先進的なまちづくりの取り組みを支えるキーパーソン。既存の様式に捉われず、独自の思考や切り口で事業や創作活動を行う起業家やクリエイターたち。
M.E.A.R.L’sフィールドノートでは、M.E.A.R.Lのプロデューサーである、寺井元一、小田雄太が、日本各地の現場を歩き、フィールドワークの中で出会った、「まちの戦術家」たちを紹介していきます。
第1回は、福岡市糸島にて、日本最大規模のアーティスト・イン・レジデンス「Studio Kura」を運営する松崎宏史さん。民家の蔵をアーティストのスタジオに改修し、地元のまちと世界をアートで繋ぐ、その活動と戦略について。
Q&A:Studio Kura 松崎宏史
M.E.A.R.L からの5つの質問にご回答いただいた。
(1) Making ーいま何を作っていますか?
「糸島市から世界に文化発信」を合言葉に、海外の美術家を招聘するアーティスト・イン・レジデンスプログラム事業(2007年より現在まで200名以上のアーティストが滞在)、及び、九州・山口の幼稚園、保育園に美術の先生を派遣する美術教育事業(毎月100園以上の園に出張教室)。また、自社での絵画教室及び電子工作教室を行っています(福岡・佐賀に20教室)。
(2) Economy ーどのようにして、ものづくり、まちづくりを続けていますか?
助成金に頼らず、株式会社にして美術教育事業をメインに自己資金で運営しています。地域との関係では、地域の方を対象にした美術教室や、コワーキングスペースとして事務所を開放、毎月月末に定期的にレジデンスアーティストたちの展覧会を開催しています。
毎月来るアーティストとの会話を楽しみにしている近所のおばあちゃんや、アーティストの制作を手伝ってくれる方などもでてきました。
また、二年に一度開催している国際芸術祭「糸島芸農」は2012年から3回開催してきました。昨年度の芸術祭では、地元の方が展示の見張りや、制作に積極的に参加してくださいました。続けて行く中で、確実に地域に浸透していっているように思います。
(3) Advantage ー自分のアドバンテージ・武器はなんですか?
海外(ベルリン)に長く住んでいたので、現在の糸島での活動を客観的に見れることかもしれません。
(4) Reach ー何年後くらいまで具体的な計画をたてていますか?(その計画とは?)
10年後くらいまでを考えています。これからますます増えていくであろう地域の空き家を改修していきながら、ギャラリー、美術教室、レジデンス、FabSpace、Cafe、ゲストハウス等がある芸術村を作り、沢山のクリエイティブな人たちと一緒に、日本の田舎から世界に向けて文化を発信していきたいです。
(5) Learn ーこの仕事 (活動)で肝に銘じていること、学んだことはありますか?
「やりたいことをやり続けること、そのための環境を自分で作ること」を肝に命じています。ドイツや日本で、沢山の素晴らしい美術やまちづくりの事例を見てきましたが、予算の関係で事業を続けることができなかった団体を多数見てきました。小さくても良いので、自分の出来る範囲で無理なくずっと大好きな芸術活動を続けていきたいです。
NOTES:糸島と世界を繋ぐ。アーティストであり起業家
福岡中心部から車で30分強、田んぼに囲まれたその地に、日本最大規模のアーティスト・イン・レジデンスがあると言ったら信じてもらえるだろうか。松崎さんの実家の蔵で始まったこの活動は、福岡市糸島の一角に常時10人分の滞在部屋とアトリエを点在させ、毎年100人のアーティストを海外から集める巨大レジデンスと化している。驚いたことにほとんど補助金に頼らず維持され、その原動力は20の拠点に加えて年間1400回の出張教室を敢行するという、これまた俄かに信じがたい規模のアート教室ビジネスだ。
もともと本人が海外のレジデンスを渡り歩いてきた現代アーティストであり、思い出深いレジデンスは、占拠されたビルにアトリエや劇場やギャラリー・バーまでも勝手に開設され、最後は行政に買われたドイツのスクワット「タへレス」だという。飄々としながらも圧倒的な経験値を溜めこみ、新たな古民家に投資購入までしてレジデンスを拡大し、金勘定から縁遠いアートの事業化で20人近い若手アーティストを雇用する彼は、アーティストでありながら真の起業家だと思う。
(文:寺井元一)
株式会社 Studio Kura http://studiokura.info/