あらゆる「商品」が合理的につくられ、対価さえ支払うことができれば、ほぼなんでも手に入れることのできる現代。選択の自由がこれほどまで高まっている時代だからこそなのか、その自由を逆手にとり、これまでにない売り方や作り方を目指す異端者たちがいる。連載シリーズ・FROM YOUthでは、そんな新たな売り方・作り方を志向する20代~30代の「店主」たちの試みをエッジなユースカルチャーと位置づけ、インタビューを通じ、時代を生き抜くヒントを探す。
vol.14に登場するのは、今年6月にオープンしたばかりの雑貨店「花丸ショップおやすみ」の店主、たからひなのさん。専門学校卒業後、「うっかり始めてしまった」というお店は、自身が制作したグッズや洋服がずらりと並ぶ。JR中野駅と、西武新宿線新井薬師駅のちょうど間の住宅地に、赤とピンクの外観のお店がひっそりと位置している。駄菓子屋さんのようなお店にしたいという彼女の展望と、若い世代ならではの、拠点としての町について話を聞いた。
Text:Akira Kuroki
Photo:Shin Hamada
Edit:Shun Takeda
うっかり始まってしまったお店
Q1.ここはどういうお店?
雑貨屋さんということに一応はしてるんですけど、自分でもまだわかっていないです。
基本的には、私が作っているグッズ「おやすみクラブ」の商品を中心に売っています。最近はちょっとずつ、仕入れした雑貨も扱うようになりました。
Q2.お店を始めたきっかけは?
子どもの頃から物を作るのが好きで、高校生のときにZINEみたいなのを作って、なんとなく通販したりしてたんです。
高校2年生くらいの時から、ライブハウスに通い始めていたんですが、そこで「EHONN」っていうバンドに出会いました。彼らが文化祭をテーマにライブを企画していて、バンドの周りにいる絵を描く人や、物を作ったりするたくさんの人たちがライブの時にフリーマーケットみたいに出店してたんです。
そこに遊びにいって、「お店って出来るんだなぁ。自分の作った物を、ちっちゃいお店を開いて直接お客さんと会ってやるっていうのはすごいいいなぁ」って思ったのが、お店を始めようと思ったきっかけです。
そこでまずはフリーマーケットから始めようと思い、見つけたのが高円寺の「北中夜市」という、毎月第三日曜日にやっているフリマイベントです。
それがお店を始めた最初、お店デビューです。「おやすみクラブ」という名前は、最初はそこで出店する時の名前だったんですけど、今はブランド名というか、私が作ったものを「おやすみクラブ」と呼んでいる感じです。
そこから2年間くらいは、毎月「北中夜市」に出店したり、友達のイベントに呼んでもらってライブハウスでやったりしていました。
「EHONN」は3年前くらいから夏休み中(活動休止)なのですけど、私がまだ何もやってなかったときから、私が描いてた絵を気に入ってくれて、フライヤーを描かせてくれたり、ロゴを頼んでくれたりしました。それをきっかけにパソコンでやるのを覚えたり、ちゃんと絵を描き始めました。
今思うと、バンドの「EHONN」に出会ったのが大きい気がしています。色々と見せてくれたというか、仲間に入れてくれたことが大きかったですね。このお店のオープンの日には、「EHONN」のボーカルの望月くんと、「花柄ランタン」というすてきな二人組にライブをしてもらったりもしました。
Q3.この店舗をオープンするに至った経緯は?
それは、めちゃくちゃうっかりなんです。。今年の春に専門学校を卒業して、今まではずっと実家で作業していて大迷惑をかけていたので、卒業したら自分の作業部屋を借りようと、去年の秋くらいから計画していたんです。
風呂なしの激安アパートを秘密基地にするぞと思っていたんですけど、今年4月の終わりくらいにその話をお父さんにしたら、「えっ、それは絶対店舗にした方がいいよ」って言われて。
たぶん私が「その秘密の作業部屋で、たまにこっそりお店をしたいんだよね」みたいなことを言ったからだと思うんですけど、「えぇ~、そうかなあ」と思いながら、店舗の物件も調べてみたら、ここの物件を見つけました。
次の日に内見に行って、「あ、イケるぜ」ってうっかり思っちゃって(笑)。それですぐ決めちゃって、急にお店を始めました。1ヶ月くらいで準備して、オープンして。
Q4.最初はお店を始めるつもりじゃなかった?
全くなかったです。オープンしてからも、「へぇ~、私お店オープンするんだ~」って感じでした。
今までの計画では、卒業していろんなところに出張出店しまくって、25歳くらいになったら「あ、ここに私は居てみよう」っていうところを決めて、そこを拠点にしながらお店をして、30歳くらいになったら、自分の店舗を持つって感じがいいかなぁとずっと思ってたんです。10年くらいの計画がぎゅっと縮まりました。先のことはわからない。
ひとまず、ここは4年間の定期借家なんで、4年間はやってみて、まぁその時のことはその時考えようかなと。
でもなんだか私の周りの人より、私の方が一番お店をオープンしたことにびっくりしています。友達に「私のお店が始まりそうなんだけど…!」って言ったら、「あぁ、そう!まぁそんな気もしてたよね。」みたいな感じで(笑)。みんなの方がわかってたんだねぇと。
Q5.ここの物件に決めた理由は?
ドアが丸いのと、テントが付いていること!
あとは、お店スペースもあって、自分が作業するスペース、ミシン机と作業台、材料の布を置ける広さがあって、イケそうな気がするお値段だったこともあり。場所は、高円寺が一番好きでいつも遊びに行っていて、このあたりは自宅からも通いやすいので、中野~高円寺あたりで探していました。
立地が商店街の中じゃないのも気に入っています。住宅街を通って急に現れる感じもいいなと。
次のページ人が集まって出会う、駄菓子屋さんのような場所に