松戸の名店・とみ田を追ったドキュメンタリー『ラーメンヘッズ』はどうつくられたか

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千葉県松戸市に居を構える有名ラーメン店「中華蕎麦 とみ田」。これまでイベント「大つけ麺博」で日本一の称号を獲得したほか、講談社主催の「TRYラーメン大賞」で4連覇を果たすなど、日本一のラーメン店との呼び声も高い本店を1年以上にわたって追い続けたドキュメンタリー映画『ラーメンヘッズ』が今年初春、日本で公開される。

本作はすでに海外の有名映画祭に出品され、喝采を浴びた意欲作。現在はさらなる世界展開を視野に、クラウドファンディングのプロジェクトも行われている(2018年1月15日まで)。

今回はそんな『ラーメンヘッズ』を製作する株式会社ネツゲンの代表取締役であり本作のプロデューサーも務める大島新氏に、本作の制作秘話から今後の展開に至るまで、話を聞いた。

text:Michi SUGAWARA
photo:Misaki ICHIMURA

日本発のドキュメンタリー映画を世界へ

Q.映画『ラーメンヘッズ』はどういった内容?
ベースは千葉県松戸市にあるラーメン店「中華そば とみ田」の営みを撮ったドキュメンタリーになっています。クライマックスでは「とみ田」10周年のイベントとして、神奈川ナンバー1の呼び声の高い「らぁ麺屋 飯田商店」の飯田将太さんと、ミシュランガイドでラーメン屋として初めて星を獲得した「Japanese Soba Noodles蔦」の大西祐貴さんと「とみ田」がコラボして夢の1日限定200食のラーメンを作る過程を撮影しています。
合間には、今の日本を象徴するような5軒のラーメン店の営業の様子やインタビューカットがあったり、日本のラーメンの歴史を描いたアニメーションパートが入ってきます。

Q.映画『ラーメンヘッズ』製作の経緯は?
私たちの会社ネツゲンではずっとテレビのドキュメンタリー番組の制作をやっていて、数年前からドキュメンタリー映画もやっていきたいという思いがありました。そんな中で、寿司の名店「すきやばし次郎」を追ったアメリカ映画『二郎は鮨の夢を見る』を観て、すごく良く出来た映画だと感じると共に「なんでこの映画を日本人が撮ってないんだろう?」と悔しい思いをしたんです。

2011年に公開されたこの映画はアメリカでヒットして、ある意味ソフトとしてのドキュメンタリーの強さを証明した。ただ、よく出来た映画ではあったけれど、寿司という文化を海外の人からおもしろいものとして見ていて、アーティスティックに撮られた作品だったんです。
僕はこの「寿司」というテーマは、本当だったら日本人がやるべきだと思った。そこで、何か日本の文化で海外にも出せるようなドキュメンタリー映画が作れないかと考えて、ラーメンをテーマにしたドキュメンタリー映画という企画が生まれました。

Q.なぜラーメンをテーマに?
ラーメンはある意味、寿司や天ぷら以上に日本的だと感じたんです。ラーメンは中国由来だけれども、日本人なりに突き詰めていって、進化を続けてもはや日本の食べ物になっていますよね。それは有名店舗はもちろん、カップラーメンひとつを取っても非常にクオリティが高く進化している。そういった職人的な技を喜ぶお客さんがいるからこそ、磨きがかかっているんでしょう。そうやって今は本当に「ラーメン」というひとつのジャンルにくくれないほど個性的なものがたくさん出てきている。「寿司」の場合ももちろん個性はあるけれど、ラーメンほど大きな味の違いはない。そういう意味でも、「ラーメン」は不思議な食べ物だと感じたんです。

あとは、ドキュメンタリーというのは被写体に熱がないとおもしろくない。ラーメンの場合、職人はもちろんラーメンを好きなお客さんの熱もすごい。そういった状況も含めて、日本のラーメン文化というのは海外に出していけるソフトだと感じました。

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Q.被写体を「とみ田」にした理由は?
これまでもたくさんの個性的な料理人を取材した経験のある重乃康紀監督をはじめ、弊社のスタッフや海外のドキュメンタリー事情に詳しい仲間を交えて打ち合わせをする中で、監督から「とみ田でいきたい」という話があったんです。撮影を始めた時点で「とみ田」は講談社が主催する「TRYラーメン大賞」を2連覇(現在は4連覇)するなど、評判は折り紙付き。そこで実際に「とみ田」に訪れて、店主である・富田治さんの人となりや接客の雰囲気を見た上で、改めておもしろそうだと感じたんです。

Q.どういったところにおもしろさを感じた?
まず一つは、単純に日本一のラーメン店だから。もうひとつは、ラーメンに対する誠実さやお客さんへの向き合い方ですね。ラーメンの味はもちろんのこと、接客も過剰に丁寧なわけでもなく、お客さんの居心地の良さをすごく考えてお店を作っている、と感じました。

Q.映画製作を通して感じた「とみ田」の魅力とは?
やはり富田さんの職業人としての意識の高さがすごいと思いました。改めて、日本一の座を連覇している人は違うんだな、と。富田さんは職人としての部分とビジネスマンとしての部分、その両方を持っていてバランスが素晴らしい。職人としても本当に突き詰めていて、お話をうかがったりお店のあり方を見ていて尊敬の気持ちを強くしています。

僕らが普段仕事をしているテレビの世界も同じで、どうやって良いモノを作ることとお金になるモノを作っていくのかのバランスをとることが重要になってくる。「とみ田」はセブンイレブンとコラボしてラーメンを販売したりしながら、自身がお店に立って作る1日150杯のラーメンの味はフラグシップモデルとして絶対に落とさない。そこを譲らないからこそ、ほかの部分もついてきている。身を削りながら、そこを突き詰めているのは大したものだな、と思います。

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「とみ田」が”ラーメンの街”をつくった

Q.2017年に海外の著名な映画祭で好評を博した『ラーメンヘッズ』だが、企画当初より海外配給を意識していた?
海外配給も意識していました。ただ、日本人でもみんながラーメンの歴史をちゃんと知っているかといえば、そうではない。なので改めて、日本でラーメンがどのように進化していったのかを伝える意味はあると思いました。夕方のニュース番組や雑誌など、ラーメンはメディアにとっての人気コンテンツでもありますが、これまで海外に向けてしっかりとまとめたドキュメンタリー作品はなかったので、そういった作品を先に作れたのは良かったですね。

今は世界的にラーメンの出店ブームが起こっていて、トロントやアムステルダムでも一般の人にラーメンが知られ始めています。その追い風もあってか、世界でも有名なドキュメンタリーの映画祭「アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭」と「HOT DOCSカナディアン国際ドキュメンタリー映画祭」で上映できたのは嬉しかったです。それはつまり、映画としての内容も評価していただけたのかな、と。

Q.海外展開を支援するプロジェクトとして、現在クラウドファンディングを行っています。プロジェクトを始めた理由は?
クラウドファンディングサービスの「MOTION GALLERY」は、弊社の前作映画『カレーライスを一から作る』で初めて利用してみました。クラウドファンディングは単純にお金を集めるということだけでなく、作品を知ってもらって応援してくれる仲間を作れる素晴らしい仕組みだと思ったんです。「MOTION GALLERY」代表の大高健志さんとも仲良くなったんですが、従来の形で映画を作っても出会えなかったような人と出会うことができるのも良かったですね。

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Q.プロジェクトで集めた資金についてはどのような展開を予定している?
「とみ田」の地元である松戸市の観光課の方にも興味を持っていただいているようなので、イベントなどはやってみたいです。松戸市には映画館がないので、松戸市の施設を使った上映会付きのイベントなどが出来たらうれしいですね。

Q.映画を作る中で、「とみ田」と松戸市との関わりを感じた部分は?
あえて松戸市でやっているというのはおもしろいな、と思いました。「雷 本店」や「大勝軒 ROZEO」といったすべての系列店が千葉県内にあって、さらに松戸には本店を含めて4軒も店を構えている。富田さんは茨城県出身で、東京・池袋の「大勝軒」で修行をされているので、もともと松戸市と深い縁があったわけではないと思います。

ただ、色々な縁があって松戸にお店を出して、そこからまた松戸を中心に展開をしているというのは不思議なところでもあるし、それもまた富田さんらしさでもあるんだろうな、と。その結果、松戸市にはいろいろなラーメン店が出来て、今は“ラーメンの街”みたいになっていますよね。実際、松戸市のふるさと納税では「とみ田」のラーメンが返礼品になっています。

Q.『ラーメンヘッズ』の今後の展開は?
東京や大阪、名古屋や横浜など、国内でもさまざまな地域での公開が決まっています。ただ、単館系のドキュメンタリー映画の配給については、東京での反響を見て地方の映画館での公開が決まることも多いんです。なので、今後は東京でどれだけ集客できるか、というのが大事になってきますね。

一方で、『ラーメンヘッズ』については国内だけでなく海外も含めて回収できればいいと考えています。映画祭で好評だったこともあり、すでにニューヨークの映画エージェントとの契約も交わして、今後はニューヨークをはじめとした北米の都市でも上映してもらえそうです。これから始まる国内での上映と合わせて、宣伝にも力を入れていって、頑張って『ラーメンヘッズ』を盛り上げていくつもりです。

日本のラーメン文化を世界へ!ドキュメンタリー映画「ラーメンヘッズ」2018年1月15日まで https://motion-gallery.net/projects/ramenheads
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