「お前はもう辞めている」。新規事業を生み出すための環境とは
寺井 とてもおもしろいんですが、会社としての構造というか全体像がなかなかわかりにくくて。今いったいどうなっているんですか?
林 ええっとね……(ホワイトボードマーカーを手に取る)。
寺井 あ! 林さんが得意なホワイトボードプレイだ。
林 恥ずかしいな……。まず僕らのテーマは「街を自由でおもしろいものにしていく」ということ。この基本テーマはバンドでいえば音楽性みたいなものです。そしてそのために会社をどう規定していくのかというと、○○業という業種を定義せずに、自分たちならではの新たな仕掛けを考えるというスタンスです。そして組織づくりのカギは「オーナーシップ」です。
寺井 オーナーシップですか。具体的にはどういうことです?
林 例えば「こんな事業、こんな仕掛けをやりたい」と誰かが言い出した場合、その提案者Aくんのモチベーションが上がるように、最初から社員でなくオーナー、株主になるようにして会社を分けていきます。会社を立てる前の段階でも、何割は誰、何割は誰、というふうにオーナーシップを仮決めしていったりもします。こうして生まれた仲間内の法人たちで、アメーバ的な生態系をつくっているんですね。
寺井 資本の流れはともかくとして、ホールディングスや暖簾分けのような仕組みなんですね。そのアメーバの中から生まれた事業って、例えばどんなものがあります?
林 密買東京という、アートと雑貨の中間的なものを売るECだったり、R studioという撮影ロケーションメディア、あるいは団地R不動産といった兄弟サイトたちですね。toolboxもその一つ。不動産仲介の仕事をしてきたメンバーも、5年もやっていると別のことをしたくなるし、東京R不動産は事業として成長してきたから、業務はいい意味でルーティン化してきている面もあるので、新しい仕事が増えるのはお互いよいことです。
普通の会社では、社員個人が何かやりたいアイディアがあった場合「この会社で果たしてできるだろうか」と考えるわけです。会社でやれるなら、今の仕事をやめて新しい部署に行くか?という選択がありますよね。そしてもし会社でやらせてもらえなければ、辞めて外でやる、ということになります。でもうちの場合、不動産のメンバーはもともと個人商店と契約をしている一種のフリーランスなので「これまでの業務で稼ぎながら、並行して新しいことも自分の事業としてやってみればいいじゃん」という話になっていきます。
寺井 同じ場所にいながら、新しいやり方でボスを目指せると。
林 もう一つ隣に山をつくってボスをやりながら、両方行き来すれば?という感じ。辞めて始めるか悩むんじゃなくて、むしろ「お前はもう辞めている」と(笑)。R不動産の顧客や集客を活かしてやれるものであればかなり自由度高くやれる環境ではあるので、やれてないとしたらそれは会社のせいでなく自分の腹括りの問題なのだと考えることが本人にとってもドライブになると思ってます。
寺井 なるほど。縛りの強い雇用契約をそもそもしていないからこそ、経営者も活きのいい社員に「やりたいなら、会社を辞めて起業しろよ」と言わなくていいと。
林 そうそう。彼らはある意味で最初から経営者なんですよね。なので年収にもかなり開きがあったりします。さらに「あの人、新しい事業でかなり稼ぐようになったな」「俺も事業を考えよう」なんて流れが生まれやすくなるんです。
寺井 なるほどです。すごく合理的かつ魅力的な仕組みだと思いつつあえて質問するんですが、事業を自分から提案するようなメンバーがいないと、成り立たないですよね。
林 ですね。なので採用と育成はすごく重要だと思ってます。
寺井 何か特別な施策を採られたりしているのでしょうか?
林 特別ということではないんですが、最初から自立するんだという前提で、そういうかたちの関係でスタートするのが一つ。新卒に関してはしばらくは社員にしてますが、まずは営業をやってもらい、生み出した経済価値が給与にがっつり反映する形になっています。
そもそも金の亡者は入ってこないので、文化的な志がみな強いんですが、思いだけで進んでいくと自立しにくくなったりするので。それと、僕たちが考えている「よい会社」というのは、自分がおもしろいと思えることで、社会的に役に立ち、ちゃんと飯が食える、という3本足で立つのがいい仕事、いい会社だということはまず言います。椅子だって2本の足では立たないけど、3本あれば立つよね、みたいな。
寺井 なるほど。
林 もちろん、若い子たちに「おもしろくて社会的に役に立って稼げる仕事をつくれ」といっても難しい。アイディアはあっても事業の組み立てができない。でも飯を食うための技術はある程度の期間で習得可能で、それが何かといえばやっぱり営業なんですよね。
じゃあ営業とはいったい何かといえば、お客さんと互いにハッピーになれる結果を生み出すこと。そのために状況をオーガナイズする、コミュニケーションする、アピる、ネゴるといったスキルは、学べば習得できる。それを積み重ねることで自分の飯を自分で稼ぐ感覚ができていく。おもしろいことを考えていくのはその間にできると。
寺井 新しい事業も、その3本足を常に基準に考えると。
林 そうですね。3つを満たすアイディアはそんなにポンポン出ないのが現実ではあるけど、3つのどれかが欠けていると、途中でモチベーションが維持できなくなるので、やるべきではないと判断します。
寺井 そういった仕組みがうまく機能すればするほど、新しい事業を自立心を持ってやっていきたいというメンバーが増えていくんですね。
林 ただ、新しくて面白いことをやりたいと思うタイプの個性的なメンバーは、往々にして事業の仕組みづくりや、マネジメントが苦手だということはありますよね。彼らの活躍が苦手分野のせいで座礁するというのは、会社的にも文化的にもロスだから、僕自身はそこを補完すべく事業の仕組みや環境づくりのことを意識的にやってます。
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後編につづきます
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