IPや産地の枠を越え、受け継がれた技と設計の知性をつなぐ。フィギュアと九谷焼のあいだに生まれた「CERAMAX」MAX渡辺×寺井元一×小田雄太 鼎談 第2回:「できないこと」と「できること」のあいだで——有田、九谷、フィギュアの技術が交差する

フィギュアの企画・制作を手がけてきたマックスファクトリーが、伝統工芸の手仕事へと眼差しを向けて立ち上げたブランド「CERAMAX(セラマックス)」。特定のIPや産地の枠を越え、受け継がれた技と設計の知性をつなぎ、日々の道具をアップデートすることを目指し、第一弾として発表された「MIKU LINE」では、九谷焼の五彩に、初音ミクをはじめとするピアプロキャラクターズの世界観を重ねたマグカップがつくられた。プロジェクトの発起人はマックスファクトリー代表のMAX渡辺、そして松戸を拠点にまちづくりに取り組むまちづクリエイティブ代表の寺井元一、同社取締役でクリエイティブディレクターの小田雄太の3人だ。松戸から有田へ、そして九谷へ。一口に「焼き物」といっても、産地によって、蓄積されてきた型や生産体制、職人の分業、得意とする技法は異なる。フィギュアの世界では当たり前にできたことが、陶器では「できない」。一方で、陶器だからこそ可能になる表現もある。その違いを学ぶことから、セラマックスのものづくりは始まった。

<第1回はこちら>

Text+Edit:Moe Nishiyama
Photo:Ryo Yoshiya, VaistarStudio

◎有田はワンストップ、九谷は分業体制。異なる生産体制と技術、できることできないことを勉強することから

──有田と九谷では、ものづくりの仕組みにどのような違いがありましたか。

寺井元一(以下、寺井):有田で訪ねた窯元は、一万坪ほどある大きな場所でした。一部は外注するとしても、原型をつくる人、型をつくる人、素地を焼く人、転写に関わる人が、比較的ひとつの場所に揃っていた。ワンストップに近い生産体制です。そこには、過去につくられた型も大量に保管されていました。「あり型」と呼ばれる既存の型を倉庫から探し出し、そこから新しい使い方を考えることができる。型を持ち続けること自体が、産地の資産になっているんです。一方、九谷では、素地をつくって焼く人、転写シートを印刷する人、そのシートを器へ貼る人が、それぞれ別でした。工程が完全に分かれているので、各段階で柔軟に対応してくれる人を探し、つないでいかなければならない。

MAX渡辺:みんな別なんですよ。フィギュアなら、どこへ何を相談すればいいか、僕らは長い経験のなかでわかっています。でも陶器は、最初にその関係をつくるところから始めなければならなかった。

寺井:型の扱いも産地によって違います。有田の大きな窯元は大量の型を保管していますが、九谷では量産のなかで型を処分してしまうこともある。さらに瀬戸焼や美濃焼など、より大きな生産規模を持つ産地もあり、それぞれ得意な価格帯やロット、生産の仕組みが違います。九谷にもあり型はありましたが、僕らがつくりたいものに合うレパートリーは限られていた。それなら「オリジナルでつくったほうがいい」と考えるようになりました。

──フィギュアと陶器のものづくりで、大きく違うと感じたことはありましたか。

MAX渡辺:「これができないの?」ということが随分あったし、反対に「えっ、それはできるんだ」という驚きもありました。まずは、なにができてなにができないのかを勉強することから始まって、その試行錯誤にめちゃくちゃ時間がかかったんです。フィギュアは長くやってきたので、ほぼすべての工程を知っています。「これをやりたい」と思った時に、誰に相談すればいいかもわかるし、一緒に考えてくれる人たちとの関係も深い。技術も日進月歩で、「UVプリンターで、こんな色まで出せるようになりました」と聞けば、「だったら、こういうプロダクトをつくろう」と次へ進めます。かなり率直に言えば、陶器の世界は斜陽産業で、技術的には止まっている部分がある。でも、そのなかにも「実は、こんなことができる」という技術が眠っている。それを掘り起こせたらいいなと、今は思っています。伸びている業界は、「こんなことをしてみたい」という試みを積み上げてきた歴史があります。当然、摩擦やネガティブなことも生まれるし、値段も上がる。でも、昔のフィギュアと今のフィギュアを比べると、レベルは全然違う。いいものをつくっていたつもりでも、当時のものを見ると「え、これかよ」と思うくらいです(笑)。陶器も、受け継がれてきた技術を掘り起こし、新しい要求と出会わせることで、まだ変わっていけるのではないか。その可能性を感じました。

──最初のアイテムとして、なぜマグカップを選んだのでしょうか。

小田雄太(以下、小田):陶磁器を生活に取り入れてもらうことを考えると、日用品であることが大切でした。マグカップなら、普段陶磁器に馴染みのない人にも使ってもらいやすい。それに、精密なグラフィックと立体の組み合わせを考えるうえでも、最初のアイテムとして可能性があると思ったんです。

MAX渡辺:最初は、すでにある型のなかから使えそうなものも探しました。「まあ、これでいいんじゃない」という形はあったんです。でも、これから続けていくシリーズの最初を、それで始めるのは嫌だった。ちゃんと自分たちが思う形にしたいし、スタッキングできるものがいいよね、という話になって、一からつくることにしました。

小田:僕が平面のデザイン画を描いてMAXさんに送ったら、ものすごい速さで3Dデータになり、3Dプリンターで出力した立体が返ってきたんです。当時は今ほど、3Dプリンターでの出力が当たり前ではなかったので、「こんなつくり方があるのか」と驚きました。

MAX渡辺:僕は、キャッチボールで自分のところに球が来たら、とにかくすぐに返すんです。そうしないと仕事が進まないということが、経験則で体に染みついている。デザインが上がってきたら、具体的な形にして投げ返す。そうすれば、次の検討に進めますから。

写真提供:VaistarStudio

◎職人たちとの関係構築。デジタルと手仕事のあいだを往復する

小田:カップの比率だけでなく、マグカップ本体のフチに対して取っ手の位置を少し下げたものと、揃えたものなど、複数の立体をつくって比較しました。僕らは自然に、面が揃っているほうが美しいと考えた。でも、その「本体のフチと取っ手を揃える」が九谷のつくり手にとっては、非常に難しいオーダーだったんです。

寺井:カップの本体は、ろくろで回しながら円形につくれます。一方、取っ手は型から出した後、最後は人の手で取り付ける。一般的なマグカップの取っ手が少し下からついているのには理由があって、本体の上端と完全に面を揃えようとすると、ほんのわずかなずれまで目立ってしまうんです。職人さんからすれば、歩留まりが悪くなるから、わざわざそんなことはしない。「少し段差が出ることは許容してください」と真顔で言われました。

MAX渡辺:でも僕らにとっては、面が揃っていることが、この形の重要なポイントだった。スタッキングした時の美しさも全然違うので、職人さんには相当頑張っていただきました。


小田:3Dプリンターでつくった時には、僕らも別に職人さんを苦しめようと思っていたわけではなくて(笑)。二つを比べて、こちらのほうがいいですね、と決めただけなんです。でも、デジタルで設計した形を陶磁器へ置き換えると、そこに人の手や素材の条件が一気に入ってくる。その違いが、形の細部に現れています。

寺井:形だけでなく、器の上下を分ける直線的なグラフィックも難しいんです。実際の器には、わずかなテーパーがあります。その曲面に転写シートを貼り、上下の柄を1ミリほどの隙間へぴったり合わせるのは、ほとんど神業です。線だけの柄なら、少しずれても目立ちにくい。でも、広い面を一色で見せるデザインは、ごまかしが利きません。黒一色で大きく塗りつぶすようなことは、普通のマグカップではまずやらない。僕らは攻めているつもりがなかったのに、一つひとつ、窯業の常識を蹴破るようなものを送りつける人になっていました(笑)。

小田:転写は、山近スクリーンさんに担当していただきました。僕らは最初、そのデザインがそこまで難しいとは思っていなかったんです。こちらが考えた精度に応えるために、すごく頑張っていただきました。

MAX渡辺:フィギュアの世界では、原型、彩色、量産の各工程に、こちらの細かな要求を受け止めてくれる人たちがいます。九谷でも、素地や転写、絵付けのそれぞれに、同じような関係を一から築いていった。3Dプリンターで出力した原型を送れば、そのまま製品になるわけではありません。デジタルと手仕事のあいだを往復しながら、一つずつ調整しました。

写真提供:VaistarStudio

◎洋絵と和絵具。上下で異なる色の原理を持つマグカップ

──形が見えてきた後、初音ミクとのコラボレーションはどのように実現したのでしょうか。

MAX渡辺:「では、どの版権でやろうか」という話になりました。僕らはクリプトン・フューチャー・メディアさんとは長いお付き合いがあります。初音ミクのフィギュアを数多くつくってきたこともあり、「こういう陶器をつくりたいのですが、許諾をいただけませんか」と相談しました。僕としては、まず初音ミク一種から始めたいと思っていたんです。すると「このデザインであれば、ぜひ六種類すべてやってください」と言われた。しかも、まとめて開発してほしいと。そこで、小田さんは頭を抱えることになりました(笑)。

小田:最初はミクだけをつくり、小さくスタートするつもりでした。すでに一つのデザインをまとめるだけでも、形や転写、色の出方を含めて多くの検討をしていたので、「あと五つ、しかも同時に」となった時は、息が止まるような感覚でしたね。ただ、6つを単なる色違いにはしたくなかった。パッと見た時には共通するリズムがあり、並べれば一つのシリーズに見える。でも、細部を見ると、すべて異なるデザインになっている。上半分の幾何学模様には、それぞれのキャラクター名のアルファベットを分解して忍ばせています。

──6つのキャラクターを、それぞれの色で表現するうえでは、どのような難しさがありましたか。

小田:このマグカップは、上半分と下半分で使っている絵具の性質が違います。上の細かなパターンは洋絵具で、複数色を比較的精密にコントロールできる。下は和絵具の単色で、ガラス質の層が重なり、下地が透けて見えます。同じ「色」と言っても、上と下では原理がまったく違うんです。

寺井:極端に言えば、ひとつの器のなかを「RGBとCMYKでつくっています」というくらい、別の理屈が共存している。同じ方法では色を変えられません。

MAX渡辺:監修では当然、「キャラクターの色を、もう少し鮮やかにしてください」「この色は違います」といった指示も入ります。でも、和絵具の少し鈍く半透明な色には、その色である意味がある。下地や焼成によって見え方が変わり、デジタルデータと同じようには調整できません。実際に、初音ミクのグリーンを巡音ルカへ展開したところ、「ルカの色は、こちらではありません」とチェックが入り、青みを強く調整した試作もありました。洋絵具の側なら変えられることもある。でも、和絵具の側は「この素材では、この色しか出せない」ということがある。その揺らぎを含めた表現なのだと、何度も説明しました。

小田:下半分には、細かな貫入が見えることもあります。上と下でツヤや透明感が違い、使うなかで表情も変わっていく。そこは欠点ではなく、素材の性質として受け止めてほしい部分です。

寺井:チェックする側は、画面上の色に近づける感覚で判断する。一方、つくる側にとって陶磁器は、かなり生き物に近いんです。焼いてみなければわからないし、同じ条件でつくっても、一つとして完全に同じものにはならない。「色を少し変える」という一言が、デジタルでは簡単でも、窯業ではまったく別の意味を持つ。その間を翻訳する必要がありました。

小田:試作がすべて承認されるまで、2年ほどかかりました。やり取りが長引くほど、職人さんたちを待たせることにもなりました。「この仕事は、本当に仕事になるんですか」と言われても当然です。

MAX渡辺:最初に会った時と、しばらく経ってから会った時で、職人さんの顔が違いましたからね(笑)。

小田:プロジェクトが長引きすぎて、職人さんが降りてしまうかもしれないという話になり、3人で九谷へ行きました。何かを決めるためではなく、安心してもらうためだけに。

MAX渡辺:「この話は生きています」と伝えるために行きましたね。

寺井:向こうからすれば、何年も試作を繰り返しているのに、いつ仕事になるのかわからない。「もしかして、あの人たちは全員架空なんじゃないか」という、ちょっとした地面師のような状態だったと思います(笑)。こちらにも版元の監修があり、職人にも素材の都合がある。それぞれの時間感覚と常識が異なるなかで、「僕らはいます」「逃げません」と直接伝え、関係を切らさずにつなぐことも、このプロジェクトの重要な仕事でした。

<第3回へ続きます>

Art by KEI © Crypton Future Media, INC.www.piapro.net
Art by iXima © Crypton Future Media, INC.www.piapro.net

PROFILE

MAX渡辺
1987年ガレージキットメーカー、有限会社マックスファクトリーを設立。当初からマニアを唸らせる完成度の高い製品をリリース、多くのホビーファンに高い支持を得ている。現在は株式会社マックスファクトリー代表取締役。パームサイズアクションフィギュア「figma」や美麗なスケールフィギュア、そしてプラスチックモデルPLAMAXシリーズを展開、多くのホビー商品を提供している。MAX渡辺自身は、マックスファクトリーの代表であると同時に、自身もプロモデラーとしてホビー専門誌に連載を持ち、モノづくりの楽しさを発信し続けている。
MAX渡辺のプラモ大好きスーパーモデリングマニュアルVol.1〜2
ホビージャパンMOOK MAXWORKS
Ma.k in SF3DアーカイブVol.1〜6 他多数
2024年4月より株式会社ウェーブの代表取締役に就任、マックスファクトリー代表と兼任している。

寺井元一
株式会社まちづクリエイティブ代表取締役/アソシエーションデザインディレクター、NPO法人KOMPOSITION代表理事。ストリートカルチャーに関わる表現者支援を出発点に、エリアブランディング、行政と民間の官民連携、ローカルビジネスの起業支援から空家再生、さらには公共空間の利活用まで、まちづくりに必要な多様な事業やプロジェクトを立ち上げてきた。主な参画事例は、千葉・松戸駅前エリア「MAD City」「松戸アートラインプロジェクト」「PARADISE AIR/STUDIO」、佐賀・武雄温泉エリア「TAKEO MABOROSHI TERMINAL」、埼玉県埼京線沿線「SAI-KYO DIALOGUE LINE」、東京・渋谷「ササハタハツまちラボ/ササハピ」「ALLDAY 5ON5 TOURNAMENT」「リーガルウォール」等。

小田雄太
デザイナー、クリエイティブディレクター。株式会社まちづクリエイティブ取締役/COMPOUND inc.代表。多摩美術大学非常勤講師平面領域のデザインを軸足にしながら、メディアやファッション、VR領域、エリア開発、まちづくりまでのリードデザインを手掛ける。最近の主な仕事にMADcity(まちづくり)、100BANCH(インキュベーション)、BONUSTRACK(エリア開発)、Newspicks(メディア)、STARTBAHN CERT(ブロックチェーン/NFT)、STYLY(VR)、COMME des GARCONS noir kei ninomiya(服)など。

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