株式会社まちづクリエイティブの本拠地・MAD Cityこと千葉県松戸市。そこにアトリエを構える、気鋭のアパレルブランド2組によるオープンスタジオ「/(スラッシュ)」が2021年10月に開催された。
イベントでは、複数のアパレルブランドが入居するビル「セザール松戸」の一部を利用し、「PERMINUTE(パーミニット)」と「l-lellovvorlcl(はろーわーるど)」両ブランドによるコレクションの展示販売やオープンアトリエを実施。デザイナーの半澤慶樹さん、早川杏平さんの話を伺いながら、当日の模様をレポートする。
Text:Haruya Nakajima
Photo & Edit:Chika Goto
ヘルシーなマインドでものづくりできる距離感
松戸駅から徒歩5分ほど、根本壁画通り沿いにあるビルがセザール松戸だ。ここはアートスペース「mcg21xoxo」の展覧会で使われていた場所でもある。そんな物件で開催されたのが、アパレルブランドのデザイナー2組によるオープンスタジオ「/(スラッシュ)」だ。
1階の路面部は以前と変わらずコンクリートむき出しのスケルトンだが、今回はラックにワンピースやハットがかかり、ヒールやブーツが並んでいる。さらに2階のアトリエでは、デザイナーの私物だという古着や古本が置かれ、半透明のビニールで空間が仕切られていた。これらのスペースで催されていたのが、アパレルブランド「PERMINUTE」のアーカイブ展示会/オープンアトリエである。
デザイナーの半澤慶樹さんは、「いつもやっている新作の展示会とは違った見せ方をしたかった」と語る。
そもそも「PERMINUTE」が立ち上がったのは2017年。文化服装学院を卒業した直後から、半年に一度のペースでコレクションを発表してきた。取材当時(2021年10月)はちょうど上海でコレクションを展示していたが、コロナの影響で現地に行けなかったのだという。そんな「PERMINUTE」の服は、一体どのように作られているのだろうか。
「PERMINUTEのコレクションにドレスやワンピースが多いのは、直感的に制作できるからです。直接マネキンに布を当てて形を出す『立体裁断』というやり方で作っています。ちょっとゆがんだ形や斜線、あえて身体から離れた布使いが特徴です。染色や刺繍を施して、生地からつくるのも好きですね。例えばこのハットは、ヴィンテージのシーツやバスタオルをリメイクした一点モノになっています」。
半澤さんがセザールにアトリエを構えるようになったのは、プライベートで松戸に引っ越したことがきっかけ。自宅とは別に事務所を探すなかで、「どうせならおもしろい場所がいい」と、もともと知っていたMAD Cityにコンタクトを取った。
松戸の印象については「正直、最初は全然好きじゃなかった」と笑うが、「都内からちょうどいい距離にあるので、あまり疲れすぎないというか、落ち着いたヘルシーなマインドでものづくりに向き合える」とうなずく。何より、松戸のビルに複数のアパレルブランドが入居し、合同イベントを開いているその環境自体がおもしろい。
「こうしたスペースやイベントをハブにして、一般のお客さんたちとコミュニケーションを取れる場を定期的に持ちたいです。そうすればお客さんとのやりとりから気づきも得られるだろうし、僕もどんどんチャレンジできる。しかも、それが都内ではなく松戸にあるのがいい。これからもMAD Cityでいろんな実験を続けていきたいですね」。
「ちょっと先」への前向きなエネルギー
一方、2階の2部屋を用いて開かれていたのが「l-lellovvorlcl」の展示販売会/オープンスタジオだ。角材でできた手製のラックに作家性の強い衣類がかけられていて、スニーカーの形状を模したボトムスや、全面にマンガがパッチワークされたジャケットなど、そのルックはきわめてユニーク。普段着というよりは「作品」という印象が強い。
デザイナーの早川杏平さんは、「最初に作りたい服をイメージして、手を動かしながらコンセプトを詰めていくんですが、だいたい思うように行かずいつも脱線します」と苦笑する。見ての通り、その脱線の仕方が唯一無二だ。もともと京都芸術大学(元・京都造形芸術大学)でファッションデザインを学んだ早川さんは、卒業後一般職に就きながら、2019年に「l-lellovvorlcl」を立ち上げた。
「ブランドのコンセプトは、『私たちと服との営みを服にする』。僕らが服と関わる行為には、着たり脱いだり、買ったり売ったりつくったり、いろんなことがあると思います。それってどれも、ちょっと先の未来を想像して行動しているということですよね。その前向きなエネルギーを、自分でつくる服に乗っけていきたいんです」。
例えばパターンのねじれが際立つ「roommate(ルームメイト)」シリーズでは、服を着た私たちの身体を「服と人間が同居している状態」とみなす。その上で「服がその身体の所有権を主張したらどうなるか」という一種の実験なのだという。なるほど、人と服は身体という一つの部屋に同居する「ルームメイト」というわけだ。
松戸近辺に7年ほど居住してきた早川さんは、テレビ番組でまちづ社をたまたま知り、2021年2月、セザール松戸にスタジオを構えた。「PERMINUTE」の半澤さんと知り合ったのもここに来てから。身近に同業者がいることで、自分が知らないことを学べる機会も増えたそうだ。そんな「l-lellovvorlcl」は、今後どのように展開していくのだろうか。
「まずは『roommate』シリーズを完結させて、ショーの形式で見せたいです。第三段階までを想定していて、いま展示しているのは第一段階。これから作る第二段階では、服が身体を覆ってしまうんですが、それを人間が突き破って出てくるようなものにしたいと考えています。服と人間の所有権の奪い合いなので、リングのような舞台でショーをやりたいですね」。
このように、松戸の一角にあるビルで開催された「/(スラッシュ)」は、アパレルブランドのスタジオが一つ屋根の下に集まることで、様々な化学反応を生み出していた。これからもデザイナー同士が刺激を与え合う、魅力的な文化発信の拠点となるはずだ。今回のイベントはその端緒だったと言えるかもしれない。
PROFILE
半澤慶樹(はんざわ・よしき)
1992年福島県生まれ。上京後、服飾専門学校などでファッションを学ぶ期間を経て2016年にファッションレーベルPERMINUTE(パーミニット)を立ち上げる。以降、半年に一度のコレクション発表をベースに広告のファッションディレクションなど活動を広げている。
https://perminute.net/
早川杏平(はやかわ・きょうへい)
2019年よりファッションブランドl-lellovvorlclをスタート。着る/買う/作るなどの行為を通した私たちと服との営みをテーマにしたコレクションを展開する。
https://www.instagram.com/llellovvorlcl/