あるときは言葉や絵画を記述し、あるときは思想や哲学を共有し、歴史を物語るメディアとして。遡ること約5000年ほど前。パピルス(紙)以前の時代の石板や木簡に遡り、中世に普及した聖書をはじめ、「本」は思想の共有、コミュティの形成から技術の更新、文化の醸成に至る社会の成り立ちに大きな影響を与え、時代の価値観を映してきた。
たとえば中世の絵画や宗教画では、「本」は限られた人のみ手にできる高貴なものの比喩として描かれていたが、現代美術では大量生産大量消費の象徴として描かれている。16世紀の画家ジュゼッペ・アルチンボルドは《司書》(1569年)の中で、手にした本を読まないことは愚かなことだと嘲笑したが、誰もがせわしなく生きる現代においては、積読していても誰にも咎められることはない。本を燃やす焚書という行為は革命の嚆矢となり多くの血が流れたが、今日では毎日何百万冊の本が廃棄され断裁処理されている。時代の変遷とともにその様態や用途、在り方は大きく変化している。
かつて智恵、権威、文化の象徴として機能していた「本」の時代は、一見したら終焉を迎えつつあるのかもしれない。事実、現代の出版不況は終わりが見えず、良質な街の本屋は次々と姿を消している。そんな状況下でも、「本」を手に取る理由はなんなのだろうか。
街の風景に目を向けてみれば、かつて本屋は商業施設の集客の要であったが、今は本屋がない商業施設もめずらしくなくなった。本屋に人が来ない・売れない状況が続く一方で、個人による本づくりや1人で営む出版社は未だに増えているし、数万人を超える集客を実現する「TOKYO ART BOOK FAIR」や「文学フリマ」など、本に関するイベントが全国各地で開催されては盛り上がりを見せている。また、雑誌では定期的に本や本屋に関する特集が編まれている。本が売れない時代にも関わらず、本にまつわるモノ・コト・ヒトは絶えず成長し、増殖を続けているのだ。イベントやその時代の活動はテンポラリーなものなので、ともすれば一過性で終わりかねないが、今起きていることを記述し、記録されることでその活動を世の中に広めることができる。そういう意味で、雑誌やメディアが果たす役割は、出版不況の現代だからこそより大きいように思う。
連載第2回となる今回は、デザイン雑誌『アイデア』の編集長・西まどか氏にインタビューを敢行。世界有数のデザイン雑誌でありながら国内外の様々な本の周縁環境を取り上げ、本の新たな価値をもたらしている『アイデア』。媒体が持つ歴史を重んじながら、時流を反映しつつアイデンティティを更新していく雑誌のつくり方にはじまり、直面する課題や今後の展望などをお話いただいた。
編集者というフィルターを通して「本がある風景」とその周辺の生態を観察、考察する。
Interview+Text:Yohei Sanjo(ORDINARY BOOKS)
Photo:Keitaro Niwa
Edit:Moe Nishiyama
「世界のデザイン誌『アイデア』」は、1953年に誠文堂新光社から創刊した。以来70年間、グラフィックデザインやアート、建築業界に身を置く者たちに影響を与え続けている。時代の一歩先を行く先鋭的な特集もさることながら、アートブック並みのハイクオリティな印刷は、デザイン雑誌のみならず、どんな雑誌とも一線を画している。この歴史ある雑誌の編集長を2018年から務める西まどか氏に話を聞いた。
——はじめに、西さんが編集者を志した理由からお聞きできますか。
誠文堂新光社の『アイデア』編集部に所属する前は、美術系の出版社に2年ほど勤めていました。それが編集者としてのキャリアのスタートです。私は美大出身なのですが、学芸員資格を取るような学科に在籍していて、美術史やデザイン史を学んでいました。その流れで在学中に都内の美術館で学芸員補助のアルバイトをしていました。美術館では、展覧会を開催することに付随して図録の編集業務を館内で行うこともあるので、そうした業務の手伝いを通して、展覧会を本という空間に落とし込んでいくという、展覧会図録の在り方に興味を持ちました。大学の授業でもブックデザインやエディトリアルデザインに触れる機会があり、ビジュアルブックという分野への関心が高まっていったという流れです。
大学院を修了するにあたり、就職活動では紆余曲折したのですが、ちょうどその時期に前職の出版社でも「図録兼書籍」と呼ばれるのような、美術館で展覧会図録として販売しながら一般の書店にも並ぶという書籍を積極的に刊行するようになっていたんです。そこで、求人募集に応募し、編集アシスタントとして美術館や博物館と協働して書籍編集の仕事に関わる機会を得ました。
——それ以前から本づくりには興味を持っていたのでしょうか。
仕事として編集者という職能に惹かれるようになったのは、先ほどお話しした美術館でのアルバイトがきっかけなので、大学院生になってからです。昔から美術やデザインに関心があり、そういった業界に携わりたいという希望から美大に進学したのですが、はずかしながら本はそこまで身近な存在ではありませんでした。なので、いわゆる文芸系の編集者の方々のように、文学部卒で小説が大好きだから編集者を目指した、という感じではないんです。編集者は文芸の素養を持った人が目指すものだという認識でしたね。そんな私が編集者という仕事に就いた訳ですが、今から振り返ると、大学院での研究や論文執筆を通じて本に触れたり、ライティングの訓練をした経験は多少ですが財産になっていると思います。
——美術館勤務で編集の仕事に携わり、出版社勤務を経て、どのように雑誌編集に至るのですか。
一言でいうならご縁ですね。前職で編集アシスタントをしながら、今後の編集者としてのキャリアについて考え始めた頃、人づてに『アイデア』前編集長の室賀清徳さんを紹介してもらったのです。それが2014年だったのですが『アイデア』が刊行頻度を隔月刊から季刊に変更するときで、編集部の体制を刷新するタイミングだったんですね。それで、デザインや美術に関心があり、写真や画を扱える若い世代の編集者を探していたみたいです。美術系の編集者というのはもともと母数が少ないので、出版社での実務経験がある若い人材を見つけようとしても、なかなか難しい。たまたまお互いに条件が合い、誠文堂新光社に入社することになりました。
——書籍編集者から雑誌編集者に転身されたわけですが、同じ編集という仕事でも随分と勝手が違うと思います。
『アイデア』は雑誌ですが、かなり特殊なので内容やつくり方は書籍に近く、そこまで戸惑うことはありませんでした。画を扱うことや台割の段階でビジュアルを重視する点は美術系の書籍と共通していました。雑誌と書籍の異なる点としては、例えば美術館図録だと、軸となる展覧会の企画を考えた学芸員さんが中心となって進むので、編集者が担うのは展示空間をどう書籍に落とし込むかという構成や台割を考える作業や、書籍用のデータ整理です。ですが、『アイデア』ではゼロからのスタートで、企画立案から原稿執筆まで編集部が担当することになるので、仕事量は比にならないくらい多いです。受動的な仕事の仕方から能動的にならざるを得ない点は大きな違いでした。
——『アイデア』は常に先鋭的な特集を編み、ものすごい情報量を詰め込んでいますが現在の編集部はどのような体制なのでしょうか。
歴代を振り返っても、編集部は常に2~3人の編集者からなる小さな部署です。そこに外部の著者やライター、校正スタッフ、エディトリアルデザインを担うグラフィックデザイナーがいます。最近だと特集の企画監修という形で外部の方に入っていただくこともありますが、毎号、コアメンバーとしては7〜8人でつくっています。
——伝統ある雑誌の編集長を引き継ぐのはとても大変そうですね。
2018年に編集長を任せてもらって今年で5年目になるのですが、入社してからの最初の5年は、室賀さんや他の先輩方のサポートをするようなかたちで雑誌づくりのプロセス全般に関わらせてもらったので、編集長が変わったからといって実務面で大きく不具合が出るということはありませんでした。ただ、70年の歴史を持つ雑誌を引き継いでいくことには大きなプレッシャーを感じていました。特に、前任の室賀さんは約20年にわたり編集長を務めたいたこともあり、欧米のタイポグラフィの歴史的な文脈を整理し、国内の潮流と接続させる特集を編むなど、歴代編集長の中でも雑誌に大きく貢献した方でした。読者にとってもそのイメージは強固なものでしたし、他誌にはない歴史研究的なアプローチをどう引き継いでいくかは課題でした。
——デザイン・アートの分野に従事する社会人や学生にとって『アイデア』の存在はとても大きなものです。もしかすると文芸やビジネスの業界にも影響を与えていたかもしれません。雑誌のレガシーを引き継ぎつつ、どこを残して、どこを変えていったのでしょうか。
これまで以上にグラフィックデザインを広義に捉え、周辺領域を扱うことで間口を拡げていくような特集を企画できるよう意識しています。「グラフィックデザイン」というものが今どういう状況にあるのか、どんな可能性を持っているのか、自分自身の勉強を兼ねて、特集を考えるという感じです。雑誌が何か強いメッセージや文脈を「与える」のではなくて、雑誌とともに編集部も読者も「学ぶ・探す」機会をつくれたらいいなと思ってきました。
「雑誌は編集長のもの」と言われるように、媒体が人や時代の流れによって変化していくことは避けられません。『アイデア』もその歴史を振り返ってみると、時代ごとに特集の構成や仕様を変えてきました。今後もそういう変化を読者の方々に前向きに受け止めていただけると嬉しいですね。
——その変化は一読者として感じていました。西さんが編集長になられてからグラフィックデザインのみならず、本と本の周縁にある事象を特集することが増えましたね。これまでの『アイデア』は本の特集を組むとしたら、354号「日本オルタナ出版史 1923-1945 ほんとうに美しい本」に代表されるように、ブックデザインを中心に日本の出版文化を振り返る特集内容でした。しかし397号「本との出会いかた 世界のアートブックフェアと流通/コミュニケーション」や402号「小さな本づくりがひらく 独立系出版社の営みと日本の出版流通の未来」などは、より出版文化や本に関わるコミュニティを軸にした特集です。これらの企画を立ち上げたのはなぜでしょうか。
397号が刊行されたのは2022年3月で、制作していたときは新型コロナウイルスの感染拡大6派の渦中でした。外出制限もあり、自由に取材や撮影を行うことも出来ず、物理的な制約がありました。でも本の特集であれば既存の写真素材でレイアウトが組めるし、本を紹介する企画がいいだろうというのが企画の出発点でした。特集内容を考えるにあたり、過去何度か取り上げてきたアートブックにフォーカスを当てる企画はやめにして、違う切り口を模索して行き着いたのが「本との出会いかた 世界のアートブックフェアと流通/コミュニケーション」でした。
この特集をつくる前の390号で「Fair Enough / Guest with Books from Japanアートブックフェア・オルタナティブへの実践的考察※1」という小特集がありました。「Fair Enough」はスイスの独立系出版社たちによって立ち上げられたアートブックのプロモーション・ディストリビューションのための共同体です。世界各国のブックフェアが商業的に肥大化するなかで、もっと自由に出版社同士が交流したり、お客さんとのコミュニケーションを通じて売買ができないかということで活動をしています。小特集では日本の2つのパブリッシャー(edition.nordとRondade※2)がFair Enoughと協働してスイス各地を旅しながら展示・販売を行うというツアーのレポートを掲載しました。世界のアートブックの流通・販売をめぐる状況への考察をふまえたこの小特集を通して、改めて「ブックフェアってなんだろう」と考え出したことが特集を組むことに繋がりました。
——新しい潮流に目を向けていくことは、伝統を重んじつつ、新しい事象を取り込んでいこうという編集方針なのでしょうか。
新旧についてはあまり考えていないのですが、「デザイン」という言葉の受け取られ方が多様化する中で、デザインを扱うメディアも読者の裾野を拡げるための特集を考えていく必要があると感じています。そうしないと、紙媒体を今後維持していくことがが難しいのではないか、という危機感もありますね。ブックデザインの手法やテクニックにフォーカスするように、デザイン業界や美大の学生に向けた限定的なアプローチをとっているだけでは規模を縮小していかざるを得ない。でも、ブックフェアや本づくりであれば、デザインに対する興味だけでなく本が好きな人や編集に興味がある人もターゲットになります。様々な業種の読者にも興味を持ってもらえる雑誌にしていかなくてはいけないと思っています。
——読者層を拡げていかなくてはいけないというのは同感です。そういった想いがあり402号の特集に繋がるのでしょうか。
402号の特集に関しては、私の個人的な興味関心から特集を組みました。私の周りでも会社から独立していく編集者がいますし、ここ数年、自身のレーベルを始めましたという情報をよく耳にしていましたが「ひとり出版社って一体どうやって成り立っているのだろう」という疑問もありました。活動の動機やブックデザインの方針などについても聞いてみたい出版社がたくさんあったので、そういう質問をインタビューを通じて投げかけたかたちです。
——独立系出版の近年の傾向として、本業がありつつ兼業で出版社や本屋を営んでいる方が多いように思います。『アイデア』らしくデザイン系の出版社ではなく人文系の出版社を多く取り上げていますね。
事前のリサーチで60社くらいリストアップしました。精査していく中で、誌面で紹介する情報量的に、すでに5冊ほどの刊行物があり、継続的に活動をしている出版社が望ましいというのがありました。もう一つは、出版社の経済的な営みも見せたかったので、兼業ではなく専業でやられている方々を選びました。アート・デザイン系に特化した出版社にしぼって紹介することもできましたが、刊行物の内容・デザインともに人文系の出版社さんの取り組みにより惹かれるポイントが多かったので、扱うジャンルを限定しない構成になりました。
——西さんが個人的に独立系出版のシーンに興味があるとのことですが、それはご自身が商業出版社に身を置いているからなのでしょうか。
それはあるかもしれません。誠文堂新光社は取次を通して書店流通を行う出版社なので、本づくりにおける流通上の制約があります。『アイデア』誌面では造本や仕様に凝った書籍を多く紹介しているのに、自社の出版物で同じようなことをしようとすると出来ないことがあったりもします。そこで、より自由度の高い本づくりをしている独立系出版社に話を聞いてみたい想いがありました。
著者・編集者・読者の距離が近いことも独立系出版社の魅力ですよね。版元の編集者は次から次へと本をつくっていかなくてはいけませんし、編集者が刊行後の著者対応や販促営業に重きを置く時間的な余裕がはあまりないんです。本当は、書店でトークイベントやフェアを開催したり、地方巡回したり、売り方まで責任を持ちたいのですが、出版社内だと本を売る仕事は営業担当を中心に進めていくもので、編集者自身が関われる範囲は限られています。一方で独立系出版社は著者と並走して販促まで行い、著者から読者まで、いい関係を築けているのは素直にうらやましく感じていました。
——どうしても版元は「つくって終わり」となってしまうのは流通上の弊害が大きいですね。先ほど「読者の裾野を拡げていきたい」とおっしゃっていましたが、雑誌の発売後、どう読まれてどう頒布していくかは気にされますか。
もちろん、どんな読者に読まれているのかは気になりますが、実際のところはかなりぼんやりとしたデータしかわかっていないんです。定期購読や書店での売上データをもとに法人か個人か、大まかな年齢層や性別などは部分的に把握できるのですが、あとはソーシャルメディアでの反応やネット書店でのレビューというのが直接的なフィードバックになります。デザイン業界以外の読者を獲得していくためには、そうした読者とコミュニケーションができる販売イベントなども考えていく必要があるように感じています。
——雑誌は年々刊行点数が減ってきていてデザイン雑誌のみならず存在そのものの危機を迎えています。今の世の中にとって雑誌の存在意義はどんなところがあるのでしょうか。
『アイデア』も現行のフォーマットのまま継続していくのは厳しいとは感じています。雑誌は即効性のある情報を扱う媒体でしたが効率性ではwebメディアに勝てません。効率の良さで勝負していたら勝ち目はないので『アイデア』では速く伝達することを目指していなくて、それよりも書籍のような情報の密度だったり、本質的な思想を取り上げることや、手にしたとき紙ならではの魅力を感じられるような表現を大切にしています。もちろん雑誌だけが持つ良さも大事にしていて、特集の次にくる小特集は、特集の内容をゆるやかに引き継ぐものを挟んだり、時にはまったく違う視点を挟んだり、特殊紙を用いて質感を変えたり、誌面構成を実験的にできるのは紙の雑誌ならではの楽しさですね。
——紙ならではの表現も『アイデア』の大きな魅力ですが、電子書籍化も開始しましたね。これは時流に合わせた施策なのですか。
国立国会図書館が雑誌のバックナンバーのデジタルアーカイヴ化を推進していますし、『アイデア』にしても70年の歴史があるのに誌面をきちんとアーカイヴ化できていなかったんです。少なくともデータとして残していこうということで、紙と電子の両輪で発行を続けていきたいと思っています。それとは別に、『アイデア』はまとまった数を海外にも直販しているのですが、昨今の物流費の高騰によって、海外注文のハードルが上がってしまったことも理由の一つです。デジタル版であれば海外の読者にも手軽に雑誌を読んでもらうことができますし、そこは大きな利点です。
——あらゆるものの値段が高騰していますが、出版業界1番の問題は紙代と物流費の問題ですよね。本の印刷・製本見積を取ると、これまで見たことがないような金額が出てくることがあります。さらに資源不足で紙がつくれないとも聞きます。
物価高騰により原価の値上がりもそうですし、本づくりに関わる仕事量に対して対価がマッチしていない面もあるので、そういう意味でも価格を上げていかざるを得ないかもしれません。ただ値上げによって売上が下がってしまうのではないかという不安は拭えません。
——価格が上がり、ますます本が趣向品になってしまうと経済格差も生まれてしまうこともあるかもしれませんね。いずれにしてもまずは本を手に取ってもらはなくてはいけませんが、本を読まない人にどうやったら本を読んでもらえると思いますか?
うーん、難しいですね。本に馴染みのない人でも読みやすい・読みたくなるような情報を本というメディアに詰め込むという方法もありますが……個人的には、紙の本に落とし込む必然性が読者にも感じられるコンテンツを考え、替えのきかないものとして「本」をつくっていくことが大事なのかなと思っています。また、印刷された本の良いところは、頁をめくる身体的な体験にもあります。電子書籍の機能にも頁をめくるような仕掛けがありますが、頁を操る行為と読み進めていく時間軸は紙にしかありません。
——最後に、『アイデア』をこれからどんな人に手に取って読んでもらいたいですか。
繰り返しになりますが、既存の読者はもちろん、幅広く読んでもらいたいと思っています。グラフィックデザインに関わる読者だけでなく、webや映像、プロダクト、デジタル媒体や動画表現、立体物や空間表現に関わっている方々など、視覚文化に関わる人たち全般に向けて、考え方の基礎となる情報を載せていきたいと思っています。少しでも気になる特集があれば、ぜひ手にとってみていただきたいです。(了)
時代をつぶさに観察し論じること、市井の声に耳を傾けること、それらを紙に記述し記録することで、初めてわたしたちはその時代に誰がいて、どんなことを考えて、どんな営みが為されていたのかを知ることができる。不確かな情報やイメージばかり溢れる中で、確かに信じられる声を聴くことができる。それが本や雑誌の役割であり普遍的な価値である。しかし、これだけ簡単に情報を手に入れられる時代だと、本や雑誌であってもインスタントな情報だけではいつか淘汰されてしまうのも事実。物価高、社会の価値観の変化、取り巻く状況は逆風ばかりだけれど、特集する事象によって、どんな様態にでも変化することが可能な雑誌の役割は、まだまだ無くなってはいけないものだと確信する。
※1「Fair Enough / Guest with Books from Japanアートブックフェア・オルタナティブへの実践的考察」
『アイデア』390号の小特集。スイスのアートブックデザイナー/パブリッシャーコレクティブの「Fair Enough」と日本の「Contemporary(Art Book)review/archive」の2組が、日本を中心としたアジアのアートブックをスイス各地で展示・販売したツアーの模様を収録した。
※2
edition.nord
デザイナー、秋山伸の故郷、新潟県南魚沼市と現在の移住地である神戸市を拠点とするパブリッシャー。南魚沼では、全国から気ままに訪れる協力者たちと共同生活をしながら、手作りのプロセスを取り入れたユニークな本づくりを行っていた。その活動は国内外のアート・ブック・フェアや展覧会で高く評価され、海外のワークショップやレクチャーに招聘されるまでに広がっている。
Rondade
さまざまなアートフォームを創造の初期衝動に立ち返り、既成の枠に捉われないかたちと方法で表現することを目的に設立されたレーベル。本の形態はもちろんのこと、制作や販売も含めて実験的な出版方法をを実践。アートブック『冨井大裕:関係する|Interact 』、伊丹豪 『photocopy』などを出版。
西まどか(にし・まどか)