余白と混沌から生まれる、自分たちなりの都市介入 一般社団法人for Cities(石川由佳子・杉田真理子)インタビュー

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「都市計画」や「まちづくり」とは無縁だと思っている人でも、何かしらのかたちでまちをつくっているはず──。東京・渋谷を拠点とする株式会社ロフトワークで出会い、独立後も都市に関わるさまざまな実践を経て、一般社団法人「for Cities」を立ち上げた、エクスペリエンス・デザイナーの石川由佳子さんとリサーチャー・編集者の杉田真理子さん。

世界のさまざまな都市に滞在してきた“よそ者”ならではの素朴な目線を生かし、都市にまつわるざっくばらんなおしゃべりをPodcastで配信したり、アジアのアーバニストのプロジェクトアイデアや人材のプラットフォームを立ち上げたりと、幅広い活動を展開している。

そんなfor Citiesの二人は、「自分たちの手で都市の暮らしをつくっていく」ことをテーマにしたフェスティバル「for Cities week」を2021年10月から開催する。自分たちなりの視点と方法で都市に介入する彼女たちの活動の背景や、これからの展望についてお話をうかがった。

Text:Yuta Mizuno
Photo:Miyu Takaki
Edit:Chika Goto

アーバニストとしてのめざめ

──お二人がそれぞれ「都市」や「まち」に関心をもつようになったのは、いつごろでしょうか?

石川 私が「都市」そのものを強烈に意識したのは高校生のときです。父の仕事の関係で、小学4年から中学3年までドイツに住んでいたんですが、帰国したときに感じたのは、日本だとめちゃくちゃ居づらいってこと。自分は変わってないのに、周りの環境が変わっただけで、どうして自分の行動や人間関係が変わったりするのか。そのことにすごく興味をもって、都市というスケールでものを考えるようになったんです。大学では都市社会学を学びました。都市での人の体験のあり方やつくり方に関心があったんですね。当時、興味をもったのは「Central East Tokyo(CET)」[★]です。パフォーマティブで一時的なアプローチが長い時間軸でまちを変えるきっかけになる。そのやり方がとてもおもしろいと思いました。

★──2003〜2010年に日本橋・神田・浅草橋を中心とする東京の東側エリアで毎年秋に開催されていたイベントと、それらを運営していた活動体。エリア内に点在する空きビルを活用​​するかたちで、アートや建築、デザインの展示が継続的に行われた。

その後に入社したロフトワークという会社では、渋谷をフィールドにした「Shibuya Hack Project」のプロジェトマネージャーを務めました。アーティストやクリエイターの力を借りて、渋谷の街中に自分たちのほしい風景をつくる。そんなボトムアップ型の都市づくりの実験です。でも、クライアントワークだとどうしても長期的なデザインを実現するのが難しい。そのことに悔しさを感じて、独立を決めました。自分の責任のなかで関われる範囲で都市に関わっていきたいな、と。その後は、エクスペリエンス・デザイナーとして人と人をつなげたり、さまざまな人生背景の人たちとともに、まちの中での体験を生み出すそのプログラムや場づくりをしています。

石川由佳子さん
石川由佳子さん

杉田 私は仙台出身で、東日本大震災のあとに、被災者が暮らす仮設住宅エリアに建てられた伊東豊雄さんの「みんなの家」を見に行ったんです。錚々たるスターアーキテクトがつくったのでさぞかしカッコ良いデザインなんだろうと思っていたら、肩肘の張っていない、素直でどこか懐かしい空間で。その中でおじいちゃんたちがめっちゃ楽しそうにお茶をしていて「あ、建築ってこういうふうにあるべきだ」って思ったんですね。人々の生活に寄り添った、地に足のついた空間だなって。そうした「みんなのための空間」を、建築だけではなく、より大きなスケールの都市で考えたいと思いました。

ブリュッセル自由大学大学院でアーバン・スタディーズを学び、帰国後はロフトワークに在籍しました。由佳子と出会ったのは、ここがきっかけです。ロフトワークでは、場づくりに関するさまざまなプロジェクトに関わらせていただいたのですが、自分自身にオーナーシップがある活動をしたい気持ちが強くなって独立しました。それからは編集者・リサーチャーとして、海外各地をサーカスのように移動しながら、いろんな都市をリサーチして、その場所のストーリーを伝えるメディアをつくったり、場づくりのコンセプトを考えたりする活動しています。

いまは京都の町家を自分たちでリノベーションして拠点としています。ただ住むだけじゃなくて、海外から来たアーバニストたちが滞在しながらリサーチして発表できるような、アーバニスト・イン・レジデンスみたいな場所にしたいと思っています。

杉田真理子さん
杉田真理子さん

アーバニストの知恵が集まるプラットフォームをつくる

──前職の会社で出会ったお二人はそれぞれ独立したあと、2020年に一緒にアムステルダムに行き「for Cities」を立ち上げます。

石川 もともと、2020年の春からベルリンの「ZK/U」というアーバニストのためのレジデンスプログラムに、二人で参加する予定だったんです。ところが、その矢先にコロナが広がってドイツに行けなくなってしまった。でも、二人ともフリーランスだから「何もしないわけにはいかないよね」ということで、当時行くことのできたアムステルダムに渡りました。

杉田 そこで、二人の自由研究のような活動として「Good News for Cities」をはじめました。都市に関するニュースをポッドキャストで配信したり、現地のアーバニストと一緒にプロジェクトを行ったり。たとえば、アートを通した都市介入を行う組織・カスコランド(Cascoland)と、アムステルダム郊外エリアにおける住民同士の小さな助け合い(見えないケア)を地図上に可視化する「De Informele Zorgkaart(Informal Care Map)」を短期間でつくったりしました。

Informal Care Mapを使ってもらうために、モバイル小屋を路上に出して道ゆく人にインタビューを行った。

石川 私たちが世界のいろんな都市に一時的に滞在しながら、「よそ者」だからこそ見えてくる風景をいろんな視点で紐解いていくこと。それがGood News for Citiesのひとつのテーマです。そして、アムステルダムで活動しながら同時に考えていたのが、世界にはまだまだ私たちが出会っていない、都市を舞台に活動する素晴らしい仲間がいること。そして、彼らと出会い、彼らの活動から生まれた実践知を共有し合うプラットフォームをつくる、というアイデアでした。

杉田 ヨーロッパにはアーバニストたちのネットワークが確固としてあって、活動も可視化されているんです。たとえば「Future Architecture Platform」は新進気鋭のアーバニストをフィーチャーして、美術館や企業といった組織とつなぐことをミッションとしています。教育プログラムもあって、アップカミングな人たち同士で勉強したり交流できる。でも、こういう活動ってヨーロッパに籍を置く活動に限定されていることも多くて。そうすると私たちは応募できないし、もったいない! だから、私たちのルーツであるアジアの実践者にも使ってもらえるプラットフォームを始めようと思ったんです。

石川 ローカルで起こっている小さな出来事をグローバルのテーブルに乗せて可視化したい。国とか分野を超えるプラットフォームになるといいな、と思って。それで、今年の2021年4月に法人設立とともにアーバニストのプロジェクトアイデアや人材のデータバンクとして「for Cities」を立ち上げました。

杉田 日本でまちづくりの事例を話すときによく出てくるのは、アムステルダムとかポートランド、ブルックリンですよね。どうしてもみんなキラキラした欧米の事例を見てしまいがち。でも、もっと近くに面白い実践は転がっているなと。

毎日for Citiesの構想を練っていたアムステルダムの家の様子。プロジェクトルーム化して活用。

「惜しいまちづくり」へのアンチテーゼ

石川 あと、for Citiesの非公式なテーマとして、私たちが「惜しいまちづくり」と呼んでいるものへのアンチテーゼがあります。ビルを高く積み上げていくことをよしとするようなトップダウン的なまちのつくられ方や、プレイヤーが一部の人に限られるまちづくりの構造的な内輪感とか、コミュニティが凝り固まっちゃっているところをくずしたいよね、って。

杉田 私がブリュッセルで学んだアーバンスタディーズのプログラムには、音楽を学んだ人や社会学者、法律家などいろんなバックグラウンドの人がいました。だから、私たちは広い意味で「都市に働きかけている人」のことを「アーバニスト」と呼んでいます。アーバニストといえば、日本だと都市計画家を指す言葉だと思われちゃいますよね。まちにはどうしてもつくり手と使い手の分断があります。ディベロッパーの人たちがまちをつくって、私たちがそれを使う、みたいに。でも、それらはもっとぐちゃぐちゃに混ざり合っていいはず。

石川 そう。たとえば、パルクールのトレーサーと一緒に公園をつくったっていい。子どもと一緒に学校をつくってもいい。「都市計画」とか「まちづくり」という言葉にもともと含まれていない人たちも、まちをつくっているはずだから。

杉田 自分のアイデンティティを表すために、今日着る服を選んだり、食べるものを選んだりするじゃないですか。まちもそれと同じです。もっとカジュアルに、自分の延長線上にまちがあると考えられるとおもしろいんじゃないかな。

アムステルダム西部の移民街の団地の真ん中にシェアキッチンが。カスコランドのプロジェクト。

──ところで、お二人が拠点にしていた渋谷のまちは東京オリンピックに向けて大きく変貌しました。アムステルダムから帰国してどう感じましたか?

石川 もう私の知らないまちになったって感じですね。そもそも渋谷ストリームの仮囲いがぱっと外れてオープンした瞬間に、あきらかに人の流れが変わったし、そこにいる人のムードも変わった。「ああ、このまちはまた次の新陳代謝を始めたな」と思ったのをすごく覚えています。

杉田 私は渋谷駅の新南口から徒歩3分くらいのところに住んでいたんですけど、再開発の立派な完成予想図や、宮下公園の周りを大勢の警官が見張っているのを見たときに、自分がこのまちに介入する余地がなんだか想像しづらくなってしまって。

石川 流行りのレストランが「日本初進出!」と銘打って出店されていても、本当にこの場所をどうしたいのかあまり見えない空間だと思ってしまう。でも、渋谷ってどんどん変わり続けるまちだから、ノスタルジーにとどまるとそれはそれでおもしろくない。だから渋谷はあれでいい。またきっと新しい人たちが渋谷を楽しむんだと思う。そう思えるようになったのは、わたしも大人になったからかな(笑)。

自分たちの手で都市の暮らしをつくる「for Cities Week」

──これからはどんな活動を展開する予定ですか?

石川 10月から11月にかけて、forcities.orgに世界中から集まったアイデアを展示するフェスティバル「for Cities Week」を東京、京都で開催します。for Cities Weekは、これからの都市を考えるための実践を学び、体験できる展覧会・国際フェスティバルです。「自分たちの手で都市の暮らしをつくっていく」ことをテーマに、各拠点1週間ずつ、常設展示、ワークショップ、まち歩き、映画観賞会、物販&フードなど、さまざまなアクティビティを行っていきます。2022年以降は、国内外の複数拠点で継続的に開催したいと考えています。

ミャンマー・中国・マレーシア出身の3人で構成される建築スタジオStudio Plizの作品。
人間工学的でない違和感のある動きを街中に仕掛け、身体を拡張させる遊びを提案。

杉田 私たちは従来のまちづくりでは異質とされていた人たちを呼んで、一緒にまちのコンセプトづくりをしたり、それをプロトタイプしたりするのが得意なので、そういうモチベーションのある企業とかと一緒にデザイン・リサーチをしてみたいですね。

石川 あとは、スペースを持っているけど、その場所をまちにとってどうやって意味のある場所にできるのか。そんなことを長期的に実験するプログラムの企画もやってみたいですね。

杉田 ほかに興味があるのは「都市の学校」ですね。いろんな企業や行政の人と教育プログラムをやってみたい。オランダには「Independent School for Cities」というアーバニストの養成講座みたいな3〜5日間のワークショップがあります。たとえば「建築と映像」をテーマにドキュメンタリーを撮影したり、お金を行政の人と一緒に考えてみる。for citiesの活動で出会った海外の実践者を呼んで、2ヶ国語やオンラインでやってみるとか。アイデアはたくさんあります。新しいスキルと態度を持ち合わせる国内外の“アーバニスト”たちがコレクティブ的に集まり、プロジェクトに合わせて柔軟にチームを組みながら当たり前に協業する未来をつくっていきたいです。

 

PROFILE

石川由佳子(いしかわ・ゆかこ)
エクスペリエンス・デザイナー。「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに、さまざまな人生背景を持った人たちと共に、市民参加型の都市介入活動を行う。(株)ベネッセコーポレーション、(株)ロフトワークを経て独立。TEDxKidsのコミュニティマネージャーや、東急電鉄と共に渋谷の都市づくりをボトムアップ型で実践していくShibuya Hack Project、日本財団主催のTrue Colors Festivalでダイバーシティの学校のディレクターを務める。体験をつくることを中心に「場」のデザインプロジェクトを国内外で手がける。都市の中で、一番好きな瞬間は「帰り道」。一般社団法人「for Cities」共同代表・理事。https://linktr.ee/YukakoIshikawa

杉田真理子(すぎた・まりこ)
デンマークオーフス大学で都市社会学専攻、その後ブリュッセル自由大学大学院にて、Urban Studies修士号取得。ブリュッセル、ウィーン、コペンハーゲン、マドリードの4拠点を移動しながら、エリアブランディング、都市人口学、まちづくりの計画理論などを学ぶ。欧州を中心に、現在まで多くの都市・まちづくり関連団体を訪れ、参加型調査やワークショップを重ねてきた経験から、参加型まちづくりの仕組みづくりやその情報発信を得意とする。株式会社ロフトワークで空間デザイン・まちづくり系プロジェクトのプロデュースとマーケティングを務めたのち、2018年5月から北米へ拠点を移動し、フリーへ。都市・建築・まちづくり分野における執筆や編集、リサーチほか、文化芸術分野でのキュレーションや新規プログラムのプロデュース、ディレクション、ファシリテーションなど、幅広く表現活動を行う。都市に関する世界の事例をキュレーション ・アーカイブするバイリンガルWebメディア「Traveling Circus of Urbanism」、アーバニスト・イン・レジデンス「Bridge To」を運営。一般社団法人「for Cities」共同代表・理事。

INFORMATION

for Cities Week

「for Cities Week」は、これからの都市を考えるための実践を学び、体験できる展覧会・国際フェスティバルです。「自分たちの手で都市の暮らしをつくっていく」ことをテーマに、世界中から集まったアイデアをご紹介します。

特設サイト:
http://www.forcities.org/ja/exhibition

会期:
[東京]2021年10月23日(土)〜10月31日(日)
[京都]2021年11月7日(日)〜11月14日(日)

会場:
[東京会場]ニシイケバレイ(〒171-0021 東京都豊島区西池袋5-12-3)
[京都会場]Bridge To(〒606-8412 京都市左京区浄土寺馬場町28-3)

開館時間:
[東京]11:00〜19:00 (24日(日)のみ13:00開場、28日(木)と31日(日)の常設展は17:00まで)
[京都]10:00〜18:00(7日(日)のみ11:00開場、14日(日)の常設展は16:00まで)

入場料:
1,500円

チケット予約:
[東京]予約はコチラ
[京都]予約はコチラ
※感染症対策による人数把握のため、事前予約の上、ご来場ください

出展作家:
Chris Berthelsen/Eugene Soler/北澤潤/MAINTENANCE CLUB/ニッパシ ヨシミツ/NIKAWA/中村元気(NPO法人530Week)/Prisca Arosio, Melita Studio/Playfool/Ralph C. Lumbres/REPIPE/RF Records/Studio Pliz/桜三丁目/山口純/X TRAIN

主催:一般社団法人for Cities(杉田真理子、石川由佳子)
後援:ニシイケバレイ、濱口商店、ホホホ座、クラウドファンディングで応援してくださった方々
会場構成:No Architects
グラフィックデザイン:河ノ剛史、根子敬夫
アシスタント:三上奈々
助成:国際交流基金アジアセンター アジア・市民交流助成

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