店主とお客さんが同じ目線で一緒に町を変えていく
お互いの紹介を終えて、いよいよ対談の時間。久しぶりに松戸を訪れたという小川さんの「松戸と野方は街の作りが真逆ですね」という発言から、2人の話はスタート。
いくつもの小さな商店街から成る野方は、有名な焼きとん屋「秋元屋」を始め、大小様々な個人店がひしめき合っている町。一方で、松戸は降り立ってみるとわかるように、お馴染みのチェーン店が多く目につく。
もちろん個人店とチェーン店には互いに良し悪しがあるし、それは人によっても異なるだろう。だが、寺井も地元のお客さんも「松戸には、もう少し個人店が増えてほしい」と口を揃える。
FROM YOUthの取材をしていても、個人店の存在が地域コミュニティの活性化に重要な役割を担っているのは肌で感じるところだ。
ただ、個人店の中にもグラデーションは存在する。どういったお店が、その町にとって望ましいのか。小川さんは「儲けを優先することは悪いことじゃないですが」と前置きした上で、「良いお店には、その人の人間性が表れている」と発言。
それを受け、グラフィティライターの活動支援などを行っていた経験もある寺井が、「良いアート作品は、その人の人間性と深く密接している。個人店も同じかもしれない」と頷く。
多くの人にとって、1からお店を始めることにはリスクがつきまとう。そのため、どうしてもマーケティング優先の店作りになってしまうのは仕方ない側面があるが、2人はそういった計算を越えたところに、お客さんとお店の関係性が育まれるのではないか、と見解を一致させる。
さらに、小川さんは「その町に住んでいる人が、その町でお店を始めるのが最も理想的ではないか?」と付け足す。
というのも、地元である野方にお店を構えている小川さん自身、店に来たお客さんと、悪いところも含め町について話す機会が少なくないというのだ。
生まれ育った町や現在住んでいる町に店を構えることで、お客さんと同じ目線で町と関わっていくことができる。この視点は、個人店とまちづくりの関係性を考える上で非常に重要ではないだろうか。
小さな個人店の連鎖が大きく町を変える
イベント終盤には、質問タイムが設けられた。マイクリレー形式でほぼ全員が質問を重ねていく中で、ずばり「お店を使って町をどのように変えていきたいですか?」との質問が投げかけられる。
小川さんは、町を変えようというモチベーションではなく、あくまで自分のお店を一生懸命やるだけとしながらも、「Daily Coffee Standに影響を受けた人が、同じように個人店を始めていく。そういった連鎖が生まれれば、1つのお店では小さい力でも、数が増えていくことで町が変わっていくのではないか?」と語り、栃木県黒磯に店を構える「1988 CAFE SHOZO」を例に出す。
若い店舗経営者の多くが影響を受けたお店として名前を挙げる同店は、1988年に当時まだ20代だった菊地省三さんが、アパートの2階を改装してオープンしたカフェ。周辺には、元スタッフが独立して立ち上げたお店が軒を連ね、まさに個人店が連鎖を起こすことで町の形を変えたのが「1988 CAFE SHOZO」なのだ。
イベント最後の話題は、会場となっている「旧・浮ヶ谷邸(仮)」のこれから。
今後再生が予定されているこの場所について、「小川さんだったら、どんな空間にしますか?」と寺井が水を向けると、「開放的な場所なので、単純にビールが飲みたいですね」と笑いながらも、「やっぱり、松戸に住んでいる人がこの場所でお店をやるのが良いと思います」と回答。コーヒースタンド店主の立場から、「近所の人がフラッと寄れる場所にしたら、すごく可能性が広がる」とも。
世間で言われる「まちづくり」という言葉には、なんだか仰々しいイメージがまとわりつく。しかし、今回のイベントを通じ、他でもない1人1人の「個」が互いに影響を与え合うことで、町は本当の意味で変わっていくのかもしれないと改めて痛感した。今後もM.E.A.R.Lでは、それぞれの町で戦う戦術家に話を聞きに行き、これからの町について一緒に考えていければと決意を新たにしたイベントだった。
小川優 / Yu Ogawa
1986年、東京都中野区生まれ。大学卒業後、都内の広告代理店に入社。その後、高円寺のカフェ「here we are marble!」で働いた後、岡山・宇野で姉夫婦が立ち上げたショップ「bollard」にて、コーヒー業務を担当。2016年6月、地元である東京・野方に「Daily Coffee Stand」をオープン。
トークイベントが行われた「旧・浮ヶ谷邸(仮)」は、今年の秋より入居可能予定。興味のある方は以下のリンクより詳細を確認し、お問い合わせ下さい。
https://madcity.jp/gonzo_kitchen/