株式会社まちづクリエイティブが新たに立ち上げたプロジェクト「CIRCULATION CLUB」。
誰かの「いらなくなったモノ」を回収しリユースして「いらない世界を変える」──そんな「循環型物流」の道を切り開いてきた株式会社エコランドのエコランドファンドからの寄付を受け始まったこのプロジェクトでは、SDGsのうち11番目「住み続けられるまちづくりを」と12番目「つくる責任つかう責任」にフォーカス。それぞれの視点から意欲的な試みを行っているプレイヤーの方たちへ、リサーチ型のインタビュー連載を実施する。
今回は、ビンテージショップ「DEPT」のオーナーであり、環境問題や政治課題にも積極的に取り組んでいるアクティビスト・eriさんが登場。前編に引き続き、ファッション産業から政治的アクション、進行中の計画に至るまで、幅広く語っていただいた。
Interview & Text: Haruya Nakajima
Photo: Yutaro Yamaguchi
Edit: Chika Goto
サステナブルファッションの進化
──前編では、アパレル業界が環境汚染産業の第2位だというお話がありました。この連載には以前、普通なら捨てる素材「ニベレザー」を用いたシューズデザイナー・勝川永一さんも登場しましたが、eriさんから見て、ファッションの世界でもサステナビリティを意識したブランドや製品が増えてきていると感じますか?
環境配慮の動きは加速していると思います。実は、今日もちょうどビッグサイトで開催されている「国際サステナブルファッションEXPO」に行ってきました。サステナビリティを掲げた素材の展示などが、この数年ですごく増えた印象はありますね。サステナビリティを謳ったエキスポも、天然素材というだけでコットンやウール、シルクなどにサステナブル認証のマークがついていたり、日本のファッション産業はまだまだサステナビリティ後進国だなあとがっかりすることが多かったのですが、今年に入ってからの展覧会では「こんな素材があるんだ」「こんな取り組みがあるんだ」と初めて知ることもあって、とても楽しかったです。
──ここ数年でサステナビリティに対する意識や知識のレベルが底上げされたんですね。
ただ、ファッションの分野でも「サーキュラー(循環)」ということがもっと取り上げられていくべきだと思います。いままで「リニア(線状の)・エコノミー」だったものが「リサイクル・エコノミー」にシフトしてきて、なんとなく「リサイクルならいい」という世の中になっている。でも、リサイクルは新しい素材を投入し続けるという点では循環型とは言えないので、いかにすでにある資源で生み出していくことができるのかを考えることが重要だと感じています。
いま、新しい素材を投入せず廃棄もしない、そういう閉じた円のなかでものづくりがなされるような「サーキュラー・エコノミー」に進むべき段階にあるんじゃないかなと。まだ「リサイクル素材」という言葉が根強いファッション業界でも、その先に「サーキュラー素材」という言い方がもっと普及して新しい生産モデルが生まれていけば、産業としてももっと盛り上がっていけそうですよね。
環境問題から政治的なアクションへ
──そうした環境に関する活動に加えて、eriさんはSNSで国会議員とトークセッションをしたり、選挙で投票を促すプロジェクトを展開したりと、ポリティカルなアクションも活発です。なぜそうした活動に携わるようになったのでしょうか?
昔から政治のトピックには興味があって、政治へのコミットメントは高い方でした。毎回の選挙で盛り上がるんだけど、最終的には応援している政治家が負けて泣くの繰り返しですね(笑)。
よく「偏向報道」と言われるように、いまのマスメディアだけを見ていても公正な情報を得られるか疑問があります。政治の問題って、いろんな出来事が起こっては忘れられていくので、3ヶ月前のことでも「そういえばそんなことあったな」くらいの感覚になりがち。でも、そうした問題の蓄積の先に自分たちの選択肢があるべきですよね。だから、そういう問題を可視化してみなさんとシェアするということは、とても大事なことだと思っています。
そこで、いまこの国で起きている問題を考える「クイズ!この国の問題が問題」というプロジェクトを開設しました。政治の問題点をクイズ形式にして、みなさんに楽しく学んでもらおうと思い立ち上げました。
また、政治が変わらないと気候変動対策もドラスティックには変えることができないので、政策における環境問題の争点化を目指しています。そこで立ち上げたのが「Peaceful climate strike」というプロジェクト。このグループではハンガー・ストライキをしたり、水原希子ちゃんや二階堂ふみちゃん、コムアイちゃんと気候変動を分かりやすく伝えるための番組を制作したりしています。
そういった活動を継続しているうちに、政治家の人たちと直接対話をしてみたいな、と考えるようになったんです。
──なるほど。もう政治家と実際に会って話さなければいけない、と。
最近では、共産党の小池晃書記長や立憲民主党の福山哲郎幹事長(当時)などと意見交換の場を設けました。気候変動や環境問題に対するコミットメントが高い議員さんとお話をする機会が増えましたね。
先日(2021年10月)の衆議院議員選挙では、「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」というサイトを仲間と共につくりました。市民から出た争点をまとめて各政党に質問を投げかけ、〇✕で答えてもらい、それをみなさんが投票する際の参考にしてもらえれば、と。運営チームはそれぞれの問題意識を持った有志です。その有志のなかで投票率を上げたい、そして政権交代を目指したいというメンバーで「市民のための市民と野党街宣」と銘打って、選挙前には新宿駅前などで当事者や議員さんのスピーチを行ったり、投票を呼びかけるプラカードを持ち音楽を鳴らしながら街を練り歩く「投票マーチ」を行ったりもしました。
クリエイションが提示するオルタナティブな選択肢
──いま付けていらっしゃるオリジナルの「選挙呼びかけパッチ」も、まずデザインとしてカッコいいですよね。この連載を通じて、サステナビリティとクリエイティビティが密接であると感じているのですが、eriさんはその結びつきについてどう思われますか?
「サステナビリティで自分たちの生活がどう変化すると思いますか?」という全世界的なアンケートで、欧米では「自分たちの生活をアップデートすること」と答えた人が多かったんですが、日本人は「生活水準を落とし我慢を強いられること」と捉える人が多いという結果が出たんです。それってすごく日本人っぽいなぁ、と。
その点を改善できるのがクリエイションの力だと私は信じています。環境配慮となると、つい「それ買っちゃダメ」「やっちゃダメ」「捨てちゃダメ」「食べちゃダメ」といったように「ダメ」が多くなりがちですよね。でもクリエイションは、「それはダメだけどもっと素敵なこれがあるよ」と、単なる我慢ではない新しい道を示せると思うんです。かわいいもの、カッコいいもの、気持ちいいもの、楽しいものの先に環境に配慮されたものがあると、もっと加速度的に社会が変わっていけると思っています。
──先日(2021年10月)、渋谷のMIYASHITA PARK屋上で開催されたイベント「渋谷夜市」では、1分間に廃棄される衣服を積み上げるインスタレーション作品を展示していましたよね。
あの作品も、内容が分からなくても写真に撮りたくなるだろうな、と考えて展示しました。それぐらいの入口でいいと思っていて。今回のイベントの動線にはコンセプトや環境問題について伝えるエデュケーションパネルを設置したのですが、そうやって環境問題に関心がない人でも目に入っちゃう、写真を撮ってSNSに上げちゃうような、接点を持つことで能動的にアクションを起こしてしまう仕掛けをもっとつくっていけたらいいなと、やってみてさらに強く思いました。
──クリエイションから生まれるコミュニケーションのチャンスに賭けているんですね。
そうやって自然につながっていくことで仲間が増えていきます。最近では、『サーキュラーエコノミー実践:オランダに探るビジネスモデル』(学芸出版社)という本を出版した安居昭博くんとも、知り合いから「お互い会った方がいいよ」と言われたことをきっかけに、オンラインで定期的にディスカッションする仲になりました。それぞれの立場から知を持ち寄ることで、こうした運動は広がっていくんだと感じました。
『みんなの未来を選ぶためのチェックリスト』の運営に参加しているのも、本当にいろんな背景を持った人たちです。私はアパレル会社の経営者ですし、弁護士、ライブハウス経営者、映像作家など、多様な職業の人たちでつくっています。グループLINEでは、ちょっと目を離すと未読が100件以上になるくらい(笑)。本当にみんな熱量を持って、世界をよくするために活動している。こうやって世界は変わっていくんだというのを見せてもらっている感覚です。一人でできないことも、みんなと一緒だったら実現できると思えますから。
──選挙前には新宿のバスタ前で市民街宣をやっていましたよね。
市民街宣では、しっかりとしたステージを立てて、政治家をはじめいろんな人に来てもらって、DJも入って、というフェス状態になりました。背景にはうちの会社でつくったパッチワークの布を使っています。あのイベントだって、「やろう!」ということになってから1週間くらいで用意したんです。それでもみんな素地があるから、照明、舞台、音響とどんどん準備が進んでいって、みんなでワーッと集まってつくり上げました。
建物自体が徹底的に環境に配慮した店舗
──最後に、そんなeriさんが今後やっていきたいことはありますか?
いま、中目黒のDEPTの店舗を建て替える計画を進めています。そこで使われる資材や建て方、電力を自給自足する「オフグリッド」、そして雨水利用まで含め、「どれだけ環境負荷に配慮した建物にできるか?」ということに挑戦してみたいと思ってるんです。
一緒に動いているのは、「SUEP」の末光弘和・陽子さんご夫妻。2人はサーキュラーエコノミーに配慮した建築デザインに関して日本トップレベルの方たちです。新店舗ではゴミやCO2がどれくらい出たかをチェックできたり、太陽の動きを計算して採光や耐熱を工夫し、なるべく冷暖房を使わずに済むようにしたりと、研究を重ねて建てようとしています。
2023年に完成予定で、その建築過程も全て公開していこうと考えています。例えば「ここの素材はこんな素材を使っていて、環境配慮がなされているけど、ここの部分ではどうしてもこれだけゴミが出てしまう」というように、できたこと、できなかったこと、よかったこと難しかったこと、プロセス全てをSNSやウェブサイトを通じて共有できたらいいと思っています。コミュニティスペースも併設する予定なので、完成したらいろんな方々と集まって何かを起こせる場所になったらいいな。完成も楽しみですが、つくる過程でどんなことが起こってどんなことを知ることができるのか、それがとっても楽しみです!
PROFILE
eri(えり)
1983年ニューヨーク生まれ、東京育ち。DEPT Company代表/デザイナー/アクティビスト。
1997年立花ハジメとLowPowersでデビュー。2004年自身のブランド「mother」をスタートし、2015年、父親が創業した日本のヴィンテージショップの先駆けであった「DEPT」を再スタート。その後、テーブルウェアブランド「TOWA CERAMICS」をローンチ。またPLANT BASEDカフェ「明天好好」のプロデュース、気候危機を基礎から学べるコンテンツ「Peaceful climate strike」や環境とファッションの問題に焦点を当てた「Honest closet」の立ち上げなど、ファッションの枠を超え活動している。
またメディアやSNSを通し可能な限り環境負荷のかからない自身のライフスタイルや企業としてのあり方を発信し、気候変動・繊維産業の問題を主軸にアクティビストとして様々なアクションを行なっている。
Instagram: @e_r_i_e_r_i