連載シリーズ・FROM YOUthでは、そんな新たな売り方・作り方を志向する20代~30代の「店主」たちの試みをエッジなユースカルチャーと位置づけ、インタビューを通じ、時代を生き抜くヒントを探す。
vol.3に登場するのは、2017年5月に東京都世田谷区上町に、おかしと喫茶のお店「トロッコ」をオープンさせたばかりの矢代なぎさん。お菓子の卸販売の作業場兼お店というユニークな営業形態でありながら、既にローカルの人々の暮らしに馴染みつつある同店。ヴィーガン仕様のお菓子を中心に、静岡のIFNi COFFEEのフレンドショップとして開業に至った経緯を聞いた。
Text:Akira Kuroki
Photo:Shin Hamada
自分ひとりでやっていく方法を考えたら、店になった
Q1.お店を始めたきっかけは?
きっかけは、お店を立ち上げるしか方法がなくなったから。もともと、キッチンだけある作業場を使わせてもらってグラノーラの卸販売をしていたんだけど、そこを出て行かなくちゃいけなくなって。
じゃあこれからの人生どうやって生きていこう、どうしようかなってなったときに、作業場だけじゃ限界があった。それにずーっと続けていきたい仕事なのに、卸販売だけでお客さんの顔見ないでやっていくのもつまんないなぁって。いつか歳をとって、ずっとここにいようって場所が見つかった時には、お店やろうかなっていうのはなんとなくあったけど。意外と早くその時が来ちゃった(笑)。
Q2.最初にグラノーラを選んだ理由は?
グラノーラは賞味期限が長いから始めやすかった。そこから焼き菓子やったりとか、ケータリングやったりとか、いろんな食にまつわることができたらいいなっていうので。でもグラノーラをはじめたら、グラノーラ屋みたいになっちゃってたけど(笑)。まぁ合間にケータリングやったりとか、食事もつくったりとかいろいろやってた。
Q3.以前の作業場はどこに?
板橋です。それでその作業場を出なきゃいけなくなったタイミングがきて、この仕事で自分でちゃんと食べていく方法を考えなきゃいけない。どうしようって考えたら、店になった。あんまり「店やりたい!」って熱望してやった感じじゃないんです。本当になんとなく出来ちゃったっていうほうがしっくり。
卸は続けてるし、どっちかっていうと作業場がまた欲しかったから。そこにちょっと喫茶スペースあって、お客さんが来てしゃべって。作業場兼店かな。ずっと一人で作業場にこもって作業してると、寂しくて。私の作業中の話し相手が欲しかったっていう(笑)。どうせなにか作っているし、いつもいるし、そしたらその場で提供できるなと思ったら「あっ、この形態はお店なんだ」って気づきました。
Q4.場所を上町に決めた理由は?
通勤時間が許容範囲内だったから。結局作業場をメインとして考えてるから、私が行くのがめんどくさいってなるのが一番続かないことだと思って。あとは比較的閑静なところが良かった。あんまりお客さんがたくさん来ても困ってしまうので。そうしないと私の本来の作業が追いつかなくなっちゃう。営業日数を減らすとか、新しい体制を考えなきゃいけなくなるから。もちろん、お客さんが来てくれるようになればありがたいけど、いまはすごくちょうどいい。
Q5.お店作りをするときに参考にしたり影響を受けたお店は?
それがとくにないんですよね。あまり店に行かないから。出不精なんです。もちろん食べにくとか、飲みにいくとかで好きなお店はあるけど。作業しながら接客っていうのを考えたら、こういうやり方になった。こういう風な店を作りたいっていうよりも、自分の作業性のほうを優先しました。もちろんそれでお客さんの居心地が悪くなるようだったら、それはお店なんだから、考えなきゃいけないけど。まぁこのくらいだったら、飲んで食べてもらえるかなっていう(笑)。
Q6.1日のスケジュールを教えてもらえますか?
オープンは11時だから、7時から10時の間に出勤します。仕込みが多ければ7時だし、少なければ10時とか。11時に開けて営業しつつ、作業をしながら、接客して。それで18時に閉める。準備があればまた仕込んで。緊急事態でない限り、20時にはあがるように心がけてます。
お店の定休は火・水なんだけど、水曜日は必ず仕込みか卸の仕事をしてるから、実質休めて火曜日。まぁでもちょっとお店の基盤がしっかりしてきたら、私が週休2日とれるように。お店は週3日休みになっちゃうけど、続けるには休みが必要で。そんなに若くないから(笑)。
Q7.どんなお客さんが多いですか?
老若男女。住宅街だからっていうのもあるけど。
下調べゼロで、縁も所縁もない町へ
Q8.上町という土地には、なにか所縁があったんですか?
全くないです。すごい昔に、この辺に住んでる友達のところに来たくらいです。
Q9.お店を始めるにあたって、ここがどんな町かを調べなかった?
まったく。もうね、時間がなかったんですよ。もう本当に、店舗にして良いのと、家賃の条件と、あとはそこそこ人がいる感じがあれば、もういいよみたいな。物件決めるのは得意なんです。もちろんいろんなところの物件見たりもしたけど。結構先輩方とかは、そこの街に行って細かく調べたりしたって聞いてて。もちろん、やるに越したことはないんだけど。「なんとかなるっしょー」ってなっちゃうところが良くもあり悪くもあり。
Q10.いまだにこの町をあんまり見ていない?
全然。仕事が終わったらすぐ帰っちゃうからあんまり知らない。というのも、どこにいてもたぶんそうなの。この町に興味がないとかじゃなくて、ただ家が好きで、家に帰りたいだけだから。どこで働いていてもそう。たまに仕事終わりに友達が来て、ご飯行こうってなれば、いろいろ近所のお店教えてもらったりするけど。
Q11.近所に知り合いが多いんですね。
ええ。ここに決めてびっくりするくらい、まわりにすごい知ってる人がいっぱいいて。引きが強かったんだなぁ(笑)。本当にみんなに助けられています。