M.E.A.R.Lが提唱する、個の戦術からひもとくまちづくり

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MAD Cityは合法的なスクワット?

武田 町自体を作っていくために会社を立ち上げたわけですが、その最初の場所として松戸を選んだのはなぜですか?

寺井 いろんな場所に視察に行ったんだけど、言葉を選ばずに言うと、どこもさして差はないなと。日本は国土も狭いからどこでも人が住んでるし、歴史的伝統もあるし、ハードも余ってる。そうなったときに、けっきょく重要なのは、そこにいる人たちの「変えたい!」っていうモチベーション。

視察に行ったときに、「このままじゃマズイ!」っていう感覚を地元の方々から受けて、松戸に決めたんです。

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武田 故郷以外の場所を最初に選ぶというのは珍しいと思うのですが、まちづくりのやり方自体も非常にユニークだと感じます。「MAD City」は“クリエイティブな自治区をつくろう”と掲げ、実際に次々とクリエイティブ層を誘致していますが、その発想はどこから生まれたんですか?

寺井 1つはベルリンなどの都市で空き家に不法入居する、いわゆるスクワッターの話をよく聞くようになったこと。一般的に彼らは悪い存在として捉えられがちだと思うんだけど、一方でDIY精神で新しい都市文化をつくっているとも言えます。

たとえば、有名な自治区にデンマークのクリスチャニアという町があるんですが、そこはルールが9つしか無くて、例えば車が走れないんだけど、外界とは法律が違うからとても自由だし、以前はマリファナだって当たり前のように吸えた(笑)。こういうある種の自由さのある場所が日本には圧倒的に足りないなと。

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もう1つは、生々しい話だけど商店街などの現場で補助金の仕組みを勉強したこと。あるとき、僕が落書き問題に詳しいということで、勉強会に招かれて、商店街関係のキーパーソンとお会いして。

その後、商店街の活性化にまつわる補助の存在や活用事例を学ばせていただいた。もしかしたらこれは、空き店舗や空き家を使った合法的なスクワット的な取り組みができるかもしれないと思い立ちました。

武田 スクワットに見られる自治の思想と、お金の面も含めたまちづくりの仕組みや制度のナレッジが組み合わさり、「MAD City」は走り出したんですね。小田さんは、スタートから「MAD City」に携わっていたんですか?

小田 そうだね。僕も自分がデザイナーとして何をすべきかみたいなことを考えていた時期で、ちょうど「町」っていう存在が面白いなと思っていたから。「MAD City」のロゴを作ってみたり、WEB上に仮想の「MAD City」を作ってみたりと、クリエイティブ面でいろいろ試行錯誤したのを覚えてます。

戦略家でも職人でもなく、戦術家に会いに行く

武田 いよいよ本題なんですが、この記事がアップされているM.E.A.R.Lは「MAD City Edit And Research Lab」の略称です。改めてお二人から、なぜメディアを立ち上げたのか、どんなミッションを持っているか聞かせてもらえますか?

小田 最近思っているのは、「MAD City」でやってきたのは、戦術家を集めることだったんじゃないかなってことですね。一般的な戦術と戦略の関係で言うと、戦略の中にいくつもの戦術があって、全体を兼ねるという意味で戦略の方が重要視されていると思うんですよ。戦略論みたいな言葉は、テレビや書店でもよく見かけるしね。

でも、僕は今の多様化された人間の思想や行動様式には、戦略論のような総体的なものでは対処しきれないと思っていて。だから、これからの時代に必要なのは、未知の問題と遭遇したときに対応できるスキルを持った戦術家だと思う。

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寺井 なるほどね。そういう意味で言うと、僕らがやってきた「MAD City」っていうプロジェクト自体が、体当たりでやってきた戦術の積み重ねだとも言えると思う。

武田 寺井さんと小田さんは、毎度フィールドワークとなると古地図を眺めて対象エリアを踏破してますもんね(笑)。

小田 今、まちづくりと言うと、すぐ戦略論に結びつけられがちなんだけど、大雑把に括ろうとするとうまくいかないと思う。「MAD City」が少しでも注目してもらえているとしたら、それは自分たちが戦術家として町をつぶさにリサーチしたから。その上で、本当の戦術家であるクリエイターの人たちに好かれるような取り組みをやってこれているからじゃないかな。

寺井 戦略は全体を含めた横軸を指すと思うけど、戦術は縦軸のことだから、バーティカルリサーチメディアという言葉にも繋がる。

武田 その解釈はすごくしっくりきます。だとすると、M.E.A.R.Lでやっていこうとしていることというのは…。

小田 ずばりいろんなジャンルの戦術家に会いに行くことですね。戦略家でも職人でもなく、独自の思考や文法で世界をサバイバルしている個人に会って、これからの町と人の関係を探っていきたいと思ってます。トライ&エラーの集合体として、M.E.A.R.Lがある。

寺井 戦略家から来るトップダウンのやり方じゃなくて、戦術家が実際に自分の体験を通して会得した感覚でもって、ボトムアップで一緒に町を変えていくことがM.E.A.R.Lを運営する僕らの使命なのかもしれないね。

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