MAD STUDIES

「隙間に入り込み、街の見方を変える」SIDE COREが紡ぐ都市のストーリー

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古くは宿場町として栄え、現在は首都圏のベッドタウンとして若い世代や子育て世代から支持されている松戸市。一方で「オシャレな街」というイメージを抱かれているとは言い難い。

そんな状況を踏まえて、都市をそこに集う人々にとって魅力的なものにするため何が必要かを調査・研究するのが、松戸市と株式会社まちづクリエイティブが連携して進めているラボ型プロジェクト「MAD STUDIES」だ。毎回様々なジャンルから視野を広げてくれるゲストを招いて、イノベーティブな「まちづくり」はどうあるべきか、知見を伺っていく。

第1回目のゲストは、アートコレクティブの「SIDE CORE(サイドコア)」から、松下徹さん、DIEGOさん、映像ディレクターの播本和宜さんの3名を迎える。ストリートカルチャーを軸にアート作品を制作・発表し、多くのプロジェクトを企画してきたSIDE CORE。そんな彼らの活動に通底しているのは、「どのように都市と関わるか」という視点だ。

今回は、株式会社まちづクリエイティブ代表取締役の寺井元一を聞き手に、シャッターや立体駐車場での壁画プロジェクトから、京都で開催した地域芸術祭、京浜島のアートスタジオ、そして松戸の街歩きまで、数々の事例と共にその独自の方法論を伺った。

text:Haruya Nakajima
photo:Yutaro Yamaguchi
edit:Shun Takeda

グラフィティがシャッターを彩る「LEGAL SHUTTER TOKYO」

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寺井:都市をどうやったらもっと楽しむことができるのか。そのためにはどんな仕組みづくりや工夫が必要なのか、ということを考えていく勉強会をこのように行っているんですが、今日はゲストにSIDE COREのみなさんをお迎えしました。

松下:SIDE COREは、グラフィティやスケートボードといったストリートカルチャーをベースとして、現代美術の作品を制作したり、様々なプロジェクトを企画したりするチームです。今回は僕らがやってきた壁画のプロジェクトや、地方でのアートプロジェクト、また自分たちの運営するアートスタジオなどについて紹介していきます。

もともと今日の司会者である寺井元一さんは、NPO法人「KOMPOSITION(コンポジション)」を立ち上げて、渋谷で「リーガルウォール」(グラフィティライターやストリートアーティストが合法的に作品を発表できる壁)という大規模なプロジェクトをやってらっしゃいましたよね。その影響も受けつつ、僕らなりの方法で壁画プロジェクトを展開してきました。

それが、SIDE COREのメンバー・DIEGOによる「LEGAL SHUTTER TOKYO」です。例えば渋谷の真ん中でリーガルウォールを実現しようとすれば、大きな枠組みや行政の協力が必要になってきますよね。でも「LEGAL SHUTTER TOKYO」は、東京の各地の商店街やお店のシャッターに目をつけたんです。

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日本には「シャッターアート」というジャンルがあります。だから壁画を描くのは難しいけど、シャッターに絵を描くのは受け入れてもらいやすいんです。そこで、海外から来たアーティストに絵を描けるシャッターを紹介して、作品を描いてもらっています。今は何ヶ所くらいあるんだっけ?

DIEGO:都内に20ヶ所くらい自由に使わせてもらえるシャッターがありますね。自分からお店の人にお願いしに行くというよりは、どこかのお店のシャッターに描いていく中で、「うちにも描いてほしい」とちょっとずつ増えていった感じです。基本的に、お店の電話番号や屋号は描かないという話で進めていますね。アーティストが100パーセントに近い状態で好きに描くためのプロジェクトですから。

松下:「LEGAL SHUTTER TOKYO」は、規模を大きくしないことによって東京の様々な場所にシャッターアートを広めていくプログラムですね。僕たちの軸はストリートアートにありますし、僕自身、横浜の桜木町にあった大規模な壁画などを見て育ってきました。松戸にはグラフィティライターのHITOTZUKI(ヒトツキ)やZEDZ(ゼッツ)が描いた素晴らしい大作もあるので、壁画がさらに増えていったらいいなと思いますね。

寺井:壁画の難しさに公共性がありますよね。彩色すると景観的に問題があるとか、表現の仕方にも気をつかう。シャッターアートにはどれくらい縛りがあるんですか?

DIEGO:エログロ的な表現については辞めて、など最低限のことだけ伝えて、あとは自由にやってもらっていますね。あとお金ももらわない。お金が発生してしまうと、下絵を見せる必要もあるし失うものも多い。もし自分が描く側だったら、自由に描けることの方が価値を感じると思うので、アーティストの自由度を担保できるようしています。

織物工場跡をメイン会場とした「大京都 2019 in 京丹後」

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松下:それとはまた別の角度で地域に関わりながら活動してきた事例に、地域芸術祭のプロジェクトがあります。2019年にSIDE COREがキュレーターとして企画したのが、京都府のアーティスト・イン・レジデンス事業「京都:Re-Search」の成果展「大京都 2019 in 京丹後」です。

京丹後市は、京都府の北部に位置する日本海に面した町。1年目はリサーチをして構想を練り、2年目に作品制作をして展覧会を開くという2年間のプログラムでした。そのため準備期間が長く、僕らが実際に街なかを回って展示会場を探し、その場所に合った作品をつくることができたんですね。

メイン会場となったのは、株式会社吉村機業さんの旧織物工場です。京丹後はもともと「丹後ちりめん」という織物が盛んで、その工場跡が残っていました。でも、普段そこは公開されておらず、町の人たちも入れなかった。そんな場所を展覧会のために開いて、6名のアーティストの作品を展示したんです。

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寺井:この工場はどんな出会いがあって使うことができたんですか?

松下:「まちを盛り上げたい」と思っている青年会の方たちが、工場の息子さんに交渉してくださって、僕たちもその場に入らせてもらったんです。当初許可をいただいた区間は少なかったんですけど、「ついでに掃除させてもらえませんか?」ってどんどん掃除をしていって「やっぱこっちも使えないですかね?」って交渉したんです。最終的にきれいに出来たし、喜んでもらてよかったですね。

寺井:展覧会をやるから全面貸してくれ、ではなく地道なやりとりがあったんですね。交渉にはどれくらい時間かかりましたか?

DIEGO:3〜4ヶ月くらいかな? 最終的に、ほかの部屋も使えることが決まったのは本当に後でしたね。

松下:このちりめん工場は、普段から公開されておらず地元の人たちも入ることができなかった場所なんです。気になってる人も多かったようで、展示をすることで「どんな所なのか入って見てみたい」という場所に対する潜在的な欲求を満たすことができたのも大きかったですね。

では、そんな会場で展示した作品もご紹介します。例えば高橋臨太郎さんの作品は、まだ稼働しているちりめん織りの工場とコラボレーションして、地域の方と織機を「演奏」するというもの。織機の音をドラムと捉え、それに合わせてシンセサイザーを奏でるんです。まるでノイズミュージック。さらに、演奏された音階を「ジャカード」と呼ばれる型にして、新たに布を織っています。

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織機の音という年配の方にとっては懐かしい響きを、新しい音楽という織物にして織り直していく。そうしたストーリーも含めて、たくさんいらっしゃったお客さんに納得してもらえました。時間をかけて交渉し、地元の人も入ったことがない街の文化財のようなスペースに入っていくことと、作品のコンセプトが重なって成功した例ですね。

播本:お客さんには地域の方がとても多かったんです。というのも、それぞれのアーティストがその地域に長い期間滞在していたから。細かい話ですが、「あの定食屋が美味しい」とか「あのバーで飲んでみよう」と、町や人と関わることが多かった。そういったところから広がって、たくさんの人が来てくれたんだと思います。

軍事拠点でもあった丹後の灯台を利用したSIDE CORE作品

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松下:僕らSIDE COREは、丹後半島の先端にある灯台を使ってアート作品をつくりました。灯台は海上保安庁の持ち物ですが、京丹後の象徴的な場所として交渉して使わせてもらったんです。灯台が巨大な「目」になるという作品でした。

今、僕らは灯台を「船の航路を見るもの」ぐらいにしか考えていませんよね。でも、もともと灯台は軍事拠点なんですよ。特に京丹後の灯台は大規模で、日本海側から侵入する船などを見張っている施設です。

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松下:灯台の下には、北朝鮮から飛翔体が出ているかどうかを観測する「Xバンド・レーダー」というレーダー基地があります。これを、アメリカ軍と自衛隊が一緒に運営している。この町には以前、零戦の基地もありました。だから、すごくのどかで静かな地方なんだけど、同時に軍事拠点としての緊張感のようなものも漂っているんです。

そこで、灯台を巨大な「目」に見立てました。それによって、普段僕らが眺めているはずの灯台に、むしろ見返されることになる。灯台の方が景色を照らして我々を見ているんです。そういう状況を、そのまま風景に刻み込む作品になりました。

「目」にもモチーフがあります。この灯台は、日本が殖産興業を掲げて様々な国の文化を輸入していた時代に、フランスから買ってきたもの。その時期のフランスに、オディロン・ルドンという画家がいます。ルドンは、大きな一つ目のお化け──サイクロプス──をたくさん描いていました。気球に大きい目のある作品が有名です。

世の中が発展して、テクノロジーが人間の想像力を現実化できるようになった時代に、「世界が恐ろしい方向に変わっていくのではないか」という予感を描いている。ルドンの描く「目」もこちらを眼差していますよね。パリ万博で世界に初めて紹介された気球は、第一次世界大戦では兵器となります。そうしたコンテクストも折り重なっているんです。

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松下:前述したようにこの灯台は海上保安庁の持ち物で、警察の管轄になります。なので交渉も難しい。「ここに目を貼らせてください」では通らないので、地域の歴史を絡めながらその土地のランドマークを用いて、物語を紡ぐようにアート作品を制作するというプロセスを示しながら交渉した結果許可が下りました。少ない予算ではありましたが、工場や灯台を使うためにどうやって交渉していくかも含めて、おもしろいプログラムをつくり上げることができたという実感はありますね。

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