目を引くブースがひしめき合う韓国のブックフェア「Unlimited Edition 11」巡回レポート

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2019年で11回目を迎えた「Unlimited Edition」。韓国の独立系出版(※リトルプレス)の今を体感できるブックフェアで、韓国のリトルプレスと言えば真っ先に名前が挙がるソウルの書店「YOUR-MIND」が主催し、ここ数年はソウル北東部・蘆原(ノウォン)区にあるソウル市立北ソウル美術館で開催されている。2019年11月15日(金)〜11月17日(日)に開催された同フェアのレポートをお届けしよう。

Text:kagikko
Photo:kagikko
Edit:Kentaro Takaoka、Shun Takeda

昨年、筆者は「Unlimited Edition 10」にソウルのデザイナー정해리(チョン・ヘリ/SUPERSALADSTUFF)氏、日本のアーティスト・シシヤマザキ氏と一緒にチームを組んで出店した。その時の全体的な感想は「とにかく全員前のめり」。

出店者側はもちろん、全体的にお客さんもじっくり時間をかけて各ブースを巡回し、内容に関してかなり突っ込んだ質問をしてくる印象が強かった。当時の筆者は、韓国語の勉強を始めて1年足らず。押し寄せる初対面の韓国人に拙い言葉で必死に説明し続け、2日目の夜には声が完全にガラガラになっていた。

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今年のブース数も昨年と変わらず220だが、場の雰囲気がいくらか落ち着いたように感じた。純粋に客として訪れた気楽さによる部分も大きいだろうが、開催日が2日間から3日間に伸びて来場者の波が分散したのもあってか、思いのほか見て回りやすいイベントになっていたと思う。

「Unlimited Edition 11 – SEOUL ART BOOK FAIR 2019」
開催場所:서울시립북서울미술관(ソウル市立北ソウル美術館)/Buk Seoul Museum of Art (SeMA)
開催日時:2019年11月15日(金)〜11月17日(日)
http://unlimited-edition.org/ue11

 

郊外の美術館にアートブックが集う

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蘆原(ノウォン)区は、ソウル中心部からは少し離れた郊外にある。今回宿を取ったのは、韓国屈指の美大・弘益(ホンイク)大学の周辺に広がるカルチャー発信地として有名な弘大(ホンデ)エリアだが、そこから電車を乗り継いで1時間弱かかるくらいの距離と言えば何となく伝わるだろうか。

北ソウル美術館は最寄りの下渓(ハゲ)駅から歩いてすぐの公園敷地内にあり、周囲はマンションや商業施設のビルが立ち並ぶ住宅地だ。この時期は、駅を出るなり銀杏の香りが漂っていた。訪れたのは2日目の11月17日(土)で、朝の開場直後から多数の来場客がブース巡りをしていた。昨年もそうだったが、若い女性率が高い。

メインビジュアルが記載されたフライヤー。今年のテーマカラーはかなり渋い(昨年は鮮やかな青)
メインビジュアルが記載されたフライヤー。今年のテーマカラーはかなり渋い(昨年は鮮やかな青)

入り口でもらったブースマップとバッグを手に、まずは友人のブースへ挨拶に向かう。各出店ブースの壁面には、アイキャッチとなるグラフィックや販売物が整然とレイアウトされている。主催の「YOUR-MIND」の趣向もあってか全体的に非常に洗練されており、清潔にまとまっている印象だ。

ちなみに昨年は落ち着いた雰囲気の中で、豪快なステンシルのカレンダーや『ゲゲゲの鬼太郎』のロウブロウな同人コミックを販売する「新都市(シンドシ、乙支路のアート/イベントスペース)」が異彩を放っていたのを憶えている。イラストレーターやアーティストのZINE・グッズ以外に、個人色の強い印刷物を出すデザインスタジオや個人出版社のブースも目立つ。

クラウドファンディングで制作費を調達することも多いようで、韓国のクラウドファンディング・プラットフォーム「tumblbug」のロゴをあちこちで目にする。
では、今年の出店ブースから気になったものをいくつか紹介したい。

ソウルならではの地域性溢れるブースたち

1. SUPERSALADSTUFF

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「本人なのか尋ねられることが多いから」と、「本人」と書かれた名札をつけたヘリ氏
「本人なのか尋ねられることが多いから」と、「本人」と書かれた名札をつけたヘリ氏
『BOOKS IN ANIMATION』の、黄色い英訳冊子がついたエディション
『BOOKS IN ANIMATION』の、黄色い英訳冊子がついたエディション

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정해리(チョン・ヘリ)氏は、音楽事務所「MAGIC STRAWBERRY SOUND」(SE SO NEON、Samuel Seoなど日本で人気のあるアーティストも多数所属)のインハウス・デザイナーだ。パッケージやグッズをはじめとしたデザインを手掛けつつ、個人の出版物も制作し続けている。今回、人気の『BOOKS IN ANIMATION』の英訳冊子つきエディション、キャンドルが燃えていく時間をグラフィカルに表現した『CANDLES』などを販売。『BOOKS IN ANIMATION』は、ヘリ氏が幼少期に観たアニメに登場する本を蒐集する切り口が面白く、東京では代官山蔦屋書店などで取り扱っている。

2. FDSC
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『디자인 FM(DESIGN FM)』(左)、加盟ブースのスタンプカード(右)
『디자인 FM(DESIGN FM)』(左)、加盟ブースのスタンプカード(右)
ゲストのデザイナーに質問をして〇×で答えてもらうコーナーのページ
ゲストのデザイナーに質問をして〇×で答えてもらうコーナーのページ

「FDSC(Feminist Designer Social Club)」はブースを横断した企画を行っており、加盟ブースでスタンプを集めるとステッカーセットがもらえるようだ。昨年、開場前のブース準備時間に黄色い「FDSC」シールをあちこちのブースに貼って回る姿を見かけたのだが、それが女性デザイナーの連帯を表すマークだということを後から知った。筆者は数カ月前、ヘリ氏からFDSCのPodcast『DESIGN FM』を薦められてリスナーになった。韓国のデザイン現場で働く女性の仕事スタンスやリアルな苦悩を掘り下げる番組だが、今回はそのトーク内容をまとめた単行本を販売。

3. ANIMAL PRESS
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色鮮やかな毛糸で編まれたマフラー
色鮮やかな毛糸で編まれたマフラー

ブリュッセルを拠点とする韓国人とフランス人のユニット「Animal Press」は、リソグラフやシルクスクリーン印刷によるグラフィック作品を数多く出版している。特性を最大限に生かしたビビッドなテイストは、会場内でも非常に目を引く。コミック本の中には、リトルプレスも扱う都内の書店「タコシェ」で取り扱っているものもある。今回は新刊のほか、その色彩を織物に応用したマフラーの新作を販売。これから始まる冬に備えて、見た瞬間に購入を決めた。

納豆鍋で昼食休憩


店に入った瞬間からこの納豆鍋の匂いが漂ってくる
店に入った瞬間からこの納豆鍋の匂いが漂ってくる

お腹が減ったので、会場近くの飲食店ビルへと向かう。数日前にTwitterで「UE11会場から徒歩3分以内の美味い店リスト」を見つけており、その中でも気になっていた청국장(チョングッチャン、納豆鍋)のお店「시골청국장(シゴルチョングッチャン)」で食べることにした。一緒に注文した「오징어볶음(オジゴポックム、イカ炒め)」も、付け合わせもすべて美味しい。ただ一つだけ難点があり、午後からはほんのり納豆臭を漂わせながら見て回ることになった。

会場近辺の美味い店リストで言及されていたイカ炒め
会場近辺の美味い店リストで言及されていたイカ炒め
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