京浜島で運営するスタジオから始まった、鉄工島フェス
松下:ここまでは展覧会とアート作品の話でした。次に紹介するのは、意図せずに始まってしまったみんなで盛り上がるお祭りのようなものです。僕らは大田区の京浜島というエリアでアートスタジオ「BUCKLE KOBO」を運営しています。ここで自分たちの作品を制作したり、管理人のような形でスタジオを貸し出したりしているんです。
松下:都内で大きい作品をつくれるようなスペースは意外とありません。なので、そうした場所があれば使いたいというアーティストは多い。最初に貸し出したのは、根本敬さんというアンダーグラウンドで有名な漫画家。大きな絵画を制作したんですが、根本さんの絵の完成をみんなで祝いたいということで、「鉄工島フェス」という音楽祭を開催しました。
なぜフェスを開くことが可能かというと、「BUCKLE KOBO」だけではなく、スタジオの面する通りを路上封鎖して、隣の工場や近くの公園も全て借り上げたからです。京浜島は工場が立ち並ぶ準工業地帯で、近所にコンビニもないエリア。休日になると人がほとんどいなくなります。だから商工会の人たちの協力のもと、大規模なフェスを開催できたんです。
松下:2017年から年に一回、これまでに3回開催しています。大田区や東京湾の沿岸部は、文化的にはあまり注目されてこなかった地域ですよね。そんな場所で自分たちのスタジオを運営していたら、いろんなアーティストが関わり出して、最終的にフェスにまで発展したんですよ
2回目のフェスでは、僕らSIDE COREも作品を発表しました。工場の中を使ったサウンドインスタレーションで、「水曜日のカンパネラ」のコムアイさんや写真家の赤城南平さんに協力してもらっています。
松下:工場は普段、さまざまな音が鳴っていますよね。それが休日になるとパタリと静かになる。そこで、工場が稼働している時の音をたくさん録音して、それを音楽に変える。休日の工場から作業音が鳴り、やがてそれが爆音になって一つの音楽になるという作品です。
寺井:みんなの思いつきからフェスが生まれた、というのは素敵ですよね。とはいえ思いつきだけでは実現できません。何がうまく機能したんだと思いますか?
松下:工場地帯をスタジオにしていたのは大きいですよね。大きい音を出したり火を使ったりできますから、夜中まで作業していても騒音の問題に発展しません。じゃあフェスができそうだという話をすると、音楽業界の人たちって音の出せる新しい場所を常に探しているから興味を持ってくださったり。
あと、うまく「時間」を利用できたとも思います。例えば休日の工場はシャッターが閉まっているから、そこにバッと壁画を描くことができる。平日はシャッターが上がっていて見られないけど、休日だったら壁画が見られる。このように状況をうまく使えば、街の隙間に入り込んでいけるんです。
立体駐車場を公共空間へ読み換えた、浜松の「OPEN CITY」
松下:また、シャッター以外の方法でおもしろい壁画プロジェクトができないかと考えて実行したのが、浜松の「OPEN CITY」です。このプロジェクトでは、路上や外ではなく、立体駐車場を公共空間として捉え直し、その壁面に絵を描きました。
立体駐車場内の坂ってみんな車で通るけど、歩いたことはあまりないですよね。歩いてみると、洞窟のような地形になっていておもしろいんですよ。そこに絵を描くことで、ある意味「洞窟壁画」のようなイメージになる。立体駐車場の壁に絵があることによって、今まで車で通るだけだった場所が開かれていったんです。
松下:あえて「半屋外」のようなところを選んだのには理由があります。外で壁画を描ける場所を探すとなると大変ですが、一方で普通に室内で展覧会をやるのもつまらない。そうなった時に、外でも中でもない中間地帯でやってみよう、と。
「空間を開く」と考えた時に、いろんな方法がありますよね。もちろんベストの一つは、まちづ社のように不動産を押さえ、その場所を活用することかもしれません。でも、「まちの見方を変える」というやり方もある。例えば京丹後のプロジェクトのように、地域や作品そのものの力でお客さんを呼ぶというよりも、歴史的な文脈やそこで紡ぐストーリーによって、人を惹きつけることができるのではないでしょうか。
SIDE COREから見た松戸の隙間
松下:それで今日、松戸の街歩きをしてきたんですが、そこで僕らが発見して気になったポイントを紹介していきます。まずは旧伊勢丹の回転レストラン。どこからでも見えるので、単純に使ってみたい。高さというのは重要で、紹介した京丹後の灯台の作品では、その街のどこからでも見える「縦軸の景色」が作品になることのおもしろさを感じました。高低差のあるスポットですね。
松下:あと、入ってみないとわからない場所に惹かれます。河川敷の水門の上に小屋が建ってましたよね。「危険なので勝手に入らないでください」と書いてありましたが、ちゃんと許可を取って、あの中で何かしたらおもしろいでしょうね(笑)。許可取りが難しいのかもしれませんが、ここを活用すること自体が、川の環境と共存することや災害の注意喚起につながってるんです、という側面から交渉する術はないかな……と。
松下:あるいは、この建物の屋上に何か作品を設置するだけで、みんな「非常階段怖い〜」とか言いながら登っていくはずなんですよ。縦軸の景色や隠れている場所、埋もれているもの。そうしたものを、ある意味「公共物」として活用していくことができると思いますね。あとは河川敷の奥にある原生林みたいなエリア。まさに風景に埋もれている場所なんですが、広さもあるし使い勝手がよさそうですね。
他のメンバーはどう?
播本:米屋さんの跡地の、アーティストたちが入居しているスペースよかったですね。
寺井:原田米店の跡地ですね。
播本:周りが大きなマンションに囲まれていて、スケール感が異様でしたね。後からマンションはできたんでしょうけど、なんだか監視されているような気分になるというか。
松下:あの場所って展覧会などでも使っていたんですよね?
寺井:2011年頃なのでだいぶ時間は経ちますが、使っていました。
松下:その時恐らく何かよくわからないまま足を運んだ、町の人達もいたはずですよね。そこから10年近く経っているので文脈は変わっている。だからこそ活用できるんじゃないか。米屋さんの敷地の広場がマンションに囲まれているのを見ると、土地を売るのを拒んだんだろうな、と想像できる。その結果この不思議な風景が生まれたわけで、そんな風景と物語を活かした展示、というのを企画できたらと面白いですよね。
質疑応答|アートは街をおしゃれにするのか?
寺井:ではここで会場から質問を受け付けたいと思います。
会場:自分でも整理がついてないんですが、街をおしゃれにするのにアートがどう有効なのか、あるいはアートがあふれる街=おしゃれな街なのか。そのあたりはどう考えていますか?
寺井:企画のあり方にも関わるので、軽く説明しますね。この「おしゃれ」というフレーズはマジックワードで、突き詰めるほど難しくなる。おしゃれなブランドがたくさん入ったビルをたくさん建てればおしゃれな街になる、という見方もあるかもしれませんが、それが松戸にふさわしいかといえば違うと思う。じゃあどう考えるか。
アートとおしゃれは、根本的にあまり関係ないでしょう。そんな時、今回SIDE COREさんをお招きしたのは、彼らの持っている都市を読み換える視線についてうかがいたかったからです。一見すると無価値なものに面白みを感じて意味合いを持たせていく行為は、自分たちで都市を面白く作り変えていくことにつながるでしょう。その先に多くの人が楽しみ誇りを持てる町ができたら、それはおしゃれな街として評価されるのかもしれない。そんな思いがあります。
会場:なるほど、そういう考え方なんですね。
松下:そうそう。なので僕らも今回作品を作りにきたわけではなくって、仲間たちと歩いてきたって感じなんですよ。
DIEGO:普段からいろんな街を歩いているけど、今日は案内してもらって歩けたので自分たちだけでは見つけられないものも発見できておもしろかったですね。
播本:逆に「作品制作をお願いしたい」ってオファーをもらって場所を案内してもらっても「ここで作品作るのは無理だよ……」ってとこもたくさんありますね。
寺井:何かできそうな場所とそうでない場所は、どんな違いがあるんですか?
松下:すでに現代的な価値観の上で、おしゃれとされている場所はやりづらいですね。例えばアウトレットモールの中で展覧会をやって、と言われても厳しい。おしゃれとされていても、文化的にイケてないというか。
抽象的な言い方になっちゃいますが、風景に引っかかりがあるかどうかでしょう。それがある場所では、自分たちは面白いことができるって思います。松戸にはそんな引っかかりがありましたね。
SIDE CORE
2012年より高須咲恵と松下徹により発足、2017年より西広太志が参加。街の中でおこなわれる表現「ストリートカルチャー」に関するリサーチや、関連した展覧会の開催、作品制作をおこなう。また都内湾岸地域に、アーティストの共同スタジオを運営。主な展覧会に2017年石巻市「Reborn-Art Festival」キュレーター、アーティストとして参加、2018年市原湖畔美術館「そとのあそび展」共同企画など。アーティストとしての作品制作も行っている。