From YOUth #08|DAILY SUPPLY SSS 小田桐奨 中嶋哲矢

0

あらゆる「商品」が合理的につくられ、対価さえ支払うことができれば、ほぼなんでも手に入れることのできる現代。選択の自由がこれほどまで高まっている時代だからこそなのか、その自由を逆手にとり、これまでにない売り方や作り方を目指す異端者たちがいる。

連載シリーズ・FROM YOUthでは、そんな新たな売り方・作り方を志向する20代~30代の「店主」たちの試みをエッジなユースカルチャーと位置づけ、インタビューを通じ、時代を生き抜くヒントを探す。

vol.8に登場するのは、横浜市神奈川区羽沢町にある日用品店「DAILY SUPPLY SSS」の小田桐奨さんと、中嶋哲矢さん。これまで様々なアートプロジェクトを行ってきたアーティストユニット・L PACK.のお二人が、建築家の敷浪一哉さんとはじめたこのショップは、お世辞にもアクセスが良いとは言えない横浜の郊外に位置している。どのようなきっかけで、この場所に「日用品店」をオープンさせたのか話を聞いた。

Text:Akira Kuroki
Photo:Shin Hamada
Edit:Shun Takeda

元・日用品市場で、今の日用品店をもう一回やってみる

Q1.お店をはじめたきっかけは?

中嶋哲矢(以下、中嶋):
自分たちの活動拠点となる場所を探していたのが最初です。5~6年は拠点がなかったのかな。埼玉の「きたもとアトリエハウス」という、空き家となっていた庭付き一軒家でプロジェクトをやっていたときは、そこにときどき行って作業したり、イベントをしたりという感じで使っていましたが、毎日通える距離ではなかったので。

お互いの家で作業したりもしていましたが、二人とも子どもができて、やっぱり働く場所が気軽に通える距離にほしいねと話していました。そんな時、今いっしょにシェアしている建築家の敷浪さんもちょうど拠点を探していると聞いて、じゃあどうせだったらいっしょに探そうかという話になりました。

小田桐奨(以下、小田桐):
それが2016年の年末くらいです。

中嶋:
自分たちは横浜に、敷浪さんも青葉台のほうに住んでいたので、お互い通える距離で、横浜近辺を色々見に行きました。

0Q8C2368

Q2.最初からお店をやろうという考えはあった?

中嶋:
いまの日用品の店というアイデアはありませんでした。ただ、事務所としてだけで借りてもその場所でなんにもお金を生み出せないから、事務所やアトリエとして使いつつ、そこでお金を生み出せたらいいよねっていう考えはありました。まぁ僕らのやり方がいつもそんな感じなんです。

小田桐:
必ず付随してくることだしね。ふだんからコーヒー豆を焼いているから、提供の仕方さえ考えればその場でコーヒー屋が出来ちゃう。敷浪さんも籠って仕事するよりも、普段からカフェとかで仕事するほうが好きと言っていたので、コーヒーは出せるなと。ぼくらの作ったカフェと、そこで仕事をする敷浪さんみたいな構図はやりたいよね、とは最初から話をしていました。

中嶋:
探していた物件の条件としては、なんでもできる空間。事務所にも使えるし、店も出来たら尚よし。それで結構見た結果、この辺がおもしろそうな感じで。

小田桐:
優先順位として、駅前で人通りが多い物件というのは、僕らの中で誰も求めてなくて。敷浪さんは車でよく移動しているし、ぼくらも子どもが出来て、電車より圧倒的に車の方が、生活の中で価値が高くなった。それでわりと郊外だけに絞って探していました。

0Q8C2341

Q3.この物件に決めた理由は?

中嶋:
ここは不動産情報に倉庫として出ていました。いまも他の人はほとんど倉庫として借りているんです。それで内見に行ったら、今でも外観はヤバいけど、最初はもっと汚くて、ボロボロの錆び錆びだった(笑)。でも、映画のセットみたいで、ここが色々見た中で一番建物がかっこよかった。まぁ一般的に見てかっこいいかどうかわかんないけど、特徴的な建物だし、僕らはかっこいいなと思って。

0Q8C2566

小田桐:
いつも僕らがプロジェクトをやるときは、建物がわりと重要で。そこが魅力的じゃないとな、というのはあります。

中嶋:
それで2017年の4月から借りました。最初はまず事務所として使うのがメインでしたが、コーヒーの焙煎をやっていた「きたもとアトリエハウス」のプロジェクトが去年の7月に一旦終わったので、焙煎機もこっちに持ってきて、焙煎もはじめました。

そうして場所を整えながら使って、そろそろ人が来ていいようにしようかっていうので、お店をはじめることになりました。

Q4.なぜ日用品店に?

中嶋:
もともとこの場所が商店街みたいな日用品市場だったということもあり、やるんだったら日用品店がいいよねと。元日用品市場に、もう一回現代版の日用品店をやるっていう。だから他の場所を借りてたら、日用品店にはなっていなかったかもしれない。場所の記憶とか歴史みたいなものを、読み替えたり、利用してやるのがおもしろいなって思ってるから。普段のぼくらのプロジェクトのやりかたのまんまなんですけどね。

「UCOプロジェクト(2016〜)」アッセンブリッジ・ナゴヤ2017の会期中、20年間閉じていた旧寿司店"潮寿司"にて、カフェ営業を行い再び人が集える場所に。モーニングの販売(「たとえば、いつもより早く起きてモーニングを食べてみるとする。」)なども行なった。【写真提供:アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会 撮影:怡土鉄夫】
「UCOプロジェクト(2016〜)」アッセンブリッジ・ナゴヤ2017の会期中、20年間閉じていた旧寿司店”潮寿司”にて、カフェ営業を行い再び人が集える場所に。モーニングの販売(「たとえば、いつもより早く起きてモーニングを食べてみるとする。」)なども行なった。写真提供:アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会 撮影:怡土鉄夫

これからの活動を伝えるためのクラウドファンディング

Q5.クラウンドファンディングをやることになったきっかけは?

小田桐:
L PACK.として活動し始めて、気づいたら去年で10年経っていました。なんとなく、10年って節目のような気がして、いまこの場所もそうだけど、どんどん新しいことをしてみたいなと思って。その資金集めを考えていた時に、ちょうどユトレヒトの江口宏志さんがクラウドファンディングのプロジェクトを達成されて、勇気をもらったというか。こうやって、新しく事業を立ち上げることができるんだと感じたのがきっかけのひとつです。

中嶋:
キッチンとか、水周りもなんにもない倉庫物件だったので、改装するのにそこそこお金がかかるというのもありました。
_Q8C2431
小田桐:
クラウドファンディングサービスは、江口さんと同じReady for にしました。そこではプロジェクト毎に担当者が一人ついてくれて、彼らのノウハウでサポートしてくれるんですが、「まずは友人とか知人のみんなに、自分たちのやっていることを伝えてください」って言われて、「あ、確かにな」と思って。

10年間活動して、たくさん知り合いが出来ていたから、そういう人たちに自分たちがこれから何をやりたいのか伝えるには、すごく良い機会だなと、やっていて思いました。ちゃんと伝えると、みんな支援してくれたし。そこが一番プロジェクトをやってよかったことかもしれない。

Q6.お店の改装はどのように?

中嶋:
基本的には自分たちで作業をして、電気と水道とガスだけ業者にお願いしました。あと、はかり売りの棚は知り合いの家具屋さんに作ってもらって。

小田桐:
はかり売りをお店の柱にしようっていうのを決めたから、そのための棚はきちんと作りたいねという話をしていたんです。

店を使いこなしてる感のある”はかり売り”

カウンターの後ろにあるのが、はかり売り用のストック棚。
カウンターの後ろにあるのが、はかり売り用のストック棚。

Q7.はかり売りで販売されているものは?

小田桐:
メインは自分たちがずっと焼いてきたコーヒー豆と、お米。お米は、きたもとアトリエハウスでカフェをやっていたときに使っていた農家のお米を扱っています。あとはその農家さんで作っている無農薬の大豆。僕の出身が青森なので、青森のりんごジュース。それと、大阪にある木村石鹸の洗剤です。

中嶋:
木村石鹸も直接は知らなかったんですが、クラウドファンディングで「はかり売りをやりたい」と言っていたら、木村石鹸の社長さんが「洗剤もはかり売りできます!」って連絡をくれたんです。

0Q8C2576

Q8.これからやりたいはかり売りは?

小田桐:
最初からやりたいと思っているのは、味噌と醤油。スーパーが出来る前は、日常的にはかり売りで売り買いしてたものだから。

中嶋:
僕は実家が静岡の田舎なので、小さい頃に近所の酒屋で、かろうじてまだ醤油のはかりを売りしていたんです。一升瓶を持っていくと入れてくれました。そういう思い出もあって、はかり売りってなんかいいなと。僕らの場合、エコとかじゃなくて、その売り方がかっこいいと思うからやりたいんです。それに、お店を使いこなしてる感がはかり売りにはあるなと。

家に味噌ってだいたい一種類しかないし、スーパーの1キロとかの味噌ってなかなかなくならない(笑)。何種類かの味噌がちょっとずつ家にあって、今日の味噌汁にはこれ、西京焼きにはこの味噌という風に、変えられたらベストで。はかり売りはそれが出来るなと思うんです。

店内の一角では「石」のはかり売りも。
店内の一角では「石」のはかり売りも。

小田桐:
実はこの近くに味噌工場があって、そこで毎月最終土曜日に、工場の人たちが味噌のはかり売りをしています。そとに紅白の横断幕が出て、樽がたくさん置いてあって、来た人には必ずお土産を配ったり。話を聞いたら、何十年もやっているらしく、お祭りみたいな賑わいで。

中嶋:
あれはかっこいいよね。

小田桐:
他にも野菜の直売をやっているところが何軒かあったり、一般的な横浜のイメージにはあまりない、田舎的な環境が実はこの周辺は整っていて。昔はここから道を挟んで向こう側は牧場だったらしく「そこから牛を見てたよ」って、近所のひとが教えてくれたり(笑)。

0
この記事が気に入ったら
いいね!しよう