マスメディアとは異なり、より読者にリアリティを持って情報を届け、コミュニティを形作ることのできるインディペンデントなメディア。中でも各地に点在するローカルメディアは、社会課題を汲み取り、その地域ならではの特色を伝える存在として近年注目を集めている。
そんな「読者とのコミュニケーションの仕組み」について考え直し、読者との双方向の関係へと促す“ローカルメディア”を、過去にない規模感で取り扱う展示が現在行われている。
例えば、地元の温泉地でしか手にはいらない水に濡れても問題ないお湯につかりながら読める書籍。生産者が紹介された冊子とともに産地から野菜が届く雑誌など……。
“バズ”を起こして焦燥感を煽るようなデジタルメディアのあり方ではなく、読者と心を通わせるような仕組みづくりを模索しているとも言えるだろう。このように情報流通のあり方を見つめ直した媒体が約130点並ぶ企画展「地域の編集――ローカルメディアのコミュニケーションデザイン」が、横浜にある体験型ミュージアム・ニュースパーク(⽇本新聞博物館)で、2019年10月5日から12月22日まで開催されている。
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Text:Kentaro Takaoka
Photo:Natsuki Kuroda
Edit:Shun Takeda
読者との新しい”コミュニケーションの仕掛け”
「ローカルメディアの展示」と言われると、地域ごとに冊子が展示されることを想像してしまう。しかし本展は、コミュニケーションの枠組みを重視した展示方法になっていて、メディアのあり方を問いただす見せ方にもなっている。展示室には7つのコンセプトごとにエリアが設けられ、全国から集められたローカルメディアがずらりと並ぶ。
新しい視点の流通
城崎温泉のブックレーベル「本と温泉」による、湊かなえの小説『城崎へかえる』。本物の蟹の殻を思わせる特殊テクスチャー印刷の箱。 殻から身を抜くように箱から取り出して、ページをめくる。あえて地元に行かないと買えない流通にすることで、今までになかったお客さんたちが足を運ぶようになる。
サブスクリプション(会員制)
食べ物付きの情報誌『食べる通信』。出版と通販をかけあわせた業態で、情報がメインで食材がオマケ。東北の一次産業が低迷していく中で、食材のことが見えていないので、消費者が生産者をリスペクトする関係性にしたいという目的で仕組みを作った。Facebookのグループもあり、生産者と消費者のコミュニケーションが取れる。
投書・投稿でつながる
1922年創刊の雑誌『現代農業』。コンセプトは、「農家がつくる雑誌」。分厚い雑誌で350ページ強あり、農家の日々の悩みやネタが誌面に載る。一般社団法人農山漁村文化協会(農文協)という出版社の社員が、全国の農村に出向いて、農家と直接対話することで記事が作られる。多くの定期購読者を持つことも特徴のひとつ。
地域の課題解決
Uターン・Iターンなど地域の暮らしや地域の仕事を伝える、ローカルライフ・マガジン『hinagata』。その地域ならではの職業の紹介や、移住サポートツアーなど、実践的な記事が多く、Webの更新も盛ん。
https://www.hinagata-mag.com/
アーカイブ性を生かす
地域情報雑誌『谷根千』は、1984年に創刊された、元祖・ローカルメディアだ。地域を新しい価値観で見直すことを提唱した。「谷根千」とは、近隣する3つの地域「谷中」「根津」「千駄木」の頭文字をつなげた名称。2009年に刊行が終わったが、バックナンバーはサイトで購入できる。
http://www.yanesen.net/
デザインの工夫
365種類のオリジナル豆皿をカレンダーにした『日めくりカレンダー [DAILY MAMEZARA CALENDAR from SAGA]』。佐賀県の地域資源について県民に広く知ってもらうことを目的に、一日に1トピックずつ、人・歴史・食・伝統といった地域資源についての絵と説明文を入れ込んだ。
特設エリア|横浜のローカルメディア
大学時代から横浜に暮らす、定食評論家・今柊二による、神奈川の定食をアーカイブする書籍。地元密着だからこそわかる名店の数々を紹介し、現在は5巻目になるほどの人気の書籍。