生活に福祉を補う存在として。地域でつながる相談の場を/コンセプトスタンド「アドカラー」〈後編〉

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松戸駅東口から徒歩6分。濃紺の看板に「アドカラー」と書かれたこの店舗には一風変わったメニューがある。その名も「相談ビール」400円。ガラガラっと扉を開けて中に入ると、美味しそうな餃子の香りがたちのぼり、山盛りの魯肉飯に食欲をそそられる。そしてカウンター越しにチャキチャキと動きながらお客さんと会話するのは、福祉医療等の専門職として働くスタッフや支援者、ケアラーだ。「相談をすると、ビールが安く飲める」。そんな謳い文句と共に2025年3月29日から8月23日まで6カ月限定で開かれた、日替わりのコンセプトスタンド「アドカラー」とは、一体どんな場所なのか……? 仕掛け人であるまちづクリエイティブの寺井元一氏、店長であり理学療法士の松村大地氏、スタッフであり社会福祉士の宮間恵美子氏に話を聞いた。後編では、なぜ今「相談」する場が必要なのか。「アドカラー」の前身となったクラフトビールフェスでの屋外相談会、メニュー開発に始まる店舗創設秘話について伺いながら、今後の展望について言葉を交わした。

Edit+Text+Photo:Moe Nishiyama

◎4時間で70人。「相談してくれたらビール安くなります」

――「アドカラー」自体の始まりについて紐解く前に、もともと寺井さんとお二人が出会ったのはいつ頃だったのでしょう?

寺井元一(以下、寺井):正直にいうと、僕は福祉にあまり興味がないというか……興味がないわけではないんだけれど、僕がどうこう言えることなんてないなと思っている時期にお会いしていますね。北千住にスタジオを構えていた「AAPA(アアパ)」というプロジェクト名で活動するコンテンポラリーダンサーがいて、彼らが取り組んでいたのが「コンタクト・インプロヴィゼーション」*1 という身体の接触を基盤とした即興ダンスの形式。海外では認知されていても、日本ではそれだけで生計を立てるというのは難しい。一方で身体的な接触が多くあるし、身体の安らぎや人との交流が生まれる。そこでいくつか僕が相談を受けるようになって、高齢者福祉やリハビリなどの文脈でこの形式を取り入れてもらう、といったこともあり得るかもしれないという議論や勉強会を何回か実施したんです。そのときの講師として松村さんに声をかけたんですね。現場で教えてほしいと。

松村大地(以下、松村):いえいえ。教えるというより呼ばれただけです。

寺井:それこそ当時は「LOVOT[らぼっと]」*2 の販売前でしたね。その勉強会には「LOVOT[らぼっと]」のメンバーも呼んだりしてプロジェクトチームとして活動していました。コロナ禍のあと諸事情で「AAPA」のふたりは別の場所に移住されたし、いまや「LOVOT[らぼっと]」もすごい広がっているけれど、僕らは開発段階で走っているのを見せてもらっていたから、あれがこうなるんだと思いましたね。

宮間恵美子(以下、宮間):私は松戸市役所にいたときに、空き家対策協議会で寺井さんが色々と取り組まれていたのがきっかけで、10年ほど前に一方的に知っていたという感じでした。

――そこから今回「アドカラー」という場所として相談が受けられる場をつくることになったのにはどういった経緯があったのでしょうか?

寺井:僕の立場からの経緯を話すと、発想の発端はM.E.A.R.L.の連載企画、M.A.D. Journeyの取材*3 でした。大阪・西成で一人暮らしの障害者や高齢者らへの医療介護サービスを主に手掛けながら地ビールをつくられているcyclo(シクロ)の山崎昌宣さんと出会ったことがきっかけになり、その後も連絡を取り合うようになったんですね。そこでうち(松戸)でもクラフトビールフェスを毎年開催しているじゃないかと思い、シクロとなにか一緒にできないかなと。シクロが「福祉」という名のもとにお涙頂戴なかたちでビールを売りたくないという姿勢なのは知っていたけれど、逆にそれはすごくもったいないとお節介ながら思っていて、でも西成でそれをしない理由はとてもよくわかる。であれば松戸ではどうだろう?と思い、クラフトビールフェスにゲストとして声をかけたところ賛同してもらい、クラフトビールを提供してもらえることになりました。それをなにに使ったらいいかなと考えていたのですが、僕も居住支援法人になっているKOMPOSITIONでは福祉に取り組んでいるから、クラフトビールフェスと福祉を繋げられないかと。福祉関係者の人たちと一緒になにかできるんじゃないかなと思い、松村くんに相談したのが「アドカラー」の前身だと思います。

松村:ちょうど重層支援のトークイベント*4 に寺井さんをお呼びした頃、クラフトビールフェスのことを相談いただきました。それまで福祉関係者の間での勉強会を重ねてきて、支援者がどうしたら殻をやぶることができるのか、どうぼちぼちつながるかということに対するキーワードは出ていたので、まさに寺井さんからクラフトビールフェス出店の話をいただいたときに、断ることは簡単だったと思うんですけれど、なんだか面白そうと思い、二つ返事くらいの気持ちで参加しました。そこで「相談をしてくれたらビールが安くなります」という形でクラフトビールを販売してはどうかという話になり、僕と宮間さんで参加することになります。

宮間:結果、そのクラフトビールフェスがとても楽しかったんですね。「相談」の壁がなくなっていて。こちらもビールを飲みながら、私に相談をしてくれたらお安くなりますという謎の感じで知らない人と話していく。困ったことありますか?と聞くと、ふだん相談窓口には絶対こない人たちと出会ったり、みなさんとても語ってくれたんですよね。

松村:4時間で70人ちょっとの方たちとお話ししました。屋外の強さはあったなと思います。オープンな環境で色々なお話が聞けて、こういう出会い方があるのかと。振り返るとあのときの立ち飲みのスタイルや気持ちがハイな状態であることやフェスのムード、ちょっと酔っ払っているというのもあったのかなと思うのですが。

寺井:居酒屋で、思わず「俺実は……」と言い出しちゃうというようなノリが多少はあったんだろうなと思いますね。そして実は2日間を予定していたところ、雨で1日開催できなかったんですよね。

松村:そう。4日間の開催期間のうち、2日間だけ福祉相談をやろうと思っていたんですけれども、1日雨で潰れてしまって、1日開催したところ先ほどの人数の方とお話しできたので。

寺井:もしもう1日雨が降っていたら福祉相談もやっていなくて、あの経験がなければ今の「アドカラー」もなかったかもしれないですね。

*1 1972年アメリカにてスティーヴ・パクストンが考案したダンスの即興形式。相手と体重のやりとりをしながら、そこに生じる動きの流れにまかせて動いてゆくコミュニケイティブな活動を指す。

*2 GROOVE X株式会社が開発した、名前を呼ぶと近づき、まるで生きているかのように生命感のある家族型ロボット。

*3 政治・経済・文化の生態系を生成する「自治区・MAD City」の次なる可能性を探してテライマンがゆくMAD Journey #1 株式会社シクロ 山崎昌宣〈前編〉https://mearl.org/madjourney01/

*4 「地域でともに暮らす」(=地域共生社会)をあらためて問うというコンセプトのもと開催された連載企画。https://madcity.jp/chiikidetomonikurasu_tsunagarucafe/

◎福祉系角打ちファミリースタンドから着想を得て。餃子居酒屋の跡地で調理実習からスタート

宮間:本当ですね。その後打ち上げで足を運んだ「イワタヤスタンド」のようなことをやってみたいよねと話をしていたら、ちょうど寺井さんが物件だけありますとお話しいただいたことが「アドカラー」の原点になりました。

寺井:補足すると、「アドカラー」の元ネタになったのが東京都墨田区にある「イワタヤスタンド」というお店。社会福祉士のカップルが2代目で、駄菓子屋とママさんの角打ちで旦那も来て一家で呑んでいるというような、福祉系角打ちファミリースタンド。重層支援の勉強会の人たちからお話を聞いていたこともあり、一緒に行こうと松村さんと宮間さんをお誘いして。そのとき物件が余っているという話をしたんですね。追い出し確定で、残り8カ月ほどの空き物件。それで借りる人はいないので開き直って、意味のあることなら数字は度外視で使うつもりだったので、家賃はどうとでもしますので、一緒にやりましょうと。

松村:それが2024年の暮れ、12月ですね。そこから3月プレオープンしたので、怒涛でしたね。

寺井:前の入居者の人たちが1月までいたんだけれど、できるだけ早く退去した方がいいよねということで、そのときに、厨房機器を全部残してもらったんですね。基本的には機材などは売りものになったりするから、持ち主が退去時に持っていくものなんだけれど、今すぐ持っていかなくてもいいやということだったから、8月末まで残しておいてくれと。所有権は向こうなんだけれど、物件は僕たちが借り続けて撤去も後でいいですよということで、応援してほしいと伝えて。それで厨房がほぼ居抜きの状態で残りました。

宮間:だけどものがあっても、私なんかはガスつけるにも「きゃ~!」という感じで(笑)。松村さんが経験があったので、松村さんが全部設定を整えてくださって。

寺井:業務用ですからね。チャッカマンを使わないと火がつけられない。松村くんは元々飲食店で働いていたんだっけ?

松村:大学生のときのバイトです。ただ、ちょうど餃子を焼くのがすごく得意だったんですね。そのときの飲食店での経験がギリギリあったので。

寺井:前の入居者が餃子居酒屋だったんです。

松村:ただ最初からアドカラーでは餃子を販売しようと思っていたわけではなくて、場所がある、なんとなくやりたいことはある、でもなにを売ろう?と。メニューは、ギリギリになって決めました。とにかくいつ営業するのか、誰が店頭に立つのかが最優先。みなさんも仕事があるなかなのでどうしようかと。ギリギリ水曜日の昼と土曜日の夜ができるぞという話になりました。水曜は平田さんが勤務の調整ができるのでと仰ってくださり。ご家庭の事情で仕事を週4にしたのに、申し訳ないなと思いながらも楽しいとお店に立ってくださっています。土曜日も結局なにを売ろうかとなったときに、この場所の雰囲気が踏襲できるなにかが良いなとか、台湾ミックスの僕の妻が作る魯肉飯(ルーローハン)が好きで、それでいいじゃんと皆さんに言っていただき。

宮間:そこからみんなで調理実習をしました。

松村:はじめは僕も自分でつくるのではなく、調理師免許を持っている他の方にもお願いしようと思っていたのですが、なかなかみなさん忙しくてコミットできず「俺がつくるか…!」ということでメニュー名も「俺の魯肉飯」にすることになりました。
前の店舗からの機材で餃子機があるのでそれも使おうかとなり、餃子であれば障がいのある方も含めて、みんなで作れるなと思ったんですね。そこで伏線を張って、形が多少ずれてもいいよねということで「不揃いの餃子たち」という名前にしました。今のところみんなすごく綺麗なんですけれど(笑)。
レジや注文を受ける機械などもなく材料が余っても仕方がないので、メニューは最小限に。障がいのある方にも仕込みを手伝ってもらい、ユニバーサル就労とまではいかないのですが、交通費にプラスして作業費をお渡ししています。お肉を切ってもらったり、白菜も粗微塵切りで良いのに、すごい細かくしてくれたり。今そういう方たちが実質3人いらっしゃるのですが、はたらくの間を縫えるようなチャレンジをここで行なっていけたらいいなと思っています。

◎予防の予防。潜在的な悩みの相談窓口として

――クラフトビールフェスでは今まで相談窓口にはいらっしゃらないような方がいらしていたと伺いましたが、お店だとどんな方がいらっしゃっているのでしょうか。

松村:お店では、偶然通りがかるフェスとは違い、お店に入るという行為が必要なので、どういうお店なのかをみなさん見られる。路面店ということもありいろいろな方に見てもらえるので、認知はしてもらえている気はするんですけれど、そこから来店するのはなにかを食べたかったり、他のお店が入れなくて入ったりすると、お店に立っているのが福祉の人だったりする。そこからお話が広がっていくこともありますね。

いままでガッツリとした福祉相談はないんですけれど、障がいのある方もいらっしゃったりして、(福祉関係の仕事をしている)僕たちのことを知っているからこそ話せることもあったりするそうです。「引きこもり」など普通のお店では聞かないようなセンシティブな話も行き交っている。僕たちも少数精鋭でやっているので、一人のお客さんだけに時間を割くことができないときは、他のお客さんに話し相手になってもらったりするなど助けてもらうこともたくさんあります。あとは相談するとビールが安くなるからという動機で、アンケート用紙に記入いただいて、相談される方もいらっしゃいます。男女問わず一人で来る方も少なくないので、気がついたら話し始めてお酒が進んでいるということもありますね。

宮間:今では「これでなにか作って」とお客さんが差し入れを持ってきてくださったりなど。

松村:お塩をいただいて、塩結び作ったり。福祉の相談窓口に行っている方もいれば、そうではないけれども、行って話してもいいくらいの話も生まれているような気がしますね。

寺井:予防的な領域ですよね。

松村:予防の予防な感じです。潜在的な悩みの相談窓口。

寺井:今、福祉の現場でも「予防」がとても大事だという話になっていて、問題が発生していて、ギリギリの状態になってからだと対処療法でしか対応できない。相談してもいいのかなと本人も迷っているくらいのところで、気がついたら相談に乗っている、繋がりを途切れないようにすることが重要になってきています。追い詰められると相談ができなくなって連絡も付かなくなっていく。僕も先日アドカラーにきた際に、気がついたら家族相談していましたしね。
「なにか相談ありますか」と聞かれて話したんですけれども、その人も多拠点居住で家族と離れて仕事していると話していたから、ああそうなんだと。隣の大学生も気がついたら相談していて。人それぞれありますよね。人間関係難しいとか、就職どうしようとか。自分ADHDなんですけどどうすればいいでしょうとか。

松村:行政の窓口に行くと、「相談者」として行くので、ある意味自分はダメな状態、廃れた状態であるという覚悟を持って行かなくてはいけない。それって相当きついですよね。相談する行為ってすごく難しいというか、ハードルが高い。

寺井:相談する人からしたら、面談ですよね。さらにこちらは聞くのがメインだから、向こうがガチガチに緊張しているところで、頑張り方が難しいですよね。

松村:窓口の人はなんとかしないといけないから、ダメなことも言うし、次こういうことしましょうという正解を導こうとするんですけれど、100%の人がそれを求めているかというとそうではない。アドカラーに来る方は相談目的ではないので「相談者」としては来ません。お客さんとして訪れていて、立ち居振る舞いとしてはそういうつもりはないのに、気がついたら相談していたという状況にすることが、実は相談という行為に対するハードルを下げたりする。一度訪れてから、ここにくればこういう人がいるんだということを知って得られる安心感のある場は、行政が考える窓口では絶対にできないなと思いますね。

――相談者側の視点でお話を聞いていたんですけれど、気心の知れた友達や家族、親戚だったとしても「相談する」というのはなかなか難しかったりすると思います。逆に少し距離感がある人とでないと話せない話もあるなと。ただ愚痴りたいわけでもなく、自分の中でもどうしたら良いのか、これは人に話していいことなのかと悩むこともありますし、その先に正解を提示してほしいわけでもなかったりする。話したいけれどもどこで話したらいいのだろうと、潜在的に相談先を求めている人たちが結構いる気がしています。ただ、相談窓口に行くほどでもないという人たちも多いですよね。松村さんが仰っていたように、行政の用意した相談窓口に行くということは、「すごくボロボロで大変な自分」を作らなくてはいけないと言いますか、そうであると自分でも認めて定義しなくてはいけない。それ自体がある意味精神的にもハード、キツイ行為だなと。決めつけたくないけれど、そうなってしまっている自分を認めなくてはいけない。

宮間:支援者側も全く同じだと思うんですよね。日頃支援者だからこそ言えなかったりすることが、お客さん側になることでぶつぶつと吐き出せることがあり、少し気持ちが軽くなったり、エンパワーメントされたりする。支援者にとってもありがたい場なのではないかなと思います。

松村:そうですね。相互作用だと思います。お客さんもやっぱりいろいろな方が来るので「私を助けてくれ」という文脈で支援者の方が来ることもあります。支援者どうしで話を聞いてほしいと。あとはこうした福祉職の人がいるから、障がいを持っている方も来られるということもあるみたいです。お店に入る際に、お店がバリアフリーかどうか、スタッフや周りのお客さんに迷惑にならないかを考えてセーブしてしまうことも多いんだそうです。アドカラーには車椅子の方がいらっしゃったりすることも何度かあります。奥のテーブル席はうるさくしても周りに響かないので、うるさかったですよね?と聞かれることがあるのですが、全然そんなこともない。当事者の方も安心感を持って来られるんだなということに初めて気がつきましたね。福祉職がお店を運営していることによる特色にはなっているのかなと。

寺井:ちなみに、相談しているとこれ以上いえないよということもあるじゃないですか。ここを入り口に他の相談センターなどで本格相談をするという形も将来的にはあるんでしょうか。

松村:あり得ると思います。アドカラーの相談も寺井さんのお話をきっかけに始まりましたが、始めたばかりのときはアンケートも取っていなくて、こちらが話した内容から相談に繋げていたんですね。そうすると話の流れからいろいろなことを聞ける反面、プライバシーに触れることも守れずに話が弾んでしまう。そこでどうなの?という話になり、最初にヒヤリングという形でアンケートに答えてもらい、会話を始める前に「この場所(席)でもお話し大丈夫ですか?」と聞いて、できるだけ周りの方にお話を聞かれたくないという方には、入口の方に少し離れた席があるので、そちらに行きますかと提案するようになりました。そういったことも提案しないと相談する側のプライバシーも守られないなと。

寺井:進化していたんですね。

宮間:はい。相談を受ける側としても、もっと聞いてあげたいとか一緒に考えたいと思っても、ちょっとここだとなかなか踏み込めないというところもあり、次を考えないとなと思っています。

松村:今思えば、福祉相談にはクラフトビールフェスのスタイルが合っている感じはしますよね。屋外だと環境の抑揚も生まれやすいので。ビールフェスで相談に乗り、なにかあればお店に来てねと伝えられるスタイルがいいかもしれません。

寺井:屋外のビールフェスと屋内のお店、両方あると良さそうですね。

◎地域とのつながりのなかで、福祉を補う存在として

――アドカラーではお客さん同士でも会話が生まれているというのが面白いなと思います。相談ってシークレットにされるべきものというイメージがあるんですけれども、相談の場がある意味半分ひらかれることによって、こういうことに悩んでいる人がいるんだと聞いて自分自身にとってもお客さん側にとっても影響するものがあるのかなと思ったり。数カ月お店を営業されて、考えられていることがあれば教えてください。

宮間:何カ月かお店を開いているうちに、来てくださる方の居場所になっているところもあると感じています。

松村:夜は本当にそうですね。回転率もとても悪いので、いかに客単価を上げるかという発想になります。平田さんもしっかりもてなすので一回の注文でお腹いっぱいになってしまうから、みんなおかわりしない。それはまずいよどうする?という作戦会議を最近しました(笑)。

寺井:なにをやっているんだかこの人たちは(笑)。

松村:本当に何屋さん?という感じですね。

宮間:今、アドカラーが居場所になっている人たちがいるから、8月で終わってさよならというのもどうなんだろうと思っています。

松村:すでにもう「(お店が閉店したら)私の土曜日どうすればいいの?泣いちゃう」という方もいますね。私が物件持ってきましょうか?とすら言われまして。クラファンをやるのもありかなと思いますし、実験できているがゆえに、次のステップもいろいろな形が考えられますね。

――これからの展開、こういうことをしていきたいということは今のところあったりするのでしょうか。

松村:先ほどもお話しした「ユニバーサル就労」のお話にもありましたが、アドカラーに関わる、訪れる方たちの相談の延長で、「はたらく」というところまで展望を広げていきたいところはありますね。地域で動いているような飲食店の仕事を僕たちで少し一緒にやらせていただいたり、作った餃子などももしかしたら他の場所でも売れるかもしれない。そうしたことを増やしていきたいなと。寺井さんからもブルワリーをやっている松戸ビールさんの瓶ビールのラベルを貼る作業を振れるかもとお話しいただいて、貼る仕事を受注したりしています。

宮間:やっぱり働きたいという気持ちがあるんだけれど、一歩踏み出すのが難しい人たちもいるんですよね。

松村:入り口に置いてあるアドカラーのネームプレートも障がいのある方に作っていただいたんですけれど、とても器用な方で。この方は精神的な障がいをお持ちの男性で、いろいろな地域の居場所に行くんですけれど、お金をもらってはたらくことをしていきたいとなったときに、いきなり就労は厳しいからということで、アドカラーを紹介しました。

最初はここの仕込みを手伝ってもらっていたのですが、腰を痛められていて、難しいとなったんですね。そこで自分でこれを作ってきてくれて。ショップカードを切り抜いてアドカラーの名札を作ってみましたと。こういった形でスタッフのネームプレートもお願いできますか?と聞いたらできますということで、これを買取し、今も第二弾を作ってもらっています。
彼が今後なにをしたいかを聞いていくとなると、がっつり就労支援の領域に入っていくんですけれど、少しその感じもイメージしつつ、なにに向かってなにをするかを考えて行かねばなと思っています。そこは平田さんという業界内のエキスパートがいるので、お願いしようと思うのですが、平田さんも仕込みしながらだとやっぱり難しいねと。

寺井:そりゃそうでしょ(笑)。

松村:そうなんです。なので、相談するときはがっつりそこに時間を割けるように分けた方がいいなと思っています。平田さんがいらっしゃるときはユニバーサル就労の窓口を作るなど。

宮間:それには松戸ビールさんなど、もう少し地域とのつながりを意識していけたらいいのかなと思いますね。地域のニーズに合ったものに取り組めたらいいかなと。松戸ビールの店主がラベル書いてみる?と聞いてくださって、松戸南高校の美術部のみなさんに描いてみてと伝えたら、みなさん喜んで描いてくれて。スマホでお店の外観調べてみたりビールがどういうものなのかを調べて、一つのラベルにそれぞれストーリーを持って考えてくれました。

寺井:ラベル貼りだけではなく、ラベルのデザインまで行うような話にまで膨らんできているんですね。クラフトビール側でいうと元々クラフト、と言うだけあって手作りという意味合いが強いんですが、海外でも今ではどちらかというと「ファントムブルワリー化」*3 が進んでいて 、工場に委ねて企画やレシピ、コンセプト設計にどんどんふっていくという感じで、小さな工場は減る一方、大きな工場が残っていき、プレイヤーである作り手はどんどん増えるということが起きている。日本もそうなっていくよねという話を業界関係者で話していて、ファントムブルワリーとして新しいビールを作っていく。とりあえず今回は、やれるところからやりましょうシクロさんということでオリジナルビールができました。今度は店舗としてではなく、ブルワリーとして色々なところに出ていくということもできるかもしれないので、のびしろがあると思っています。

松村:西成のシクロさんのビールを、ラベルだけオリジナルにするお話もいただき、そこでは「福祉」をアピールしています。初めはアドカラー自体が飲食店なので、その看板の下でどこまで福祉色を出すかという葛藤があったのですが、寺井さんはもっとしっかり出したほうが良いと仰っていて。

寺井:でも福祉関係者の人たちは、すこし前まで「福祉」という言葉を出すことで色眼鏡で見られてしまい近寄りがたくなってしまったという歴史を持っているから、シクロもそうなんですが、絶対に福祉というキーワードを表に出さない。ただ僕からすると一周回って福祉って絶対に言ったほうがいい。今はダサいとか関わりたくないというものでもなくなって、ソーシャルアクションとして最先端なんだから、堂々と言ったらいいなと思います。

松村:店名の「アドカラー」は「add color to~(色を添える)」という意味の英熟語と、靴の補正クリームの名前に由来しているんです。履き続けている靴を「補正・補修する」という行為自体も福祉を連想させるなと思って、みなさんが歩いている中で、僕たちが福祉を補うという意味合いも込めてアドカラーという名前にしました。抱えているかもしれない人それぞれの傷や色褪せを補正・補修し、生活に色を添えるように「福祉」を日常に馴染ませていくことができたらいいなと考えています。

*3 自分の醸造所を持たずに他の醸造所へ委託醸造する形で、自分の造りたいレシピでビールを醸造するブルワリーのこと。

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PROFILE

松村大地
一般社団法人Mi-Project理事長/支援者つながるカフェ共同代表。
「つながりを通じて、人が輝き、人に優しくなれるまつどへ」をビジョンに掲げ、2019年より一般社団法人Mi-Project理事長に着任。まつど暮らしの保健室・鉄塔の下の倉庫の2事業を軸に、医療介護等専門職や地域住民、子どもや高校生たちと共に、相談機能やあそびの中での役割ある場づくりを実践している。その他、特定非営利活動法人まつどNPO協議会理事、NPO法人MamaCan理事、理学療法士。

宮間恵美子
みやま社会福祉士合同事務所代表。
1987年、松戸市役所入庁。母子保健担当室長・子ども家庭相談課長・高齢者支援課長、市民自治課長・地域共生課長を歴任。2021年退庁し、みやま社会福祉士合同事務所を開業。現在は、成年後見受任・厚労省事業受託や、成年後見制度、高齢者虐待、ヤングケアラー等の講師業をしつつ、松戸南高校を中心として千葉県スクールソーシャルワーカーとしても活動。2021年に共同代表松村とともに支援者つながるカフェを開始。

寺井元一
NPO法人KOMPOSITION代表理事・株式会社まちづクリエイティブ代表取締役アソシエーションデザインディレクター。1977年兵庫県生まれ。統計解析を扱う計量政治を学ぶ大学院生時代に東京・渋谷でNPO法人KOMPOSITIONを起業し、ストリートバスケの「ALLDAY」、ストリートアートの「リーガルウォール」などのプロジェクトを創出した。その後、経験を活かして「クリエイティブな自治区」をつくることを掲げて株式会社まちづクリエイティブを起業。千葉・松戸駅前エリアでモデルケースとなる「MAD City」を展開しながら、そこで培った地域価値を高めるエリアブランディングの知見や実践を活かして全国の都市再生や開発案件に関わっている。

MAD Cityは空家の利活用に関わる不動産、アーティストやクリエイターとの協業、ローカルビジネスの起業支援、官民連携のプラットフォーム、居住支援法人に転換したKOMPOSITIONによる福祉ケアなどからなる複合的なサービスを提供しており、2023年には国土交通省「第1回地域価値を共創する不動産業アワード」中心市街地・農村活性化部門優秀賞を受賞。

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