やってるはずなのに、もはや売れなさそうなものも楽しんで作ってる。ミュージアムショップとはまた違う、展示の中に組み込まれたショップ空間みたいなのがめちゃめちゃ好きなんですよ。

マルタン・マルジェラが美術館で展示したときも、インスタレーションを展示するんじゃなくて、展示室の中に普通にお店をつくって売ってるだけというのがあって、そういう潔さ、迎合しなさ。それとショップ性みたいなものに惹かれます。

ショップというのは、複製芸術なんで、基本一点物を扱うことが多いミュージアムと重なると、その関係性がおもしろいと思っているんです。

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Q11.ショップ自体が複製芸術?

吉田 はい、ぼくはそういう観点でやっていて、複製可能だからこそ良いもの、良い感覚ってあると思うんです。それと一点物を同じくらいの視点で見るっていうのには、めちゃめちゃ影響を受けています。

あとは高円寺の「新しい人」っていうお店によく行ってるんですけど、錆びたボルトとかを売ってたり。しかも独自通貨「コイケン」っていうのでも取引してて。お会計すると、お釣りを「コイケンか日本円どっちにしますか?」って聞かれる。そのインディペンデントに磨きがかかった状態っていうのがめちゃめちゃいいなと思ってます。

「600円でこれは買わないけど、60コイケンならこれ買えるな」みたいな。同じ価値なんですけど、自分の中で転換が起こるというか、価値のちゃぶ台返しみたいなのが起こる。それって新しい商売の方法だなって思う。とことん制度とかシステムに対してのカウンター、オルタナティブするっていう姿勢は、ぼくもそこを突き詰めたいと思っているので、かっこいいなと思います。

だから、貨幣と複製芸術としてのお店っていうのは、自分のやりたいことに近づいていってるかなという気がします。

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吉田 僕の祖父母が富山で商店をやっていて、店は広いんですけど、じいちゃんばあちゃんはもうほぼ仕入れ力がない。だからほとんど商品がないんですよ。それでうちの父親と父親の兄貴が写真撮ってるもんだから、店の半分くらい占拠して写真を飾ってるんですよ(笑)。

子供の頃からずっと遊びに行ってたんで、店がどんどんギャラリーみたいになっていくのを見ていて、それがすごい原体験になってますね。人がほぼ入ってこない店なんですよ(笑)。

Q12.今後の予定は?

吉田 5月末から、骨董と現代美術についての展示『古美術と現代美術の掌』を予定しています。そのあとはcontact Gonzoの展示があります(6月23日(日)より開催予定)。そのあとは東京と、とある都市のグラフィティー系の作家を2人呼んで、都市の比較をする展示をします。作家の表現から都市性について考察するような。路地裏から全体を見渡すという、僕らが気になるテーマを展開しつつ、1周年を迎えられたらと思っています。

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高田光 / Hikaru Takata
10年以上ストリートカルチャー、グラフィティのシーンと関わり、その経験から国内外に多くのコネクションを持つ。
作家としては2018年市原湖畔美術館「そとのあそび展」への参加。それ以外ではパフォーマンスグループ、コンタクトゴンゾの作品への参加や各方面で活動している。

吉田尚弘 / Naohiro Yoshida
1988年生まれ。現代美術を中心とし、作家と制作、隔てなく活動している。
作家としては2018年越後妻有アートトリエンナーレにはパインツリー・クラブのメンバーとして作品を出品。元ダムタイプ川口隆夫のダンス公演「ザシックダンサー」では映像演出を担当。制作では主に川俣正、柳幸典、他各所で活動をしている。

INFORMATION
店名:FL田SH
住所:〒150-0001 渋谷区神宮前3-38-11原宿ロイヤルビル302
URL:https://www.instagram.com/flesh.tyo/

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