フィギュアの企画・制作を手がけてきたマックスファクトリーが、伝統工芸の手仕事へと眼差しを向けて立ち上げたブランド「CERAMAX(セラマックス)」。特定のIPや産地の枠を越え、受け継がれた技と設計の知性をつなぎ、日々の道具をアップデートすることを目指し、第一弾として発表された「MIKU LINE」では、九谷焼の五彩に、初音ミクをはじめとするピアプロキャラクターズの世界観を重ねたマグカップがつくられた。プロジェクトの発起人はマックスファクトリー代表のMAX渡辺、そして松戸を拠点にまちづくりに取り組むまちづクリエイティブ代表の寺井元一、同社取締役でクリエイティブディレクターの小田雄太の3人。初音ミクの顔を大きく描くのではなく、色と名前を幾何学的なパターンへと抽象化する。九谷の職人による手仕事を、日々使うマグカップとして、フィギュアの売り場から届ける。器の形と絵付けを完成させた後にも、パッケージ、価格、流通、ブランドの位置づけなど、異なる業界の商習慣をつなぐ試行錯誤が待っていた。一点もののアート作品でも、大量生産のノベルティでもない。セラマックスは、そのあいだにある「マルチプル」という領域から、新しい所有と「めで方」を提案する。
<第2回はこちら>
Text+Edit:Moe Nishiyama
Photo:Ryo Yoshiya, VaistarStudio

◎日常の器として長く使えるもの。キャラクターの世界観を抽象化する
──マグカップのデザインについて、キャラクターの姿を大きく描くのではなく、抽象的なグラフィックにしたのはなぜでしょう。
小田:初音ミクの顔を大きく入れれば、一目でキャラクター商品だとわかります。でも、それをすると陶磁器というより、キャラクターの絵が印刷されたグッズに見えてしまう。カテゴリーとしてはもちろんキャラクター商品なのですが、日常の器として長く使えるものにするために、世界観をどう抽象化するかを考えました。6つのデザインは、同じ柄のカラーバリエーションではありません。それぞれのキャラクター名を構成するアルファベットを分解し、幾何学模様のなかへ入れています。全体には共通するリズムがあるけれど、細部はすべて違うんです。
寺井:グラフィティのように文字が埋め込まれているけれど、最初はほとんど読めない。日常的に眺めるうちに、「これはKじゃないか」「ここにUがある」と気づいていく。
小田:発表時、まだ全キャラクターの詳細を見せていない段階で、メインビジュアルに少しだけ写り込んだ柄を見て、「ミクとリン・レンではパターンが違う」と気づいた人がいました。そこまで見ている人がいることに驚きましたが、細部を発見し、面白がってくれるファンがいるんですよね。
MAX渡辺:普通に見たら、同じ柄のカラーバリエーションに思える。でも、実は違う。誰かに頼まれたわけでもないのに、後から「はっ」と見えてくるものを、小田さんは黙って仕込んでいる。そのあたりは、彼の矜持なのだろうと思います。
──内側には、キャラクターのシルエットが描かれています。
MAX渡辺:どこにもキャラクターの姿がないと、ファンが手に取るための最後のモチベーションが生まれにくいのではないかとも思ったんです。それで、内側にはシルエットを入れています。その大きさや位置も、かなりやり取りしました。
小田:最初は、シルエットを網点分解し、写真のような階調を再現する案も試しました。でも、いろいろな議論と試作を経て、最終的にはシルエットだけになった。結果として、かなり抽象度の高いデザインになりましたね。
寺井:デザインとして置きたい場所があっても、器の段差や絵付けの工程上、そこには置けないことがあります。「この段がなければ、もっと下にできる」「でも、この段は製造上なくせない」といったやり取りをしながら決めました。


◎陶器の「箱」を、フィギュアの売り場と商習慣から考える
──器そのものだけでなく、パッケージにも長い検討期間があったそうですね。
小田:一般的なカトラリーショップでマグカップを買うと、緩衝材で包み、ショッパーに入れて渡されることが多いですよね。でも、マックスファクトリーの商流で販売するなら、箱に入っている必要がある。最初はフィギュアと同じように、中身が見え、店頭で吊るすことのできる透明なブリスターパッケージを考えていました。
MAX渡辺:実際に、フックをつけたものなど、いくつも試作しました。ところが、陶磁器はフィギュアとは重さが違う。衝撃テストをすると割れてしまうし、強度を出すために型から起こすと、パッケージだけでかなりの金額になってしまう。「安く売るつもりはないけれど、高くなりすぎてもいけない」というぎりぎりのところで、最終的に紙箱へ切り替えました。
小田:紙箱も、このマグカップに合わせた専用設計です。当初は六種類すべてを同じ箱に入れ、キャラクターごとの差は最低限にする想定でした。ところが版元から、「箱もキャラクターごとに色を変えてください」と監修が入った。それが、箱の発注契約を交わす直前だったんです。
寺井:また箱屋さんに、「止まっていますが、やらないわけではありません」と説明することになりました。
MAX渡辺:「僕たちは逃げません」と(笑)。
小田:箱は、外側と内側、カップを支える台座など、複数の紙パーツで構成されています。同じ色を使える部分と、変える部分を組み合わせ、なるべく製造上の色数を抑えながら、それぞれのキャラクター商品として成立するようにデザインし直しました。
さらに、箱を開けた時にカップがよく見えることを優先すると、輸送中に割れやすくなることもわかった。中の台座を直して輸送テストを繰り返し、ようやく完成しました。
MAX渡辺:最初のボタンの掛け違いは、陶器とフィギュアの商習慣の違いです。陶器の世界では、パッケージをここまでつくり込むことがほとんどない。一方、フィギュアの世界では、キャラクターが違うのに同じパッケージということはまずありません。色の組み合わせまで細かく監修が入って、僕らもかなり頭を抱えていました。「そこまで細かく指定されるか!」と焦りがデカかった(笑)。でも、粘り強く見てもらったからこそ、一つひとつのキャラクター商品として完成度の高いものになったのも事実です。
小田:普通の陶器メーカーであれば、「この箱に入れ、緩衝材で包んで送る」というところで割り切ると思います。それをせず、陶磁器をある種のフィギュアとして売るために、別の業界の習慣を学びながら折り合いをつけていった。そこにも、今回のプロジェクトの面白さがあります。


──「CERAMAX」というブランド名は、どのように生まれたのでしょうか。
小田:ここまでの経緯や、ものづくりにかけた時間を考えると、単発のコラボレーション商品として出すのではなく、マックスファクトリーのブランドとして、しっかり位置づけたほうがいいと思いました。有田のリサーチ中、MAXさんが「陶器とフィギュアは、見た目は違っても、本質的には近いのではないか」と話していたことも印象に残っていました。マックスファクトリーから出るブランドやシリーズには「マックス」とつくものが多い。それで移動中のタクシーのなかで、「セラマックスはどうですか」と提案しました。
MAX渡辺:即決でしたね。セラミックとマックスで、セラマックス。微妙なダジャレ感も含めて完璧じゃないですか。「これは降りてきたな」と思いました(笑)。
寺井:あれが、このプロジェクトで一番早く決まったことかもしれません。

◎一点もののアートと大量生産のノベルティの間で。見ることと愛すること、二つの意味で「めでる」プロダクトを
──フィギュアと陶器が「本質的に近い」というのは、どのような意味でしょうか。
MAX渡辺:どちらも、「僕はこれが好きです」ということを表明するものだと思うんです。自分のお財布から、自分の生活の範囲でお金を出して手に入れる。それをどのように使い、どのように「めでる」のか。「めでる」には、見ることと、愛することの両方がある。その意味では、フィギュアも器も同じではないかと。今はSNSで「これを買った」「こんなふうに使っている」と発信すると、「自分も好きです」「それ、いいね」というつながりが生まれます。ただ、フィギュアを買う人が、そのまま器を買うとは限らない。初音ミクの音楽が好きで、そこから入ってくる人もいる。いろいろな方向からファンが来るプロダクトなので、これまで僕についてきてくれた人とは違う層にも届けなければならない。どの媒体で、どのように伝えればいいかは、今も模索しているところです。
──完成までに4〜5年を要し、職人の手仕事も多く含まれています。一方で、一点ものの美術作品ではなく、日用品として流通するプロダクトでもあります。
寺井:まさに、そこが一番大変だったところです。職人が一つひとつ絵を描き、「限定30点、1点数万円です」とすれば、つくり方も価格の説明も、ある意味ではわかりやすい。一方、既存の型を使い、デザインの難易度を下げ、箱も一種類にして、数万個つくるなら、もっと安いキャラクターグッズとして成立させられます。でも、高価なアートピースに振り切るのでも、安価なノベルティーにするのでもなく、中量生産で質の高いものをつくりたいと考えた。アートと大量生産のプロダクトの間に落とし込み、千単位で人の手に届くものにする。上下どちらの安易な方向にも行かなかったから、ものすごく苦労したんです。
MAX渡辺:寺井さんの総括が、このプロダクトの要点だと思います。僕らはフィギュアを長くやってきたから、「職人が丹精込めてつくった一点ものだから、この値段です」という形にはしたくなかった。クオリティーは高いけれど、それが一見して伝わるかというと難しい。ある種、一番大変なところを選んでしまいました。
小田:アートには一点ものがあり、プロダクトには大量生産があります。その間に、同じ作品を複数つくる「マルチプル」という考え方がある。セラマックスは、まさにマルチプルなものです。一つひとつに手仕事の差がありながら、ある程度の数がつくられ、日常のなかへ入っていく。今、世の中にはマルチプル的なものが増えていて、そのよさに気づく人も少しずつ増えています。ただ、既存の大量生産品とは商習慣が違うので、それをどう認知してもらい、届けるための構造をつくるかは、これからの課題です。
寺井:1万円を切る価格をどう見られるかはわからないけれど、5万円、10万円の器をみんなが欲しいわけではないし、500円、1000円なら何でもいいわけでもない。本当は、多くの人が一番欲しいのは、この間にあるものではないかと思うんです。安くはないけれど、長く使えて、つくり手の工夫に触れられる。時間はかかっても、こういうものを求めている人が、その価値に気づくところまで市場を育てる必要があります。
MAX渡辺:正直な話をすると、初回の数字はあまり振るっていません。でも、それはある意味で当然だとも思っています。フィギュアであれば、「この大きさとクオリティーなら何万円くらい」という感覚が、買う側にもある程度共有されています。でも、こういう器を買うことは、まだその人の購買行動のなかにない。だから、たとえば「あなたはKAITOというキャラクターを、どれだけ好きなのか」という踏み絵を、僕らはお客さんに迫っているようなところがある(笑)。最初から簡単に売れるとは思っていません。じっくり腰を据えて、世界をつくっていく必要があります。


◎使い手自身が育てていく。働いている大人が、「自分はこれが好きだ」と表明できるものとして
──フィギュアとは異なる、新しい「めで方」が生まれそうです。
MAX渡辺:フィギュアは、買った瞬間、あるいは注文した瞬間が一つのクライマックスなんです。「いいものを買った」と所有欲が満たされる。でも、これは使うものです。コーヒーや紅茶を入れ、毎日触れているうちに、「この色、少し変わってきたな」「ここにこんな柄があったんだ」と気づく。時間をかけて、あとからジワるものなんです。
小田:洋絵具と和絵具では、ツヤや透明感も異なります。さらに色によって絵具の性質が違うので、黒はツヤが強く見え、別の色は少しマットに見えることもある。その差を「ミスではないか」とコメントした人がいて、そこまで細かく見ているのかと驚きました。でも、フィギュアもディテールに楽しみを見つけるものですよね。そういう眼差しが、陶磁器にも向かっていくのだと思います。
MAX渡辺:中国製のキャラクター商品としてのカップとは、焼成の温度も違います。色落ちや色の変化が少なく、長く使える。そのよさも、じんわりわかってもらえたらいいなと思います。
寺井:フィギュアは、同じ商品を二つ混ぜたら、どちらが自分のものかわからないくらい同じにつくられていると思います。でも陶磁器は、一つひとつ微妙に違う。持ち主がその差を把握していれば、いくつ混ぜても「これが自分のものです」と言えるかもしれない。
工業製品の均一さとは違う見方を、お客さん自身が育てていくことにもつながると思います。
──キャラクターを抽象化したことで、これまでキャラクター商品を手に取らなかった人や、陶磁器に敷居の高さを感じていた人にとっても、入口になる可能性がありますね。
MAX渡辺:そうなってほしいと思います。缶のペンケースや下敷き、クリアファイルのように、「自分はこれが好きだ」と生活のなかで表明できるものは増えました。でも、このマグカップは、そこからもう一段敷居が高い。プラスチックのカップを買うこととは違うので、働いている大人のためのキャラクター商品でもあると思っています。
寺井:その代わり、一度買えば一生使えるかもしれない。マグカップは、ほとんどの人がすでに持っています。今あるものを手放し、「これで揃えたい」と思ってもらうのは簡単ではありません。でも毎日使い、友人が来たらそれで飲み物を出すと考えれば、実はとてもコストパフォーマンスがいい。そこに気づいてもらえたら、食卓をセラマックスが席巻する日も来るんじゃないかと思います(笑)。
MAX渡辺:これは本当に提案商品です。普通のマグカップを持っている人に、「それでも、これにしたい」と思ってもらわなければならない。だからこそ、続けることが大事なんです。
──第一弾をつくり終えた今、セラマックスをどのようなブランドにしていきたいと考えていますか。
MAX渡辺:僕にとって、これは非常にいいチャレンジになりました。だから今は、臆することなく「次のIPは何にしようか」と話しています。セラマックスは、初音ミクたち六つのマグカップを出すためだけのブランドではありません。これは、いろいろな意味で「腐らない」ものです。フィギュアは素材として経年劣化することがありますが、陶磁器は長く残る。そして初音ミクというIPも、長い時間にわたって愛され続けている。僕らがいなくなった後にも残るかもしれないものを、これからもつくり続けたいと思っています。
小田:今回の経験を通して、IPを持つ側、デザインする側、製造する側、それぞれが違う常識で動いていることも見えてきました。マルチプルのようなものを成立させるには、つくる技術だけでなく、コンテンツを持つ人たちにも、その価値や時間感覚を共有してもらう必要があります。最近は少しずつ、IPホルダー側の意識も変わってきていると感じます。原作者自身がプロダクトへ関わる例も増えている。そこも含めて、新しい構造をつくっていきたいです。
寺井:まちづくりの側から見ると、これは地場産業の仕事をどうつくり、どう維持していくかという問いへの、僕らなりの一つの答えです。大量に安くつくるだけでは、国内の窯業は海外製品と競争できない。一方で、一点ものだけでは、関われる職人や届く人の数が限られる。異なる産業やカルチャーとつながりながら、質を落とさず、ある程度の数をつくることができれば、産地に新しい仕事を生み出せるかもしれません。窯業以外にも、地域には受け継がれてきた技術がたくさんあります。セラマックスがきちんと機能していけば、別の産業にも応用できる。そういう意味でも、引き続き取り組んでいきたいプロジェクトです。
MAX渡辺:最初から相当難しいことをやってしまいましたけどね(笑)。
小田:最初にラスボスと戦ったようなものですね。
寺井:一発目としては、結果的によかったのかもしれません。次は、一度くらい少し楽をしたいですけど(笑)。
MAX渡辺:ここまで苦労して、これで終わるのは絶対に嫌ですから。これから、じわじわと続けていきます。

Art by KEI © Crypton Future Media, INC.www.piapro.net
Art by iXima © Crypton Future Media, INC.www.piapro.net
MAX渡辺
1987年ガレージキットメーカー、有限会社マックスファクトリーを設立。当初からマニアを唸らせる完成度の高い製品をリリース、多くのホビーファンに高い支持を得ている。現在は株式会社マックスファクトリー代表取締役。パームサイズアクションフィギュア「figma」や美麗なスケールフィギュア、そしてプラスチックモデルPLAMAXシリーズを展開、多くのホビー商品を提供している。MAX渡辺自身は、マックスファクトリーの代表であると同時に、自身もプロモデラーとしてホビー専門誌に連載を持ち、モノづくりの楽しさを発信し続けている。
MAX渡辺のプラモ大好きスーパーモデリングマニュアルVol.1〜2
ホビージャパンMOOK MAXWORKS
Ma.k in SF3DアーカイブVol.1〜6 他多数
2024年4月より株式会社ウェーブの代表取締役に就任、マックスファクトリー代表と兼任している。
寺井元一
株式会社まちづクリエイティブ代表取締役/アソシエーションデザインディレクター、NPO法人KOMPOSITION代表理事。ストリートカルチャーに関わる表現者支援を出発点に、エリアブランディング、行政と民間の官民連携、ローカルビジネスの起業支援から空家再生、さらには公共空間の利活用まで、まちづくりに必要な多様な事業やプロジェクトを立ち上げてきた。主な参画事例は、千葉・松戸駅前エリア「MAD City」「松戸アートラインプロジェクト」「PARADISE AIR/STUDIO」、佐賀・武雄温泉エリア「TAKEO MABOROSHI TERMINAL」、埼玉県埼京線沿線「SAI-KYO DIALOGUE LINE」、東京・渋谷「ササハタハツまちラボ/ササハピ」「ALLDAY 5ON5 TOURNAMENT」「リーガルウォール」等。
小田雄太
デザイナー、クリエイティブディレクター。株式会社まちづクリエイティブ取締役/COMPOUND inc.代表。多摩美術大学非常勤講師平面領域のデザインを軸足にしながら、メディアやファッション、VR領域、エリア開発、まちづくりまでのリードデザインを手掛ける。最近の主な仕事にMADcity(まちづくり)、100BANCH(インキュベーション)、BONUSTRACK(エリア開発)、Newspicks(メディア)、STARTBAHN CERT(ブロックチェーン/NFT)、STYLY(VR)、COMME des GARCONS noir kei ninomiya(服)など。



