文化庁のもとその分野の審査委員が選定した作品が示されるメディア芸術祭。今年、その地方展が北海道小樽市で開催された。毎年、各地域が20年以上にわたる文化庁メディア芸術祭の選定アーカイブをもとに独自に企画する地方展は、漫画家と詩人のコラボレーションによる滞在制作や巨大なチームラボの作品が並び、人口11万人の小樽市では今までにない展示だったという。この地方芸術祭に実際に足を運び、ディレクターに話を伺った。
Text,photo:kentaro Takaoka
Edit:Shun Takeda
文化庁メディア芸術祭 小樽展「メディアナラティブ ~物語が生まれる港街で触れるメディア芸術」
開催場所:小樽市産業会館〈展示〉 市立小樽文学館 〈展示〉 小樽市観光物産プラザ(運河プラザ)・三番庫〈展示〉 小樽市民センター・マリンホール〈上映〉
開催日時:2020年1月11日(土)〜1月26日(日)
https://otaru2019.j-mediaarts.jp/index.html
文化庁メディア芸術祭は、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに受賞作品の鑑賞機会を提供する、1997年の開催から20年以上続く芸術祭。今回紹介するのは、過去に受賞した作品をもとに、開催地域独自の企画で展示する地方展となる。
会場となる小樽市は、北海道の北西部の石狩湾に面する港湾都市。東京から小樽までの移動は、羽田空港から新千歳空港まで約一時間半、新千歳空港駅から小樽駅まで電車で約70分。新千歳空港に降り立つと、マイナス7度の気温と吹雪がお出迎え。都内よりもだいぶ寒いが、空気が澄んでいるからか不思議な心地良さがあった。
小樽駅は、港町なので駅の隣には魚市場が連なり、観光客が海鮮丼に舌鼓を打っている。街中では、中国語や韓国語が飛び交い、いわゆるインバウンド観光客で賑わっている。その理由は、岩井俊二監督の映画『Love Letter』が撮影されたロケ地だから。アジアで人気を博し、ロケ地巡りの外国人観光客が絶えないそうだ。旧正月のタイミングも重なって、みんなテンションが高い。
町中には観光客向けのギャラリーがいくつかあるが、メディアアートの展示が開催されるのはこの町では初めて。本展の会場は4箇所。市内の文化的な施設を借りて展示が行われ、半日あればすべて巡回できる。まずは会場を順に紹介していこう。
北海道に関連した作品の集まる小樽市産業会館
小樽駅から徒歩5分ほど。昭和31年に開設され、地域の交流の場として多くの市民に親しまれてきた「産業と文化の振興」を目的とした施設。1階は商店街で、昭和の雰囲気が残る喫茶店や眼鏡屋などが並ぶ。2階は多目的スペースとなり展示やイベントが行われ、こちらで開催された。
この会場ではメディア芸術祭の受賞作品の中でも、全分野の一覧性のある展示がされていた。地元である北海道の人たちに親しんでもらえるようにか、本社を札幌市に構え、デスクトップミュージック用の音声合成ソフト「初音ミク」の制作元として知られるクリプトン・フューチャー・メディア『SNOW MIKU』(初音ミク)や、Team Project DIVA『初音ミク -Project DIVA-』、小樽出身の山口一郎が率いるバンド、サカナクションのミュージックビデオ『アルクアラウンド』が大きめにフィーチャーされていた。
また、小樽市出身のゲームクリエイター・水口哲也氏によるVRビデオゲーム作品『Rez Infinite』も、大きく取り上げられていた。全身で振動を感じられるスーツを着て、プロジェクターで遊べる豪華仕様。家族連れもプレイして賑わっていた。
一方で、印象に残ったのは、メディアアーティストの長谷川愛氏による資料構成型のインスタレーション『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』。同性婚から生まれる子どもと家族、その心象風景を登場人物自ら記した膨大なテキストに、長く見入る幅広い世代の女性たちの姿が印象に残った。
チームラボ作品が展示された小樽市観光物産プラザ(運河プラザ)・三番庫
続いて向かった三番庫は、小樽運河沿いの倉庫群にある歴史的建造物の「旧小樽倉庫」の一画にある。木骨石造の代表的な建築であり、屋根には鯱をいただいた和洋折衷の不思議なデザイン。小樽観光の拠点となる場所なので、カフェや案内所、土産物屋などが常設され、観光客や市民などの往来が絶えない。
そんな展示スペースで開催されていたので、展示を目的としていなそうな人たちもふらりと立ち寄っていた。なかでも、チームラボ『百年海図巻 アニメーションのジオラマ』は、その大きさと絵巻物を見ているかのような作品の物語性に見惚れる人々が多数。普段見慣れない作品の説明を求め、スタッフに話しかける人もチラホラ。
漫画家と詩人による共作が見どころの市立小樽文学館
市立小樽文学館は、小樽と縁のある小説家・小林多喜二、伊藤整をはじめ、小説家、詩人、歌人、俳人の著書や資料を収蔵・展示して、貴重な文化的財産を未来へ伝えていく施設。建物は、昭和27年に旧郵政省小樽地方貯金局として竣工されたもの。美術館も併設されており、小樽市の芸術文化の拠点でもある。
ここでの見どころは、『臨死‼江古田ちゃん』でメディア芸術祭に入選し、テレビドラマ化もされた『モトカレマニア』が好調な漫画家の瀧波ユカリと、最年少で萩原朔太郎賞を受賞した詩人の三角みづ紀が滞在制作をしたコラボレーション作品『漫画 × 詩 Narrative Live』。
ふたりとも北海道在住で、もともと仲の良い作家同士。小樽に3日間滞在し、街の魅力を漫画と詩によって物語化。本展のテーマ「ナラティブ」をいちばん体現した展示だった。
小樽市民センター・マリンホール〈上映〉
JR小樽駅やバスセンターと小樽運河の間に立地する、小樽市民センター・マリンホールは、さまざまな文化行事が行なわれている公共ホール。ここでは長編アニメーション映画『花とアリス殺人事件』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』の上映や、シンポジウム「ナラティブシティ・創造都市小樽の可能性」が行われた。
ぐるりと回ってみたところ、各会場ともに地元に根ざした施設を使い、地元と作品や創作を通じて縁をつくることのできるアーティストの作品が展示されていることが感じ取れた。
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