Belong to ME #09|thirdkindbooks 山本未知

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企業や組織に所属せず、活動する人の数が増えている。テクノロジーの発展や価値観の多様化など、様々な理由が可能にしたこの「可能性」はしかし、「自由に稼げる」点ばかりが強調されていないか。現代における個人の持つ“強さ”とは、果たしてその1点で語れるようなものなのか?

本連載では、組織に所属せず、軽やかに領域を横断して活動する個人をマージナルな存在として位置づけ、今の働き方に至った経緯と現在の活動を伺っていく。インタビューは、その人が日頃活動の拠点としている場所で行う。

Vol.9に登場するのは、「thirdkindbooks」として活動している、山本未知さん。2018年に日本大学生産工学部創生デザイン学科スペースデザイン専攻を卒業後、本との出会いの新たな可能性を模索、提案している。さいたま市にて、今秋(2020年10月17日〜11月15日)開催される予定の「さいたま国際芸術祭2020」のさいたまアートセンタープロジェクトにアーカイブ担当として関わっており、アーティストとしても旧大宮図書館の一部のスペースデザインを担っている。thirdkindbooksの活動を皮切りに、友人の大原由さんと共同制作された作品や芸術祭の市民プロジェクトを介して見た景色と心境を聞いていく。

Text:Kenji Noda
Photo:Yohey Goto
Edit:Chika Goto

場所と人が重なって本との出会いがあった

Q1. thirdkindbooksではどういう活動をしているんですか?

山本 thirdkindbooksでは本の新しい並べ方を提案しています。活動自体は、スペースデザインを専攻していた大学での卒業研究がもとになっています。本の表紙を少し開いて置くことで、棚に並ぶ冊数や見え方が変わってくる、という研究です。

例えば、人の視野の幅90cmくらいのスペースに、本を30度開いた状態で並べると、漫画の単行本サイズの場合は10冊くらい並ぶ。それを今度は10度にすると、20冊並ぶ代わりに本の表紙が見えなくなる。また、本を置く高さや本の種類、並べ方でも変化していきます。そういった本の表紙の見え具合と、並べ方などによってどれだけ読みたい本が増えたり変化するか、という「本を選ぶときの満足度」について調べていた経験があって、現在、thirdkindbooksではそれを活かした空間の提案などをしています。 

そして、アーカイブ担当として関わっているさいたま国際芸術祭2020では、旧大宮図書館の一部スペースの空間を設計中です。そこでは主に芸術祭のアーカイブを閲覧できるモニターとライブラリー、展示スペースなどを設置する予定で、thirdkindbooksとしてデザインするスペースもそこには含まれています。

旧大宮図書館
旧大宮図書館

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旧大宮図書館に設置されたSACP ROOM。取材時は制作進行中の状態。卒業した大学の後輩と設計を行っている
旧大宮図書館に設置されたSACP ROOM。取材時は制作進行中の状態。卒業した大学の後輩と設計を行っている

Q2. 本棚の見え方を調整する道具として、本を開いて立てるブックスタンドも作っているんですね。

山本 卒業研究では人が本を選ぶ際に関連する様々なデータを集めたんですが、その結果、並べ方によって、人が選ぶ本の冊数が大幅に変化することがわかったんです。その時に三角錐形のブックスタンドを作りました。

最終的には本の種類よりも角度の影響が大きくて、20度という角度に揃えた状態で本を棚に並べた、仮想本屋みたいなものを作りました。この20度という角度で並べると、背表紙だけでなく表紙の一部も見える状態になるんです。また、本の種類による大きさなどの違いがあるので、ブックスタンドもSやXLなど数種類のサイズを用意しました。

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ブックスタンドを本の間に挟み、棚に並べた状態
ブックスタンドを本の間に挟み、棚に並べた状態

今は芸術祭に合わせて、もともとこの図書館で本の背を手前に出すための幅出し用として使われていた一本の四角い木材を使ったマグネット式のスタンドを新たに作っていて、展示の空間にそれを使う予定です。人が来る方向に対して表紙の向きを変えられるようになっています。

新しく制作したマグネット式ブックスタンドの実演
新しく制作したマグネット式ブックスタンドの実演

Q3. 山本さんが本を中心とした活動をしているのはなぜですか?

山本 本の並べ方の構想が立ったのは、だんだんと本が好きになり始めていた大学4年生くらいのときですね。今展示に使っている本の半分くらいはその頃に買ったもので、あとの半分は卒業後や展示のときに買ったものです。というのも、大学1年生のときとかは読書とかを全然していなかったんです。本が好きになっていったきっかけは場所と人の影響が大きいですね。

例えば、「ここのがっこう」(2008年よりファッションデザイナーの山縣良和が主宰する、ファッションクリエーションにまつわる私塾。さまざまなジャンルのクリエイターを多数輩出している)に通っているときに、講師の山縣(良和)さんがボストンバッグみたいな大きなバッグで本をめちゃくちゃ持ってきてくれたんですよ。そこで洋書とかもかっこいいなと思うようになったり、あとその学校の延長でニューヨークに行く機会があって、そこではLANDLORDというアパレルブランドの川西遼平さんに教えてもらったオススメの本屋を周ってましたね。

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実際に本の並べ方の構想を思いついた場所も本屋です。並べ方の研究をしているときに大学の先輩と本屋に行って、「ブックスタンド自体を付箋にすれば邪魔にならない」っていうアイディアを話していました。それが元となって作ったのが、本の間に挟むブックスタンドです。

Q4. thirdkindbooksという名前の由来は?

山本 自分の名前をそのまま合わせただけっていうのもあって、「books」の部分は「山本」で本っぽいというか(笑)。「thirdkind」は、自分の下の名前が「未知」なので、スティーブン・スピルバーグの『未知との遭遇』っていう映画の英題「Third kind」から取ってもいて。最初にUFOが出てくるのが「First kind」、ミステリーサークルみたいな二次現象が「Second kind」、そして実際に宇宙船から人が出てきたりすることを「Third kind」って言うらしくて。それを「本との出会い」とダブルミーニングみたいにして付けたのが「thirdkindbooks」です。

アートで繋がることを体感して

Q5. さいたま国際芸術祭2020にthirdkindbooksとして関わるのと並行して、作家として展示される作品についても聞かせてください。

山本 公募プログラムに参加させていただいて、友人の現代美術家の大原由と南区にあるギャラリー併設の喫茶店の「STAND COFFEE コトコト」で、「G.F.A.S(Grate Fan of Art Sightama)」という映像作品を展示する予定です。

これは芸術祭の鑑賞が体験できる映像作品で、主に芸術祭に参加される作家さんのもとに行って作品を撮っています。友人の俳優にも参加してもらって、彼に作品を見たときの喜怒哀楽を極端に表現してもらってるんです。

「G.F.A.S(Grate Fan of Art Sightama)」をパソコンの画面で見せてもらった
「G.F.A.S(Grate Fan of Art Sightama)」をパソコンの画面で見せてもらった

「G.F.A.S」って本当は「アートさいたまのファンは素晴らしい」っていう意味だったんですけど、提出するときに綴りを間違えちゃって「Great」が「Grate」になったんですよ。「Grate」は「人の気に障る」っていう意味合いなんですけど、結果的にハマったというか(笑)。

映像自体コロナ以前から撮っているので、俳優の彼は開催が延期になる前から芸術祭を体験している1人なんですよ。前と今ではまったく状況が違うので時にはワイプで登場してもらったりして、彼の憤りとか、芸術祭を体験して何を思ったかを撮ることで、芸術祭の全体の印象が映像のなかに溜まっていく感じがしています。

Q6. 共同制作は今までにもありましたか?
山本 大原とは今までにもいくつか共同制作で作品を作ったことがあって、例えば2018年のCAF賞(公益財団法人現代芸術振興財団が主催する、日本全国の高校・大学・大学院・専門学校の学生、および日本国籍を有し海外の教育機関に在籍する学生の作品を対象としたアートアワード)では、当時北千住で行った椅子を持って外に出るというパフォーマンスを撮影して参加しました。

当時、展示期間中の1週間くらい実際に会場内でもパフォーマンスをしていました。パフォーマンスのルールとして、空間の一番印象的な場所に椅子を設置する、っていうのがあって、そのときは「CAF賞」と書かれたグラフィックの前に椅子を置いてやっていました。そのパフォーマンスのおかげで、展示に来る全員と喋ることができていたのが、体験したなかで良かったなと思う部分です。

北千住でのパフォーマンスも、ソファを使って行われた
北千住でのパフォーマンスも、ソファを使って行われた
CAF賞展示会場内でのパフォーマンス
CAF賞展示会場内でのパフォーマンス

生活のなかでアートに気づく、ということ

Q7. 山本さんの地元である、埼玉のアートプロジェクトに参加しようと思った動機はなんですか?

山本 今まで自分が埼玉で生活してきた体感として、多分都内とかで展示をやったとしてもここ埼玉にいる人には届かない、と思ってるんですよ。自分が埼玉で育つなかで感じてきたアートと生活の距離感というか。一番大きいのは距離的な問題で。電車で20分ぐらいの場所でやってたりとか、仕事や学校の帰り道に行けるとか、そういう物理的に近い場所でやることで、他の場所でどれだけ活動しても届かなかった人に届く、っていうところが重要だと思っています。

だからこそ、この埼玉でやるしかないというか。見せたい人には早く見せたいっていうモチベーションもあるし、家族でも友人でも、自分の身の回りからアートと埼玉を繋げるっていう考えがありました。

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僕はさいたま市の南区(南浦和)に住んでいて、これまであんまりこの図書館(旧大宮図書館)にも来たことがなかったりして、場所自体に個人的な思い入れはないんです。ただ、高校生のときにサッカーをやっていて、最後の選手権の日にこの図書館の前を通ったはずなんですけど、存在に気づいていなくて。そういう「気づかない」っていうことが、アートと生活の距離にも当てはまるんじゃないかって思いました。

Q8. 影響を受けたプロジェクトはありますか?

山本 今年の5月に、さいたま国際芸術祭2020の一環として、未来美術家の遠藤一郎さんが図書館前の氷川参道で「ほふく前進御百度参り」っていうパフォーマンスを毎日やっていたんです。自分はアーカイブの動画を撮っていたんですけど、この活動を見ていて、芸術祭の存在に地域の人たちが気づくきっかけとしてこれは結構強烈な存在だなと思いました。

パフォーマンスは、2月の後半から始めていたので、コロナ禍の中で100日間ずっと続けていたことになるし、今の状況であの活動がないと芸術祭の祝祭性が一回全部止まってしまうことになっていたんだと思う。ああいう状況でアートが続くっていうのは凄いし、自分としてはありえない体験だったんじゃないかなと。

遠藤一郎「ほふく前進御百度参り」のアーカイブ映像
遠藤一郎「ほふく前進御百度参り」のアーカイブ映像

それとは別に、共同制作している大原からの影響もあります。大学卒業後は自分が関われる範囲でアートマネジメント的に活動していて、彼の作品を記録したりしてきました。国際芸術祭に作品(「G.F.A.S(Grate Fan of Art Sightama)」)を出品する上で、人と話してアートについて考える時間っていうのはずっと作りたくて、場所作りみたいなものに興味があったので、それを追求できる場所にどんどん引き寄せられていったというか。

芸術祭のアーカイブのこともそうなんですけど、自分の私的範囲を超えて公的範囲で物事を動かすことで、より自分が制作している意義というかそういうものを感じられる気がしていて。芸術祭で起きていることや作品に興味を持ってアクティブに活動する上で、彼との共同制作とか活動からは結構影響を受けている感じがしますね。

溜まっていく熱量

Q9. そもそも、芸術祭に参加しようと思ったのはなぜ?

山本 大学卒業後にいろんな場所で本の展示をする機会があって、2019年に美術館で展示をしたときの作品を今回のさいたま国際芸術祭の市民プロジェクト・コーディネーターである浅見(俊哉)さんに紹介する機会がありました。

それがあって、最初はプロジェクトのボランティアサポーターとして参加していたんですが、会場が旧大宮図書館になるということでそのまま役割を任され、市民プロジェクトのアーカイブ担当とSACP ROOM(Sightama Art Center Project Room)の空間設計を行うことになりました。

Q10. 市民プロジェクトを通して、市民の方々から何を感じましたか?

山本 関わっていくなかで一番大きかったのは、やっぱりこのプロジェクトに参加する人たちの熱量というか。サポーターの1人1人が「芸術祭で何か発表したい」という高いモチベーションを持って集まっていて。僕は全プログラムを毎回自分で撮影していたりしたので、その熱量がカメラのなかいっぱいに溜まっていく感覚がありました。

でも、コロナが流行して、緊急事態宣言が出たこともあって、芸術祭の開催自体が延期されました。そんななかでもサポーターさん達のずっと動いている様子がFacebookなどでたびたび感じられました。例えば、サポーターさん達だけで芸術祭を勝手にやる「エアさいたま国際芸術祭」みたいなのが企画されたりだとか。

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以前、自粛期間中にSNS上などで「ブックカバーチャレンジ」が話題になっていたときに、本というか本を取り巻く文化自体に多くの人が興味を持っているように感じました。そういった出来事は、芸術祭と本、埼玉とアートという風に文化が繋がっていく感じがしましたね。
 
Q11. そういった動きは、SACP ROOMでの本の並べ方にも影響があった?

山本 サポーターさんの動きを見ていて、実際にこの空間でも1人1人のおすすめの本を置いてもらって、市民ライブラリーみたいなものが制作できたらいいのかな、と思ってます。コロナ禍ということもあって、逆に「手に取ってはいけない」みたいな制約を作ってみてもいいのかもしれません。

本って、通常は手に取って中身を確かめたくなるものだと思うんですけど、新しく作ったブックスタンドにポップみたいなものを書いて、一番見やすい角度で並べた状態の空間を1周するだけで「あぁ、この本いいなぁ」みたいな気持ちで見られる。そうすることで、コロナ禍のなかでも本との出会いの満足度を極限まで高められるのかなと思ってます。

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Q12. SACP ROOMの設計者として、開催に対して抱いている自分の思いはありますか?

山本 今回の芸術祭のテーマが「花」なんですけど、個人的には結構ネガティブなイメージを持ってました。コロナ禍で死者がたくさん出たイメージと繋がるんですけど、もともとは自分のなかで「献花」のイメージが強くて、祝祭性と真逆だなって感じていたんです。

というのも、2016年に学生団体で参加した東京デザイナーズウィークで、隣のスペースの作品が火事になって人が亡くなられた事故があったんです。それによって、自分のなかでデザインとかアートだとかの作品を作る上での価値観がすごく揺るがされたというか。

後日、自分も献花しに行ったんですけど、そういうことって祝祭性の裏返しだなと感じました。それを踏まえて、この芸術祭も常にリスクを伴っているなと思います。ただ作家として場所を用意されるんじゃなくて、感染だとかそういう状況も踏まえてちゃんとやる、っていうスタンスです。

人と場所と共生していく本のあり方

Q13. 今後の活動はどういう風にしていきたいですか?

山本 芸術祭自体がコロナの影響で短期間、短時間のなかで行われることになったので、さいたまアートセンタープロジェクトも継続されることが決定しました。

そのなかでより芸術祭の熱や情報を伝えられるような展示を展開したいですね。開催が延期されたことで、祝祭性のようなものが昇華されずにプロジェクトやモチベーションに宿ったままになってるので、サポーターの方々1人1人の気持ちや思いの強さに応えるためにも、この展示空間を有効活用してもらいたいです。

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Q14. 市民の方々の熱に応えられるといいですね。

山本 そうですね。あと、芸術祭では最初、教科書を集めている武田力さんという作家さんとコラボして「教科書カフェ」っていうプロジェクトをやる予定だったんですけど、それは延期になってしまって。埼玉の別の図書館とか実際に本がある場所とか、そういう場所で今回発表したことをそのまま応用して展開できたらいいなと思ってます。

Q15. 個人としては今後どのような活動を考えていますか?

山本 これからも作ったブックスタンドをどうやったらいろんな場所で使ってもらえるか、っていうことを考えていくとは思っていて。自分が埼玉という場所に拠点を構えて、目的を持って制作をしてきた経験がないと、今回新しく作ったブックスタンドは生まれなかった。

そういう面で、新しいブックスタンドの形を見つけることができた、という風に受け入れています。自分が大学卒業後に交流してきた人たちのコミュニティとコラボレーションしたり、場所・人と共生していくような本のあり方という観点で、ブックスタンドをどんどん利用してもらいたいなと思ってます。

thirdkindbooksとしては、まだこの先のことは全然決まってないんですけど、本がある場所を作る上で特定の土地にこだわる必要はないのかなと思っていて、いろんな場所で本が斜めになっている状態が作れればいいなと思ってます。

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PROFILE
山本未知 / Minori Yamamoto
hirdkindbooks / 1995年生 / さいたま国際芸術祭2020 さいたまアートセンタープロジェクト アーカイブ担当兼SACP ROOM空間設計

2018年日本大学生産工学部創生デザイン学科スペースデザイン専攻を卒業。thirdkindbooksの名前で「本との出会い」をコンセプトに本の並べ方に新たな可能性を模索、提案している。さいたま国際芸術祭2020にて、市民プロジェクトのアーカイブ担当として参加、thirdkindbooksとしての空間設計、大原由氏との公募プログラム内での作品展示を行う。

thirdkindbooks
Sightama Art Center Project Team
SACP(さいたまアートセンタープロジェクト)紹介短編映像
SACP ROOM
さいたま国際芸術祭2020 公募プログラム「G.F.A.S(Grate Fan of Art Sightama)」

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