vol.13に登場するのは、下北沢の隣、京王井の頭線・新代田駅すぐにある「飲み屋 えるえふる」の店主・會田洋平さん。「『音』と『酒』から“縁”が生まれる場」をコンセプトに、レコード屋が併設された立ち飲み屋を切り盛りする。そんな會田さんに、この店の成り立ちからお酒へのこだわり、新代田という町、そして台湾出店の話まで、ドラム缶のテーブルにお手製のツマミと瓶ビール「赤星」を並べて、ほろ酔い加減で話を聞いた。
Text:Haruya Nakajima
Photo:Shingo Kanagawa
Edit:Shun Takeda
飲み屋話からはじまった、立ち飲み屋&レコードショップ
Q1. お店を始めたきっかけは?
ここは元々「commune(コミューン)」というカフェギャラリーでした。僕も友達の展示を見に遊びに来たことはあったんですが、そこが閉まることになった。そのタイミングで、近所にある「FEVER」というライブハウスの店長・西村さんからこの物件が空くことを教えてもらったんです。
ギャラリースペースで店舗もできるし、カフェスペースで飲食もできる。改装費もかからず、ほぼ居抜きでスタートするならいけるかも、と。そこで、もう一人の経営者で、「LFR」の中のレコード屋「LIKE A FOOL RECORDS」の店主である辻友貴くんと話し合い、2015年8月にオープンさせました。
Q2. レコード屋と立ち飲み屋を併設するというアイデアはどこから?
元々、僕も辻くんも音楽をやっていて。僕は「core of bells」、辻くんは「cinema staff」というバンドで、彼とは音楽仲間であり飲み友達でした。当時、辻くんは残響レコードというレーベルが渋谷でやっていたレコードショップで店長をしていたんですが、そこが閉店することになった。その頃僕はバンドをやりながら、ずっと飲み歩きライターをやってたんです。
ペンネームは「瓶ビール班長」。そんな時に辻くんと、「レコ屋で角打ちみたいに一杯飲める場所ができたらおもしろいね」「音楽も視聴できて飲めたら最高じゃん!」と、本当にいわゆる「飲みの席の話」をしてたんです。
Q3. 「飲みの席の話」を実現させた経緯は?
僕はすでにライター時代、キンミヤさんやハイサワーさんなどお酒関係の会社とつながりがあったので、「協力できるかも」って言ってた程度だったんです。するとある日、いきなり辻くんから物件のメールが送られてきた(笑)。まだ何も考えてないのに、「會田さん、この物件どう思いますか?」って。とりあえず二人で見に行ってみたんですが、そこはすぐ埋まってしまったんです。そうこうしているうちに、冒頭で話したこの場所の話をもらいました。
下北沢の一つ目小町としての、新代田
Q4. 新代田という立地で飲食店を開くことについては?
「commune」や「FEVER」に数回来たことがあるくらいで、この辺に馴染みはありませんでした。隣駅の下北沢のライブハウスにはよく通ってたけど、下北や高円寺あたりにバンドマンが住むなんて、“いかにも”でダサいと思っていて……(笑)。
僕は実家が藤沢なので、「東京への憧れ」も特になかったんです。でも新代田は下北から少し離れてますよね。僕は飲食店での勤務を全く経験したことがなかったので、激戦区である下北のど真ん中でお店をやれる勇気はありませんでした。その意味で、下北ではなく新代田という土地は、ちょっと気が楽でしたね。
新代田は真ん中を環七通りが貫く車の町で、人もそんなに歩いてない。駅から降りてもみんな四散して家に帰るだけなので、最初の頃はこの町のイメージをつかめなかったんです。ちょっと印象が変わったのは、地元の商店会に入ってから。商店会はずっとこの土地で暮らしてきた年配の方が多く、話題も健康の話が多いんです(笑)。
でも若い人が何かをやり始めてくれるのは嬉しいらしく、こんな金髪の僕にもエールを送ってくれるようになりました。また、近くの「ものこと祭り」に参加したりする中で、店を開いて2年後くらいから「この辺で何かを発信するのもおもしろいかも」とこの地域の可能性を感じ始めたんです。下北沢から連動してこの地域にも再開発の波が来ているので、新しくどんなスポットになるのか楽しみですね。
Q5. 特に計画性なく始まったお店で心配だった点は?
初期費用が用意できるかどうかだけでした。僕も辻くんもずっと音楽をやってきて、それぞれのコミュニティがあったので、多分始めれば何とか回るだろうと思っていました。僕は演劇や美術系の知り合いも多かったし、二人が関わっている音楽のシーンもちょっと違ったので、広がりが持てるだろう、と。
実際オープンしてみると、皆さんが来てくれたり宣伝してくださったりして、なんとか続けられています。売り上げが落ち込む時もありますが、平均を取ると大体横一線。今はカウンターまわりを担当するスタッフを一人雇っていて、僕はツマミの仕込みを担当しています。
次のページ酒場巡りの経験から繰り出される、安価で美味いツマミとお酒