From YOUth #06|コ本や honkbooks 和田信太郎 青柳菜摘 清水玄

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メディアセンターとしての本屋へ

Q5.1日のスケジュールは?

清水 11時にオープンなので、店頭に棚や看板を出して、レジを開けてからTwitterで「オープンしました」ってツイートをします。あとは、毎日ネットの注文が入っているので、梱包や発送作業をしたり、本の整理ですね。買取も多いんですけど、自分の興味の範疇外にあるような本が舞い込んできて、毎日「こんな本があるんだ」っていう出会いがあります

また、写真・映像の編集だったりクライアントワークは、このバックスペースでやっています。お店とバックスペースをつなぐ扉は取ってあるので、開けっ放しで展示をしたり、打ち合わせもしたり。

和田 バックスペースをどう使うか? というのは開業してもずっと議論していました。面積でいうと本屋の半分がバックスペース。その時々の目的に合わせて様変わりできるスペースを持つこと。本屋としては画期的かな、と。店としては棚を増やし商品の書籍を多くしたほうが良いとは思うんだけど、そうすることで失うものもあるので。お客さんの中には本は素通りして話すために来ているお客さんもいます(笑)。

店内の什器は、空間デザイナーの西尾健史さんが手がけている。[MAD City People #03|空間デザイナー 西尾健史]
店内の什器は、空間デザイナーの西尾健史さんが手がけている。[MAD City People #03|空間デザイナー 西尾健史]

Q6.展覧会はどのように企画している?

和田 だいたい3~4週間に1度のペースで回しています。コ本やではアーティストにも新しいチャレンジをしてほしいので、担当の青柳を中心にアーティストと事前の打ち合わせを重ねて進めています。「おおがきビエンナーレ」の際は、コ本やがサテライト会場として、展覧会、トークイベント、ライブを主催しました。

青柳 基本は私たちがやってもらいたいと思うアーティストの方に声をかけますが、一方的にお願いするだけではないやり方で企画するようにしています。たまたま遊びに来て、話している中で「展示してみよう」という話になったり、「最近気になる作品ある?」という話から、見知らぬ人に声をかけてみたり。ギャラリーではなく本屋の特性を意識することや、出版や流通に直結したマーケティングの一部ではない展示ができるよう、試行錯誤しています。

長田雛子 小林椋 二人展「無・ねじらない」2017.5.2-14 ©︎ コ本や honkbooks
長田雛子 小林椋 二人展「無・ねじらない」2017.5.2-14 ©︎ コ本や honkbooks
長田雛子 小林椋 二人展「無・ねじらない」2017.5.2-14 ©︎ コ本や honkbooks
長田雛子 小林椋 二人展「無・ねじらない」2017.5.2-14 ©︎ コ本や honkbooks

Q7.これまでで印象に残っている展示は?

青柳 王子から高円寺まで一本のバスでつながっているので、道中にある野方のアートスペースと一緒に、そのバスに乗っている時に鑑賞する作品を企画しました。店内で展示するのではなく、コ本やでデバイスを渡して、野方までのバスに乗っている間に聞いてもらうんです。それで、野方でまた別の素材を渡されて、今度はそれを聞きながら帰ってくる。

Q8.お店を経営する上で苦労したことは?

清水 最初は、買取の値段の付け方が全然わからなかったです。同業者に話を聞いて、おそるおそるやってましたね(苦笑)。

和田 横浜にTweed Booksという、洋服やファッションを中心に扱っている古本屋さんがあります。店主の細川克己さんが丁寧に説明し教えてくれました。細川さんの開業したときの話などを聞いて具体的に準備するものも見えてきましたね。実店舗を持ち経営することの難しさに直面するとアドバイスをもらっていました。

最近は古物で本を扱うとなると、ほとんどがネットベースなんですよ。

清水 新しく始める人たちはリアルな店舗を持たないで、ネット販売をする人がほとんどです。だから、組合に入る前だと、話を聞ける人は細川さんしかいませんでした。

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Q9.ほかに影響を受けたお店は?

青柳 個人的には、青山にある「ビリケン商会」さん。

ここのスペースの手前はビリケンさんが出版した絵本や、製作している怪獣のフィギュアと一緒に、アンティークのオモチャがたくさん並んでいるんです。奥がギャラリーになっていて、絵本作家や、漫画家などの展示やグループ展をやっていたりします。

私自身もすごくお世話になっています。店主の三原宏元さんは、既に大成している作家さんと、まだ出たての私のような作家とが交流できる企画を積極的にしていて。みんなで展示をすることで人と人とがつながっていく雰囲気を作ってる。私たちが「この物件で何かをやろう」ってなった時も、人と人が自然につながる場所ということは、ずっと考えてました。

Q10.コ本やの今後の理想・目標は?

和田 今、韓国や台湾を行き来しています。他の地域との交流を重ねていくことで考えさせられることは大きく、ここで起こっていることを広く発信していけるようにはしたいですね。

他にも、いわゆる作品発表ではない形式で本屋で何ができるか。長期的なプロジェクトも試みたいです。

Q11.たとえば、どんなこと?

和田 コ本やはギャラリーではないんですが、展示作品は基本的に買えるようになっているんです。お客さんたちは本を一緒に買うように、作品を買っていくんですね。ギャラリーでアート作品を買うとなると、買う側も買われる側もお互いに緊張していたのが、本を買うみたいに気軽に作品を買えるようになっていく。

コ本やで展示している作品は決して購入されやすい形式ではないにも関わらず、作品が買ってもらえるという意味は大きいですね。アーティストの活動していくためには作品が売れることは最もシンプルな経済活動ですから。作品とは何かが問われる中で、作品に触れる接点として本屋という入り口で何ができるかは考えたい。

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Q12.本屋もギャラリーもキュレーション機能が重要という点で、親和性がある?

和田 古書は巡りめぐって辿り着くので、古書店でのキュレーションは不向きですよね。セカンドハンドはどうしても趣味趣向に偏ったざっくりした分類にどうしてもなってしまいます。その中でユニークな分類や並びをし、尚且つお客さんが取り残されないようにするのは容易いことではありません。並べることで意味が発生する点では近いのかもしれませんが、書棚は何も変わっていないようで流動しているので、ある一冊の本の動きで決定的にその場が変わらないような見せ方を分類しているとも言えますね。

本と並んで作品が設置されている光景は、組み合わせとして新たな関係性を持ち込めますが、作品にとっては明らかにノイズでしかありません。ホワイトキューブの展示空間ではないことを楽しめるかどうかはアーティストと話し合いながら進めていくしかないんです(笑)。

Q13.人を含め、さまざまな情報が交わる場所として、コ本やが機能する?

和田 本屋をやりながら、展示やイベントがあって、プロジェクトが進んで打合せもしている。この狭い場所としては欲張りすぎています。その無理さが何か情報の密度をあげているのかもしれません。一つ一つ発信できたり可視化できるようになれば、メディアセンターのような見え方になるといいのですが、この1年は回していくことでいっぱいいっぱいだったのが正直なところです。今後は場の作り方など問題提起をしたりするのがいいのかな。

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プロフィール:
青柳菜摘 / Natsumi Aoyagi
1990年東京都生まれ。アーティスト。ある虫や身近な人、植物、景観に至るまであらゆるものの成長過程を観察する上で、いかに記録メディアや固有の媒体に捉われずに表現することが可能か。リサーチやフィールドワークを重ねながら、作者である自身の見ているものがそのまま表れているように経験させる手段と、観者がその不可能性に気づく手法を作品に取り入れようと探究している。2014年、東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。近年の活動に「冨士日記」(NADiff Gallery / 2016)、「孵化日記 2011,2014-2016」 (NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] / 2016)、2018年2月の第10回恵比寿映像祭に出展予定など。「だつお」というアーティスト名でも活動している。
http://datsuo.com

清水玄 / Gen Shimizu
1984年東京都生まれ。2004年普通自動車一種免許取得。2015年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。修了後、アート・インストールの事務所でのアルバイトを経て、2016年にコ本や立ち上げ。コ本やとしてインストールに関わった展覧会として「青柳菜摘展:孵化日記 タイワン」(kanzan gallery / 2016)、「旗、越境者と無法地帯」(トーキョーワンダーサイト本郷 / 2016)、「飯岡幸子展:永い風景」(kanzan gallery / 2017)など。コ本やでは、神保町の古書店での勤務経験を生かし、仕入業務を担当。映像・写真の撮影も行う。書籍商。

和田信太郎 / Shintaro Wada
1984年宮城県生まれ。ドキュメント・ディレクター。表現行為としてのドキュメンテーションの在り方をめぐって、映像のみならず展覧会企画や書籍制作を手がける。最近の主な仕事として、「磯崎新 12×5=60」ドキュメント撮影(ワタリウム美術館/2014)、「藤木淳 PrimitiveOrder」企画構成(第8回恵比寿映像祭/2016)、展覧会シリーズ「残存のインタラクション」企画(Kanzan gallery/2017)、「ワーグナー・プロジェクト」メディア・ディレクター(神奈川芸術劇場KAAT/2017)、リサーチ型アートプロジェクトのための人材育成事業(通称geidaiRAM/東京藝術大学大学院映像研究科主催/2014-2016)では運営に携わる。2012年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。現在、東京藝術大学芸術情報センター教育研究助手。コ本やでは、「thoasa」(企画・映像制作・書籍出版)を主宰する。

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