Say hi to the herbs🌿あのまちに住むハーブ #01 狛江編

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たとえばスクランブル交差点で知らない人たちの波の中を歩いていても、ただただ無心でその場を通行するだけ。けれどもし知っている人が前を通り過ぎたなら、たちまち顔がほころんで挨拶できる、「Hi !」👋

植物との関係性も似ているところがある。まちのなか、わたしたちは無意識のうちに街路樹や道の脇に生えている草木の前を、通りすぎる。小さな種が芽を出している、なんてことにも気がつかない。ではその植物のことを知っていたなら?どうだろう。

名前を知り、どんな存在なのかを知ると、対象が「ある」存在から、「いる」存在になるのではないだろうか。まちの植物を知ることは、まちに知り合いが増えるようなものなのだ。そんな、植物と友達になって歩く感覚を体現している人がいる。〈HERBSTAND〉の平野優太さん(以下、平野さん)だ。ハーブの定義を「食べられたり、染められたり、人にとって有用な植物」とする彼と共にまちを歩くと、あれもこれもハーブだ!ということに気がつく。気にも留めていなかった通り道が、行く先々で声をかけたくなる植物と出会う通りに変容してしまう。

ということで、本連載では平野さんと「あのまちに住むハーブ(食べられたり、染められたり、人にとって有用な植物)」を見つけに、まちを歩いた記録を綴っていく。第一弾は、狛江編。取材当時、筆者(細川)が住んでいたまちから始めることにした。家から駅まで毎日歩く道に、一体どんなハーブが生息しているのか。

Text+Edit:Sara Hosokawa
Illustration:Kanan Niisato

東京・多摩地域東部に位置する狛江には、何年もこのまちを見守ってきたのだろうと思うような大木が何本も植わっている駅の薮や、ガーデニングに凝っているセンスのいいお家、果物や野菜がわんさかと生(な)っている畑などがあり、植物がたくさん住んでいる。筆者は駅から徒歩10分ほどの場所に住んでおり、毎日通る道に生える植物たちを眺めては、その日々変わりゆく姿に感嘆していた。それはまるで、友人に挨拶し、成長を見届けているよう。しかし、かれらがなんて名前なのか、どんな香りがして、どんな味がするのか、そもそも食べられるものなのか、はたまた毒を持っているものなのか、まったく知る由もないままに日々通り過ぎていた。

あるとき友人に誘われ、山梨県の富士吉田でハーブの栽培や加工をしている平野さんの元を訪れた。〈HERBSTAND〉のガーデンを歩きながら、生えている植物を見つけてはちぎって嗅いで、食べてみる。「あ〜、やっぱりいい香りだ。これはヨーロッパゴールドというハーブで…」などと説明してくれる平野さん。植物を見つけると目を光らせて近づいていき、それが何の「ハーブ」なのか、視覚・味覚・嗅覚を使って特定していく。それまで、そこら辺に生えている植物を嗅いだり食べたりなんてしたことがなかった筆者にとって、まるで植物と対話しているようなその姿には衝撃的で、しかも見た目から抱くイメージと、香り・味から浮かび上がるイメージがまったく違うことが大半で、とても面白い体験だった(*1)。

東京に戻り、いつも生活してるまちの植物を無名の「植物」としてしか認識していないことを以前よりも強く実感した筆者は、平野さんに取材を申し込み、色々なまちで「ハーブ」を発見するフィールドワークを決行。一記事目は、筆者にとって二年間の狛江生活の中で気になりながらも、距離のある存在だった「ハーブ」たちについて。

*1 身近な植物でも、例えばアジサイのように毒があるものも。知識なくむやみに口にすることはやめておいた方が良い(平野さんも今まで幾度となくお腹を壊しているとか)。また、公園や道に生える植物を許可なく採取することは法律や条例で禁止されている場合がある。少し摘んでみる、などは常識の範囲内で。

徒歩30秒:ご近所さんの玄関に咲く妖艶なユリ

細川:こちらは仕事で疲れて帰ってきたある日、思わず振り返ってしまったことがあるほど美しい香りを放っていたご近所さんのユリです。

平野:ユリは生薬(漢方薬を構成する原料)としてよく使われますね。僕たちは、7月頃に旬を迎える同じユリ科のカンゾウという植物を自分たちのガーデンで収穫しています。そのオレンジ色の花のつぼみを乾燥したものを『金針菜(きんしんさい)』といって、中華料理ではおひたしや炒め物に使います。中国ではホンカンゾウという種類のつぼみを蒸して乾燥したものを料理に使いますが、日本で僕たちはヤブカンゾウという品種を和製のカンゾウとして提案しています。

細川:同じユリ科ということは、カンゾウはユリと同じような見た目なんですか?

平野:見た目はかなり似ていて、特に花は近しい姿だと思います。カンゾウは下の方から葉を伸ばす一方で、ユリは茎の真ん中あたりから葉を伸ばすんですよ。そうした葉の付け方で見分けたりしますね。

ユリ
「ユリ」という名は、茎に対して花が大きく、風が吹くと「揺る(ゆる)」ことに因んでいると言われている。また漢字の「百合」は、鱗茎が何重にも重なっていることが由来とされている。非常に種類が多く、咲き方、色、香りと多様。ユリのなかでも真白な花を咲かせるマドンナリリーは、聖母マリアの花として有名で、清らかさや純粋さを象徴するとされている。

出典:“ユリ(百合)とは?特徴、種類、花言葉、季節、香り、由来や歴史まで”. LOVEGREEN.

カンゾウ
漢字で「萱草」と書く。3世紀の中国・三国時代の魏の国の嵆康(けいこう)が書いた『養生論』に「合歓(ネムノキ)は怒りを除き、萱草は憂いを忘れさせる」という記述があったため、日本では「萱草」は「ワスレグサ(忘れ草)」という訓で読まれるようになった。カンゾウは大伴家持の和歌や芥川龍之介の俳句など、恋心を歌った切なげな歌にたびたび登場している。

出典:“カンゾウ”. 暦生活.

徒歩1分:車道沿いのマリーゴールドとキク

細川:車道沿いにわさわさとオレンジ色の花が生えていますね。

平野:マリーゴールドですね。お花はエディブルフラワーなので、食べられます。葉は強い香りを持っていて、例えばレモンマリーゴールドはレモン、メキシカンマリーゴールドはタラゴンに似た甘い香りがします。そのまま食べたり蒸留してお酒したり、お茶にしたりして使えますね。あと、マリーゴールドは独特の香りを放つので害虫予防にもなるんですよ。なので、畑のコンパニオンプランツ(育てたい野菜や花のそばに植えることで病害虫を抑えたり生長を助けるなど、よい影響をもたらす植物)として、虫が寄りやすいものと一緒に植えることで防虫対策としてもよく使われます。

細川:マリーゴールドの後ろに生えているギザギザした葉の植物はなんでしょう?

平野:キク科の一種ですね。キクというと食用のものや、お仏壇のお花飾りに使うものを連想すると思いますが、実はキク科の植物にも種類がたくさんある。有名なものだと、ハーブティーでよく使われるカモミールや、鍋の中に入れる春菊など。それらは葉が美味しく食べられることで知られていますが、キク科の植物はお花も大体食べられるんです。

マリーゴールド
聖母マリアの祝日に見頃を迎えることから「聖母マリアの黄金の花」と呼ばれ、いつしかマリーゴールドと呼ばれるようになったという。メキシコでは、死後の世界から死者を祭壇まで呼んでくれる花とされ、「死者の日」に欠かせない存在として愛されている。

出典:
1)“マリーゴールドの花言葉|色別や誕生花、名前の由来”. AND PLANTS.
2)“マリーゴールドの意味とは…?知られざる「死者の日」の歴史と習慣”. VIVA! MEXICO.

キク科
キク科は植物の中でも最も繁栄している科の一つ。世界ではおよそ23,000種もあり、日本には約250種が生息している。レタスやゴボウなど身近な野菜もキク科の仲間。そのほか、タンポポ、ガーベラ、ヨモギ、ヒマワリ、フキなどもキク科に属する。

出典:
1)“【施設紹介】ゴボウ、レタス、ヨモギ・・・みんなキクの仲間”. 広島大学.
2)“キク科の植物図鑑”. 岐阜聖徳学園大学.

徒歩2分:道の中州的スポットに植わるなにかの柑橘

平野:あ、それは柑橘ですね。柑橘のお花はネロリとして調香や蒸留でも使います。葉も、柑橘類は実と同じようなすごくいい香りがするので、バイマックルー(コブミカンの葉)なんかは酸味づけと爽やかな香りづけをするためにタイ料理などでよく使われますね。インドネシアでは伝統的な民間食としてナマズの料理が親しまれているのですが、調理の際にいろんな柑橘の葉を詰め込んで臭み消しに使うそうです。枝も葉も実も花も、全部使えるのが柑橘の良さだと僕は思います。枝は一般的にはまだあまり流通していませんが、前にユズの枝を煮出したらすごくいい味になったので、お茶とか、もしかしたらコンソメみたいに出汁としても使えるかもしれませんね。

細川:これは柑橘だ、というのは、葉の形で判断しているんですか?

平野:柑橘を葉の形で見分けることは非常に難しくて、実がついてたらやっぱりそこで判断します。ただ、葉はその実の香りを含んでいて、ユズならユズ、レモンならレモンの香りがするので、香りが嗅げる場合は嗅覚で判断できますね。

細川:なるほど。柑橘類だということ自体は見た目で分かるんですか?

平野:葉のツヤ感や生え方、お花の感じから、柑橘だと分かりますね。でも、柑橘という括りで言うと、例えば山椒もミカン科なんですね。同じミカン科でも見た目が全然違うものもあるので、「柑橘だからこの見た目」と断定することはできません。

細川:山椒がミカン科ってイメージはあんまりなかったですね。

平野:そうですよね。でも山椒も柑橘の一種なので、つく虫が一緒なんです。柑橘ってアゲハ蝶の幼虫がつくことで有名だと思いますが、山椒にも同じようについてますね。

柑橘類
柑橘類とは、ミカン科のミカン属・キンカン属・カラタチ属に属する植物の総称。柑橘の「柑」は「みかん」という意味で、「橘(たちばな)」は古くから観賞用として栽培されていたミカン科の植物を表す。

出典:“柑橘類(かんきつるい)というのは、なぜそう呼(よ)ばれるのですか。また、柑橘類の色はなぜ黄色いのですか。”. 農林水産省.

徒歩3分:アパート裏のソルトブッシュ

細川:ここのアパートは、共用部や中庭にものすごい量の植物が植わっているんです。

平野:面白い場所ですね。あ、それはソルトブッシュです。通常、植物は塩水を吸うと枯れてしまいますが、海沿いの植物は塩に強いんです。なのでソルトブッシュは海沿いや、塩がある場所で育てると葉に塩味を持ち、オーストラリアでは羊にソルトブッシュを食べさせたソルトブッシュラムというお肉があります。青のりの様な爽やかな香りと塩味があるので、乾燥させてハーブソルトのようにお肉やお魚に併せて使うことができます。

細川:確かにソルトブッシュって訳すと「塩の低木」ですね。海沿いの植物がなぜここに?

平野:人為的に植えたんでしょうね。そういう植物が軒先などに普通にあるのは東京の面白いところですよね。

ソルトブッシュ
葉に塩分を保持するユニークな特徴を持つ、オーストラリア内陸部に生息する植物。オーストラリアでは、1970年代に大干ばつによる土壌塩化を改善するため、塩分を吸収し土壌をよい状態に保つ効果のあるソルトブッシュが植えられ、その後、その効果により家畜の群れが育つようになったという。

出典:“ソルトブッシュ ピノ・グリージョ”. GRN株式会社.

徒歩4分:団地のナスタチウム

平野:その茶色いプランターにオレンジ色の花を咲かせてるのはナスタチウムです。ナスタチウムはとても美味しいですよ。花も葉も全部食べられるんですが、辛みがあるんです。それを生かして料理に使われることも多く、いろんなレストランで使われているので、お皿の上でも見つけられると思います。

細川:確かに、〈THREE RIVIVE KITCHEN〉(現在は閉店)に行ったとき、井口シェフの料理に乗っていた記憶があります。

平野:そう、本当にハスみたいな葉ですよね。可愛いので彩りで使うこともあるんですが、食べるとからしのような辛みがあるので、クレソンを使うような感覚でアクセントとして使えるんです。例えばサンドイッチやホットサンドにマスタード的な存在で入れるときもありますね。

ナスタチウム
「Nasturtium」はラテン語の「nasus(鼻)」と「tortus(ねじる)」を語源とし、花に辛味があることから名付けられた。ハスのような丸い葉をつけ、金色の花をつけることから、日本では「金蓮花(きんれんか)」とも呼ばれる。

出典:
1)“ナスタチウム(キンレンカ)の基本情報”. NHK出版 みんなの趣味の園芸.
2)“花ことば辞典”. 秋草学園短期大学.

徒歩6分:生垣にひっそり生えるラベンダー

細川:ラベンダーって全体からいい香りがしますよね。

平野:お花はもちろん、葉と枝の部分もすごくいい香りがします。僕たちは毎年、ラベンダーの茎の部分だけを使った「ラベンダー茎茶」っていうのを作るんですよ。お花も素敵な香りなんですが、芳香剤っぽい香りが苦手な方もいるので、ちょうどいいラベンダー感の香りをお茶にするには茎を使うとバランスがいいんです。

ラベンダー
鮮やかな紫色と心地よい香りが魅力のハーブ。「lavender」という名の由来には諸説ある。1つはラテン語の「lavo」や「lavare」=「洗う」を意味し、虫よけや緊張を緩和する効果を認めてか、古代ローマ人がラベンダーを入れた水で洗濯したり、入浴の際にお湯に入れたりして使っていたことに由来するという説。またもう1つは、ラテン語の「livere」=「青みを帯びた、青みがかった」が語源で、シンプルに「花色」に由来するという説がある。

出典:
1)“ラベンダーの基本情報”. NHK出版 みんなの趣味の園芸.
2)“【初夏の花】ラベンダーの花言葉や花名の由来、英語名を紹介します”. GARDEN STORY.

徒歩8分:みずほ銀行前のハクモクレンとえきまえ公園のコブシ

細川:みずほ銀行の前に植わっている樹には「ハクモクレン」と名札が下がっていて、3月に白いしっとりとした花を咲かせていました。えきまえ公園にある樹にも似たつぼみがついていたんですが、こちらには赤い、少し奇妙な形の実がついています。

平野:赤い実がついているのはコブシです。人の拳みたいな形なので、コブシ。モクレンは似ていますが、実をつけません。コブシの実はそのまま食べたりはしませんが、お酒につけたり、果実酒にしたりはしますね。

細川:前に富士吉田の〈HERBSTAND〉の農園にお邪魔したとき、モクレンの葉がいい香りだったのを覚えています。

平野:モクレンもコブシも、葉と枝の両方からすごくいい柑橘系の香りがしますよ。つぼみは生姜みたいな香りでスパイシー感があります。葉はお茶にできますが、枝には毒があります。だから昔の人は、枝は直接摂取せず、燃すことで天然のお香として使っていました。あと、仲間でマグノリアという植物もあります。葉を発酵してお茶にするととても美味しい。〈noma〉もInstagramで「Fermented Magnoria Leaf(発酵したマグノリアの葉)」をつくって投稿していました。

ハクモクレン
冬は寒さからつぼみを守るため、ふわふわとした柔らかい銀色の毛に包まれているが、3月〜4月に枝先に白い美しい大輪の花を咲かせる。「モクレン」というと紫色のモクレンをさすのが一般的だが、白色と紫色の両者を呼び分ける際は、それぞれハクモクレン、シモクレン(紫木蓮)と表現する。コブシとの見分け方は、コブシにはゴツゴツした実がつくがハクモクレンにはつかないこと、花弁の枚数が異なること(コブシは6枚、ハクモクレンは9枚)などがある。

出典:“ハクモクレン(白木蓮)の花言葉|種類、花の特徴、モクレンとコブシとの違い”. LOVEGREEN.

コブシ
日本各地の野山を白い花で彩るコブシは、サクラとともに春の訪れを告げる花木。ヤマザクラと同じく、コブシもタネまきや田植えの時期を知らせる花として、古くから農耕と密接な関係があった。果実はゴツゴツとしているため、「握りこぶし」に見立て、名がつけられた。

出典:
1)“コブシの基本情報”. NHK出版 みんなの趣味の園芸.
2)“コブシ(辛夷)(モクレン科モクレン属)”. 野田市.

徒歩10分:駅前のヤマボウシ

平野:ヤマボウシはワンピースの悪魔の実の小さい版みたいな実をつけるんですが、赤くなると食べ頃で、割ると中に美味しい果肉が入っているんです。トロピカルな香りがして、味はマンゴーとバナナを足して2で割ったような感じです。

細川:それってフルーツとして売ってたりはしないんですか。

平野)日本の里山系の果実は、道の駅などでは見かけることもありますが、スーパーなどで一般的に流通しているわけではありません。なので、昔からお酒につけたり、美味しさを知っている人は使っているという感じです。最近は飲食業界の人たちに注目されはじめている気がしますね。

ヤマボウシ
名の由来は、白い花が比叡山延暦寺の僧兵・山法師(やまぼうし)と似ていたことから。真ん中の緑色の球状の花を僧兵の坊主頭に、花びらのように見える白い4枚の総苞片(そうほうへん)を白色の頭巾に見立て、この名がついた。緑色の球状の花は秋になると赤く膨らみ、実となる。

出典:
1)“ヤマボウシ(山法師)”. 北海道 建設部まちづくり局都市環境課.
2)“ヤマボウシ”. 六甲山系植生電子図鑑.

PROFILE

平野優太/〈HERBSTAND〉代表
1992年生まれ、横浜出身。幼少期からスケートボードやサブカルチャーに魅了され、10代の頃にアパレルブランドを主宰。その後、かねてより興味のあった植物を学びにニュージーランドへ。有機農家を中心に訪畑し農業やハーブについて学ぶ。帰国後、山梨県の富士北麓に拠点を移し、ハーブの生産事業を主軸に商品開発、ハーブティーのブレンド考案、ハーブガーデンの監修などさまざまな活動を行う〈HERBSTAND〉の代表を務める。

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