パドラーズコーヒーの心地よさの原点は、ギブアンドテイクの仲間づくりにあった(後編)

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京王線幡ヶ谷駅から南に進むと、丘を下るように広がる西原エリア。近年注目されているこの地域だが、パドラーズコーヒーの存在なくしては、ここまで話題になることもなかっただろう。自店舗の運営だけでなく、商店街の理事を務め、新たなお店の誘致にまで動くそのスタイルは、地域全体に風通しのよいムードを生むことになった。

彼らはどのような考えで、お店の経営と地域の課題を結びつけて考えているのだろうか。そして、どうやって考えをともにする仲間を見つけているのだろう今年、新たに家具と生活雑貨のお店「ブルペン」もオープンさせた共同代表の松島大介さんに、M.E.A.R.Lを運営する株式会社まちづクリエイティブ取締役の小田雄太がお話をうかがった。

Text:Akira KUROKI
Photo:Shin HAMADA
Edit:Shun TAKEDA

アソシエーションとしての店舗、コミュニティとしての商店街

小田 松島さんがおっしゃる、自分からまず差し出す感覚って、例えば年配の方にもおそらく伝わりますよね。

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松島 そうですね。僕はもともと中野区の北口の商店街に生まれて、父も自営業で商店街の会長をずっとやってたんです。子どものときから商店街っていうものが日常だったし、地元のおじさんおばさんたちとの付き合い方もたくさんあったから、彼らの気持ちもわかる気がするんです。

彼らは、僕らみたいな若いやつらが商店街に新参者として来たら警戒するでしょうし、あんまり良い気分しないじゃないですか。だけど電球買う時には地元の電気屋さんに行って「僕らこういうコーヒー屋さんを始めて、もしよかったら今度ふらっと寄ってください」とこちらがオープンになることで状況は変わっていく。

小田 パドラーズコーヒーではお客さんに対しても、お店の外でうるさくしないように伝えるなどもしてますもんね。

松島 もともとお店がなかった場所でこんなことやってるから、嫌に思う人も絶対いると思う。それがわかっているから、お客さんにも「気持ち良い関係」づくりの協力をお願いしているんです。

小田 ここまでお話を聞いていると、松島さんはコミュニティとアソシエーションのバランスの取り方が絶妙なんだろうなと思います。社会学的な概念なんですが、コミュニティというのは地脈とか血縁とか、もともと地元に根付くもので、そこからは離脱できない。

一方アソシエーションというのは、あるひとつの目的のもとに集まる集団で離脱可能なんです。なので、厳密な意味でいうと商店街っていうのはコミュニティなんですよ。でもパドラーズコーヒーというのはアソシエーションなんですよね。

松島 なるほど、その両者のバランスは気をつけている部分でもありますね。

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小田 重要なのは、コミュニティは守るものなので、そこだけを意識しているとどんどん閉じていってしまう。他方でアソシエーションというのは、目的やテーマを持って、それを共感できる仲間と続けていく。なので広がっていくものですし、目的を達成した時にはそこから抜けられるものでもある。

松島 確かに僕らも「属さない」ってことの大切さをすごく意識していますね。例えばイベントをやるにしても、毎回違う人と違うことをやったりとか。

小田 集まるのは気持ちいいし、皆が共感できるのはいいんだけど、それが続くと飽きちゃう。だからすぐ解散して、またすぐ集まればいいわけです。イベントってそういう部分ありますよね。

ただ、コミュニティ的なまなざしも必要ですよね。この西原という土地を守って来てくれた人たちがいるから、商店街が残っていることは揺るぎない事実としてあるわけで、そこに対してどう敬意を払い、一緒にやっていくかですよね。

松島 それすごくわかります。地元の人や常連さんっていうのは常に特別だけど、わざわざ来てくれた方や、一回だけ来てくれた人も大切に受け入れる体制というか。そういうお客さんのことは、特に気にかけています。彼らが気に入ってくれて、新しい常連さんになる。常連さんが増えることで、新しいアソシエーションが生まれる気がします。

その意味でこの商店街がおもしろくなっているとしたら、お店だけでなくその建物のオーナーさんたちを巻き込んでいるところかもしれません。店同士が繋がることってよくあるけど、オーナーさんたちが僕らの動きに共感してくれているってところが新しいんじゃないかな。

小田 オーナーさん同士すら繋げていくっていうのは、意識的に動いたりしてるんですか?

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松島 そうですね。まず商店街に積極的に加入して、色々なオーナーさんに僕らのことを覚えてもらうことから始めて。それでお店に来てもらったり、違うお店に送ったり。

小田 「今度あのお店も行ってみてください」ってお話するっていうことですか?

松島 そうです。あとは「僕らに物件を紹介してくれれば、チェーン店じゃなくて、若い人たちが集まるような素敵なお店を作れる人を必ず紹介します」ってことを早い段階からお話しています。

将来的に僕が借りたいっていうより、ここで誰かがまたお店をやったらめっちゃいいなと思っていて。いい物件を壊したくないんですよね。なので狙っているといえば狙ってるんですが、その場所を残しながら新しい世代でまたお店をやっていけたらっていう感覚なんです。

小田 それは別になにも地上げをするんじゃなくて、土地の資産を活かしながら、また新しい仲間を増やして行くという感覚ですよね。素晴らしいと思います。

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