From YOUth #12|SHANTZ 秋山あい子

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あらゆる「商品」が合理的につくられ、対価さえ支払うことができれば、ほぼなんでも手に入れることのできる現代。選択の自由がこれほどまで高まっている時代だからこそなのか、その自由を逆手にとり、これまでにない売り方や作り方を目指す異端者たちがいる。連載シリーズ・FROM YOUthでは、そんな新たな売り方・作り方を志向する20代~30代の「店主」たちの試みをエッジなユースカルチャーと位置づけ、インタビューを通じ、時代を生き抜くヒントを探す。

vol.12に登場するのは、北千住駅の西口、旧日光街道沿い「千住ほんちょう商店街」にあるカフェ「coffee beans shop & cafe SHANTZ 」の店主、秋山あい子さん。ご両親が営む老舗の喫茶店「Coffee Work Shop Shanty」に隣接するスペースで、2018年10月から店舗をオープンした。北千住の街で喫茶店を実家として育った秋山さんの想いに触れながら、自分の店を持つまでの経緯や、コーヒーとケーキ、そして町のことについて話を聞いた。

クレジット|
Text:Haruya Nakajima
Photo:Natsuki Kuroda
Edit:Shun Takeda

実家が老舗喫茶店である、ということ

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Q1. お隣にあるご両親の喫茶店「Shanty」(シャンティ)はどんな店?

「Shanty」がオープンしたのは1968年。父親が大学生だったとき学園紛争で大学がロックアウトになっちゃって、ひまだったらしいんです。父は学園紛争に熱くなれるタイプではなく斜に構えてたから、みんなが集まれる場所を作ろうと考え、はじめは雀荘をやろうとしたら、親に大反対されたみたいで(笑)。それじゃ喫茶店にしようということで、自宅を改修してオープンさせたそうです。

Q2. 実家が喫茶店ってどういう感覚?

私は昔、それがイヤでした。たとえば小学校のときには、周りはサラリーマンの家庭が多かったんです。その子たちから日曜日に旅行にいったとか、お父さんがゴルフをやってるとか、そういったことがすごくカッコよく聞こえました。一方我が家は休みが週一回の定休日しかないし、ゴルフもしない(笑)。だからマンションや集合住宅に住んでいるような、いわゆるサラリーマン家庭には憧れがありましたね。ただ、そのコンプレックスも子どもの頃だけ、中学生くらいまででしたが。

Q3. 娘としてお店は手伝っていた?

大学生になってから、店が忙しいときは手伝わされていました。でも常連さんとのコミュニケーションなんかは苦手でしたね(笑)。自分の家に知らない人がずっといるというのがとにかくイヤだったんです。今では通ってくださるお客さんは本当にありがたい存在ですが、当時はその有り難みがわからなくて、ちょっとした反発心がありました。

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Q4. その反発心が消えたきっかけは?

大学に入ってバイトを始めたとき、自然とカフェを選んでたんです。しかも、ホールでの接客はあまりせずに、キッチンで作る方が中心。ドリンクやフードを作るのが好きになりました。

特に、神保町の有名な喫茶店「さぼうる」(※女性はホールのみ)で働いたのはいい経験でしたね。あの店の雰囲気って“涼しげな木陰”という感じで、すごくいいんですよ。地下だとまた空気が変わるし、ご飯も美味しくて、「こんなお店があるんだ!」と衝撃を受けました。

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Q5. その後「Shanty」を継ごうとは考えなかった?

大学を出てフラフラしていたら、親から「あなたが家を継ぐんだよね」というプレッシャーがだんだんかかってくるようになって。私には兄がいるんですが、兄は小さい頃から自分のやりたい道が決まってて、筋も通ってる。それですぐ地方に就職しちゃったんです。一方私はちゃんと定職にも就かずに飲食店やカフェで働いていました。

そんなとき一回父と大ゲンカしまして、「どういう身の振り方をするのかもう決めなさい」と言われた。でもやっぱり私は「家を継ぐのはイヤだ」と思い、27歳の頃、家を出て独立したんです。北千住から離れたくて、二子玉川で一人暮らしを始めました。周囲に大学時代の友人もいたし、世田谷区という“ちょっといい感じの場所”に出たかったから(笑)。

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Q6. 新生活はどうだった?

結局、2年くらいで失敗して戻ってきちゃったんです(笑)。そこでもまだ家を継ぐ気にはなれず、紆余曲折を経て、一度パンケーキハウスに就職します。色々と勉強させてもらって頑張ったんですが、こちらの事情で実家に戻ることになったときに覚悟を決めました。

私もカフェや喫茶店の仕事を続けているんだから、「やりたくないことではないんだな」って自分の気持ちを再確認して、腹を決めてコーヒーの勉強を始めました。取引しているコーヒー会社の社長さんに紹介してもらったベテラン焙煎士さんのもとで、焙煎を教わったんです。そして完全に実家に戻ってきて、コーヒー豆を煎ったり、仕込みに関しては全部私がやることになって、しばらく「Shanty」に身を置いていました。

Q7. そこから、このカフェ「SHANTZ」(シャンツ)を開いた経緯は?

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もともとこの商店街に面した建物の多くが長屋のつくりになっていて、間口が狭くて奥に長いんです。我が家もそうで、一つの長屋の土地を親戚と二つに分けていたんですが、親戚が引っ越して空き家になった。そこで、土地を遊ばせておくのはもったいないから、親が「練習じゃないけど、やりたいことがあるならやってみたら?」と言ってくれたんです。

でもそれを受け入れてしまうと、この町で家を継ぐことを引き受けることになってしまうのではないか。自分の力だけで手に入れたわけでもないのに……そんな葛藤の末、「ここを私の城にするんだ!」と本格的に覚悟を決めて、昨年の10月からこの店を始めました。だけどまた転機があって……。

Q8. いよいよカフェがオープンしたところで、さらに転機が?

店を始めてすぐに入籍して、夫が単身赴任で海外に行っちゃったんです。だから私も海外に行くことになりそう。まだ今年いっぱいは開けていると思いますが、一度「SHANTZ」としてはお休みすることになるかも。不在の間はカフェの状態のままで、誰か嗜好が似ている人に店舗を任せたいと思っています。私が日本に戻って来たら、次こそは腰を据えてやります。

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