松戸のアートスペース「mcg21xoxo」が提示する、ポストホワイトキューブ時代の展示像 #3

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株式会社まちづクリエイティブの本拠地・MAD Cityこと千葉県松戸市。ウィズコロナ時代の今、その町に新たなアートスペースが誕生した。若きアーティスト・taka kono氏が中心となって立ち上げた「mcg21xoxo」だ。

2021年1月より約半年間に渡り、セザール松戸にて連続企画展を開催。その後は場所を移動し、2021年9月〜2021年11月には松戸地元の不動産事業者・有田商店の協力を得て、同社が所有する駅前のアリタビル地下1階にて新たな企画展「sundae(サンデー)」を実施していた(展示は現在終了済み)。
映像作品のコレクションから作品を選択・視聴することができるというこのプロジェクトは、一体どのようなものだったのだろうか? ディレクターのtaka kono氏に話をうかがった。

※本記事は2021年10月に取材したものです。

Text: Haruya Nakajima
Edit & Photo:Chika Goto

サンデー付き! 地下空間のホームシアター

松戸駅からすぐの雑居ビル、その地下1階がmcg21xoxoの新たな会場だ。エレベーターの扉が開くと、打ちっぱなしのコンクリートに囲まれたスペースが広がっている。中央には、映像がプロジェクションされた大きなスクリーンが一つ。そんな地下空間で開催されていたのが、VODスクリーニングプロジェクト「sundae」である。

「ここは40年前までゲームセンターでした。その後ずっと使われていなかった空間を活用したのが、今回の企画展です」とディレクターのtaka kono氏は語る。

「mcg21xoxoの基本的なコンセプトは、未来の世界で廃墟化したギャラリー。この場所を一目見たときから、その雰囲気にピッタリだと思いました。地下ということもあって、よりダーティな感じも増している。そこで、下見してすぐに『ここで映像の展示をしよう』と閃いたんです」。

企画展「sundae(サンデー)」のでの上映風景。映像はEliška Jahelková氏の作品[撮影:taka kono]

なるほど、配管や壁面がむき出しでさらされ、排水の音がゴウゴウと鳴る無骨な空間は、「ポストホワイトキューブ」を標榜するギャラリーにはうってつけだ。と、エレベーターが開いてエプロン姿のおかあさんが現れた。運ばれてきたのは、この企画とコラボレーションしている同ビル2階のカフェ「ピーチーズ」でつくられた、オリジナルのサンデー。チョコバナナサンデーをベースに、緑色のホイップクリームが乗った代物だ。

上階の喫茶店「ピーチーズ」とコラボレーションしたオリジナルのサンデー(写真はピーチーズにて撮影)

「来場者には、企画のタイトルにもなっている『サンデー』が必ずセットで付いてきます。ピーチーズさんに頼んで開発してもらった新メニューですね。クリームに混ぜてあるのは、“スピルリナ”という栄養価の高いスーパーフード。それを用いて、ビジュアル的にもインパクトのあるグリーンのサンデーが完成したんです」。

ピーチーズのおかあさんが地下空間まで運んできてくれる

この「mcg21xoxoサンデー」は、taka氏の提案を受けたピーチーズのご主人が、もともとカフェで提供していたサンデーに改良を重ねて実現したらしい。ちなみに、「sundae」のメインビジュアルで使われているイラストも、ピーチーズの窓に描かれた桃太郎のようなキャラクターをサンプリングしたもの。mcg21xoxoをハブとして、松戸のなかでアートの枠組みを越えた交流が行われていた。

「sundae」フライヤーの画像
喫茶店「ピーチーズ」外観。JR松戸駅西口のロータリーからすぐの場所にそのビルはある

アーカイブも備えた独自の上映スタイル

シューズを脱いでソファに腰かけ、リモコンを操作し、たくさんある作品から好きな映像を選ぶ。まるでホームシアターだ。Netflixにも近いこの上映スタイルは、もちろん意識的に選択されている。完全予約制で、1グループ10名以内で1時間の貸し切り。スタートしてから増え続けた映像のラインナップは、会期終了時点では40作品以上に及んだそうだ。

「一般的な美術館やギャラリーだと、映像を『見せられている』という感覚に陥りがちですよね。なんだか居心地も悪いし、その作品を見通すことは難しい。しかも、その場で見切れなかったらその作品を再び見る機会は滅多にありません。だから、『sundae』では好きな映像を自分のタイミングで自由に見てほしいんです」。

「映像は全てオンラインでアーカイブしているので、会場で見られなかった作品を後からレンタルすることもできます。現代作家の映像作品のデータベースって、どこにもないんですよね。そういうプラットフォームをつくりたい気持ちもあって、会場とオンラインの両方を走らせているんです」。

その方法論は、おそらくパンデミック以降のアート鑑賞とも親和性が高い。貸し切りの会場のなかで仲間とくつろぎ、自宅に帰ってからもオンラインで映像を視聴できるのは、いまの時代状況にもフィットしているはずだ。では、そんな作品のラインナップはどのようにディレクションしたのだろうか?

「僕が初めに5名の作家へ声をかけました。またその人たちがそれぞれ別の作家を呼ぶというふうに、ネットワークをどんどん広げていったんです。そうやってキュレーションは自然に進んでいきました。最終的には100人くらいまでアーティストを増やしたいですね」。

映像はDeirdre Sargent氏の作品[撮影:taka kono]

それだけの作品が揃えば、アーカイブとしても重要なものになるだろう。映像の内容は千差万別で、時間で言えば数十秒のものから30分近くあるものまで幅広い。しかも、日本ではこれまで発表されたことのない作品がほとんどだという。何より、まだ知られていない海外の作家を紹介するのは、前企画から引き続きmcg21xoxoの十八番でもある。

「今回は、香港の若手映像コレクティブ『ビデオサイファー』の人たちが何人も参加してくれています。僕が最初に選んだ作家も、日本、アメリカ、ヨーロッパと国籍がバラバラなので、多国籍なアーティストたちの作品を見ることができますよ」。

アートワールドに松戸をマッピングする

映像の上映と同時に、空間の奥にある小部屋では「ATK/0 DEF/10000」というタイトルの展覧会シリーズも始まった。こちらには映像ではないフィジカルな作品も展示されているようだ。こうした活動を通して、松戸を知ってもらう機会が増えたとtaka氏は言う。

「sundae」の上映空間の後方にある小部屋
taka kono氏

「前回のスペースから松戸でやってきて、また次も松戸でやりたいと思っています。最近、いろんな人から『mcg21xoxoをきっかけに松戸を知ったよ』と言われることが多くて。それが嬉しいので、これからも松戸に対するロイヤリティーを大事にしていきたいですね」。

mcg21xoxoの実験的な試みによって、松戸という町がアートマップで存在感を示しているのは間違いない。今後もどういった展開を見せるのか目が離せないスペースだ。

映像はSkene Milne氏の作品[撮影:taka kono]
「mcg21xoxo sundae」
2021/9/10 ~ 2021/11/20
ディレクター:taka kono
参加アーティスト:
718, Dominik Stanisławski, Elisa Colette, Harry Cruttenden, Haruya NAKAJIMA, Ian Bruner, Jane Charlotte Balfus, Justin Chance, Laura Gozlan, Oscar Häggström, Philip Ullman, Reiji Saito, runurunu, Sevi Iko Dømochevsky, Valerie You, Jennnital, Willow H, Rasheed Mirza, Anlan Huang (Yasmine), Chen Pin Tao, Deirdre Sargent, Eliška Jahelková, El Pelele, Lou Andreasu, Max Kreis, MIRA 新伝統, Pauline Creuzé, Pedro Gossler, Piotr Bujak, Roxman Gatt, Samson Stilwell, Skene Milne, Thibault Jehanne, Viktor Timofeev, Vunkwan
協力:まちづクリエイティブ有田商店ピーチーズ
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