CIRCULATION CLUB

「いらない」世界を変える──株式会社エコランドに根付くエコ精神のはじまりを辿る

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誰かの「いらなくなったモノ」を回収し、「いらない世界を変える」───そんな「循環型物流」の道を切り開いてきた株式会社エコランド。「リユース」という言葉がまだ社会に浸透していなかった頃から、同社はリユースアイテムを多くの人々に届けるための試行錯誤を繰り返してきた。そのエコランドが株式会社まちづクリエイティブとともに新たに立ち上げるプロジェクトが「CIRCULATION CLUB」だ。

そんなエコランドの親会社である株式会社ウィンローダーには、「CIRCULATION CLUB」の前段ともいえるプロジェクトがかつて存在した。それが「Re-arise(リアライズ)プロジェクト」。サステナブルなものづくりの方法を提示する「アップサイクル(創造的再利用)」の考え方にもとづき、廃品を用いた新たなプロダクトを生み出す試みだ。

キーマンとなっていたのは、環境に配慮するサステナブルデザインを研究テーマとしてきた、インダストリアルデザイナーの益田文和さん。元東京造形大学教授である益田さんは、ウィンローダーと共に、どのような経緯で「Re-arise プロジェクト」を立ち上げたのか。当時の時代背景を振り返りながら、ウィンローダー代表取締役である髙嶋民仁さんと、同プロジェクトに込めた思いや「CIRCULATION CLUB」への期待を語ってもらった。

Text:Haruya Nakajima
Photo:Natsuki Kuroda
Edit:Shun Takeda

先駆的アップサイクルプロジェクト「Re-arise」立ち上げの経緯

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──お二人が立ち上げられたアップサイクルをテーマにした「Re-arise(リアライズ)」はどういう経緯で始まったのでしょうか?

髙嶋:もう20年近く前に、当時のウィンローダーにデザイン志向があるインターン生が一人いました。彼が、私たちの目指すアップサイクリングに通じる試みを東京造形大の益田先生という方が研究されているらしいと、聞きつけてきたんです。調べてみると、益田先生はデザイン界を代表するインダストリアルデザイナーであり、エコロジーにもご関心があるとわかりました。そこで、益田先生の門戸を叩いてみようと伺ったのが最初でしたね。

益田:私は、社会的にはかなり早い時期からエコデザインに取り組んできました。1980年代の終わりから関わって、1993年にはヨーロッパで最初のエコデザインの国際会議に参加しています。その2年後には世界中からデザイナーを呼んで、京都で大規模な会議を行いました。テーマは、リサイクルなどエコデザインに関すること全般です。その中に、当然アップサイクルの考え方は含まれていました。
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私が思うに、世の中には2種類のデザイナーが存在します。それは何もないところから考え出すのが得意なデザイナーと、モノを見て発想するのが得意なデザイナー。前者は放っておいても作品をつくるんだけど、素材に手がかりがない場合が多い。逆に後者は壊されたモノや捨てられたモノに目がいって、そこから何かをつくり出していくミノムシみたいなところがある(笑)。後者はいわゆる美大教育の中ではマイノリティですが、僕にしてみると世の中とリンクしていておもしろかった。

ウィンローダーさんとの交流が生まれてから、学生を連れて東村山の倉庫にお邪魔した時、みんなで「宝の山だ!」って夢中になって。壊れた扉なんかを好きに持って帰らせてもらいましたよね(笑)。

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──その頃、先生の研究はどういうところに焦点を当てていたのでしょうか?

益田:私はもともとインダストリアル・デザイナーです。まっさらな工業製品をつくり出す仕事ですから、家電製品や自動車をデザインしてきました。だけど、ショックだったことがあります。

ある時京都を歩いていて、綺麗な淀川べりの風景の中に、粗大ゴミが捨ててあった。「こんなところにゴミなんか捨てて」と思って近づいていくと、5、6年前に私がデザインした洗濯機だったんです。「あちゃ〜、マズイなぁ」と思ってすぐ目をそらしたんだけど、すぐにその製品に使われている鉄板やプラスチックの量を計算してみたんです。けっこう売れた製品だったから、10万台はつくってる。ものすごい量なんですよ。

私が見つけたのは一台ですが、おそらくその時までにほぼ全てが捨てられている。しかも、それがどこに行ったか誰も知らない。私たちはデザインして何かをつくるけれども、その結果、何年かすると全部ゴミになる。それを追いかけるようにして次の製品をつくっていくということをやってるわけですよ。愕然としてね、仕事自体を考え直さないといけないと思いました。

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それ以来、必要のない装飾や分解できない素材などの要素を削ぎ落としていくことを考え始めたんです。その過程で、やはり環境というものの基本を学ばないといけないと感じて、環境負荷についての研究を始めました。

──ご自身の実体験もあって、先駆的にエコデザインに携わっていらしたんですね。

益田:今は山口県で自然素材を使ったモノづくりに注力しています。例えば、インドネシアから学んで、竹の自転車をつくってるんですよ。インドネシアの人たちは竹で自転車をすごくうまくつくるんです。それを日本でもやってみています。

また、最近は宮城県の石巻もフィールドにしていて、ある企業がプラスチック容器のゴミを減らすために、パウチの詰め替え容器をつくりました。でも、これが全部燃やされているのはやっぱりマズいだろうということで、独自に回収してマテリアルリサイクルする試みをもう3、4年続けています。そうした取り組みは、相変わらず私の中でずっとつながっていますね。

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髙嶋:私たちも初めてお会いした時から、終始一貫してご指導いただいてきました。エコランドの原型も、とにかく捨てられているモノをなんとかしたいという想いから始まったので、多くのことを学ばせていただきましたね。

学生とともに廃材を活用した作品を制作

──運送会社である株式会社ウィンローダーの社内ベンチャーとしてスタートしたエコランドですが、そもそも髙嶋社長にはどのような考えがあって立ち上げたのでしょうか?

髙嶋:エコロジーの行き渡った国にしたいという純粋な気持ちですね。先ほど益田先生がご自身でデザインされた洗濯機の話が上がりましたが、僕の場合はテレビデオでした。

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高嶋ビデオデッキとブラウン管テレビが一体化したテレビデオを当時使っていたのですが、そのビデオデッキ部分が壊れてしまったんです。そこで新たにビデオデッキが欲しいと思っていた時に、粗大ゴミでビデオデッキが捨てられていた。それを持って帰っていいか役所に確認したところ、ダメだというルールになっている、と。そこで「なんとかならないのかな」と思ったのが一つのきっかけです。

益田:当時、髙嶋さんはやりたいことがたくさんおありでした。でも、預かったモノは必ず処分しなきゃならないなど、レギュレーションが非常に厳しくて悩んでおられましたね。髙嶋さんの「もったいない」という気持ちを強く感じましたよ。

髙嶋:先生と対話を重ねながら色々なアドバイスをいただいて。エコやデザインの「概念」部分を教えていただきましたね。

──そうして始まった「Re-arise プロジェクト」ですが、具体的にはどんな展開があったのでしょう?

髙嶋:はじめに東京造形大の学生の方をご紹介いただいて、試作品をつくってもらいました。そうして出来上がったのが、タイヤとシートベルトの廃材を編み込んでつくったスツール。「すごい!」と思いましたね。これをブリジストンさんが気に入って、社内で展示していただいたりしました。それから、ベッドフレームなどに使われている合板。あれは当時リサイクルが難しかったんです。それを益田先生にご相談したら、テーマを決めて合板から何かつくりましょう、と。

益田:合板は、切った断面がデザイン的におもしろいんですね。そこに気づいた学生が合板の断面を活かした椅子をつくりました。

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プロジェクトの進め方としては、まず学生を連れてウィンローダーの倉庫に行くんです。そこで彼らを野放しにして、持って帰りたいものに印を付けさせると、後日ウィンローダーさんが運んでくださる。そうして預かったモノを使って、学生たちが作品をつくっていきました。

──特に印象深い思い出はありますか?

髙嶋:随分と展示会をやったことですね。「エコプロ」はもちろん、「エコッツェリア」や「ap bank」など、イベント関係のスペースでの展示が多く、雑誌などのメディアにも取り上げていただきました。

ただ、今でも大変申し訳ないと思うのが、学生さんがつくるモノがプロトタイプだったりしますから、ちょっと欠けちゃったり壊してしまったり……。プロのロジスティクスが預かっているとはいえ、運搬や保管が大変でしたね。

益田:まだ全く商品ではないアートワークでしたからね。私にしてみれば、なかなかそういう協力をしてくれる企業はないので、よくやってくださいました。

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髙嶋:逆に私たちがやりたくてお願いしていましたから。学生さんとはいえ、私からしたらみなさん本当にプロにしか見えない。いつも「すごい!」と感激していました。益田先生は本当に寛容で、どういう形でもいいよとおっしゃるものの、何かしら彼らに還元できる方法はないか、継続的な事業にできる方法はないかと模索していましたね。

「Re-arise」の収束と「CIRCULATION CLUB」への期待

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──「Re-arise」は教育的な要素が強いプロジェクトだったのですね。4、5年を経て収束していったそうですが、それはどういう事情からだったのですか?

髙嶋:初期からプロジェクトに携わってきたエコランドのインターン生と東京造形大の学生さんが巣立っていって、想いを持って動くつなぎ役の人たちが抜けていくタイミングでしたね。「Re-arise」はある意味でエコランドの付加価値をあげられる、ものすごいパワーを持ったプロジェクトだと思っていたので、なんとか続けたかったのですが。

益田:はっきりしたきっかけはないんですが、髙嶋さんもご本業が忙しくなっていって。まさにエコランドが事業として発展していくプロセスだったんでしょうね。

また、ちょうどその頃から、リユースからリサイクルへとアップサイクルの中心課題が変わっていったことも影響していたかもしれません。例えばプラスチックボトルからベンチをつくるといったマテリアルリサイクルなどアメリカやヨーロッパも含めて、世界の注目がそっちに動いたんです。多様性を持った小さな取り組み以上に、インダストリアルの力を借りて、大きな市場で素材を循環させていくという方向に社会的関心が移っていきました。

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益田:私個人としては、3.11がやっぱりすごく大きかったですね。あれから状況が全く変わってしまって、変な言い方をすると悠長なことをしていられなくなった(笑)。私の友人が、3.11で瓦礫が流された映像を見て現地に飛んでいったんです。震災ゴミのリサイクルがしたい、と。でも瓦礫や津波で流されたものなどは、定義上ゴミではないのでリサイクルができない、と断られてしまったそうです。

日本人はゴミを使うことにまだどうしても割り切れない部分があるようです。「綺麗にしたい」という気持ちが、どうしてもスクラップ・アンド・ビルドにつながってしまう。住宅についても、いつの間にか「30年経ったら壊せばいい」というような風潮になってしまいました。それはとても残念なことです。もう一度、リユースして、リペアして、使い続けていく。その道のりは、まだまだこれからだと思います。

髙嶋:まさにその通りで、我々事業者としてもゴミの定義の難しさで悩んでいます。そもそも、所有者がそれをいらないと言った時点でゴミになりますよね。その定義自体から変えていかないといけないんです。法律の問題なども含めるとなかなか骨の折れるところですが、私たちは今でも挑戦を続けています。

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益田:去年、ショッキングなことがあったんです。今、グレタ・トゥンベリさんをはじめとして、子どもたちの気候変動に対する反対運動が盛り上がっていますよね。そこでフランスの映画監督が、ヨーロッパの14歳の男の子を連れて、世界をぐるっと回って、世界中の環境問題について現地の人々と語っていくドキュメンタリーを撮るというので、日本でのセッティングを頼まれたんです。そのロケフィールドをどこにしたらいいかと考えたところ、「夢の島」が思い当たった。

たくさんの許可を取って久しぶりに夢の島に行ってみると、何もないんです。ゴミがどこにも見当たらないんですよ。全てが焼却灰で、地面が埋め立てられているから、ゴミらしいものはどこにもない。ゾッとしました。こんなところでロケなんてできないと監督と話していると、同伴していた東京都の役人が、「ここではゴミ以外の話をしないでください」と言う。環境問題を語ることもできない。ゴミを全て燃やしてしまって無かったことにするこの国はマズいと思いましたよ。

──これから展開していく「CIRCULATION CLUB」と、「Re-arise プロジェクト」のつながりも見えてきたように思います。現在「CIRCULATION CLUB」では、廃材を使ってオリジナル楽器を親子でつくるワークショップを企画しているところなんです。

益田:そのアイディアには大賛成です。大企業が関わって規模の大きいリサイクルを粛々とやるだけでなく、改めて小さな取組を立ち上げ、一人一人の意識を変えようというタイミングなのではないでしょうか。それと、私は最近、いろんなところで「SDGs(持続可能な開発目標)」の話をする機会が多いんですが、17項目のうち、一つだけ抜けているものがある。それは「子ども」なんですよ。だから僕は、18番目に子どものロゴを独自につくって入れています。

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益田:17項目全てが一体誰のためにあるのかと言えば、子どものため以外ありえない。未来は子どもにしか担えないんですから。大人が黙っていても子どもたちは変わってきているので、ワークショップなどを体験していくことで、多分これからすごく大きなムーブメントが起きますよ。彼らが現状を変えてくれるはずです。

ただ、私たち大人がそれに関わらないでいれば、おそらく排除されていきます。だからこそ、子どもたちと一緒になって環境について取り組んでいくことが重要なんです。子どもたちはいろんなモノの遊び方を知ってますよね。隠れてみたり、ひっくり返してみたり。そうしたことを大人も一緒にやっていきながら、モノをつくっていけるといいですね。

髙嶋:益田先生の門戸を叩いた当時、物流会社として家電や家具の配送をしていく中で引き上げるものがゴミになってしまうことを「もったいない」と強く感じ、なんとかしたいとエコランドを事業化してきました。今「Re-arise プロジェクト」からちょうど10年ほど経って「CIRCULATION CLUB」が立ち上がることに、物語が続いているような感じを覚えます。私にも2人の娘がいますから、エコやリユースへの想いをしっかりと形にしながら次の世代に伝えていきたいですね。

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INFOMATION
株式会社エコランド

ecoマーク(グリーン)

70年にわたり物流事業を営む株式会社ウインローダー内のベンチャー事業として「エコランド」がスタート。2013年に分社化。ご家庭で不要になった家具や家電などのリユース代行サービス「エコ回収」を通じて、モノを大切にする社会の実現を目指す。

代表取締役社長:高嶋民仁
所在地:〒167-0043 東京都杉並区上荻2-37-7
URL:https://www.eco-kaishu.jp

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