アーティストが町を活性化する。「WEMON PROJECTS」の3つの視点|前編

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100年後の池上の町にどうあってもらいたいか

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──2020年度末には、池上駅に新しく駅ビルが建つなど、再開発の計画がなされています。東急がいま考えるまちづくりのあり方、方向性はどういうものなのでしょうか?

荻野 まず、「池上エリアリノベーションプロジェクト」として、「こういう町になってほしい」という強い指針は、なるべく持ちたくないと考えています。

敷浪 それは自分たちで色はつけないということ?

荻野 そういうことですね。

敷浪 だけど、色をつけやすい環境を整えることはやるんですよね?

荻野 もちろんです。このプロジェクトは、街の人たちと一緒に「100年後の池上の未来」を考えるものです。

既にこれまでも今もまちのの人たちが、自分たちの住む街がどうあるべきかを考え、育んでてきたわけです。それをこれからももっと意欲的に続けてもらいたい。その環境作りのサポートを最大限させていただきたいと思ってるんです。

池上本門寺は約700年前からあり続けて、池上はその門前町として街で暮らす人々が文化を醸成してきました。そこに後から現れた来た一企業が「こういう街にしましょう」と具体的に言えば言うほど、街の人たちが自ら描く余白がなくなってしまいます。

だからこそ、先ほど東洋医学的なアプローチと言いましたけど、どちらかというと街の人たちがより動きやすくなるような、わがまち池上を描きやすくなるような環境を醸成したい。そう思います。

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敷浪 スクラップ&ビルドで再開発されると、基本的に建物がデカくなるじゃないですか。そうすると家賃が上がる。そうすると個人店が入れなくなる。結果、全国チェーン店だけになるんです。そういう意味で、色味がなくなるんですよね町に。

東洋医学的に町の人たちのマインドが変われば、こういう小さい箱の状態や、いまあるものをこのままの状態でずっと維持しようという気持ちの方に繋がっていく。それが、ここの正解の路線かなって僕は思います。しかし多くの箱自体が建て替わってしまうと、自分たちがやるフィールドがなくなってしまう。だから駅ビルがどうなるんだろうっていうのはすごく不安(笑)。

荻野 開発にも多様性が必要だと思っています。個人事業主が入れるような箱もあって、中規模の事業者もいて、大規模の開発もあってという多様性は大切です。そういう意味で、個人事業主も入れるように既存のものを活かすというところが、「池上エリアリノベーションプロジェクト」の主な役割です。その担当者としては、「こういう街でありたい」ということを言わずして、一個人であってもチャレンジできる人の顔が見える場を街の中に作ろうと活動しています。

敷浪 許容できるのは、駅ビルくらいまでですけどね。駅前再開発みたいになって、街区が一個変わると周りが全部変わっちゃう。ヒルズ系がわかりやすい例ですね。

荻野 僕は大規模開発を決して悪と捉えていません。先ほど話したとおり、多様性が大切だと考えています。例えば大きい通りがなければ、災害や防災などの側面で問題が発生してくる。どうしてもエリアによって地価の高低は生まれますがが、大通りを一本入ると良いお店があるということが大切なような気がするというか。

まちづくりの目標はひとつじゃなくていい

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──最後に、「池上エリアリノベーションプロジェクト」では、どういった点を評価軸に置いているのでしょう?まちづくりのゴールはどこにあると思いますか?

荻野 このプロジェクトの一区切りにしている3年の間に、池上でチャレンジしてくれる、挑戦してくれる人たちが、街に一人でも多く増えることですね。例えば空き家があって、そこで新しい事業をチャレンジしたい人が増えるというようなこと。そうすると、その人が毎日池上に来ることになるし、その人に会いにいろんな人が来てくれる。そして街の会話量が増える。そういう人数が増えるというのが、街の活性化に寄与してくれるのではないでしょうか。

敷浪 僕個人としては、街の人から頼られる存在になるということですかね。街で何かを動かすときに、必ずここがハブになるというような頼られ方をしたいなって。L PACK.が同じ考えを持っているかはわからないんですけど。

外からこの街に来たいっていう人がいた時に、街の人が「お前らが良いっていうんだったらウチのとこ貸すよ」という風な存在になりたいというイメージですね。それが街に対して色々できることにつながっていくのかなぁって思っています。

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荻野 実は彼らが来てから、町の商店会で青年部が新しく生まれることになりそうなんです。それって結構ありえないことなんですよ。商店会ってどの地域でも参加店が少なくなっているし、青年部なんて全国的にも減っていく動きがある中で、新規で青年部が立ち上がるっていうのは素敵な話題だと思っています。

敷浪 これから自分たちが動いて重鎮に承認してもらうっていう流れを作る段階なので、まだ成立してるわけじゃないんです。でも、「この場所が出来たことが青年部のきっかけなんです」と言われたのがすごい嬉しかったです。

荻野 小田桐さんはどうですか?

小田桐 僕がイメージしてる理想像は、例えばJリーグのようなイメージです。Jリーグって、街とチームが一体となって盛り上がってるじゃないですか。そういうのって、あんまりスポーツ以外ではないんじゃないかなと思っていて。「WEMON PROJECTS」っていう人たちが街にいて、ファンがいて、応援し合って盛り上げていくというようなイメージですかね。

街を盛り上げていくっていうのは、盛り上げていく人と、ついていく人。それは上下とかじゃなく、還元し合ったり、影響し合ったり、という状態になっているのが一番おもしろそうだなと。そうするとなんかサポーターからお節介の人も出てくるだろうし、憧れて、目指してくれる子供達も出てくるかもしれない。そうなってくとすごく良い街だなと思うかな。そんな街は多分ないから。ないからこそなったらおもしろいなって思っています。

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敷浪 このプロジェクトでみんなが思い描いているものは一人ずつ違うのかなと思います。

小田桐 でもそれが良いんですよね。

荻野 ちょっと気持ち悪いですからね、一つの目標に向かってだと。いろんな考えとかビジョンがあってもいいよという環境を設定してるというのが、すごくおもしろいなと思います。

敷浪 僕の考えに共感してくれる人も結局は「WEMON PROJECTS」を応援しているし、荻野さん、小田桐さんの考えに賛同する人も「WEMON PROJECTS」を応援している。それがバイバイ方式でファンが増えていくという。そういう状態を作ろうとしている感じですかね。

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