商店街の空き店舗をめぐる現状に対する関心の高さ
先月公開したこちらの記事「商店街の空き店舗が埋まらないのは何故?起業の拠点になりそうでならない、商店街のまちづくりを考える」は、スマホやECサイトが普及した現代の商店街の役割は何なのか、空き店舗が埋まらない理由の1位はそもそも「所有者に貸す気がない」から、といったことをまとめました。予想以上に反響が大きく、空き店舗をめぐる現状に対する関心の高さを実感しました。
<Facebookでいただいたコメント>
- 「空き店舗を貸さなくてもいいということは、それだけ豊かだから?」
- 「商業区域に不動産を持っていても、何のアクションもしないのでは街の魅力は損なわれてしまう」
- 「長期間放置している空き店舗に対して、何らかのペナルティ課税のようなものはできないのか?」
- 「貸すにしても、できるだけ高く貸したいと欲が出るケースもある」
資産を放置していることが合理的になっている環境を変える
そもそも今回の連載は、「地域再生の失敗学(光文社新書)」で木下斉さん(エリア・イノベーション・アライアンス代表)が指摘している問題提起がきっかけです。それは、空き店舗といった資産を放置していることが合理的になっている環境を変えないといけない、という主張です。
『私は以前から 、日本の商業活性化のためには相続課税と 、休眠中の事業資産への課税を強化すべきだとずっと言い続けています 。つまり 、資産を放置していることが合理的になる環境を変えないと 、結局 「動かないのが得 」になってしまう 。だからシャッター通りのまま商店街を放置しても生活にまったく困らない人たちは 、地方における資産家の象徴ともいえます 。』
地域再生の失敗学(光文社新書)「第1章 経営から見た『正しい地域再生』 木下斉」より
そこで今回は、商店街の空き店舗に新陳代謝を起こすためにできる3つの方策をまとめます。
空き店舗だろうが適用されている不合理な税制優遇措置の見直し
税制が市場に与える影響は大きく、例えば2015年1月に行われた相続税の増税を受けて、節税対策のために賃貸アパートの建築が急増しました(2015年の貸家着工数は前年比4.6%増の37.8万戸)。これは人口減少に加え、2020年からは世帯総数も減少すると推計されているという賃貸経営にとって逆風の中での出来事です。
このように税制が及ぼす影響の大きさを踏まえて、1つ目は空き店舗にも適用されている不合理な優遇税制の見直しを考えました。相続税は「小規模宅地等の特例」、固定資産税や都市計画税は「住宅用地の課税標準の特例」といった税制優遇措置があるわけですが、店舗営業してようが空き店舗だろうが関係なく税制優遇されている現状が問題です。これに対し、この優遇措置は宅地の場合に限られるので、店舗には当てはまらないのではないか?という疑問がわくと思いますが、商店街ってよく見ると、1階が店舗で2階が自宅なんていうケースが多いですよね。こういった同じ土地に住宅と店舗を併せもつ「店舗併用住宅」の場合、相続税の「小規模宅地等の特例」が適用されますし、土地の総床面積の半分以上が住居部分であれば、固定資産税の「住宅用地の課税標準の特例」も適用されるのです。
他にも東京都では中小企業支援を目的として、「小規模非住宅用地に対する固定資産税・都市計画税の減免」なるものを実施しています。つまり店舗といった非住宅用地の面積が400㎡以下である土地については個別に税制優遇が受けられます。こちらも例によって営業している店舗だろうが空き店舗だろうが、関係ありません。
まずは各自治体の税務担当部署などが、空き店舗の実態を把握し、一定期間放置している空き店舗や新しくテナントを入れる意思の無い空き店舗オーナーに対しては、税制優遇措置の対象から除外するといった方策が理にかなっています。
志のある不動産オーナーとリノベーションまちづくり事業者の連携
2つ目は志のある不動産オーナーとまちづくり事業者の連携です。具体的な事例の一つとして、福岡県北九州市小倉の魚町銀天街にある築50年・木造2階建て階建ての空きビルをリノベーションした「メルカート三番街」がわかりやすいです。
約10年間空きビルになっていて、不動産オーナーの当初の考えでは取り壊して新築する予定だったそうですが方針転換します。それは、北九州市主催のまちづくりセミナーでリノベーションという方法を知ったこと、建築家でリノベーションスクールの中心人物である嶋田洋平さんに相談したことなどにより、既存の建物の魅力を活かしながらも新たな価値を生み、収益を図ろうという方向へと舵を切ります。
もっと遡ると、北九州市小倉では2011年2月に「小倉家守構想」が、その後のリノベーションまちづくりへとつながる大きなきっかけとなっています。リノベーションスクール@北九州の開催や民間自立型のまちづくり会社である株式会社北九州家守舎の立ち上げにより、リノベーションスクールで上がってきた案件を、志のある不動産オーナーと家守舎が連携して事業化していくという潮流をつくりだしました。メルカート三番街のリノベーションは、不動産オーナーの梯輝元さんと、嶋田洋平さん、そしてそのお父さんでビルの管理やリーシングをなさっている嶋田秀範さん、の3人が中心になって動いていきました。
改修工事前に入居候補者を決めてしまうこと、賃料も事前に入居候補者に支払える金額を聞いておくこと、改修工事の投資回収は4年と短期に設定したことなど、新築で立て替えるケースとは全く違ったアプローチを採用しました。家賃収入を見越した上で投資回収期間を4年と区切ってしまうので、予算の上限を予めきっちり決めていることがポイントだと思います。そのため、決められた予算内でいかに費用対効果を考えてリノベーションするか、というまちづくり事業者の手腕が試されるやり方とも言えます。
嶋田さんの考え方はこうでした。まず、入居者の払える賃料から合計の家賃を見積もります。回収期間を4年間に設定して、工事予算を組みました。新築 の回収期間は一般的に30年程度と言われますが、変化の大きい時代において、皮算用通りにはなかなかいかないもの。短期回収がリノベーションまちづくりの 一つの特徴です。
パブリックマインドをもった不動産オーナー次第、でしょうかね。
>> 商店街の空き店舗が埋まらないのは何故?起業の拠点になりそうでならない、商店街のまちづくりを考える | MAD City:松戸よりDIYと暮らし、物件情報を発信 https://t.co/Y48fKEAkHI
— AIRニュースクリップ (@AIRnewsclip) 2016年6月27日
柔軟な考え方とやる気を持った不動産オーナーと、リノベーションを主軸としたまちづくり事業者がうまくマッチングすることで、空き店舗や空きビルは新しいまちのコンテンツとして生まれ変わります。
サブリースの手法を軸としたまちづくり事業者による働きかけ
最後は、サブリースの手法を軸としたまちづくり事業者による働きかけです。サブリースとは又貸し、転貸借のことを言います。つまり物件を一括借上し、それを第三者に転貸するという事業形態です。
サブリースと聞くと、一般的にあまり良いイメージがないかもしれません。大手不動産会社が、相続税対策になるからと土地持ちの高齢者に持ちかけ、家賃収入が減額されるというリスクについて十分な説明もせずに、サブリースの賃貸アパートを建てさせているケースが横行していることはクローズアップ現代でも特集されました。
しかし本来のサブリースは、物件の管理や運営をサブリーサーが一手に引き受けることで、オーナーのリスクを最小化する機能があるわけです。そして家賃保証はもちろんのこと、長期的にはオーナーの代理者として、どれだけ入居者を集めたり家賃を高めるといった形でオーナーの期待に応えるのがサブリーサーの務めです。サブリーサーは大きな裁量をもち持続的な利益を見込む代わりに、空室リスクを負っています。そのリスクに対処できるか、地域に根差してオーナーに信頼されるかも重要です。
これは意外な理由だった。オーナー側が低リスクで手間を掛けずに安く貸し出せるような仲介業が生まれればシャッター街が減るかも。 / “商店街の空き店舗が埋まらないのは何故?起業の拠点になりそうでならない、商店街のまちづくりを考える …” https://t.co/IANIqrSLEQ — rinqoo (@rinqoo) 2016年6月20日
手前味噌ながら、取扱物件71件のうち53件がサブリース物件であるMAD Cityでは現在ほぼ満室で、一部の物件では家賃上昇も起きています。また2010年の事業開始以来、5年で延べ200名の人たちに入居いただいています。
例えば松戸駅前のもともと老舗のお弁当屋さんだったこちらの空き店舗では、入居者募集中の今年1月に、1日限定のフードイベントを開催し、当初用意した50食のフードはイベント開始3時間で完売するほどの盛況ぶりでした。(現在はテナントが決まり、地元の野菜を中心に日替わりで手づくりのお惣菜やお酒が楽しめる食堂がオープンする予定です)こういった自由な取り組みが出来るのも、サブリースならではなのかもしれません。