美しき町の、その美しさとはなんなのだろうか。2020年の一時期、世界中の様々な町から人々は姿を隠した。人との関わりあいのために生まれた町は、その時どんな表情をしていたか。活動を制限された写真家たちが、自らの過ごす町を改めて捉え直す本連載。今回はロンドン在住の写真家・雨宮透貴による作品をお届けする。
text,photo:Yukitaka Amemiya
edit:Shun Takeda
ロックダウンのはじまり
ロンドンでは3月23日からロックダウンが始まりました。
その日のことはよく覚えています。僕は友達の家で遊ぶ予定を立てていて、バスに乗って向かっている最中にスマートフォンから送られてくるニュースを見てロックダウンが始まったことを知りました。
とりあえず友達の家に着いたのですが、彼はロックダウンのニュースに対して異常に動揺していました。僕はそんな彼を見てもまだ現状のヤバさにピンときておらず、「気を取り直して遊ぼうよ」と声をかけるも、狼狽した彼は「今日はもう解散しよう」と答えるばかりでした。
次の日メールを開くと、続々と撮影のキャンセルのメールが届いていました。来週日本に行くためにとっておいたフライトのキャンセルのメールも届き、そこでやっと事態の深刻さが実感として湧き上がってきました。
仕事もなく、家からも出てはいけない。そしてこれがいつまで続くのかも全く見通しのつかないという現状は、いとも簡単に僕の心を恐怖で満たしました。
恐怖に支配されながら生活するほどメンタルの強くない僕は、考えるということをやめました。
本当は現実と向き合って、今僕にできることを日々模索するというのが正しいことを頭ではわかっているものの、モチベーションの上がらない自分には嘘がつけません。
日本の友達と毎日プレイした『Minecraft』
僕は恐怖を紛らわすためにゲームの世界に逃げ込みました。ロンドンでは友人に会うこともできないけれど、オンラインゲームの空間では、日本の友達とも時差を越えておしゃべりができるから。
ぼくたちが選んだのは、キューブを使って何でもつくることのできる『Minecraft』というゲームでした。これまでそんな頻度で遊んだことがないくらい、ぼくは彼らと毎日のように仮想空間の中で待ち合わせ、おしゃべりをしながら一緒に「町」をつくっていました。
そんな暮らしの中で、ふと気づきました。
こんなに写真を撮らずに生活しているのは何年振りだろう、と。
町に出て写真を撮るっていうこと
ロックダウンが始まりそろそろ三ヶ月目に入ろうとしていますが、ようやく町に人々が少しずつ戻ってきました。
普段の生活というにはほど遠いですが、みんなこれ以上家にひきこもるのは限界だという心情が伝わってきます。
そんなタイミングでこの企画の依頼が届きました。まともに町を歩くのも三ヶ月ぶり、カメラを片手に歩いて写真を撮っていると一つ当たり前のことに気付きます。
写真を撮るのが楽しい……楽しすぎる……。
この狂った社会に自分の存在意義を感じられる……。
あーー、やっぱり恐怖に打ち勝つにはこれしかないのだと。
そんな自分の心情と風景と人々の感情を織り交ぜてシャッターを切りました。
まだまだ現状は良くなってはおらず、恐怖との戦いはこれからも続きそうですが、大丈夫、写真がある限り。
1987年生まれ、ロンドン在住。ミュージシャンに会いたいという理由からカメラを買い2009年から活動を東京で開始。
2015年にBasement JaxxのUKツアーにフォトグラファーとして同行したのをきっかけに2017年から活動場所をイギリスに移し、現在はロンドンを拠点に国内外の音楽シーンを撮影し続けている。