あらゆる「商品」が合理的につくられ、対価さえ支払うことができれば、ほぼなんでも手に入れることのできる現代。選択の自由がこれほどまで高まっている時代だからこそなのか、その自由を逆手にとり、これまでにない売り方や作り方を目指す異端者たちがいる。連載シリーズ・FROM YOUthでは、そんな新たな売り方・作り方を志向する20代~30代の「店主」たちの試みをエッジなユースカルチャーと位置づけ、インタビューを通じ、時代を生き抜くヒントを探す。
vol.4に登場するのは、雑司が谷にショップを構えるアパレルブランド「CUP AND CONE」のオーナー・依田亮さん。ハードコアパンクと自転車にルーツを持ち、著名なミュージシャンにも愛される存在になった同ブランドは、どのようにして生まれたのか? 途方に暮れていたという5年前に遡り、話は始まった。
Text:Yosuke NOJI
Photo:Natsuki KURODA
Edit:Shun TAKEDA
文化を出ていないから無理だ!と諦めていた洋服作り
Q1.お店を始めたきっかけは?
新卒で働いていた会社を1年で辞めて、自営業の父親を手伝いながら「このままじゃマズイ……就職しなきゃ」って暗い気持ちで雑司が谷を歩いていたときに、たまたま今の物件を見つけたことがきっかけですね。ちょうど5年前ぐらいかな。
Q2.この物件に惹かれた?
物件に惹かれたというよりは、この物件を見つけた事自体が開店のきっかけです。この物件を見つけるまで、お店を始めること自体、考えていなくて。ちょうどその1、2年前に、パン屋をやっていた祖父が亡くなったり、東日本大震災があったりして、自分のこれからの生き方について考えていた時期だったんです。当時、既に趣味で洋服作りをしていたので、再就職したら服作りは続けられなくなっちゃうだろうし、死ぬ前に一度、自分の店を構えてみたいと思ったんです。
それと、この物件の家賃を聞いてみたら手が届く金額だったし、内装も壁紙を剥がして塗装だけすれば、そのまま使えるなと。だから、全くプロの手を借りずに、友達に手伝ってもらいながらお店を開きました。
Q3.お店を始める前はどんな仕事をしていた?
もともとモノづくりには興味があったので、新卒で入社した文具メーカーで商品企画の部署に就きました。ただ、入社してから、自分が直接モノづくりに関わることが出来る機会はかなり少なくて、ほとんどは営業と生産の間に入って、ひたすら雑用をこなすような仕事だってことに気付いて(笑)。いわゆる古い組織特有の「先輩より先に帰っちゃ駄目」みたいな暗黙の決まりごとにも疲れちゃって、けっきょく1年で退職しました。
それから父の仕事を手伝い始めて、1年ぐらい経ったときに趣味で洋服作りを始めました。
Q4. 洋服作りに興味を持ったのはいつから?
もともと洋服を買うのはずっと好きでしたが、作ることとなると、大学時代に所属していた軽音楽サークルで、バンドで演奏することよりもサークルのTシャツを作ったりすることの方に面白さを感じたのが原点かもしれません。就職を機会にアパレルの道は1度諦めていたんですけど、趣味として少しだけTシャツを作って、友達に配ったり、好きなお店に置いてもらったりするようになりました。
Q5.アパレルの会社に就職しようとは思わなかった?
自分が思い描くアパレルの仕事をするには、文化服装学院を出ていないと無理だ!って思い込んでいて(笑)。かといって、四年制大学卒の人が入社するようなアパレルの商社で営業職に就いたりすることには興味がなかったし、販売員さんのしんどい話とかもよく聞いていて。だから、むしろアパレルは仕事にしちゃ駄目だ!って自分に言い聞かせているところがあったかもしれない。
Q6.洋服作りに本格的に取り組むようになったきっかけは?
本当に趣味でやっていただけだったから、最初は洋服作りでご飯が食べられるなんて全く思っていなかった。でも、Tシャツ作りをしているうちに、自然と次はパンツが作りたい!次はキャップを!って幅を広げたくなっていって。それと同時に、物件を見つけたことで仕事になりました。
「ハードコアパンク」と「自転車」から生まれたブランド
Q7.お店を雑司が谷に構えた理由は?
小学校も中学校も池袋なんですけど、だからなのか池袋が苦手なんですよ。便利は便利かもしれないけど、すごくガヤガヤしているし、あんまりカルチャーを感じないというか……(笑)。雑司が谷は、そんな池袋から歩いてすぐの距離なのに、すごく落ち着いているし、まだ誰にも見つかっていない感じが昔から気に入っていて。初めて一人暮らしをしたのも、雑司が谷で、なんか好きなんですよね。
あと実は副都心線が通っているから新宿渋谷からもアクセスが良くて、そういう商売的な勝算みたいなものも少しありました(笑)。
Q8.雑司が谷で通っているお店は?
近くにある「風味亭」っていう昔ながらの町の中華屋さん。床とかすごいヌルヌルで「これぞ町中華!」って感じなんですけど、そこの肉野菜炒めが最高に旨いです。
Q9.「CUP AND CONE」のコンセプトは?
自分の大好きな「ハードコアパンク」と「自転車」の要素を、無理やり洋服に落とし込むのがコンセプトです。たとえば、この羊のデザインは、MINOR THREATっていうアメリカのハードコアパンクバンドの『OUT OF STEP』のジャケットに描かれた羊をモチーフに、角の部分を自転車のハンドルにしてあるんです。
もともとTシャツに大きくプリントしたのが最初なんですけど、シルエットとして切り抜けばラルフローレンとかラコステみたいにワンポイントで使えるんじゃないか?って思って、今はスウェットやキャップにも入っています。
Q10.自転車にのめり込むようになったきっかけは?
アメリカで競輪用の自転車をスケートボードのような感覚で乗るMASHっていう集団が現れて、そのカルチャーに飛びついたのが最初。けっきょく、僕はおっかなくてMASHみたいに坂道をブレーキ無しで下るみたいな乗り方は数年しかできなかったんですけど、それをきっかけにロードバイクやマウンテンバイクにも手を出すようになって、今はフレームだけのものを含めると、全部で10台ぐらいは持っているかな。
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