このプロジェクトでは、SDGsのうち11番目「住み続けられるまちづくりを」と12番目「つくる責任つかう責任」にフォーカス。それぞれの視点から意欲的な試みを行っているプレイヤーの方たちへ、リサーチ型のインタビュー連載を実施。
株式会社博報堂による未来創造の技術としてのクリエイティビティを研究し、開発し、社会実験していく研究機関「UNIVERSITY of CREATIVITY」(以下:UoC)サステナビリティフィールドディレクターである近藤ヒデノリさんのインタビュー後編では、循環型の社会を実現するためのさまざまなアプローチや、一生活者としてのサステナビリティへの向き合い方、そしてUoCの今後の展望についてうかがった。
Text:Haruya Nakajima
Photo:Yutaro Yamaguchi
Interview:Shun Takeda
Edit:Chika Goto
フラットな空間から生まれる「未来の社会のプロトタイプ」
──大企業とグラウンドルールの設計をしながら、草の根で活動しているアーティストやアクティビストをつなぐことができるのは、博報堂の研究機関という営利を目的としない組織が主体になっているアドバンテージですよね。
はい。まさにそうだと思っています。ちなみに最近、株式会社ボーダレス・ジャパン代表の田口一成さんが書いた本(『9割の社会問題はビジネスで解決できる』PHP研究所、2021)を読んで、すごくワクワクしたんですよ。様々な社会問題をビジネスというかたちで次々に解決していて、すでに40社くらい立ち上げている。単純に、すごいな、と。
一方で、弊社も事業創造は増えてますが、社会課題解決に特化してるわけではないし、UoCのミッションも事業創造ではない。どちらかというと、得意としてきたのは様々な企業や自治体のブランディングやコミュニケーション、プロジェクト立案であり、無数の企業や行政ともつながりがあることも財産です。
だから例えば、社会課題解決のための起業であれば、ボーダレス・ジャパンが得意だろうし、問題提起するならアーティストやジャーナリストもいる、問題解決ならデザイン、広げるならメディア、というふうにぞれぞれの得意領域を生かして、多様なプレイヤーを巻き込みながら社会変革のプロトタイプをつくっていく。それが、僕らUoCがインパクトをもたらすことのできる一つの「社会創造」だと思っています。
事業をつくるのでも、クライアントワークでもない、その中間の不思議な領域。だからこそおもしろいし可能性があると思って、日々実験を続けています。
──シンクタンクのようでもあり、基礎研究に近いことを行うラボのような印象でもあります。
ただ、僕自身はあまり研究者的な活動が得意なわけではありません。博報堂には「生活総合研究所」というシンクタンクがありますし、UoCは教育や研究を通して社会実装をアウトプットする機関として、僕は何かを実装する方にフォーカスしています。UoCでは「未来の社会のプロトタイプを創造する」という言い方をしていますが、様々な企業や行政、市民と協力しながら、コモンズやアーバンファーム、廃材から生み出すプロダクトなどのプロトタイプをつくっていく。
それを事業化したり、ビジネスにするのは社内の別部署であったり、プロジェクトの参加者だったりする。むしろ、そのための青写真をつくるのがUoCの役割だと思っています。
──なるほど。「未来の社会のプロトタイプ」を提示することで、それがうまく結実して事業のプロトタイプになる可能性もある、と。
もちろん、そんなに簡単に事業はつくれないとも思っています。だからそれがビジネスになるか、あるいはプロジェクトとして続けていけるかはわかりません。でも、そこにあまり縛られずに活動できるからこそ、大きな可能性があると感じています。
僕自身は、以前はどちらかと言えば、アーティストにプレッシャーを感じることが多かったんです。アーティストが個人として生涯をかけてやっていることに対して「自分も負けてられないぞ」と。でも最近は、社会課題の解決を本気でやっている企業やNPO、アクティビストにそれを感じます。「社会創造」と言っているからには、UoCも半端なことはできませんから。
──ライバル視する先が変わってきているんですね。要するに、自らリスクを取ってアウトプットしている人たちにいいプレッシャーをもらっている?
はい、まさに。アーティストなり経営者なり、アクティビストなり、本気でリスクを取って挑戦している人たちからはすごく刺激を受けています。
──何より、この場所はそういった人たちとコラボレーションしやすいイメージがあります。
その通りです。ここは非営利の場所であり、社会価値を創造しようという共通目標があるので、いろんな人とフラットに対話しやすい空間です。たとえ行政の偉い人が来ても、ここにみんなで裸足でいれば「同じ人間、意外と変わらないな」と思える(笑)。この「仲間になってみんなでやっていこう!」という感覚は、これまでの自分の会社員生活の中ではあり得なかった、初めてのものですね。
「正しい」だけでは人は動かない
──そんなUoCでは、理念としてサスティナビリティとクリエイティビティのつながりを掲げています。社会の持続性に創造性が結びつくのはなぜだと考えますか?
サステナビリティは「正しい」こと。ですが、人間は「正しい」だけだと押し付けに感じて、共感できません。そこにワクワクするようなクリエイションが必要になってきます。
サステナブルの視点で「やらなければならないこと」でも、そこにクリエイティビティが加わることで、それが魅力的になり、触れること自体が喜びになり、自分ごとになる。その意味で「持続可能性」を世の中に浸透させ、アクションを促すためには、「創造性」が必要なんだと思います。
ただ、その先があるんじゃないかとも思っています。竹村真一さんの地球講義やゼミに招いた太刀川英輔さんの提唱する「進化思考」とも通じますが、要するに、サステナビリティというのは環境に対する「適応」の話なんですね。うまく適応しなければ絶滅してしまうからサステナブルではない。さらに言えば、環境に適応するためにはクリエイティブにならないといけないわけです。
──サスティナブルな「進化」や「適応」自体が、クリエイティビティを必要としているということですね。
はい。環境に適応して持続可能であるためには、これまで通りやっていたら絶滅してしまうかもしれない。そのためにクリエイティビティが必要だという意味で、持続可能性と創造性が不可分だという気がしています。
──ここ数年、ビジネスの世界でも「アート思考」や「デザイン思考」がよく言われています。これまでの資本主義的な考え方に行き詰まりを感じているからこそ、クリエイティビティを通じて変革を起こさなければ適応できない、そんなプレッシャーを感じている経営者も多いのではないでしょうか。
本当にそうですね。探求篇のゼミで、エシカルファッションのプラットフォーム「TSUNAGU」を展開する小森優美さんにゲストで来ていただいた時も、従来の資本主義やビジネスの限界と、いかに新しいシステムをつくるかが話題に上がりました。
従来型の資本主義や大量生産・消費ビジネスの多くは、生産や廃棄のなかで環境破壊などを外部化、ないことにしてきたんですね。そんな中でファッションビジネスをやっている小森さんは、「下手するとすぐに従来の資本主義の枠組みに絡め取られるから、そうならないよう仕組み自体を変えていかないと」と言います。
同じサイズで、色も一定にして大量の数を揃え、余ったものは廃棄する。そんな効率性や合理性を基準とした資本主義に対して、彼女はすべて受注生産に切り替えていますが、そうした新しいシステムが大事なのだと考えています。
「世界を変えたいなら、まず自分が変わりなさい」(ガンジー)
──とはいえ、現状は資本主義社会ですよね。それゆえ、気持ちがチクチクしながらも大量生産品を買ったりすることが僕もあります。そうした思いとアクションの不一致について、近藤さんは一生活者としてどのように付き合っていますか?
僕も20年前にニューヨークでエシカルな意識に触れてから、時間はかかりながら、知れば知るほどに、資本主義の裏側にある環境破壊への抵抗感が大きくなっています。知識を得ることで自然と自分の生活が変わってきたし、なるべく環境に負荷をかけないよう心がけているつもりです。ただ、その中で全てのアクションは実行できないし、仙人になるわけにもいかない。バランスを取りながら、無理せず、楽しく行動するようにしています。
──たしかに無理していると続きませんからね。続かないということは「サスティナブルではない」ということになってしまう。
環境のサステナブルはもちろん、自分自身のサステナビリティも大切ですから。ここにも以前、遊びに来てくれたMONDO GROSSOの大沢伸一さんが書いていたのですが、「頑張って環境対策をやっているけど、時々バカらしくなる」「自分一人でこんなことをやって何の意味があるんだろう」と。それには僕も共感する部分がありました。
でも、ちょっとバカバカしく感じる時があっても、実践を継続していくしかない。本気でアクションしている人に影響されて、少しでも行動が変わる人が増えたらいい。よくガンジーの「Be the change you wish to see in the world. (世界を変えたいなら、まず自分が変わりなさい)」を引用していて、この言葉は彼の言葉ではないという説もあるようですが(笑)、自身の行動で体現しないと説得力が生まれないと思うし、無理はせず、何とか楽しんでやっていくしかないと思います。
──その点UoCのメリットは、個々人が同じ空間に集まることで相互に影響し合い、精神的な連帯が生まれることではないでしょうか。最後に、今後UoCはどんな活動を展開していこうと考えていますか?
そうですね。いまは、12月に開催する今年のUoCの目玉である4日間の「Creativity Future Forum」を準備中のほか、11月からはInter FMで「UoC Mandala Radio」というラジオ番組も始めます。
その他、脱炭素社会に向けた産官学の取り組みや、11月に予定されている渋谷スクランブルスクエアでのTokyo Urban Farming展示など、個人ではできない、UoCだからこそできる大きなフレームでの活動を実現していければと考えています。
「Circular Creative Lab」では、端切れを生かしたテキスタイルブランドをつくったり、廃棄太陽光パネルでテーブルをつくったりしてきましたが、12月のフォーラムでも様々な企業が持て余している多様な「廃材× クリエイティビティ」をかけあわせる企画を準備中です。サーキュラーエコノミーをクリエイティビティで推進していければと。
「Tokyo Urban Farming」の方では、いまアーバンファーミングを気軽に楽しむツールとしてコンポストやプランターの研究や、赤坂をサステナブルな街にしていく動きも始まっています。渋谷や新宿など各地でも構想が進行中で、小さいスポットを増やしていって、アーバンファーミングをこれからのライフスタイル・カルチャーとして地道に育てていければと考えています。
──これからのUoCのプロジェクトを楽しみにしています!