ローカルメディアが過去最大級に集う。企画展「地域の編集」レポート

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オープニングトークイベント「全国各地に広がるローカルメディア」

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10月5日(土)に行われたオープニングトークイベントでは、ローカルメディア関係者含め、100人ほどが集まった。登壇者は、影山裕樹氏(編集者/千十一編集室)、幅允孝氏(BACH、 ブックディレクター)、田中佑典氏(LIP/生活藝人)、尾原史和氏(ブートレグ)。ローカルメディアと関わりが深い方々が各々のスタンスを語った。まずはローカルメディアに関する書籍を刊行し、本展の企画に携わる影山裕樹氏から。

様々な地域で感じたローカルメディアの可能性

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「出版社から独立した後、僕は各地の芸術祭やアートプロジェクトに関わる仕事をしていました。長期間のプロジェクトに関わることで、ひとつの地域に対して、観光客の目線ではなく地元の人の目線になることができた」

そう語る影山氏は、アートプロジェクトの仕事で出向いた様々な地域で、ローカルメディアと出会うことになる。

「訪れた地域でローカルメディアに触れていくと、東京の雑誌に載らない事例がたくさんあることを知ったんです。マスメディアをはじめとした東京の編集部では、全国のおもしろいモノやコトを伝えられない、という構造的な欠陥に気付きました。それまでローカルの雑誌は、東京の雑誌の劣化版だと思っている人が多かった。しかし、取材をしていくうちに劣化版どころか東京のメディアよりも先を行っているものばかりだということに気づいたんです」

出版社の多くは都内に会社を持つ。それ以外の可能性がローカルにあったのだ。そこから実際のローカルメディアの作り手である幅允孝氏が話を続けた。

流通を絞り、城崎でしか買えない「書籍」を展開

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「最初のキャリアは書店でしたが、アマゾンの国内進出もあって売上が減っていたので、選書の仕事を始めました。そこから知らない本を手に取るように、地域と本の結びつきを考えるようになったんです。城崎温泉にある「本と温泉」というNPOは、旅館の若旦那を中心に運営されていて、自分はディレクターとして関わるようになりました。」

城崎は兵庫県の北部にあり、決して交通の便がよいとは言えない地域。しかし文学者が多く逗留してきた歴史を街の人も誇らしく思っており、2012年には「志賀直哉来湯百周年」を記念する催事もあった。交通的には不便な反面、住民は古くからシビックプライドを感じていたエリアだといえそうだ。幅氏はそんなエリアで何を行ったのだろう。

「文豪にまつわるエピソードやブランドはこの土地の魅力ですが、果たして2010年代を生きている人に響くのかと考え、現代風にアップデートするべきだという話になりました。そこで、現在活躍している作家に逗留してもらって、城崎が舞台になる作品を書いてもらおうと思ったのです」

そこでオファーしたのが、まず、京都を舞台にした『鴨川ホルモー』を執筆した万城目学さんだ。

「せっかく万城目さんに城崎に滞在しながら書いてもらうので、東京の出版社ではなく、出版NPOを立ち上げました。作品をリリースする際の、流通を考えたんです。たくさん本を売るよりも、城崎に来てもらうことを大事にしたい。なので、ネット通販をやめて、現地でしか買えないようにしたんです」

その後、幅氏は売上も公開。城崎でしか買えない「書籍」にも関わらず、かなりの売上となっており、会場からは驚きの声が上がる。ローカルメディアの成功事例といえるプロジェクトとなった。

続いて、国内外のローカルメディアの制作と各地に住むことを専門とする田中佑典氏にマイクが渡る。

台日カルチャーマガジンから、「微住」へ

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「台湾と日本を行き来していて、各地に短期間住むことを『微住』と名付けて活動をしています。台湾も地方創生に力を入れる時代ということもあり、台湾と日本をつなぐローカルマガジンを年一回発行しながら、自分のことを『生活藝人』と名乗って、自分の生活を公開して楽しんでもらう活動をしています。」

そんな田中氏の活動の原点は、10年前に台湾に出かけたことに遡る。

「たまたま足を運んだ台湾は、不思議な安心感を得られる場所でした。そこで、台日系カルチャーを発信していこうと思い、ひとりで雑誌を始め、並行してコーディネーターの業務もスタートさせたんです」

次第に田中さんは、自分に縁のある土地と、台湾を中心としたアジアを結びつけることを考え始めたという。

「自分は福井県出身なので、インバウンドとローカルの関係に可能性を感じて。台湾の人は、東京大阪以外の地方に興味があることがわかったんです。福井は台湾人がよく来るのですが、新幹線もないし空港もないという行きづらさ、そういった弱点にむしろひきがあった。福井は生活資源が豊富なのですが、そんな生活資源を楽しむためには、短期の観光ではなく、中期的にその場所に暮らす必要があります。そこから移住未満のちょっとだけ住む体験として「微住」というテーマが思いついた。それから自身も「微住」をして、台湾のお茶の農家で働いたり、台南のステーキ屋さんで働いたり。「微住」した地域は、自分にとってゆるいふるさとのような場所なんです。」

人が住む場所にローカルがあり、日本以外にもローカルが偏在するということを、希少な体験談とともに語ってくれた。

最後のスピーカーは、『TRANSIT』『ケトル』や『R25』に立ち上げから関わる、本展のアートディレクションを担当した尾原史和氏。

流通や構造もデザインすることで豊かなメディアに

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「写真家の奥山由之さんが学生だった頃に写真集『Girl』を2013年に出版しました。今は人気の写真家だけれど、当時は800部を2〜3年かけて売って、今は\\わざと増刷を止めていた。最近再販して2000部があっという間にはけたんです。人の成長に応じて売れるものが変わる。一方ローカルメディアは、雑貨として売る場合が多い。土産物のようなイメージです。構造を考えるとデザインも変わり、仕組みが動き出す。表面上のデザインだけでなく、流通などのデザインも含めて行うことが重要なんです。今回の展示は、そういったことを意識してセグメント分けして展示しました」

この展示によって、ローカルメディアが多角的に捉えられ、今までの可能性が再検証された。今後、本展からリファレンスを得たローカルメディアが出てくるはずだろう。今までにないような読者との対話が生まれる紙媒体の創出にも期待が湧く展示であった。もちろん単純に雑誌が好きな方が楽しめる展示なので、新しい情報に触れるために気軽に足を運んでもらいたい。

ちなみに会期中はワークショップ「YOKOHAMA MEME by ニュースパーク」や、各種イベントも開催。
詳細は特設サイトをチェックしてほしい。

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INFORMATION
企画展「地域の編集――ローカルメディアのコミュニケーションデザイン」
会期:2019年10月5日(土)~12月22日(日)
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(祝日・振替休日の場合は次の平日)
会場:日本新聞博物館 2階 企画展示室
企画協力:影山裕樹氏(千十一編集室)/アートディレクション 尾原史和氏(ブートレグ)
特設サイト:https://chiiki-henshu.com/
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