株式会社まちづクリエイティブが新たに立ち上げたプロジェクト「CIRCULATION CLUB」。
誰かの「いらなくなったモノ」を回収しリユースして「いらない世界を変える」──そんな「循環型物流」の道を切り開いてきた株式会社エコランドのエコランドファンドからの寄付を受け始まったこのプロジェクトでは、SDGsのうち11番目「住み続けられるまちづくりを」と12番目「つくる責任つかう責任」にフォーカス。それぞれの視点から意欲的な試みを行っているプレイヤーの方たちへ、リサーチ型のインタビュー連載を実施する。
今回は、「不要なものから大切なものへ」というコンセプトを掲げ、捨てられた段ボールから様々なクリエイションを生み出すアーティスト・島津冬樹さんが登場。後編では、世界の段ボール事情やコロナ禍での新たな取り組み、そして現在温めているという今後の構想について語ってもらった。
Text:Haruya Nakajima
Photo:Yutaro Yamaguchi
Interview:Shun Takeda
Edit:Yuta Mizuno
旅先での段ボールとの出会いは一期一会
──このアトリエには世界中の段ボールが並んでいますよね。国によって段ボールの違いはあるんでしょうか?
段ボールの質はその国の資源で変わります。例えば日本やアジア圏の段ボールは、再利用してつくられているので柔らかい傾向にある。一方、アメリカやヨーロッパは資源が豊富なので、段ボールが硬い。バージンパルプ(古紙ではなく木材からつくられたパルプ)の含有量が高い新品の段ボールが多いんです。
回収率も関係します。東京では資源ゴミの日に段ボールを出しておけば、回収してもらえますよね。そういう回収のしくみが整っている街は言ってしまえば贅沢で、国や都市によっては僕のライバル──つまり段ボールを拾って生活している人たちがいる。特に中国や東南アジア、南米に多いですが、僕と同じように段ボールを集めている人がいるのを見ると、日本との違いを感じます。ゴミ収集のインフラが整っていないから、そういう人たちに集めてもらっているという側面もあるんでしょう。
海外で段ボールを拾っていたときに「その段ボールをくれ」と言われたこともあるし、ゴミとして捨てられていた段ボールを僕が欲しがったら、お金を要求されたこともあります。世界を旅するなかで、段ボールがいかに資源として重要なのかを痛感しました。
──国や地域によっては段ボールも貴重な資源なんですね。特に気に入っている段ボールはありますか?
ここ2年ほどはコロナの影響でできていませんが、1年間で拾ったなかで一番いい段ボールを決める「カードボード・オブ・ザ・イヤー」を開催してきました。例えばこの「Princess」は、エジプト産のオレンジの段ボール。エジプトの段ボールに初めて出会ったのは2016年のフィリピンです。ピラミッドやスフィンクス、クレオパトラが描かれていて「欲しい!」と思ったんですが、どれも使われていて拾えなかった。そこで翌年エジプトに行ったものの、フィリピンでときめいたような段ボールが意外と拾えなくて。さらに翌年、たまたまマレーシアの市場で捨てられていたのがこれでした。2年越しに手に入れた念願の段ボールです。
そういうプロセスがあると、財布にしたくなくなる(笑)。実はこのアトリエにある段ボールは、どれも財布にできていないコレクション。「またいつ出会えるかわからない」と思うと、そこに刃をいれる勇気がなくなっちゃって。アップサイクルしなくても段ボール自体に魅力を感じるのは、ある意味で究極なんじゃないかと思いますね。
企業との取り組みを通じて広がる、段ボールアートの可能性
──世界中を旅する段ボール拾いは、どうしても移動を伴います。コロナで移動できなくなってしまったとき、何を感じましたか?
コロナ禍では、「旅」と「ワークショップ」という僕の活動の二つの軸が同時に封じられてしまいました。ただワークショップに関して言えば、『島津冬樹の段ボール財布の作り方』(ブティック社、2020)という本を出すことができた。段ボール財布は誰でもつくれるし、「不要なものから大切なものへ」というコンセプトは、それを見たり買ったりする以上に、つくる体験によって実感できるはずだ、と。要するに、コロナ禍で段ボール財布のノウハウを「開放」したんです。
オンラインで説明するために、より簡単な財布をデザインしたり、インスタライブで質問に答えたりもしました。それによって、日本だけではなく海外の人たちにも段ボール財布が広がった。コロナじゃなかったら踏み込めていなかったことにもチャレンジする勇気が出ましたね。そこは自分でも変化した部分だと思います。
──これまでとは違う活動の形態を探れたんですね。旅に関してはいかがでしょう?
もちろん旅にも出たかったけれど、同時に「いままで拾ってきた段ボールをどう活かすか?」とじっくり考える時間にもなりました。これまでは企業との取り組みでもワークショップがメインで、展示するにしても、あくまで財布の枠を越えませんでした。でも、今年は大きなインスタレーションを発表する機会がいくつかありました。
ラコステ ジャパンとは、段ボールも含めて倉庫に余ってる廃材から什器をつくりました。そこにアーティストやイラストレーターが作品を展示する。阪神百貨店でも、店舗のリニューアルにあたって一角を任され、大阪で拾った段ボールで、これから長く使っていくための新しい什器を制作しています。ザ・ノース・フェイスではアップサイクル・スタンドをつくるなど、財布から広がって、什器や空間をつくることにつながっていったわけです。
財布をより魅力的に見せるため、「自分でつくった什器で展示したい」というのが独立した頃から考えていたことですが、それが仕事に結びついた一年でしたね。大きい作品が増えたのは、企業との取り組みで変化したこと。1人だと財布に固執していたかもしれないけど、企業とタイアップすることでビジョンが広がりました。
──企業との共同作業を通じて、財布というミニマルなプロダクトから、段ボールによる大規模な空間までアウトプットが拡大したんですね。
そういうときに、いろんな国で拾った段ボールのコレクションが役に立ちます。財布にせず箱としてたくさんとっておいてよかった(笑)。初めの頃は断面で持って帰ればいいと思っていたから、解体して後悔しているものもいっぱいありますよ。
「不要なもの」に価値を見出すきっかけを増やしたい
──サステナブルな社会を実現するには、どんなことにもクリエイティビティが紐づいていると感じます。この先、社会の持続性と島津さんの創造性はどのような形で関わっていくと考えますか?
初めて段ボール財布をつくったときの気持ちを決して崩してはいけない、と思っています。当時は環境のことを考えていたわけではなく、「これをつくったらカッコいいだろうな」「意外と使える!」といったマインドからスタートしました。なので、時代がいくらSDGsやサステナビリティを重視する方向へ舵を切っても、あくまで僕は「段ボールに惚れ込んで活動している」ということを常に忘れないようにしたいんですよ。
何より、段ボールを集めてものをつくることがカッコ悪く見えるのは避けたいです。タイアップする企業側も考えているのは、それがカッコいいかどうか。例えば「段ボールだけどハイブランドとコラボレーションしている」みたいな、段ボールの価値を高めて崇高なものにしていくことが、今後も継続したいテーマですね。
──段ボールに対する社会の見え方を向上させていく。
誰もが段ボールをカッコいいと思えるようになってほしくて。ちょうど「CARTON OR DIE」と書かれたキャップをかぶっていますが、「Carton Pick(段ボール拾い)」をもっと明るいものにしていきたいんですよ。
世界中に段ボール拾いを楽しんでいる人がどれだけいるかわかりませんが、少しはいます。いま考えているのは、その人たちをつなげるプラットフォームの作成です。どこの国であろうと、段ボールを拾った位置情報を入力すると、それがリアルタイムで反映されるサイトをつくりたいと考えています。
最終的に目指すのは、段ボール拾いがおもしろくてカッコいいと思われるような仕掛けです。例えば、段ボール拾いのための服やバッグを扱うブランドをつくったり、段ボールの交換ができるサービスをローンチしたり……そんなことをいつも考えています。
──カートン・ピックを一種のレジャーのような開かれたものにしていこう、と。一方、制作方法を開示することで、ワークショップの受講者が減ってしまったりしませんでしたか?
ありがたいことに、著書を読んだ人も「本人に教わりたい」とワークショップに来てくれます。むしろ本をきっかけに興味を持ってくれる人が増えたんじゃないかな。なかにはマニアックな人もいて、銀座のユニクロでタイアップをしたときに熊本から来てくれた女の子2人組は、お互いに段ボールを拾いあってGoogleドキュメントで写真を共有していました。
もしさっき言ったようなサイトがあれば、世界中で拾われた段ボールを見ることができる。自分のためにも、これから段ボール拾いを始める人たちのためにも、そんなプラットフォームをつくれたらいいですね。
──なんだか僕も段ボールをピックしたくなってきました…..!
段ボールを拾うことで、僕の日々の生活はすごく楽しくなっています。それは別に段ボールに限らず、牛乳パックでもビニールでもいい。段ボール拾いを広めるのはもちろん、「不要なもの」に価値を見出すきっかけを増やしていければと思います。
PROFILE
島津冬樹(しまづ・ふゆき)
1987年神奈川県生まれ。多摩美術大学卒業後、広告代理店を経てアーティストへ。2009年の大学在学中、段ボールで財布をつくったことをきかっけに “Carton”として活動を開始。「不要なものから大切なものへ」をコンセプトに、個展やワークショップ、テレビ、雑誌など幅広く活動している。2018年に自身を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』(監督=岡島龍介/配給=ピクチャーズ・デプト)が公開。SXSW(米)でのワールドプレミアを皮切りに日本でも全国ロードショー。HOT SPRINGS DOCUMENTARY FILM FESTIVAL(米)やNIPPON CONNECTION FILM FESTIVAL(独)といった各国のフィルムフェスティバルで高い評価を得る。他方で上海デザインフェスティバルなど、中国のアート・環境系のイベントに多く招聘されている。著書に『段ボールはたからもの──偶然のアップサイクル」(柏書房、2018)、『島津冬樹の段ボール財布の作り方』(ブティック社、2020)がある。