CIRCULATION CLUB

個人のストーリーから社会課題を紐解く編集術。「NEUT Magazine」編集長・平山潤インタビュー【後編】

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誰かの「いらなくなったモノ」を回収し、「いらない世界を変える」───そんな「循環型物流」の道を切り開いてきた株式会社エコランドと、株式会社まちづクリエイティブが新たに立ち上げるプロジェクト「CIRCULATION CLUB」。

このプロジェクトでは、SDGsのうち11番目「住み続けられるまちづくりを」と12番目「つくる責任つかう責任」にフォーカス。それぞれの視点から意欲的な試みを行っているプレイヤーの方たちへ、リサーチ型のインタビュー連載を実施。

NEUT Magazine」編集長の平山潤さんへのインタビュー後編となる今回は、SDGsやZ世代というバイラルワードをあえて使用しないという意図、読者が社会課題へ関心を持つために必要な編集方針、そしてコミュニティとの関わりを重視したこれからのメディア運営についてうかがいました。

Text:Haruya Nakajima
Photo:Yukitaka Amemiya
Interview & Edit:Shun Takeda

自分自身にとってヘルシーなアウトプット

──一昔前までは、意識高い系という言葉に代表されるように、例えば環境に配慮するアクションを取る人たちを揶揄するふるまいが多く見られていたと感じます。そういった声は気になりませんでしたか?

 

平山 そうした揶揄は今でもありますが、世代が下がっていくにつれて少しずつ変化していると思いますね。また、「NEUT」で伝えているのはあくまで個人の話です。ソーシャルイシューについて考えるきっかけをつくる際に、まず個人のストーリーから入っていって、自分が何をできるか考えてもらう。それを押し付けないことがすごく大事だと考えています。

そもそも、僕だって全ての問題にアクションできているわけじゃないし、それが人間として普通ですよね。だから、できるところからやっていこうというメッセージなんです。「100%これはダメ」というトップダウン的な考え方になってしまうと、コミュニケーションになりません。言う方も言われる方も、お互いが耳を閉ざしてしまうことになる。それが一番もったいないんですよ。

──たしかに最近はそうした「個人的な価値観の強い主張」から生まれた分断が目立ちます

平山 もし僕が「肉を食べるのは100%ダメ」だと思っても、それは自分が様々なプロセスを経てたどり着いた答えですよね。だからその入り口にも立っていない人に自分の答えを押し付けたところで、聞く耳を持ってもらえるわけがありません。それに、自分だって来年になれば肉を食べているかもしれない。自分というものは流動的に変化するものだと思うので、「いっときの正義」を押し付けられないと僕は思うんです。そうではなく、なぜ自分は肉を食べなくなったのかという話から始めないと、相手は耳を傾けてくれないんですよ。

しかも、環境や動物愛護といった大きな枠組みは自分ごとになりづらい。だから、まず自分自身の心身がヘルシーになるために行動するのが重要です。取材の時に注目するのは、その人の活動が自分自身で腑に落ちているかどうか。儲けのためだけでも、社会的な評判のためだけでもなく、自分のバランスを保って活動している人はアウトプットがヘルシーだし、自分自身の言葉を持っていると感じます。

──「NEUT」で取り上げる人は、本人が楽しくヘルシーにアウトプットしていることが軸になっているんですね。

平山 はい。基本的にその人のスタイルがあればいいと思っています。それはアイデンティティの話でもある。例えばアメリカには多様な人種の人がいて、自身のルーツをファッションや化粧、髪型など、いろんなもので表現していますよね。日本人は自分のルーツやアイデンティティと向き合い、掘り下げて、表現することが苦手かもしれないけど、Tシャツ一つ選ぶことからでもできることがあるはずです。自分の「Why?」を大事にしている人が、質問していておもしろいんです。

──その視点が伝わってくるから、「Z世代に支持されるメディア」と言われているんでしょうね。

「SDGs」というバズワードの良し悪し

──「NEUT」では早い時期からSDGsに関する記事が出ています。平山さんはどのような視点でSDGsを捉えているのでしょうか?

平山 シンプルに、SDGsは僕らが取り上げてきた人たちのアクションやイシューを全てブリッジするので取り上げてはきました。でも、最初に17の目標を見た時「要するに全て社会問題ってことじゃん」と思ったのは事実です(笑)。また新しいマーケティング用語が生まれただけじゃないか、と。

ただ、2019年頃からみんながSDGsをバズワードとして使い始めましたよね。メディアもSDGs特集をやり出した。「FRaU」という雑誌が綾瀬はるかさんを表紙にしてSDGs特集号をつくったあたりから、どんどんファッション誌にも波及していった印象です。でも、SDGsを文字通りファッションとして消費していくだけであれば、僕らがその言葉を使う必要はないと思うんです。

もともと「NEUT」では、エシカルやサスティナブルといった言葉をなるべく使わないようにしてきました。ミレニアルズやZ世代もそう。言葉に対して抱くイメージって人それぞれ違うから、マーケティング用語的に使いたくないんです。SDGsという言葉も同じで、その言葉を使うことで、最初からそういう話題が好きな人しか読まなくなってしまうんですよ。

──たしかに。それらが嫌いな人にはまず読んでもらえませんよね。

平山 繰り返しになりますが、僕らがやっているのは社会問題を考えるきっかけづくり。だから、何よりそうした言葉を知らない人たちに向けて発信しています。読者が自分でたどり着く先にSDGsという言葉あればいいと思うんです。記事のタイトルには絶対つけないようにしているくらい。ただ、社会が変わってそういう言葉が広まってくれたおかげで、「NEUT」でやっていることが理解されやすくなってきたとも感じます。

──バズワードになることの良し悪しで、いい効果もあったのかもしれませんね。

平山 「何やってるの?」と聞かれた時に「SDGs的なテーマについて取り上げる媒体だよ」と言えば伝わるようになりました。SDGsが共通言語になってきたおかげで、ようやく理解が得られるようになってきたんだと思います。

身の回りのことからSDGs的な課題を設定する

──SDGsに関して気になっているトピックや、クリエイターの活動などはありますか?

平山 ちょうど今、コムアイさんと村田実莉さんが主催するアーティストコレクティブ「HYPE FREE WATER」と一緒に、水がどう濾過されているのかを大学の先生に聞きに行くという記事をつくっています。自分の飲む水という身の回りのことをリサーチするスタンスがおもしろいですよね。コムアイさんは有名になっても、そういった社会課題に対するアクションを続けていく姿勢があります。

Photo by Toshiaki Kitaoka for NEUT Magazine

「海は生物の暮らしも未来の子どもの感性も豊かにする」コムアイ × 村田実莉が東京海洋大学・佐々木剛教授と“オーシャンリテラシー”について考える

大勢のフォロワーがいる人が、それこそSDGsという大きな言葉ではなく、身近なものからちゃんと考えて調べて発信するというのは、若い人たちにとってすごくいいことだし、僕らのようなメディアからしても「素敵な目線だな」と感じます。カルチャーメディアなどで若いクリエイターと大学教授が一緒になって水の濾過について考えるなんて、5年前じゃ絶対になかったコラボレーションですから。

──身の回りのことから考えたり知ったりすることって、とても重要なことですね。

平山 「これってなんだろう?」と思える課題設定が、多くの人にとって大事だと思うんです。飲料水一つとっても、真水の汚染などの大きな環境問題やSDGs的な課題につながっています。今クリエイターやデザイナー、アーティストと言われる人たちは、そうした課題を設定する能力がすごく高いと感じます。しかも、SDGsとしてトップダウン的に考えているのではなく、自分がナチュラルに興味を持っているから取り組んでいるんですね。

自分にとって無理のない活動の継続

──これは少し混み入った話かもしれませんが、自分一人が生活の中で実行できるソーシャルグッドなアイディアって、限界があると思うんです。たまにはジャンクフードを食べたくなるように、だらしない状態でいたい時もありますよね。SDGsというトピックは大切だと思いながらも、その全てをなぞることはできない。こうした人間の矛盾についてはどう考えていますか?

平山 たしかに17項目全てに対してアクションできるのは理想でしょうが、おっしゃる通り人間は完璧ではないというスタンスで「NEUT」を運営しています。取り上げるイシューに関しても、海外で起きていることに関しては、なるべく日本にローカライズするようにしているんです。

例えば少し前の政治について言うと、トランプ政権を批判しているアメリカ人アーティストを取り上げたところで、日本の若い人がそのまま安倍政権に対して同じように考えるかというと、決してそんなことはありません。あるいは海外の貧困や難民の話をしても、日本にも貧困や移民の人たちが抱える問題があります。海外の話題をただ紹介するのではなく、日本の中の話をしたいんです。特に日本はまだそういう段階だと思います。

もちろん海外の事例からインスピレーションを得てもいいんですが、人の意識や経済の回り方などが違うので、海外のイシューをポンと日本に輸入すればうまくいくわけではないんです。SDGsというとグローバルな問題と地続きですが、まず日本の中で何ができるかを考えれば自分ごとになっていきやすい。身近なことが解決されていく方が、やりがいも感じられますからね。

──様々なイシューの入り口づくりをしている「NEUT」だからこそ、そうしたスタンスを大事にされているんですね。

平山 途上国の支援もすごく大事ですが、日本の若い子たちの中にも、お金がなくてコンビニ弁当やファストフードしか食べていないとか、ファストファッションしか買えないとか、低賃金で働いているといった人がたくさんいるじゃないですか。そもそも、社会や世界の大きな問題を考えるって、自分自身に経済的、時間的、精神的な余裕がないとできませんよね。それにコミットできるというのは、ある意味で特権的だと意識しなければならないし、だからこそ全員が全員、SDGsの全てをやらなきゃいけないわけではないんですよ。経済的に大変でも、レジ袋をもらわない方が安くすむといったように、自分にとって得になる部分もセットで考えていかないといけません。

──それこそ継続が難しくなってしまいますからね

平山 そう、結局そうなってしまうのが一番サスティナブルじゃないんです。たとえビーガンになっても、モチベーションを保てずにすぐやめてしまったら意味ないじゃないですか。とりあえず週に何回かやってみて、それが何年か続いて、だんだんと肉を減らすことができたという方がいい。0か100かで考えると続きにくいのかなって思います。

──完璧主義ではなく、自分が無理をしないでできることを続けていくのが、サスティナビリティのカギになるんですね。

平山 SDGsのうち1項目を続けていったり、それが生活習慣になれば2つ目の項目に取り組んでみたりでいいと思います。無理やり全ての課題に取り組むというのは難しい。あるアクションがストレスになってしまったら、人間はそれをやめてしまいますよね。だから自分の得や楽しさとつなげて、地道にやれることを増やしていくのが一番いいんじゃないかと思いますね。

今あるコミュニティを維持しながら発展させるメディア

──じっくり話を伺って、「NEUT」に一本筋が通っていることがよくわかりました。最後に、SDGsが「流行」しつつある世の中で、媒体として今後トライしていきたいことは何かありますか?

平山 今、「NEUT」は過渡期です。社会の変わり目でもあると思います。このまま知る人ぞ知る媒体として続けていくのか、もっと有名な人を出していってマスを狙っていくのか。それが今後の自分たちのコミュニティを選ぶと考えています。ただ、それはどちらか一方ではないはずです。その両方のバランスを取っていくためにも、今あるコミュニティの人たちとの関係性を継続できるような環境を整えたいですね。

例えば来年、再来年あたりに取り組みたいのは、ストリーミングのライブ配信ができるような基地を持つこと。それは今あるコミュニティとの接続点を意味します。「NEUT」自体は、様々な企業とのプロジェクトを進めていく中で、収益を投入してブランディングを整え、もうちょっと違う見え方、広げ方を考えていきたいですね。

今、メディア業界が盛り上がっていない中で、「NEUT」のような新興メディアが育っていくことは、世の中的にも希望になると信じています。常に若い人たちの味方になって、その声を取り上げられるメディアが一つでもあるといい。だから「NEUT」をより広く継続していきながら、同時に今あるコミュニティを守るための場所もつくっていきたいと考えています。

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