CIRCULATION CLUB

個人のストーリーから社会課題を紐解く編集術。「NEUT Magazine」編集長・平山潤インタビュー【前編】

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誰かの「いらなくなったモノ」を回収し、「いらない世界を変える」───そんな「循環型物流」の道を切り開いてきた株式会社エコランドと、株式会社まちづクリエイティブが新たに立ち上げるプロジェクト「CIRCULATION CLUB」。

このプロジェクトでは、SDGsのうち11番目「住み続けられるまちづくりを」と12番目「つくる責任つかう責任」にフォーカス。それぞれの視点から意欲的な試みを行っているプレイヤーの方たちへ、リサーチ型のインタビュー連載を実施。

今回は「NEUT Magazine」編集長の平山潤さんが登場。前身メディア「Be inspired!」時代から、SDGsに関連した記事を制作していた平山さんに、自身が社会問題に取り組むきっかけになったルーツや、クリエイティブの力をうまく活用したプロジェクトの考え方についてうかがいました。

Text:Haruya Nakajima
Photo:Yukitaka Amemiya
Interview & Edit:Shun Takeda

学生インターン時代に社長から教わった、サスティナビリティという考え方

──平山さんは自身が編集長を務めるWEBマガジン「NEUT Magazine」や、その前身「Be inspired!」では、かなり早い時期からSDGsについて取り上げていますよね。そもそも、どのような経緯でこれらのメディアに携わるようになったのでしょうか?

平山 大学4年生でインターンをしていた「HEAPS Magazine」の姉妹媒体として、2015年1月に「Be inspired!」が立ち上がりました。スタートから関わってコンセプトメイクに携わらせてもらえたのでやりがいを感じ、大学卒業と同時に入社したんです。当時編集担当が2人だったから副編集長になったんですが、その7月に上司である編集長が退社してしまい、入社3ヶ月で編集長をやることになったんです(笑)。思わぬ出来事でしたが、それが今に続くキャリアの始まりですね。

──学生時代はメディアの仕事につきたいという気持ちが強かったんですか?

平山 もともと雑誌にはすごく興味があって、中高生の時からファッション誌、カルチャー誌、映画誌など何でも読んでいました。大学生になって1年間のアメリカ留学から帰ってきたら、周りはみんな就活をしていたんですが、僕はクリエイティブなことで手に職をつけたいと思い、映像制作会社のインターンに入ったんです。その企業の社長が、ずっとサスティナブルを軸に活動してきた人だったんです。2014年頃ですね。

──まだ国連がSDGsという標語をつくる前ですね。

平山 彼にサスティナブルという考え方を教えてもらいました。当時まだ日本ではほとんど聞かない言葉だったので、環境に対する活動に関してかなりラディカルでエッジの効いた人たちだったはずです。ただ、それでも彼らのビジョンと実際の仕事には少し隔たりがありました。森林保護のキャンペーン映像をつくったり、理念を共有できるクライアントと仕事をしたりもしていましたが、それは一部でしたから。だったら、自社でメディアを持っている会社に行けば、自分が大切にしている考えを少しでも折り込んで発信できるのではないか、と。

──その時点で、いわゆるプロダクション的な制作業務だと、自分のビジョンと合致しない案件でもやらなければならないということに気づいていたんですね。

平山 でも、彼らの姿からはすごくインスピレーションをもらいました。サスティナブルなキャンペーン映像も、カッコよくつくりあげるからです。その時に、社会課題を少しでも解決に向かわせるようなアウトプットを、一般的に見てクールなクリエイティブに落とし込むことの重要性を実感しました。ここが僕の関心のポイントです。そんなメディアやプロダクトをつくることができたらモチベーションが絶えないんじゃないか? そう思ってWEBメディアに進みました。

──若くしてサスティナビリティとカッコよさの両立を目の当たりにできたんですね。その経験は今の「NEUT」の仕事でも生かされていますか?

平山 はい。もともと大学ではマーケティングやコンセプトデザインを勉強していたのですが、自分のやりたいことをどうやって見出していくか考えた時に、「ソーシャルグッド × カルチャーメディア」って当時の日本の市場の中に見あたらなかったんですよ。「Greenz」などのソーシャルグッドなメディアはあったけど、カルチャーを扱っているわけではない。一方、「VICE」はソーシャルグッドというよりはアンダーグラウンドなカルチャーを伝えるというスタイルでしたから。

──たしかにその時期、ソーシャルグッドなカルチャーメディアってありませんでしたね。

平山 海外にはありました。イギリスの「Huck」や、アメリカの「GOOD Magazine」など。海外ではソーシャルグッドでカッコいいカルチャーメディアやジャーナリズムが出てきている中で、日本にもそういうものがあっていいんじゃないかな、と。僕だったら、そういう入り口から社会問題を知ることができればスッと入ってくるなと思ったんです。

“いいこと”とクリエイティブの横断

平山 僕が「Be inspired!」にジョインした頃、やっとエシカルといった言葉が少しずつ広まっていたんですが、誤解を恐れずに言えば、エシカルコミュニティみたいなものがあるんですよ。

──「エシカルコミュニティ」?

平山 エシカルなことに取り組んでいる人たちのコミュニティが、すでに出来上がっていたんです。そのイメージを打破しない限り若い人たちはついてこないだろう、と僕は考えました。

──なるほど。あまりソーシャルグッドとクリエイティブが結びついていない印象だったんですね。

平山 “いいこと”だけじゃなく、それがちゃんと消費され、長く使われたり、お気に入りになったりするところまで設計しないと、全体を包摂できないと感じました。社会課題を解決しようとしているブランドやプロダクト、サービスを見た時に、日本ではまだまだデザインや伝え方の部分が足りていなかったんですね。それはエシカルな人たちとクリエイターが混ざり合っていないということでもあります。NPOはNPO、クリエイターはクリエイター、スタートアップはスタートアップと、コミュニティが分断していたんですよ。

だから「NEUT」は、いろんな分野を垣根なく横断していくメディアを目指しました。その頃から、ビジュアルやクリエイティブも高めながら、ビジネスと共に社会貢献もする企業やプレイヤーが増えていきましたね。6年間やってきて、どんどん取り上げられる人が増えてきたと感じます。

──メディアはそもそも中間的なものですから、おっしゃる通り、うまく機能すれば分断していた人たちをつなぎ合わせることができますよね。「NEUT」の周りではそういうことが起こっているように見えます。

NEW × Neutral × Newt =「NEUT」

──平山さんが「Be inspired!」の編集長になった後、2018年に「NEUT」に名前を変えますよね。ブランディングやロゴ、もちろん名前も変わっているから、価値観やメッセージも変わったはず。なぜリニューアルという形を取ったのでしょう?

平山 2017年には、国内で活動している人のインタビューメインの媒体という、今の「NEUT」につながるスタイルが確立されつつありました。その頃、「Be inspired!」って、言葉自体がかなり受動的な言い方だな、と感じるようになったんです。僕らがやりたいのは、受け身ではなく、もちろん押し付けるのでもなく、あるトピックをフラットに見つめること。それを「ニュートラルな視点」と呼んでいます。

自分の中のバイアスを外していくことで選択肢が増え、多くの人が自分のやりたい道を選べていく。そうしたニュートラルな視点の先にダイバーシティがあると思うんです。何よりも先にダイバーシティが重要だと言っても、例えばあるイシューに対して過激な人ばかりが増えたら、参加しづらいと思う人が出てくるかもしれないす。そうならないよう、まずは自分のことを肯定して、さらに他人を否定しないような視点づくりをしないと、多様な社会は実現しづらいと思ったんです。

──たしかに自分を認められないと、他人を受け入れられないですよね。「NEUT」という名前にはどのようなコンセプトが込められているのでしょうか?

平山 新しい価値観や人々を有名無名に関わらず取り上げていたので、「New」という言葉が、そしてそこから「Neutral」がキーワードとして出てきました。ただ、「Neutral」はもともとある言葉なので、それこそバイアスを付けてしまいかねない。右左といった政治的なスタンスとは異なる議論をしたいという前提もあったので、じゃあ造語にしよう、と。

ちなみに、英語の「Newt」は「イモリ」という意味です。海外のソーシャルグッドなカルチャーメディアが多く、日本発のものが少ない中で、日本の生き物がシンボルになるのもいいなと考え「ニホンイモリ(アカハライモリ)」をシンボルにしました。

そこで、「New」「Neutral」「Newt」をかけ合わせた「NEUT」にしました。あと、愛称としての呼びやすさもあります。「Be inspired!」ってやっぱり覚えづらいし、名前らしい名前でもない。「NEUT」という呼び方の方が親しみやすく、伝播するのではないか、と。

ソーシャルイシューを考えるきっかけづくり

──そんな「NEUT」は、ただ先端的で新しいものをフックアップするというよりも、登場する人たちの持つバックストーリーや価値観にフォーカスしていると感じます。それが独自のソーシャルイシューの伝え方につながっていますよね。

平山 そうですね。例えば「NEUT」に連載を持つ中村元気さんは、原宿のキャットストリートをゴミ拾いなどによってクリーンナップする活動「CATs Cleanup」や、「0 waste=ゴミ・無駄のない」ライフスタイルの提案を行うNPO「530week」をずっと続けています。ゴミ拾いって意外と日常で体験しませんから、僕も参加してみて誰かが捨てたタバコを拾いながら「なんでポイ捨てするんだろう」と素朴に考えました。おそらく捨てた人は「誰かがやってくれる」と思っていたはずですよね。もしかすると、自分も別のところでそういう考えを持っていたかもしれません。一本のタバコを拾うだけで気づけることがあるんですよ。

──ゴミ拾いが自分ごとになることで、様々なことにつながっていく。

平山 些細なことでも一人ひとりがアクションすることで、その人自身のアイデンティティや、他人を考えるきっかけになる可能性がある。個人の力ってすごいな、と。そうやってゴミ拾いがカッコいいことになって、みんなどんどんスタイルとして取り入れ、それがスタンダードになればいいと思うんです。

僕は大きなことより身の回りの生活のこと、政治よりは経済や消費により個人が反映される気がします。選挙で投票する時も、自分のアイデンティティがわからなければ、どの政治家に票を入れていいかわからないですよね。結局、自分にとって何が大事で、何が生きづらくて、何が欲しいのかってことに気づく機会が日本には少ないと思うんですよ。

それに気づくには、いろんな人たちがなぜその活動をやっているのかを知ることが重要です。だから毎回、「自分なら何ができるんだろう?」と考えられるような記事づくりを心がけています。そこに答えはないし、逆に「今はこの問題を考えないといけない」と強く揺さぶるような記事は一切ありません。問題意識は各人がやりたいことを掘り下げていく中で見つけるものだからです。要するに、ソーシャルイシューを考えるきっかけになる記事を目指しているんですね。

──読者にとって何が大切で、何ができるのかを考えられるメディアになっているんですね。

平山 ソーシャルイシュー自体を掘り下げるのは、専門誌や書籍、ドキュメンタリーなどの違う媒体でいいんです。僕らの役目は、それらを見たいと思わせられるかどうか。環境問題のドキュメンタリーがあったとして、見なきゃいけないから見るのではなく、興味があるから見たという方が絶対に心に響くし、その後でもっと深掘りするために違う文献を読むようになるかもしれません。ただ、ソーシャルイシューに興味を持つためには、誰かがこう考えていたから自分も考えてみるという、何らかのきっかけが必要だと思うんです。

別に、インフルエンサーやセレブリティがやっているから自分もやってみた、というのも全然アリです。まずはソーシャルイシューに取り組むことの間口がもっと広がってほしいです。その入口をポジティブに見せること。それが「NEUT」で試みていることなんです。

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