F/T17レポート 中野成樹+フランケンズ「半七半八(はんしちきどり)」|演出された町を歩く

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昨年秋に開催された国内最大規模の国際舞台芸術祭『フェスティバル/トーキョー17』において、現代演劇カンパニー、中野成樹+フランケンズが、松戸にて舞台公演『半七半八(はんしちきどり)』の上演を行なった。

観客はツアー形式で町中を歩いて移動し、松戸駅周辺の複数の会場で観劇する。町の風景や文脈を絶妙に取り込んだ物語と演出が、大きな反響を呼んだ。

今回は、本公演のドラマトゥルク(劇作家・演出家と組み、戯曲のリサーチや創作全体をサポートする役職)である長島確さん、公演の主催・会場でもあり、制作面でもサポートを行なったアーティスト・イン・レジデンスPARADISE AIR(パラダイスエア)の森純平さん、宮武亜季さんを招き、改めて公演を振り返りながら、町と演劇の関わり方、その可能性を聞いた。

Photo:Suguru Ryuzaki
Text:Akira Kuroki

江戸川を越えた松戸から、江戸側の物語を演じる『半七半八(はんしちきどり)』

ー長島さんは今回の作品『半七半八』にて、ドラマトゥルクとして携わられています。公演に向けて、具体的にどのようなことをされていたのでしょうか。

長島 確:ドラマトゥルクと言ってもいろんなケースがあるんですが、基本的にはアーティストと組んで、作品をかたちにするエンジニア(技術者)だと思っています。中野成樹とは十数年組んでいますが、基本的に彼は、劇場で既存の戯曲を上演するというのは、俳優たちと自分だけで出来てしまう。

一方、劇場の外で何か普通と違うことをやる、あるいはジャンルを跨いでやるという場合には、作りかた自体が複雑になってきます。そういう時に僕が入って、いっしょに考えていく。だから特定のピンポイントで何かをするというよりは、終始そばにいるというか、裏にいるというか。基本的にはプロセスにずっと付き合って、ああだこうだ話していく立場です。

『半七半八』では、お客さんが会場を移動しながら、物語の場面場面を見ていくというかたちに決まって。そこで物語の場面の中身を中野が作りこむ。それに対して、移動の際に、観客をどんな風に誘導するか、通り道は最短を通るのか回り道をするのか、途中で何を紹介していくのかなど、場面の外の部分を、僕と、東彩織というメンバーで引き取って作るというかたちにしました。なので主に外の移動、ナビゲート担当という役割でしたね。

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ー作品の内容は、どのように決まったのですか?

長島:今回のF/Tの公演に関しては、もともと都内の別の場所で別の演目を準備をしていたところ、急な事情で松戸でやることになりました。中野が、それだったら全然別のことをやりたいということになって。

岡本綺堂の『半七捕物帳』という、日本の探偵小説の元祖というべき小説があって、それを元に何か出来ないかと、何年か前から中野と話していました。これを江戸のど真ん中でやるんだとあまりにベタすぎて、意味がないんじゃないか。でも逆に松戸だったら、その距離感のなかで、江戸を舞台にした捕物帳を原案にするものがかえって出来るかもねと、中野のなかでアイデアがにわかに具体的になってきたんです。中野はそもそも葛飾の生まれで、江戸川に結構執着というか愛着があったんですね。

江戸川を挟んでどっちが江戸で、あるいは東京でみたいな、そういうボーダーを巡って、チャキチャキの江戸っ子の話である原作を、江戸の外に持ち出してみようという考えがありました。そうして中野が台本を書いて、稽古を東京ではじめ、一方松戸では、PARADISE AIRの方々にサポートしていただきながら、上演に使う場所が決まっていきました。

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F/T17 まちなかパフォーマンスシリーズ 中野成樹+フランケンズ『半七半八(はんしちきどり)』 Photo:Kazuyuki Matsumoto
F/T17 まちなかパフォーマンスシリーズ 中野成樹+フランケンズ『半七半八(はんしちきどり)』
Photo:Kazuyuki Matsumoto

ーPARADISE AIRのお二人は、どのようなかたちで公演に携わられたのでしょうか。

森 純平:僕は今回クリエイションの部分には深く関わっていないのですが、まず初めに、これまで使ってきた町中の会場を紹介するところからはじまり、クリエイションが始まった後は町の人たちとのコミュニケーションをフォローしたり、何か漏れがあったときの最後のキーパー的な感じで動いていましたね。

2013年頃からPARADISE AIRの運営をはじめて、これまでに約140組アーティストと一緒に活動を続けてきた中で、私たち運営チームにも町にも経験値が溜まってきています。今回いろんな会場がすぐに提案できたのも日頃からいろんな町中の場所を開拓していった結果として、やっと出来てきた感じがあって。

演劇、ダンスといったパフォーマンス系の作品を松戸で以前からやりたかったんですが、そこに対応できるマンパワーが足りず、なかなか実現できないことがあり。そんなタイミングで今回F/Tの話をいただいて、それは是非に!という感じでスタートしました。

わけのわからないものを許容してくれる町

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宮武亜季:私は、中野成樹+フランケンズさんたちが作ってくれている作品を町にインストールするにあたって、稽古場で想定していたことと、町で実際に起きていることが違ったりするので、その部分をPARADISE AIRの人として、出来るだけ円滑に進むようにする、ということをやっていました。地域のかたに出来るだけ負担なく進むにはどうしたらよいかなと考えていましたね。

森:普通であれば、フェスティバルであったり町でなにかをやるときは一過性のイベントになることが多いと思うんですけど、僕らの場合は日常的にここを拠点にして活動をしているので、すべての人とこれからも繋がりが続いていきます。今回の公演をきっかけに新しい側面を開拓するだけじゃなくて、今までの関係性をより深くするということをきちんとしたかったというのもありました。

ー長島さんには、PARADISE AIRのひとたちの存在はどう映りましたか?

長島:先に話したように、予定が急に変わって、松戸でやるということになってから、実際半年くらいで本番まで来たんです。普通このスピードでは絶対に無理。ところが、地元で場所を見つけて推薦してもらえる、つないでもらえるというのは、PARADISE AIRの皆さんがこれまで作ってきた関係があったから。松戸市観光協会のかたもすごく協力してくださったし、本当に感謝をしています。

あともうひとつの印象として、松戸の町自体がとてもおもしろくて。しかもわれわれのことを、町の人たちがほっといてくれるというとあれですが、変にジロジロ見て排除しようとはしないでいてくれることが、実はものすごく大きなポジティブなことでした。あったかいというのとはまた違うと思うんですが、そこがすごくよかったです。
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森:そこはまさにそうかもしれないですね。あとたぶん僕らがいつもなんだか訳のわからないことをやっていることも多く、あんまり構ってもしょうがないし、怒ってもへこたれないしっていうところがあるかも(笑)。

宮武:でも、そういうわからないものを許容する力っていうのはすごく大きい気がします。私もPARADISE AIRに来る前、2010年くらいにあるプロジェクトを松戸に見に来たことがあったんですけど、その時に70代くらいの地元のかたが場所を提供してくれていたそうで、実際にイベントも見に来ていたんです。

最後打ち上げの席にその方もいらっしゃって「この歳になって、こんなわけのわからないものに出会える機会なんてなかなかないよね」と言っていて。そういった多様性を重んじる考えをもったかたが松戸にはたくさんいる気がして、町全体を使ったプロジェクトが実現するんだなと思います。

劇場の外に出ていく意味

F/T17 まちなかパフォーマンスシリーズ 中野成樹+フランケンズ『半七半八(はんしちきどり)』 Photo:Kazuyuki Matsumoto
F/T17 まちなかパフォーマンスシリーズ 中野成樹+フランケンズ『半七半八(はんしちきどり)』
Photo:Kazuyuki Matsumoto

宮武:今回、中野さんたちがすごいなと思ったのは、私たちが提案した候補場所から、上演場所をほとんど即決に近いかたちで選んでくださったことです。普通なら「こういうところでやりたい」とか、「こういう場所はないのか?」という話になってくると思うんですけど。

長島:提案が初めから中野にとって魅力的なものだったということもあると思います。でも劇場を出る意味みたいなものもすごく関係していて。環境を全部コントロールしたいんだったら、劇場の中でやるべきなんですよ。劇場の機能というのはノイズフィルターで、美術でいうホワイトキューブと同じかもしれないけど、邪魔なものを一切排除して、なおかつその中を完全にコントロール出来る。

一方、外に出たら、いろいろな偶然まで含めて、混入してくるノイズに対して戦ったらダメで、おもしろがって受け入れるというか、そういうノイズと合わさって劇場の中で出来ないようなことが出来ればいいなっていう考え方をしています。

もちろんケースバイケースですが、案外受け身であることが実は攻めだったりして。「こういう場所を見つけたい」みたいなことを考えていたら、絶対に見つからないんですよね。それよりは、あるものを活かすとか、それに合わせるかたちでこっちのアイデアをもっとプッシュするみたいな。そう考えると、今回は作る時間が短かったこともあるけど、場所を決めるのは結構早かったですね。

F/T17 まちなかパフォーマンスシリーズ 中野成樹+フランケンズ『半七半八(はんしちきどり)』 Photo:Kazuyuki Matsumoto
F/T17 まちなかパフォーマンスシリーズ 中野成樹+フランケンズ『半七半八(はんしちきどり)』
Photo:Kazuyuki Matsumoto

ー公演の感想をSNSなどで見ていると、公演会場が撮影禁止だったというのもあるかもしれませんが、「どこかのお店で食べて帰った」とか、「町角の風景がおもしろかった」など、町中の写真を感想とともにあげている人多いのが印象的でした。公演の内容とは別のところにも、お客さんが出会っているというか。

宮武:それは、長島さんがディレクションしていた公演途中の案内が絶妙だったのかもしれませんね。

長島:今回は町が本当におもしろくて。だけど、今回の物語は時間構造が複雑だったので、町を楽しんじゃうと物語がわからなくなっちゃう。だからお客さんを次の会場に誘導する時に、「できるだけ町を見ないでください! あそこにおもしろそうなお店があるけど見ないでください!」って言ったりとか。まぁそういう言い方をすることで、むしろ見せてたんですけど(笑)。

あとは劇場でやるということとの違いだと思うんですが、劇場ってやっぱり場所性の否定なんですよね。演劇ではブラックボックスと呼びますが、ホワイトキューブと同じで、どこであれ同じ抽象空間を確保して、外の時間と切り離れたお芝居を見せる。だからツアーでも回せるし、いろんな劇場で再演も出来るんだけど、そうすればするほど、町とは完全に切れちゃって、どの町で見ても同じ、行き帰りの景色は舞台で見たものと関係ない時間、みたいになっちゃう。まあそれは極論で、完全に無関係というわけではないんですけど。

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それに対して町で作る時は、どうやって町に流れている時間や、おもしろいノイズとかと共存させるか、混ざるゾーンを作るか。町でやるかぎり、お客さんはやっぱり町のことも見るだろうし、その町がおもしろくないと、どんだけシーンがおもしろくてもダメだろうし。今回は町がおもしろかったからこそ、あえて途中では出来るだけ「町を見るな」って言って(笑)。そうすれば終演後にいろんなところを見てくれますよね。帰りに見てもらえるように、帰り用のMAPを用意しました。河川敷で解散にして、あとはどうぞ自分で楽しんで、みたいなかたちで。

宮武:物語の中でも、台詞の中に松戸の町の情報が織り込まれていたので、余計にお客さんが気になっていたり。その抽出の仕方がいやらしくなくて、中野さんすごいなぁと。お客さんにとってもおもしろかったと思います。

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