MAD City People #03|空間デザイナー 西尾健史

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ローコストの制約が生み出す新しい価値観

ーそれでは、空間デザインでは、どのようなお仕事を?

例えば、methodというバイヤーの方たちが“衝動買い”というコンセプトでやっていたイベント「CRAZY KIOSK」の第1回目では、お店を全部グレーの厚紙で作ったりしました。送られてきたダンボールをそのまま積む“圧縮陳列”というディスプレイ・システムを採用して、5種類くらい作った架空の梱包箱をひたすら積み上げただけのお店です。第2回目は「ケミカルな駄菓子屋」というテーマに合わせて、色付きのプラスチックダンボールを組み合わせてテープで留めただけのお店でした。

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(CRAZY KIOSK 2015)Photo: Kenta Hasegawa
CRAZY KIOSK 2015(Photo: Kenta Hasegawa)

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(CRAZY KIOSK 2 2017)
CRAZY KIOSK 2 2017

厚紙やプラダン(プラスチックダンボール)といった既視感のある素材でも、オリジナルのマテリアルとして空間を作ることで、最終的にキレイな姿で立ち現われてくるのはすごく良かったですね。

ー厚紙やプラダンでお店ができるとは…。

ポップアップショップなので、お店の期間が2週間だったら、2週間+1日で壊れていいんですよ。

ーポップアップならでは、の発想ですね。

ほかにも、デザイナー・藤澤ゆきが手がける箔押ししたニット「記憶の中のセーター」がすごくおもしろかったんで、木の素材に箔を転写した什器を作ったりもしました。

こういう風に、クライアントのやり方に沿った手法や空間を作ることが多いです。だから、毎回全然違うものをオーダーされますね。

(箔を転写した木材 Yuki Fujisawa Studio 2016)Photo: Kyotaro hayashi
箔を転写した木材 Yuki Fujisawa Studio 2016(Photo: Kyotaro hayashi)

ー10月5日から開催される(*1)「THE TOKYO ART BOOK FAIR 2017」の空間デザインも担当されるそうで。

THE TOKYO ART BOOK FAIR 2017」はアートブック、つまり「紙」を扱う展覧会です。なので、紙やダンボールを使って、空間を構成しています。会場となる寺田倉庫は柱がいっぱいある空間なので、柱にグルっとダンボールを巻いていくイメージで空間に壁面を作っています。
(*1 取材は THE TOKYO ART BOOK FAIR 2017 開催前に行った。)

(THE TOKYO ART BOOK FAIR 2017 会場什器模型)
THE TOKYO ART BOOK FAIR 2017 会場什器模型

ー模型を見ると、ダンボールで出来た壁にはスリットが入っていますが…。

出展者の方の好きな場所に棚板を差し込んでいただいて、いろいろなディスプレイができるような設えを考えています。今回の想定はここまでなんですが、次回以降は壁に直接文字を書けるようにとかできたらいいですね。ダンボールだからできる面白いこともあるだろうなって。

ー展示スペースではどういった工夫を?

同時に3つの企画が行われているので、空間でリズムを変えつつ3つの面に分けて、それぞれに新しいマテリアルを使おうと思っています。創刊80周年を迎えた「花椿」さんのブースでは、ピンクのロール紙を使って着物の上に雑誌が載っているようなイメージで、縦長に歴史が見えるように。横尾忠則さんの企画ブースには再生紙を使った什器を置きながら、作品と点で向き合って見えるように。そうやって自分の中でいくつかのルールを設定して、それだけは崩さないように作っています。

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(THE TOKYO ART BOOK FAIR 2017 展示会場模型)
THE TOKYO ART BOOK FAIR 2017 展示会場模型

ーデザインする上での、西尾さんの哲学やコンセプトは?

新しい見せ方や価値観を提示したい、というのはどこかで思っています。傲慢かもしれないですけど、僕じゃないとできない、僕自身が「これなら他の人でもいいじゃん」と思わないようなところに落ち着けたい。

それと、新しい素材を使ってデザインをすると、実際にモノや空間が立ち上がった時にどういう見え方をするのか、自分でもわからないんです。だから、まだ見ぬ立ち上がった時の姿を自分でもワクワク楽しみながら作りたい、という気持ちがあります。

ただ、新しい素材を使ったデザインというのは、企画や展示といった期間の限られている空間だからこそできたものなのかもしれません。これまで僕はローコストだからこそできる面白いデザインをアップデートしてきました。反対に、常設店舗など、予算がすごくあった時に「自分はどういったデザインができるのか?」というのは、これからの課題でもあります。

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ーローコストだからこそできるものを追究してきた、というのは、まさに研究室やラボから出てきた発想のように思えます。

ファッションと似てる部分があるのかもしれません。ファッションだと、ハイブランドがあって、ファストファッションもあって、そのギャップを楽しんだりもする。その意味だと、最近ではすごく安いチープなものが高価になる瞬間というのを意識してやっているんです。モノの構造自体はいじらずに、ルールだったりコンセプチュアルな部分でアプローチすることに興味があります。

ー西尾さんが手がける家具にしても、かなりコンセプトが重視されている印象です。

ライフスタイルや自分の行動が新しくなるきっかけになるような家具ができればいいな、と思っています。キレイな新築を作るだけだと、休みの日の過ごし方を提案することまでは難しいです。でも、僕の家具を通じて、「自分だったらこうする」という人によって異なった連鎖が生まれたらいいな、と。難しいですけど、そこにデザインで踏み込みたいんです。受け身の関係性ではなくて、主体的に「何かをしたい」と思ってもらえるような空間やモノを作りたいと思っています。

MAD City People #03

西尾健史(にしお たけし)
1983年長崎県生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、設計事務所を経て、「DAYS.」として独立。空間をベースに机と作業場を行き来しながら家具、インテリアのデザイン、及び自身での制作を行っている。
http://on-days.com

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