本連載では、野本哲平が日々のリサーチで発見(キャッチ)した状況やモノなどを応用し、彼のデザインレーベル「民具木平」の新たなプロダクトとして制作。ただ採集するだけでなく、完成したプロダクトを路上に放流(リリース)し、還元するという、路上環境に配慮したサステイナブルな企画である。
第4回は、前回訪れた福岡で出会った「鈴木召平さんの新羅凧(しらぎだこ)」に感銘を受けた野本哲平が、民具木平なりの解釈で「新羅凧」を制作。お正月特別編として、彼の試行錯誤の様子をお届けます。
Text & Photo:Teppei Nomoto
Edit:Akira Kuroki
キャッチ編:福岡の工藝店にて
メリークリスマス。(2018年12月24日現在)
今年も残すところあと僅かとあいなりました。
今回のキャッチアンドリリースは、平成最後のお正月を目前に控えた今の季節にぴったりなアイテム「凧」です。
ことの発端は前回の投稿「#03 スツール」の文中
〜昼食を食べ終え、喫茶店「珈琲美美」でアイスコーヒーを頂き、その隣の「工藝風向」(ここでは期せずして、運命的に素晴らしいプロダクト「鈴木召平さんの新羅凧」に出会ったのであるが、その話はまた別の機会に…)に立ち寄る。すでに福岡を十分に満喫した直後遭遇したのが、今回のスツールなのである。〜
に登場する、「鈴木召平さんの新羅凧」との出会いからである。
初めて訪れた工藝風向の店内の壁に掛けられていた、その凧の洗練された佇まいにぼくはすぐに心を奪われた。名前も「平」つながりなので勝手に何かの縁を感じました。
お店の人の説明と、その後 webで調べたところによると、1928年生まれの鈴木さんは少年期を釜山で過ごし、その時に朝鮮の青年に作り方を教わった凧を、日本に戻り大人になってから作り始めたものとのことである。
和紙と竹など、身の回りにあるものを過不足なく用い、空気の流れを整えるために開けられた大きな穴が特徴的なその凧の佇まいは、人間の文化の結晶のようにも思える。
ミニマルな構造と、色和紙による幾何学的な図形が施された様は、無邪気で清々しさを感じる。
この新羅凧に出会うまでは考えもしなかったが、凧というものは穴があいてた方がきっと安定するのだろうなと思うようになった。この穴は購入した凧に添付してもらった説明書によると「中央の穴は風力整流です。」とのことである。
凧といえば僕も子供の頃、家族が作ってるのを見よう見まねで、竹ヒゴと家に余ってるカレンダーの紙や、今じゃあまり見かけなくなったフィルムカレンダーのフィルム部分等を用いて、凧を作ったものだ。
でもこれが全くというほどにちゃんと揚がった記憶がない、、
その後初めてゲイラカイトを買ってもらって、冬の田んぼの真ん中で高々と揚げることができた時には子供ながらに西洋のすごさを感じたものであった。(ウィキペディアによるとゲイラカイトはNASAの前身である航空諮問委員会 NACA に所属していた科学者フランシス・ロガロが発明したとのことである。)
貴重なものとわかりつつ、欲張りにも壁に掛けられた三つのうち二つを購入させていただいた。凧は東京まで送ってもらい、後日到着した際には鈴木さんの手書きと思われる説明書のコピーが同封されていたのだが、それがまたすごく良くて、家のトイレのドアに貼って毎日眺めている。
これはすべてのものづくりに通ずる考え方の本質であると思った。いや、ものづくりだけではなく、すべての物事に置き換えることができる思想だと思った。
メイク編:新羅凧
さて、メイクである。
小学生の時以来だろうから、約30年ぶりの凧づくりだ。
作り方がわからないので、鈴木召平さんに敬意を払いつつ、現物を見ながら見よう見まねで作ってみることにした。
素材は身の回りにある大きな紙ということで、何かと便利な無印良品のロングセラー商品であるロール状のクラフト紙で作ってみることにした。もう一つ、身の回りとはいい難いけど、先日も仕事で使うことがあった、主に建築等で使われる、透湿・防水・遮熱などを目的に開発された「タイベック(R)」を使って新羅凧を作ってみたいなと思っていたのでそちらでも作ってみる。
主材のクラフト紙とタイベック(R)を調達し、あとはそれ以外に必要なものは竹ひごと、凧糸と、接着剤といったところである。
まずは凧の骨格となる竹ひごだ。近所のホームセンターに行く。
木材売り場のバルサなどが売っているコーナーで発見することができた。
おそらく鈴木さんのオリジナルと同じと思われる断面のものを手にいれた。
次は凧糸である。
Webで調べると、凧を4,000mとも5,000mとも揚げると言われている名人の鈴木さんは、建築用のポリ系の糸を使ってるというような情報があったのだが、僕はロープワークができないので、ポリの糸だと結び目がきゅっと締まらずほどけてしまうと嫌だなと思い、昔ながらの綿の糸を選んだ。
優柔不断かつ(全ての選択し得る可能性に対して)貪欲な私は、店員さんにお店にあるタコ糸を全てみたい旨を告げると、店内の3つの売り場に置いてあるとのことであった。
建築資材の水糸などの売り場と、文房具や画材やおもちゃの売り場、そして2階のキッチン用品の売り場にあるとのことだった。
キッチン用品とタコ糸の件がピンとこなかったのだが、2階に上がり別の店員さんに案内されて納得しました。
そして接着剤である。
今回のキャッチアンドリリースにおいては、この接着剤探しが最大の課題のように思われた。少なくともこの時点では。
クラフト紙は紙なので通常の酢酸ビニル系の木工用ボンドでいいのだが、問題はタイベック(R)である。タイベック(R)は高密度ポリエチレン不織布なので、接着にはなかなか不向きな素材なのである。
また、通常建築などで使われるときはタッカーで下地に固定していくような使われ方が多いので、接着剤は使わないことが多い。
タイベック(R)を購入したお店に適切な接着剤を問い合わせてみると、ちょっと今回のような使い方で使えるものは心当たりがないとのことであった。
いつもお世話になっているメーカー2社に問い合わせてみる。
コニシは「GPクリヤー」、セメダインは「スーパーXのハイパーワイド」がそれぞれおすすめとのことだった。
接着剤売り場で上記2種を選び、さらに物色していると、おすすめはされていないけどコニシの「ウルトラ多用途SUプレミアムソフト」が接着早見表をみる限り良さそうだったのでこちらも第三候補として買うことにした。
あと1週間もすればお正月である。
制作の前に接着剤3種類 × タイベック裏表の計6パターンで接着のテストをしてみた。
機械を用いたわけではないのであくまでも主観だが、剥がれにくさ及び、唯一の片面塗布&オープンタイム不要という施工性の良さを考えると今回の使用には「ウルトラ多用途SUプレミアムソフト」が一番良さそうでした。
接着テストもし終えたので、いざ凧づくりです。
現物を観察し見よう見まねで作ります。
下敷き兼型紙をボール紙で作る。
まずはクラフト紙の方から。和紙に比べ若干重みがある。
ここは骨にタコ糸を結ぶところなのですが、ただ結ぶだけだと上下に糸が動いて、穴が大きくなっちゃうんじゃないかなと思ったので、糸のズレ防止のわずかな引っかかりを設けてアレンジも加えてみました。
次はタイベックのものを。
糸も見よう見まねで取り付けて一応二つとも完成。
接着剤を乾かすため平において静置する。